【3/27 電子書籍一巻発売】魔術師は死んでいた。 作:彩白 莱灯
問いかけて、男三人が顔を見合わせる。
全員がうん、と頷いた。
打ち合わせでもしていたように。
王子サマが赤髪と騎士サマより一歩前に出る。
「男としては些か不甲斐ないが、貴方の力量を正しく理解した上での提案をさせてもらいたい」
「なんでしょ?」
「三対一、でいかがだろうか」
おお。
私様の力量に三人で対抗するというか。
確かに男三人としては気の進む提案ではないだろう。
因縁があるわけでもないし。
ただ単に男として、っていうプライドなんだろう。
今まさに女魔術師がタイマンやったばっかりだし。
そのプライドを横に置いたとしても、勝ちに来ている。
それだけの力を認められたというのは私様としては嬉しい限りだ。
ただまあ。
一つ気がかりがあるとすれば。
「構いませんよ!」
たかが三人程度で埋められると本当に思っているのか、だが。
ま、今はそれが最大人数だしな。
笑顔で了承した。
「ただなぁ。さすがにその身体を攻撃するのは気が進まんのだが……」
「おや。あなたの部下はめっちゃ獲りに来てましたよ」
「ロタエほど割り切れんわ」
殿下がフェミニストなのか、女魔術師ざっくばらんすぎるのか。
…………殿下が普通だな、うん。
「じゃあこうしましょう。一発入れるか拘束するか」
「……その方がまだましか」
「んで私様は、三人の戦闘不能か降参させるってことで」
「いいんだな?」
「もちろん」
三人に限ったことではないが、私様はこいつらも今の時代の人間も、どの程度の力を持っているか知らない。
私様が創った魔法が広まっているのかもまだわかっていない。
城に仕える奴らの力量が知れれば、まあそれがおおよそこの国の最大戦力とみて良いだろう。
最大が知れれば、ヒスイの過ごし方や魔法の使い方も調整していける。
『英雄の力の再現』の研究がどこまで出来上がってるのかはまだ知らんが、ヒスイが上手く立ち回れれば私様もそれを利用できる。
予想はしていたことだが。
私様の身体と人様の魂を勝手に使ったんだ。
相応の礼はさせてもらおう。
「す、スグサ殿……?」
「おっと失敬」
いかんいかん。
皆様の前でつい良くない笑顔を浮かべてしまっていた。
お礼を考えてしまうといつもこうなる。
気を付けよう。
「さ! 始めましょうか!」
気を取り直していこう。
あえて明るく、パン、と両手を合わせる。
私様の顔のことは気にしないでもらおう。
男三人は私様の顔をバッチリ見てしまったようだが、勢いに推されたのか距離をとる。
殿下と騎士サマが前衛、赤髪が後衛。
それぞれが剣と杖を構えた。
殿下は剣の方が得意なのかね?
ロタエは笑顔を見たのか見てなかったのか。無表情のまま、壁際のソファーに腰掛けた。
開始の合図は……適当でいっか。
「準備はいいですが?」
「いつでも」
よし。
では今度は私が先手をとらせてもらおうか。
今回は属性の指定はないので、遠慮なしに行かせてもらおう。
三人に向けて人差し指を向ける。
くるっと指を回してから、親指と中指の先端同士を合わせて円を作り、魔力を練る。
足元は先ほどの戦いのまま、水と泥がいたるところにある。
泥が混じった水を操り、描いた円と同じぐらいの大きさの水滴を三人の周辺に無数に漂わせ、手首を捻り、ぱちんと指を鳴らす。
ジュワっ
水滴でそのまま襲おうかとも思ったが、それでは拘束にならない。
なので水を針のように細く、鋭くして動きを封じ込めた。
つもりだったが。
「ほほーう」
相手の火属性魔法で水をかき消された。
赤髪は火属性もちかー。
いい反応速度だったな。
微かに見える赤髪の表情は余裕の一言だ。
ロタエとはまた違ったポーカーフェイスだな。
本気の時は表情がガラッと変わるタイプか、表情変わらず内心やべぇ奴かどっちかなー。
「失礼」
「お、お、おおお?」
やっべ今真っ最中だった。
いつの間にか近づいて足元で構えていた騎士サマ。
得物の両手剣で横薙ぎ一閃。
風魔法で体を浮かせなきゃ危なかった。
うーむ。さっきから私様は集中できていないというか、紙一重が多いな。
しっかりしよう。
「少し本気を出しますね、王子サマ」
二人分は浮いたところで、振り返って同じように宙に浮いている人物に声をかける。
いつの間に回ったのか。
真後ろで片手剣を構えている王子サマ。
剣からは魔法の気配がする。
風属性かな。
「御免」
…………一声かけるのが礼儀なのか?
「お構いなく」
右手に風属性を纏わせて、殿下の突き出した剣と交差させる。
お互いの風属性で刃と腕は直接はぶつからず、状況としては鍔迫り合い状態だ。
私様の非力さは風属性でカバーしないと押し負けていたな。
「っ! 腕とは無茶をしますね」
「いやいやそれほどでも。まだまだこんなもんじゃないですよ」
腕と押し合いしている殿下からしたら堪ったもんじゃないだろうが。
私様としては武器を使うことはほとんどなかった。
もとよりこういう戦闘スタイルだ。
さて次はどうしようか。
とか考え始めたところで、声が響き渡る。
「
腕の太さほどはありそうな植物の蔓が、床から延びて足元に迫ってくる。
「赤髪か……!」
「カミル!」
「はっ」
蔓と騎士サマが同時に迫ってくる。
片手は王子サマと競っているからさすがに離せないし。
転移はずるいかな。
と考えている間に。
距離が、つまる。
「≪草木と星々の狂恋≫」
赤髪が出した何倍もの太い蔓が壁の横から伸びて、目の前を横切る。
まるで大木のような太さのものが、床から伸びていた蔓と騎士サマを巻き込んだ。
「ぬ……!」
騎士サマは壁に押さえつけておこう。
「ふう」
咄嗟に出したから規模がでかすぎたな。
さすがに現役の三人は連携もできる。
ふと、右手の競り合いが緩むのに気が付いた。
「別の属性の、同時発動だと……」
ああ、それで動揺したのか。
同時発動は公の場では使ったことがなかったっけ?
「本でも書いてなかった気がしますねー……」
なかったんだな。
ま、いっか。
「そんなに驚かなくても、別に難しいことじゃないぞ。コツはいるがな」
またさらに競り合いが緩んだ。
王子サマの顔を見れば、真剣というより必死。
余計なことを言ってしまったせいで、魔法の操作が疎かになっている。
まだまだ発展途上中だな。
……私様のせいだけど。
この世界の人間からすれば『二種類以上の属性を使った魔法の同時発動』は論じる意味すらもないと言われていることだ。
つまりは「どうせ無理だから」と。
そういう固定概念は、見ていて、聞いていてイライラしたものだ。
特に研究者がそういうことを言うもんなら、それこそ研究して証明してから言えって何度思ったことか。
よく例えられるのが、両手で別々の文字を書くようなもだ、と。
両手で書くのがだめでも、会話しながらメモを取るとか、歩きながら文字を読むとか、何かと何かを同時にやることはできるだろうに。
右手で競り合っていた風魔法の威力を上げ、力任せに王子サマを弾き飛ばす。
体勢を崩した王子サマを赤髪が抱えて、私様との距離が一気に空いた。
右手の風魔法のせいで長い髪が揺れる。
次の一手に出られる前にこちらから一つ、やらせてもらおう。
「この世界の連中は、疑念を抱かなさすぎる」
左手で火属性魔法を使う。
温められた空気を、右手の風魔法で一まとめにする。
次第に、一まとめにされた空間の中にバチバチと稲妻が走る。
「魔法の使い方と、ものの考え方だ。「決まっている」と言われていることを全て鵜吞みにしていれば、あんたたちはそこまでだぞ」
少しずつ規模を大きくしていく。
左手の火は火力を上げ、右手の風は威力は変わらないながらも空間自体は人の頭ほどの大きさだ。
今ならばせいぜいこんな大きさで十分だろう。
オリジナル合成魔法 ≪
風で包んだ球体を適当に放った。
中でけたたましい音を立てていたそれは、床に落ちた瞬間に弾ける。
地面を光の如く、いや、光そのものが一瞬で地を這った。
王子サマを抱えていた赤髪は防御魔法……光属性魔法を使ったようだが、見てからの発動では遅すぎたようだ。
威力は限りなく抑えたから感電とまではいかないが、全身の痺れ程度は我慢してもらおう。
火傷にもならない微弱な電撃ぐらいなはずだ。
王子サマは……ああ、赤髪は忠臣なようだ。
王子サマを宙に放って≪伝雷≫から逃がした。
防御魔法は間に合っていなかったし、結果的に英断だったな。
痺れて動かない体が自然と倒れるのと、投げられた人が地に降りるのは、ほぼ同時だった。
「っ、アオイ!」
受け身も取れずに倒れた赤髪は舌も痺れているようで、返答できていない。
まあでも意識はあるようだ。
うん。調整はうまくいったようだ。
満足。
「そのうち痺れも取れますよ。うまいこと調整できたんで」
と言われても。
納得はしないだろうなあ。
「…………仇は取ってやるからな」
殺してねーよ。
あんたも失礼だな。
「じゃあ続行?」
「当然」
王子サマは綺麗な片手剣をスラリと構える。
その構えすらもあまりにも綺麗なもんで、ああ、この人自身がこの国の剣なんだろうなと柄にもなく思ってしまった。
そんな剣を折ってしまうことはしないよう、より細心の注意を払わなければ。
楽しくなると、つい加減を忘れてしまうからなあ。
「いざ」
お互い睨みあって。
王子サマは剣に、私様は右腕に風魔法を纏わせる。
さっきと同様、剣と腕の攻防だ。
王子サマが駆けて距離を詰め、剣を振るう。
私様が腕で受け止め、薙ぎ、避ける。
これの繰り返し。
腹に一突きを狙われて、横に薙ぐ。
……違和感を感じて、水平移動で距離を空ける。
「ありゃ?」
腹部の服が裂けていた。
間に合ったと思ったがなぁ。
王子サマの剣を見て、納得。
刀身よりも長く、幅広く、風を纏っている。
「小細工が得意なようで」
「何とでも言え」
勝つための手段か。
目的遂行のために知力を尽くす。
良いことだ。
……ヒスイのことはもはやお構いなしかも知れないが。
「ふふっ」
一人で考えて、一人で笑ってしまった。
目の前のお方に訝しい目で見られた。
あんたのせいです。
…………あれ、そう言えば。