【3/27 電子書籍一巻発売】魔術師は死んでいた。 作:彩白 莱灯
「帰り道に関しては、≪帰路への導き≫を魂自体にかけたわ」
「ほう。それは助かる」
≪帰路への導き≫は親が子にかける、迷子防止の魔法。
当人が『家』と認識した場所に帰ってこれるよう導く。
シクが相手した方、大魔術師。
その体に召喚された魂が帰りたいと。
どこに帰りたいのか、それは≪導き≫に従えば辿り着く。
元の世界までは私様が送り届けることはできるだろう。
そのあと、その体の元に届くまでは、怪しい所だ。
たとえ体まで届かないとしても、元の世界に帰る道筋が濃くなったことには変わりないだろう。
「ま、やることは決まったな」
帰れる算段が付いたのならあとは本人たちの意思を聞くとしよう。
視線の先の二人は動きはない。
けれどベローズだけは違う。
「よー。答えは出たか? 凡人」
声をかけられて反応したなら本当に凡人認定してやろうかと思った。
だが、状況的にこんな感じに声をかけられる相手は消去法でベローズしかいないので、認定ならず。
案の定反応を示したベローズは……聞こえないはずはなかったと思うんだが、気にする素振りもなくやや興奮気味に身を乗り出してくる。
「わかったぞ! あんな桁外れな魔法、私は知らない! 二種類の
んあーーーーーーーーー。
え、なんかすっげーめんどくさいことになってるんだが。
いや、興味関心を抱くことはいいことだよ。
いいことなんだが、的が外れすぎている。
私様は確かに魔法を作ってきた。
他人が使えない魔法も使って、発表してきた。
けど。
けどだ。
聞いておいて「実は誰にも教えていない魔法でしたー」なんてうぜえことしねーよ。
飽きれて表情が緩むぜ。
「……いいだろう。答え合わせだ」
手を伸ばし、指を鳴らす。
外から入ってきた空気を操る。
顔を撫でる感触が心地よく、日が入るようになってきた。
タイミングでも見計らったように光が射してくる。
あったけぇ。
気分がよくなった。
風の魔法で体を浮かす。
空中にふんぞり返る。
髪が
「はい。答え」
「……は?」
「え? わかんない?」
え、じゃあ……ちょっと強くするか。
やや浮いている程度だった髪が、水平まで浮く。
床の細かい破片やゴミが浮いて、体に当たってくる。
白衣やローブがはためいて、やや寒気を感じるほどだ。
これでも察しがついただろう。
間抜け面が目に入って、口角が嫌でも上がる。
人が驚く姿を見るのは実は好きだ。
気分が上がる。
仰々しく、両手を広げ、わざとらしく見下して言おう。
何を狙ってか、差し込む光が消える。
風が強いようで日が陰ったようだ。
雨雲でも近づいてきたのか、夜も近いようなひどくどんよりとした暗さになる。
「
これが夜なら魔王やなんかだっただろうな。
内心ほくそ笑む。
上機嫌な私様とは裏腹に、この場で唯一反応を示してくれるベローズは両目をこれでもかと見開き、さらに大きく口と喉を開ける。
「ばかな!!
「うんうん、そうなるよなぁ」
予想通りの反応に満足して、地に足を付ける。
もう次にやることは決まっている。
言葉と、力の差の証明だ。
≪転移≫
「その固定概念が、お前の人生と研究を失敗に導くんだ」
「ぅわっ!?」
ベローズの背後に回り、背中をポンと押した。
体調としてはそこまで芳しくないのか、少しの力でよろけ、壁の端っこから広い空間の真ん中に寄る。
一拍遅れて、視界を遮る影が二つ。
「
「
見切りの目を持ってして、大魔術師と賢者のそれぞれの攻撃をかわす。
主人であるベローズが近くにいるからか、二人とも魔法ではない。
身を軽くしてひらひらと躱し、距離をと……ろうにも追われてなかなか開かない。
しょうがない。
≪
「!?」
二人して、突然力が抜けたようにつんのめる。
体を揺らし、けれど立つほどの力は出ず、片膝、もしくは両手両膝をついて私様を真顔で見つめてくる。
「やっぱ水分はあるんだな」
水で呼吸ができないことに恐怖心がない。
それはさっきわかった。
ならばということで取った次の手段。
それは、『体の水分を奪ってしまおう』というもの。
奪うと言っても体から水分を抜くわけではない。
どれだけ抜いていいのかもわからんし。
一度は死んでいるとはいえ、こいつらを殺したいわけでもない。
ではどうするか。
体の水分。
液体。
具体的に言えば血液を全て下るように操った。
頭に回る血液量は減り、貧血を起こす。
心は関係なしに体が動かなくなる。
そんなことが、『水を操る』というだけの
「強くなろうとすることは結構。ただしそれは、強い魔法を使える事じゃない。『ある力をどう伸ばすか』。それに気付けたやつが強い」
ああ、魔法はなんてすごい力なんだ。
この世界の誰しもが使える魔法。
そんな魔法は、人を容易く殺す。
使い方を誤ってはいけないものだ。
「さあ。お前らは一先ず黙っててもらおう」
いつものように、ぱちんと指を鳴らす。
≪メメント・モリ鑑賞中≫
動きたくても動けない蘇生者二人の体に黒いリボンが巻き付く。
闇属性魔法≪メメント・モリ鑑賞中≫は、リボンを巻かれた対象の魔力をギリギリまで吸い上げる魔法。
この世界の人間は魔力を自然回復しているので、早い段階で自力で破るか、私様が解除するか、光の魔法を使うかしないと外れない。
つまりは半永久的な魔法。
これでこいつらはしばらく動けない。
「さて。私様はまだお前に確認したいことがあるんだよ、ベローズ」
「ひっ……!?」
無様にも尻もちをついたまま後ずさりする。
コイツもなぜか体が動かないらしい。
一生懸命床を足で蹴っているのに、私様との距離は縮まるばかり。
まだ何かしようというわけじゃないのに。
「お前。あいつのこと知ってるだろ」
指は床。
目線は問いかけていある相手。
声を聞いている奴以外はただ追い詰めている様にしか見えない状況。
問いを聞くのは目の前のこいつだけでいい。
他の奴ら……特に後ろにいる奴にはできれば聞こえないでほしい。
けれど、あからさまに壁を作ったり魔法を使ったりするのは避けた。
そんなことをすれば『聞かれたくない何かがある』と勘づかれるからだ。
そして
特に重いと思ったことはないが、隠していることが
傷つけないかもしれないが、どちらともわからない以上、傷つかないような選択をしたい。
「
察したベローズは、私様の背後に目を向ける。
今
私様が後ろを振り向くわけにはいかないので、そのままベローズを見つめ続けるのみなのだが。
数秒の間目を凝らし、そして記憶も掘り起こしたのだろう。
ベローズは「ああ」と言った。
「見覚えがある。森で拾った女だな。首を吊ろうとしていたところを捕獲した。どうせ死にたいのなら私たちが有効活用してやろうと」
知っているかを聞いただけだったが、物わかりよく語ったことについては素直に褒めてやろう。
だが。
「特徴について知ったのは?」
「特徴……? ああ、闇属性が強すぎて、辺り一帯の魔力を吸い取ってしまうことか? あれはひどいな。研究者たちも自信の魔力を吸われて何人か魔力欠乏症になってしまったよ。見つけた時には比較的コントロールしているようだったが、捕えて目を覚ました瞬間にやられたよ」
「そうか」
知っててやっていたわけじゃないところもポイントとしよう。
町からは孤立し、外部の人間を良しとしない閉鎖的な村。
そこで生まれた
いや、『強い』なんて表現じゃあ弱い。
『強すぎた』。
闇属性の特性は『吸収』。
強すぎる魔力をコントロールできず、
それはつまり、魔力も、空気もだ。
その二つはこの世界に住む私様たちからしたら生きる源。
それが足りなくなることは死活問題だ。
だから、封じ込めた。
「のちに調べたが、
「よく調べたな」
「実験に使った村だからな。興味を抱く者や調査をする者が来ても足をつかせないために先に手を打つ。当然だ」
ベローズの言う通り。
産まれたばかりの
発動された魔法は魔力が多い分強くなり、また発散される。
発散された魔力は村を満たす。
村人は命を保ち、シクは自由を奪われた。
「あの村はとんでもないな。「なんてものを産み落としてくれた」と母親を殺し、父親を世話役に命じたそうだ」
「ほう」
「魔法を発動しているということは、魔力を欲しているということ。減った分の魔力を補おうと、赤子の
「そうだな。吸われて苦しむのをわかってて父親一人に毎日の世話を任せたのか。鬼畜だな」
「ああ。父親も逃げ出したかったろうが、当然許されない。結果、若くして死んだようだ」
「その後任もいるだろ」
「おお、知っていたか。若い男が選ばれたそうだ」
若い男。
聞いたことがある。
幼児程度までなった
「なぜかその男は
効率的、ね。
まあそうだな。
「お前の見解は?」
「おそらくは、その男は光の属性が強かったのだろう。光と闇の相反。『吸収』の力をある程度『反射』し、奪われ過ぎることがなかった」
「答え合わせというものはできないが、可能性はあるな」
そこまで近しい異性はおらず、そして優しかった。
今思えば同情からの優しさだったからかもしれないが、幼い自分にはわからない。
好きになるのにそう時間はかからなかったと。
付け加えるなら、「異性としての好きかは未だにわからない。他の好きを知らないから」と言っていた。
「
同時に失った。
「世話役はお役御免になった。優しく接してくれていた男は、最初こそ純粋に構っていたが、段々恐怖心が勝るようになったようだ。なにせ、魔力は感情と結びついている。ゴキゲンにしておけばよいが、気分を損なえばそれはとてつもない苦痛を伴う。最悪死ぬ。死なずとも村人からは石を投げられるだろう。苦痛をほとんど感じていないからこそ、聞かされて想像する恐怖が日に日に大きくなっていった。もしかしたら、片鱗でも見たのかもしれないな」
実際片鱗は見たらしい。
直すのにも相応の時間を要したし、その間の仮の宿も必要だった。
その出来事があった日から家が直るまで、男は全身に包帯を巻いてきていてらしい。
毎日増えず、減らず。
常に巻いていたらしい。
今だから言えるのは、家が直るまで常に包帯を要していた。
怪我をし続けていたのだろう。