【3/27 電子書籍一巻発売】魔術師は死んでいた。   作:彩白 莱灯

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第5話

 アイツは確か……海の近くの街にいた貴族。

 …………なんて言ったっけ。

 

 

「マルス殿……!」

 

 

 あ、そうそうマルス。

 まるっこいマルス。

 女魔術師と同じ階級の。

 どこだっけ。

 弟子が長期休みにギルドの依頼を受けて、海の近くに行った時か?

 あんときもなんか胡散臭い奴だと思っていたが、まさかこいつも繋がってたのか。

 

 

「サー汚れタ獣たチヨ! あイツラを貪り食イなサい!」

 

 

 何様のつもりか、背後に控える異形たちに命令する。

 そしてその言葉を待っていましたと言わんばかりに、魔獣とも人間とも言えない正しく異形たちが、私様目掛けて飛び掛かってくる。

 二階から。

 本能がまま。

 私様に影が落ちる。

 

 

  ≪誘う泥沼≫

 

 

「はー、うっざ」

 

 

 天井からの光は弱弱しい。

 けれどその間に飛び込んでくる異形たちはもれなく影を作る。

 ≪誘う泥沼≫はその影を出入り口にして影の主を捕らえる。

 それは、たとえ私様を土台にして作られた影も同様。

 実際はぶつかっている状態だが、影を通して、通り抜ける。

 影の中にしまわれた異形たちは、続々と取り込まれていく。

 

 

「ナッななナっ! 待テ! 待ちナさい!!」

「あなた、うるさいわね」

「ハひィ!?」

 

 

 余裕をぶちかましていたマルスが表情をコロッと変えた。

 コロコロしてんのは体型だけにしておけよと言いたくなる。

 

 

「もう平気なのか?」

「ええ。大丈夫よ。……帰ったらさっきの話、ちゃんと聞かせてね」

「……さっきのって?」

「とぼけても無駄よ。スグサのことはわかってるんだから」

「……後ろ向けてたじゃん」

「そんなこと、()には関係ないわ」

「なんで?」

()()で、相手がスグサだからよ」

 

 

 ……うん。ごめん。

 こればっかりは私様にもよくわからんわ。

 まあ、いいや。

 本人が聞きたいなら教えてやろう。

 いつかシクが知りたい時が来るんじゃないかと思って、何か情報があればと思って聞いただけだし。

 マルスの背後に回って仁王立ちしているシクに向かってニヤリと笑う。

 笑顔が返された。

 頬が引きつった。

 間に汗だくな顔でより強張った顔をするマルスは……動けなさそう。

 あいつなにしてんだ?

 

 

「コイツ、蘇生者よ」

「え、そいつも?」

「ええ。魂の形が歪……こんないい方したくないけれど、失敗じゃないの?」

「……どうなんだ?」

 

 

 ベローズを睨む。

 

 

「あ、ああ……マルス様は研究費の援助をしていただいている代わりに、実験の成功率が高いものの実行を希望されていた……」

「失敗ダナんて失礼な! (ワタクシ)は生まレ変わッたノデス! ベローズ殿はとてモすばラシイ研究ヲ実行しテクレテます!」

 

 

 べた褒めだな。

 コイツの話し方は気になっていた。

 癖があるというか、耳に残るというか、耳障りというか。

 ……ああ、そうだ。

 イオラと似たような違和感があるんだ。

 イオラとの共通点を見つけると、シクが言った「魂が歪」というのが気になる。

 イオラは複数の魂を身に宿す。

 転生回数はおそらく一回。

 マルスの場合はどうだろう。

 複数回やっているとして、転生による摩滅なのか。

 ベローズの手法と違うのか。

 それらはどういう関係があるのか。

 問いたい。

 が。他にも気になることがある。

 

 

「こいつらはなんなんだ?」

 

 

 こっちが重要。

 ベローズが仰々しく出てきた時にもいた奴に追加して、さらに増えた異形たち。

 私様でさえ見たことないのは当然と言えば当然。

 私様も研究者だが、人間と魔獣をいじくりまわして合成するなんて手法はやったことがない。

 言ってしまえば……魔獣と人間の合成……『獣人』だろうか。

 

 

「正直に言えよ。ここにきてつまらない言い訳や紛らわしい言い方してくれるな」

 

 

 無意識に、左右の眉が寄る。

 何に対してこんな不機嫌なのか……。

 感情が表に出るのは良しとするが、コントロールできないや理由がつかないのは私様の性格的に流せない。

 感情がコントロールできないとしても、魔法もコントロールできないわけではない。

 感情は多様なことに起因するとはいえ、感情に支配されているわけではないし。

 感受性豊かなベローズくんは肩を震わせる。

 よく見れば小さく震える口を動かし、ポツリと話し出す。

 

 

「……失敗作だ。魔獣に寄り過ぎた者。命令は聞くが、使い勝手の悪い者。研究に不要になった者たち」

「ま、最初の人数じゃあ少ないほどだと思ったが、やっぱりいたか。人と混ぜた奴らか? 魔獣同士を掛け合わせていそうな奴は……いないか。意思疎通の問題か? 何十年と研究していたにしては少ないと思うが……さて、どうしていたのやら」

 

 

 ここにきて黙りやがった。

 つか、口数が少なくなったな。

 研究の成功を見逃したのは相当応えたか。

 研究が研究なら、遠回りとはいえ無駄な道程とは思わないけどな。

 こいつの研究は他人の人生を巻き込んでるからそうは思わないが。

 黙ってしまったのならしょうがない。私様が言ってみよう。

 

 

「さっき言ってたな。在庫処分祭。弟子が召喚されてから参加した『先の戦い』ってのは、お前ら失敗作をまとめて殺処分してたんだろ」

 

 

 いつだったか、弟子が言っていた。

 「『先の戦い』の相手は化け物だった」と。

 異形な姿はまさしく、『化け物』と呼べてしまう。

 

 

「お前らの研究で考えれば、もう使う予定のない存在を消すことなんて造作もなさそうではある。が、それ以外に目的があったんだろ」

 

 

 図星だろう。

 息が荒く、鼓動が早そうだ。

 つか、なんでバレないとか思ってたんだろう。

 

 

「体のいい殺処分だ。異形たちに人間を襲わせ、不安を煽る。自分が死ぬかもしれない。大事な人が死ぬかもしれない。生きて帰ってきたとして、今まで通りの生活を送れるのだろうか、と。その不安は『治癒魔法』がないからこそだ。だからこそ、『死者蘇生』や『転生魔法』という世間一般的にはタブーとされる内容が、甘い蜜のように感じる奴らがでてくる」

 

 

 それは支援者であり、素材であり、未来の成功と失敗に分類される者たちだ。

 

 

「そして魔獣同士を掛け合わせた奴ら。変に力を付けた魔獣はお前らの手には負えないだろう。しかし研究は続けたい。汚い物には蓋をして、元居た場所に放した。そして、ギルドに討伐依頼したんだろ」

 

 

 ほぼ確信を、確認事項のように問う。

 異常繁殖や過成長の理由はこいつらだったわけだ。

 目に見えて冷や汗を流し動揺している様子を見て、内心「ちょろ」と思った。

 どうしてこんな素直なやつが、考えをひん曲げてしまったのかなぁ。

 

 

「シク」

「なぁに?」

「……お前そんな趣味あったの?」

 

 

 見上げれば、マルスを四つ這いにさせてその上に座るシク、という状況だった。

 シクにそんな趣味があったなんてなあ。

 マルスの顔は見えないが、なぜだか息が荒い。

 狙ってんのか狙ってないのか、あだるてぃな状況に私様はついていけねぇよ。

 

 

「まだ本調子じゃないのよ。この程度にしてあげてるんだから」

「無理はすんなよ」

 

 

 片手を上げてにぎにぎと。

 その仕草のたびにマルスが「ぅあぁっあああっっん」とこの世ならざる声を上げる。

 ……多分喜んでる。

 声上げた瞬間に何か飛んで、瞬間的に全力の魔力で弾き飛ばした。

 正直、頭の中で再生して後悔してる。

 

 

「そっちにいる奴らの中から、声聞こえるか?」

 

 

 私様から目を背けるようにして、異形の方を見る。

 マルスの命がないせいか、私様に(おのの)いてか、シクが恐ろしいのか、大人しくしているままの者たち。

 一人一人か。

 あるいは流しながらか。

 数秒の時間を空けて、シクはこちらを向かずに呟いた。

 

 

「聞こえるわ」

「なんて言ってる?」

「わかって言ってるでしょ」

「答えを確認しないことには、「わかってる」とは言えないな」

 

 

 言いたくない言葉なのだろう。

 そうでなければ「聞こえる」なんて前置きもなく行っている。

 シクはそういう奴(・・・・・)だ。

 そういう奴(・・・・・)だとわかって聞いている私様のことも、シクは『そういう奴(・・・・・)』だと思っていることだろう。

 見るよりも長い沈黙の後、静かに、聞き取れないほどに小さく鳴る。

 

 

 

 

「「死にたい」」

 

 

 

 

 そうか、と。

 いつも通りの声で返した。

 その返答はなかったが、それでよかった。

 シクが死にたいわけじゃない。

 シクにしか聞こえない声がそう言っている。

 

 

「全員?」

「ほぼ。少なくとも、このままでいいと思っている魂はないわね」

「そうか。もう一つ聞く」

「……何?」

「この空間の中で、異世界から来た魂は?」

 

 

 私様に対してのみ真面目な仕事人は、一息ついて、正面だけではなく上下左右前後と見回す。

 どれはもちろん、私様も含めて。

 

 

「そこの二人だけね」

 

 

 そこ(・・)

 指さされた方を見れば、二人で一緒にいる大魔術師と賢者。

 ≪メメント・モリ≫のリボンによって拘束されている二人はぐったりとしている。

 そのリボンは拘束当初よりも大きく、また豪華になっている。

 だいぶ魔力を吸われたな。

 

 

「りょーかい。じゃあ他はこの世界の奴らなんだな」

「そう、ね。うん、そう」

「じゃあお前に頼めるか?」

「……ええ、そうね」

 

 

 いつもは頼み事となれば喜んで受けてくれるのに、今回ばかりは浮かない顔。

 間を開けて、頷いてはくれた。

 ま、そうなるわな。

 私様のことが大好きだもんな。

 

 

「気にすんな。こいつらの願いで、こいつらの心情はお前と一緒だろ。お前ならどうだ?」

「嬉しいわ。スグサだもの」

「いやそーじゃなくて。私様を好きになる前に、誰かが申し出たら?」

「…………ありがとう、って言うでしょうね」

「な? 誰かがやらないと、こいつらは苦しみ続ける。また今みたいにいいように使われるか、『先の戦い』みたいに惨殺されるだけだ。それが今すぐできる私様一人だっただけ。感謝される側だ」

 

 

 ここまで言っても、まだ浮かない顔。

 しょうがない。

 もう一声。

 

 

「そもそも、私様って死んでるし?」

 

 

 なんかの破片を投げられた。いてぇ。

 

 

「ばか」

「私様に「ばか」って言うのはお前ぐらいだよ」

「ばかばか」

「たまには悪くないな」

 

 

 茶番はここまでにして、苦しんでいるとわかっている奴らをどうにかしてやろう。

 魔力を練る。

 目の前のベローズは再度悲鳴を上げる。

 何かに気づいたように体を手前に乗り出してきた。

 

 

「!? 貴様……死んでいると言ったか!? まさか、偽物ではなく……本人……!?」

「え、今更? それについてはまた後でな」

 

 

 練り上げた魔力を、火の魔法に変換。

 

 

「≪炎熱の太陽は我が灼熱に焼かれる≫」

 

 

 

 

 

 ―――――……

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