【3/27 電子書籍一巻発売】魔術師は死んでいた。   作:彩白 莱灯

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第2話

 驚きはしない。

 むしろ静かに、冷静に、受け止める。

 これはそういう魔法だから。

 

 

「……確かに、無理をしたようだね」

 

 

 闇属性の特級魔法、≪盲目の神父が闇夜を駆ける≫。

 狭い範囲だが一帯を暗闇にする。

 その実態は、暗闇というのは使用者の目を模していると言われている。

 目、ということは、使用者には暗闇にいてもある程度は見えている。

 それこそ死角がないほどに。

 そこに光源となる魔法を使えばより正確な位置を示してしまうということ。

 死角がないのだから、必ず攻撃は来る。

 この魔法を使われた者は攻撃を受ける前提でいなければならない。

 

 

「ロタエは武術も達者だから、これつ使われるのは本当にしんどいね」

 

 

 特級魔法なのだから、普通の人なら発動で精一杯だ。

 魔法発動中は他の魔法は使えない。

 そうなると武力を持ってして攻撃できることが大前提のこの魔法。

 仲間がいるならまだしも、一人でやるのは無謀にも近い。

 まあ、僕の知る限り何人かを例外とするけれど。

 その例外に新たに加わったロタエだが、無理をした代償は決して小さくない。

 

 

「ロタエ……」

 

 

 血が流れ出る体を無理やり動かす。

 足音は聞こえたのだろう。

 顔を僕に向けるけれど、距離を取る素振りはない。

 ロタエの顔を見下ろす。

 顔に影が刺して、ロタエの瞳がより黒くなる。

 触れる距離にきても、ロタエは顔を背けない。

 

 

「ロタエ……見える?」

 

 

 頬に触れた。

 きめ細やかな肌に触れた。

 ロタエの肌に触れたのは……初めてだね。

 マメな性格だから、きちんと手入れしているんだろう。

 場にそぐわない考えがよぎる程に、肌に触れた感触は感動ものだった。

 

 

「……いいえ」

 

 

 その感動も、その一言で打ち砕かれる。

 予想はしていたけれど、実際に言われるとやはり…………きつい。

 

 

「そう……。本当、無理したね」

「はい。ある程度の魔力を貯めた後でしたが、団長には敵いませんでした」

 

 

 ロタエの武器である大鎌は、自分以外の魔法を切ることで魔力を蓄積、再利用することができる。

 特性は『奪取』。コウ殿下は自身の魔力を貯めるが、ロタエは自分の魔力は貯められない。

 特級魔法を発動するのに僕の魔力を使ったんだろう。それでも負荷は大きかった。

 

 

 

 ロタエの目は、闇に飲み込まれた。

 

 

 

「治るの?」

「わかりません。私も、ここまでなったのは初めてなので。少しぐらいなら時間をかければ戻っていましたが……それでも、若干視力の変化はありました」

「そっか」

 

 

 治らないかもしれない。

 その事実は重い。

 これからの人生、どれぐらい長いのかわからない。

 わからないまま、失ったという現実を目の当たりにしながら生きていくことになる。

 あったものが、ない。

 それを『絶望』と感じる人もいるだろう。

 そういう時こそ「やり直したい」「生き還りたい」と思うだろう。

 治らないのだから。

 治るのならば治したいのに、治す手段がないのだから。

 「いっそのこと死にたい」、「できることなら生き還りたい」。

 そういう立場になったからこそ、そう思うのも不思議じゃないと思う。

 大事な人がそうなったからこそ、治す手段がないというのも特別悔しく感じている。

 

 

「……私の負けですね」

 

 

 聞き漏らしようもない距離で、小さな口が呟いた。

 魔力が切れて、体力も底をついて、視力を失ってしまえば、後は僕が遠距離から拘束してしまえばもう勝ちだ。

 ロタエの負けだ。

 それはもう、覆ることのない事実で現実。

 

 

「そう。君の負け、ロタエ」

「ええ、降伏します」

「じゃ、帰ったら結婚の準備をしようね」

 

 

 あ、すごい。

 視力はなくてもやはり『目』なんだね。

 言いたいことが伝わってくる顔をしているよ。

 

 

「…………本気ですか?」

「言ったでしょ? 僕はいつも真面目だって」

「………………わかりました」

「すっごく気になる間の取り方だったけどそれを聞くのは今度にしようかな。……それで、勝ったからこそ一つ言わせてもらいたいんだけど」

「はい」

「男だから、女だから。貴族だから、平民だから。そう考えるのも無理はないよ、自分で選べないんだから。なんで自分が、って思うかもしれない。でも、だからこそ、あるものは使わなきゃいけない。与えられたものを活かしきる力は本人の力量だ。そればかりは運ではない」

 

 

 言いたいだけ言って、ロタエを抱き上げる。

 一瞬身構えたけれど、すぐに体にくっついてくれた。

 この辺りは特に体を休められるところはない。

 でもこれからまだ戦う必要があるから、距離はとっておいてもらいたい。

 体力も視力も失ったロタエは、いざという時に逃げ遅れる可能性もある。

 そうならないためにも危険が少ないと思われる距離を保ちたい。

 

 

「ロタエ、移動するよ」

「……どこに……?」

 

 

  ≪天使の梯子≫

 

 

 空から光が差してくる。

 そこに足をかけ、天まで登っていけそうな階段に様相を変える。

 なるべく揺らさず、しかし急いでかけ上げれば、踏んだ段は消えていく。

 空高く駆け上がり、アーマタスがミニチュアのように見える。

 

 

「ロタエ、一瞬だけ初級魔法は使える?」

「一瞬だけでしたら、なんとか」

「じゃあ合図したらよろしくね」

 

 

 理由は問われなかった。

 問われずともやっているけど。

 階段を飛び降りて一身に風を受ける。

 怪我人をこういう場に晒しちゃいけないね、ごめんロタエ。

 でも、たぶん、ロタエはわかってたのかもしれない。

 取り乱す様子もないし、なんなら魔法を使う準備をしている。

 足元にある建物との距離が詰まっていく。

 タイミングを測って、肩を叩く。

 

 

「≪(ナル)初級魔法(トゥワン)≫」

 

 

 意図を汲んで発動された風によって、建物を突き破ることなく着地した。

 とある重要なものを掲げる建物の屋根にロタエを下ろす。

 下からは見えない。

 見えてしまったとしても、一応、ロタエはならばすぐに殺されることはないだろう。

 アーマタスはフローレンタムと協力体制だし。

 

 

「居心地悪いかもしれないけど、ちょっと待っててね。ここなら攻撃が飛んできても絶対に守られるだろうから」

「ありがとう、ございます」

「うん。じゃあ、また。必ず迎えにくるよ」

 

 

  ≪転移≫

 

 

 元いた場所に戻る。

 それは、シオンとマリーと離れた場所。

 もう一人増えているけれど……ああ、この子は知っている。

 貴族の子だ。

 名前は確か、ロア・ウ・ドロー。

 ヒスイちゃんやシオンの同級生。

 

 

「……アオイ」

「あら。お帰りなさいませ、魔術師団長さま?」

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