【3/27 電子書籍一巻発売】魔術師は死んでいた。   作:彩白 莱灯

136 / 164
第3話―― シオン視点

「マリーたちは『死者蘇生』の魔法を編み出しました。望んだ人物を蘇らせる魔法です。素晴らしいと思いませんか? 不慮の事故。殺人。病死。それどころか怪我で失った身体機能すら、一度死んでリセットすることで、もう一度やり直すことができます」

「そんなことはわかってる。今更だ。それだけか?」

 

 

 ゆっくり首を振る。

 

 

「いいえ。そんなことありません」

「回りくどい。端的に言え」

「せっかちさん。でもわかりましたわ」

 

 

 一つ、息を吐いた。

 

 

「救われるのは当人だけではありません。失った側。家族を亡くしたマリーや、自分が産まれたことでお母様を亡くしたシオン様も、救われるのですよ」

 

 

 俺の心臓が、一つ、大きく跳ねた。

 

 

「はは、おや……」

「ええ。貴方が産まれることで命を落とした王妃様。そのことで陛下から疎まれる存在となった貴方は、誰よりも母という存在を望んでいるのではございませんか?」

 

 

 悲しげに女が笑う。

 

 

「考えてみてください。母の愛を知らない貴方様も、ようやく人並みに母に触れることが出来る。母という存在はとても温かいものですのよ。また、今まで冷たく、むしろ存在しないかのように扱われていた陛下……お父上も、ようやく氷を溶かしてくれることでしょう。きっと貴方様の頼もしいお父様に生まれ変わって下さることですわ」

 

 

 その顔の意味は、何度も見た『憐れみ』と、初めて見た『仲間意識』。

 家族を失ったもの同士。そういう事だろう。

 自覚できるほどに鼓動が早くなる。

 落ち着け。

 俺は母が蘇ることを望んでいるのか。

 蘇った所でどうなるというのか、考えろ……。

 知りもしない母の存在など、あってもなくても変わらないだろう。

 

 

「……どうやる、と、言うんだ」

 

 

 頭の中では思いつきもしなかった言葉を、口ずさんでいた。

 驚く自分に気づいているのかいないのか、女は表情を変えずに「そうですわね」と語り出す。

 

 

「王妃様のお体と魂は保管されています。『死者蘇生』の魔法陣が刻まれた場所、かつ、相応の魔力があればすぐにでも可能と聞いておりますわ」

「そう、か」

「これは最優先事項なのです。なにせ、陛下が望んでいらっしゃることですから」

 

 

 陛下が、望んだこと。

 

 

「失ったものが戻ってくるのです。さぞお喜びになることでしょう。そうすれば、貴方様方ご家族は、また一からやり直せるのですよ」

 

 

 やり直せる……?

 

 

「……は」

「はい?」

「はは、は……あははははっ……」

 

 

 悲しい顔がようやく消えた。

 逆に俺は笑いが止まらない。

 腹がよじれる。

 「あの男が望んだこと」。「やり直せる」。

 ははは……。

 

 

「あっはっはっはっはっは!!!」

「……どうされました?」

 

 

 不思議なものを見たような、それも不潔なものを見たような、訝しんだ顔をしている。

 この笑は自分では止められない。

 自然に止まるのを待ってくれ、と言いたくても言えない状況。

 ただただ笑い転げる俺を前に、何を言っても無駄だと悟った女は静かに待つ。

 

 

「はっはっは……はぁーあ」

「ようやくですの?」

「ああ、待たせたな」

 

 

 不満を持ちつつも、敢えてそれを口に出すことはしなかった。

 まあ、同級生なのだから言ってくれて構わないし、何だったら伝わってはいる。

 

 

「悪い。ちゃんと話すから」

「ええ、教えてくださいませ。何が面白いのですか?」

「ああ」

 

 

 思い出し笑いしそうになるのを、腹に力を入れて堪える。

 が。

 だめだ。

 顔は緩んでしまう。

 

 

「あの男が『やり直そう』などと思うわけないだろう!」

 

 

   (アル)中級魔法(フィフォ) ≪大地の傀儡は味方する≫

 

 

 即興で作りあげた土人形。

 三階建ての家一つ分が、俺が突発で発動できる最大規模。

 三階建てと言えば人ひとりと比べれば相当に見上げる大きさだ。

 ≪傀儡≫の肩に乗って見下す。

 

 

「まあ……お父上ですのにそんなこと……」

「父だからなんだ。あいつは俺のことを家族だなんて見ちゃいない。むしろ目の敵にしてるんだぞ。お前こそあいつのことなんだと思ってんだよ」

 

 

 飽きれる。

 人の家族のことを知った気になって。

 頭の中はお花畑か?

 そんなことを思っていたら、綺麗な顔が綺麗に歪む。

 目と口がそれぞれ弧を描き、俺を釘付けにしてくる。

 

 

「陛下は貴方様……シオン様のお父上ですわ。つまり貴方方はご家族。ご家族は一緒にいるべきですのよ。意にそぐわぬ状況で無残に引き裂かれた悲しき末路……ああ、運命とはなんと残酷なのでしょう……!」

「……お前」

「ですがご安心を! わたくしたちはそんな運命を打ち破って見せますわ!

 

 たとえ世間が何と言おうとも、親しく、愛する人を失うのは皆さんお辛いはず! 経験したことがないから認められないのですわ! そう! 愛する人を失うことがどれだけ辛いことか、みなさん知らないのです! 知らないことはとても幸せなこと。知らないでいられるならその方がきっといいですわ。

 

 だからわたくしたちは決めましたの。皆さんが愛する人を亡くしてしまっても大丈夫な世の中を作ろうと。無くしてしまう悲しみから解放させてあげましょうと。治らない病気で苦しむ姿を見せなくてもすむのですわ。苦しむ前に死んで、生き還ればよいのですから。高額な医療費も必要ありませんのよ。怪我だってそう。働けなくなって路頭に迷うこともないのですわ。

 

 だって生き還れるんですもの!

 死ぬのは『終わり』ではないのです! 『生きる手段』なのですわ!」

 

 

  ≪大地の傀儡は味方する≫

 

 

 興奮状態のままに発動された同じ魔法。

 土属性を持っているのは把握していた。

 けれどまさか……俺の位置から見ても見上げるほどで、同じように肩に乗っているだろうマリーの足下が見える程度とは。

 予想外だ。

 桁違いだ。

 それは魔力なのか、技術的なところなのか。

 実のところどっちでもいい。

 明確な力の違いを見せつけられている。

 

 

「うふふ……。ねえ、シオン様。『死ぬ』って怖いですか?」

 

 

 顔は見えない。

 けれど笑っている。

 きっと不気味なほどに綺麗な顔で笑っていることだろう。

 慎ましやかに、お淑やかに。

 気品を溢れさせて。

 正直、『死ぬ』ことよりも『マリー』に恐怖を感じる。

 

 

「……そうだな。死んだことないし、知らないことをするのは、怖いな」

 

 

 もちろん、言わないけど。

 

 

「ですよね。そうですよねぇ、そうですわよねですわよねぇ! 恐怖は思考を止めます。止まった思考は行動を止めます。行動が止まれば生き物は――」

 

 

 相手の≪傀儡≫が両手を広げる。

 なにか……対処、しなければ……。

 あ、だめだ。

 こんなこと考えているようでは……間に合わない。

 

 

「一番怖い『死』を待つのみです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おいおい、マリー。まさか本当に殺そうとしたわけじゃないだろうね?」

「もちろん、そんなこといたしませんわ。シオン様はきっと、わたくしたちの同志ですもの。わたくしたちの行動がどれだけ素晴らしいことか、わかっていただきたかっただけですわ」

「どうかな。僕には到底そうは思えないけれど。説得が必要な相手に割いている時間がもったいないと思うけどね」

 

 

 ……耳が、遠くなったのだろうか。

 俺を握り潰すことなど容易な両手が、左右から迫ってきた。

 暴風に煽られ、体のバランスを崩しそうになる。

 それをどうにか≪傀儡≫に抱き着くことで凌いだ。

 けれど、集中力は途切れた。

 ≪傀儡≫はぼろぼろと崩れ、俺は真っ逆さまに落ちた。

 ≪傀儡≫の残骸がクッションになったおかげで無事ではある。

 そして聞こえる、聞き覚えのある声。

 

 

「怖かっただろう、シオン王子。手でも貸してやろうか?」

「……ロア……なんで……」

「あぁっと! そっちは土ぼこりがひどいなあ! そんなところ行けたもんじゃない。シオン王子は物好きだなあ。そんなところで寝そべるなんてっ!」

 

 

 マリーがいる方とは反対側から姿を現した、数年来の同級生、ロア。

 青い髪と神経を逆なでしてくる話し方は相変わらずで、この非日常的になりつつある状況では安心すら覚えそうだった。

 なんでこいつがここにいるのかという疑問は、もちろんある。

 そして、こいつは操られている側なのかどうなのか。

 

 

「なんでお前がここにっ」

「今この状況でそれを聞くのかい? 必要な情報なのかな、それは」

「いいから答えろよ! お前も操られてるのか!?」

「耳障りだなぁ。高貴な生まれとは到底思えない見窄(みすぼ)らしさだ」

 

 

 さらりと、伸びた横髪を片手で払う。

 カッコつけで傲慢そうな、とても操られているとは思えない無駄な仕草。

 同級生として思う。

 操られていないと安心するべきか。

 マリーと親しげに話す姿を見て、操られていないのにと絶望するべきか。

 

 

「僕はミス・マリーと行動を共にすることに決めたんだ。これは僕の意思で、ウ・ドロー家の総意だ」

 

 

 マリーの手は、同級生にまで伸びていた。

 ……今更か。

 なんだったらナオやセンだって、こいつらの仲間だったんだ。

 いつも喧嘩ばかりだったロアだ。

 特別悔しいとか、残念だとかは思わない。

 そしてこいつの、『死者蘇生』にかける思いというのは予想がつく。

 柔らかい土を踏みしめる。

 マリーは俺を「殺す気はない」と言った。

 ならば、背中を向けても大丈夫だろう。

 ロアと向き合って、いつもの喧嘩腰で睨みつける。

 

 

「短絡的なお前のことだ。どうせ『貴族だけの世界』でも作ろうとしてるんだろ」

「なーんでそういう大事なことを本人に言わせないのか。気が利かない王子さまだ。周りのこと見えてる? いや、この土埃で目が見えなくなってしまったのかな? そんな不潔な場所で遊ぶのはやめるべきだとわかったかい?」

「どうなんだ。本当にそうなのか」

「……ああ、そうさ」

 

 

 上機嫌に憎たらしい軽口をたたいていた声とは一変して、重く、けれど高らかに吠えるように、ロアは声を張り上げる。

 

 

「この世界には二種類の人間がいる。『貴族』か『平民』かだ!! 高貴な僕たち貴族は平民の面倒を見てやっているのに、なぜ同じ場所で生活している? なぜ同じ場を利用する? 貴族だぞ? お前らの面倒を見てやっているんだぞ? 明らかに上の奴らが下の奴らと同じ空気を吸っている状況……虫唾が走る!!」

 

「だから、なんだ。そもそもお前自身の努力で貴族になったわけでもないのに何を偉そうに言ってんだ」

 

「ああ、僕が貴族になったのは『運』だ。『運』を持ち得ていたからこそ貴族として生まれたんだ。わかるか? そもそもの素質が違うんだよ! 貴族として生まれた『運』があって、貴族らしくいようとする『努力』! その二つを兼ね備えた僕は考えた。貴族として生まれた者はみな『運』を持っていて、優秀である必要がある。そうすることで国は栄え、世界も彩られる。そのためには優秀な貴族が生き残る必要があるんだ」

 

「……お前、まさか」

 

「『貴族だけの世界』。とても素晴らしいじゃないか。優秀な人材のみが生き残る。人間としての繁栄は確約されたものだろう。優秀な人間は死ぬべきじゃない。永く永く生きて、人類に貢献すべきだ。平民という『間抜け』や『寄生虫』は貴族の体の『スペア』だ。せいぜい労働力として生かしてやるさ。ま、運悪く平民として生まれたんだから、早く来世に期待するような環境を整えてあげないとね」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。