【3/27 電子書籍一巻発売】魔術師は死んでいた。 作:彩白 莱灯
「知らないよ。君の宣言なんて。君の声を誰が聞くんだ?」
「誰かは聞いてくれるだろ。誰も聞いてくれない状況なら、俺はもう国にも学院にもいられない」
「時間の問題だろうけどね」
いちいちトゲを刺してきやがって。
今日はいつもより多く刺さっておりますってか!
登りかける血を無理やり沈める。
土魔法の競り合いには負けた。
それなら水魔法だ!
「
「――
再度撃ち合う。
発動は俺の方が早かった。
真ん中よりロアの方でぶつかりあう水の玉。
だが、同じことをそのまま繰り返すほど、俺は馬鹿じゃないぞ。
利き手に握った剣を、もう一度強く握る。
特別大きい水玉を放ち、注意を引きつけて、走り出す。
「ロアアァァァァァアアアッ!!」
自分への喝を込めて大声で叫ぶ。
一時的に俺を視界から外していたロアは、少しだけ驚いた顔をした。
だがすぐに、ロアも自分の剣を発現させた。
下から振り上げた剣はロアの剣とぶつかり、高い音を立てる。
「一つ教えてやるよ!」
「っ、なんだい?」
「貴族だらけの世界になったら、貴族っていう階級自体無くなるかも、な!」
「かはっ!」
隙だらけの腹に蹴りを入れる。
足癖悪い、貴族らしくないと言わんばかりの苦い顔。
知るかんなもん。
お前の思ってる通り、『貴族らしさ』なんて誰にも教わってないんだからな。
腹を押さえ時々咳き込んでいても、両足で立つほどには耐えられた。
急所入ったと思ったが……。
「っ、ふん…… 平民を完全に無くすわけじゃない。生き方を区別するだけだ。優秀な種の保存だよ」
「お前は神にでもなったつもりか? 同じ人間が人間の生き方に口出しするなよ」
「導いてるんだよ。いいと思った方向へ。導くことは人間にもできる。考える頭もないような奴らを野放しにしているより、管理してやったほうがいいだろ。放牧と一緒さ。生き方を管理して、より良いものを作って人間のためとしてるんだ」
ロアが剣を構える。
上段の突きの構え。
対照的に、俺は剣を後ろに引いて、腰を低くする。
「違うね。お前は人間を玩具かなんかだと思ってる。俺たちの人生は何度でもやり直せるゲームや試合とは違うんだ。一度きりだ。それを自分の意思とは関係なく決められるなんて……不条理にも程がある!」
「それこそ運なんだよ! 持って生まれたかそうでないか! そうでないならやり直させる。そして持って生まれた時にちゃんと生きればいい! その場を整えてやるって言ってるんだ!」
叫び合いながら、剣を交わらせる。
首を狙った斜め上方からの斬撃を横に飛んで避けた。
反撃しようとして、剣を支柱にした飛び蹴りが目の前に迫る。
より低くしゃがんでやり過ごした。
向こうの着地を狙って、足を後ろに出す。
「っ!」
絶妙なタイミングだった。
ロアはバランスを崩して、横に倒れる。
体を捻って、剣を振り下ろす。
だが、片手をついて倒れることを防いだロアは、そのまま距離をとって体制を立て直した。
「ロア。お前とは分かり合えないようだ……。お前はなんの目線から語ってるんだ? 人間の目線じゃない。管理者……神になったとでも思ってるのか」
「まさか。そこまで傲慢じゃないさ。だが、貴族は神と同義だよ。上に立つとはそういうことだ」
断言したロアに、もう、同じ目線はないのだろう。
『人間』だと思う俺と、『神』と思うロアは。
「……お前みたいな自分勝手なやつに、俺の住む国は任せられない」
一つ、決心をした。
「はっ。シオンさまも人のことは言えないな。どの目線で言ってるんだ?」
剣を顔の横に構える。
剣に埋め込まれた石が光る。
息を吐いて。
冷静に、自分に言い聞かせる。
「王位継承権を持つ王族として言ってるんだ」
貴族と王族の違いは、王位継承権を持っているかどうか。
俺が持っていて、ロアが持っていないもの。
これは、ロアには俺を超えられないことを指す言葉。
案の定。
今まで比較的涼しげだった表情は、眉を吊り上げて激情に変わる。
「クソがあああぁぁぁぁああああああっ!!!」
魔法を放ち、真正面から向かってくる。
方向の読みやすい単調な水の玉。
剣を最小限に動かして裁く。
剣の間合いまで、あと十歩。
「優秀な僕は偉いんだ! 不真面目なお前より! なんでお前が僕より上にいるんだ! なぜ僕が王となる資格がないんだあああああああ!!」
あと、五歩。
「さあな。それこそ、『運』じゃねーの?」
あと、二歩。
「……お前が俺の立場で産まれてたら、母親は生きてたかな」
剣がゆっくりと迫ってくる。
魔術師として頂点に立つ奴に「お前らは弱いからな」と言われた。
「だからこれをやる」と魔石を渡された。
「戦いたくなければ使え」と。
俺は王族だ。
戦いの訓練も受けてる。
実践経験こそ少ないどころか皆無に等しいが、覚悟はしていた。
つもりだった。
魔術師は言った。
「経験しているかしていないかはでかいぞ」と。
今なら、素直に感謝できる。
確かに身内と殺し合う経験はなかったから。
剣を投げた。
「!?」
同時に発動された魔法で、視界が途切れる。
ロアは消えた。
いなくなった。
見えなくなった。
横に見える景色は今までと変わらない。
目の前。
正面だけ。
四角い箱がある。
≪悪魔の玩具箱≫
魔術師はそう言った。
どこまでわかってて、この魔法をいれたのか。
皮肉にも程がある。
中から音はしない。
当然だ。
最高位魔術師の魔法を、一介の学生如きが対抗できるはずがない。
力が抜けた。
地面に座り込んで、座っている力も抜けた。
大の字になって、天を仰いだ。
空が明るくて眩しい。
腕で顔を……目を覆った。
「……俺にはお前を殺せないよ。たとえ生き還らせられるといわれても、一度死んだお前は本当にお前なのか? 俺はもう……俺がきっかけで誰かが死ぬなんて、嫌だ……」