【3/27 電子書籍一巻発売】魔術師は死んでいた。   作:彩白 莱灯

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第6話

「知らないよ。君の宣言なんて。君の声を誰が聞くんだ?」

「誰かは聞いてくれるだろ。誰も聞いてくれない状況なら、俺はもう国にも学院にもいられない」

「時間の問題だろうけどね」

 

 

 いちいちトゲを刺してきやがって。

 今日はいつもより多く刺さっておりますってか!

 登りかける血を無理やり沈める。

 土魔法の競り合いには負けた。

 それなら水魔法だ!

 

 

(イズ)初級魔法(トゥワン)!」

「――(イズ)初級魔法(トゥワン)

 

 

 再度撃ち合う。

 発動は俺の方が早かった。

 真ん中よりロアの方でぶつかりあう水の玉。

 だが、同じことをそのまま繰り返すほど、俺は馬鹿じゃないぞ。

 利き手に握った剣を、もう一度強く握る。

 特別大きい水玉を放ち、注意を引きつけて、走り出す。

 

 

「ロアアァァァァァアアアッ!!」

 

 

 自分への喝を込めて大声で叫ぶ。

 一時的に俺を視界から外していたロアは、少しだけ驚いた顔をした。

 だがすぐに、ロアも自分の剣を発現させた。

 下から振り上げた剣はロアの剣とぶつかり、高い音を立てる。

 

 

「一つ教えてやるよ!」

「っ、なんだい?」

「貴族だらけの世界になったら、貴族っていう階級自体無くなるかも、な!」

「かはっ!」

 

 

 隙だらけの腹に蹴りを入れる。

 足癖悪い、貴族らしくないと言わんばかりの苦い顔。

 知るかんなもん。

 お前の思ってる通り、『貴族らしさ』なんて誰にも教わってないんだからな。

 腹を押さえ時々咳き込んでいても、両足で立つほどには耐えられた。

 急所入ったと思ったが……。

 

 

「っ、ふん…… 平民を完全に無くすわけじゃない。生き方を区別するだけだ。優秀な種の保存だよ」

「お前は神にでもなったつもりか? 同じ人間が人間の生き方に口出しするなよ」

「導いてるんだよ。いいと思った方向へ。導くことは人間にもできる。考える頭もないような奴らを野放しにしているより、管理してやったほうがいいだろ。放牧と一緒さ。生き方を管理して、より良いものを作って人間のためとしてるんだ」

 

 

 ロアが剣を構える。

 上段の突きの構え。

 対照的に、俺は剣を後ろに引いて、腰を低くする。

 

 

「違うね。お前は人間を玩具かなんかだと思ってる。俺たちの人生は何度でもやり直せるゲームや試合とは違うんだ。一度きりだ。それを自分の意思とは関係なく決められるなんて……不条理にも程がある!」

「それこそ運なんだよ! 持って生まれたかそうでないか! そうでないならやり直させる。そして持って生まれた時にちゃんと生きればいい! その場を整えてやるって言ってるんだ!」

 

 

 叫び合いながら、剣を交わらせる。

 

 首を狙った斜め上方からの斬撃を横に飛んで避けた。

 

 反撃しようとして、剣を支柱にした飛び蹴りが目の前に迫る。

 

 より低くしゃがんでやり過ごした。

 

 向こうの着地を狙って、足を後ろに出す。

 

 

「っ!」

 

 

 絶妙なタイミングだった。

 

 ロアはバランスを崩して、横に倒れる。

 

 体を捻って、剣を振り下ろす。

 

 だが、片手をついて倒れることを防いだロアは、そのまま距離をとって体制を立て直した。

 

 

「ロア。お前とは分かり合えないようだ……。お前はなんの目線から語ってるんだ? 人間の目線じゃない。管理者……神になったとでも思ってるのか」

「まさか。そこまで傲慢じゃないさ。だが、貴族は神と同義だよ。上に立つとはそういうことだ」

 

 

 断言したロアに、もう、同じ目線はないのだろう。

 『人間』だと思う俺と、『神』と思うロアは。

 

 

「……お前みたいな自分勝手なやつに、俺の住む国は任せられない」

 

 

 一つ、決心をした。

 

 

「はっ。シオンさまも人のことは言えないな。どの目線で言ってるんだ?」

 

 

 剣を顔の横に構える。

 剣に埋め込まれた石が光る。

 息を吐いて。

 冷静に、自分に言い聞かせる。

 

 

「王位継承権を持つ王族として言ってるんだ」

 

 

 貴族と王族の違いは、王位継承権を持っているかどうか。

 俺が持っていて、ロアが持っていないもの。

 これは、ロアには俺を超えられないことを指す言葉。

 案の定。

 今まで比較的涼しげだった表情は、眉を吊り上げて激情に変わる。

 

 

「クソがあああぁぁぁぁああああああっ!!!」

 

 

 魔法を放ち、真正面から向かってくる。

 方向の読みやすい単調な水の玉。

 剣を最小限に動かして裁く。

 剣の間合いまで、あと十歩。

 

 

「優秀な僕は偉いんだ! 不真面目なお前より! なんでお前が僕より上にいるんだ! なぜ僕が王となる資格がないんだあああああああ!!」

 

 

 あと、五歩。

 

 

「さあな。それこそ、『運』じゃねーの?」

 

 

 あと、二歩。

 

 

「……お前が俺の立場で産まれてたら、母親は生きてたかな」

 

 

 剣がゆっくりと迫ってくる。

 

 

 魔術師として頂点に立つ奴に「お前らは弱いからな」と言われた。

 「だからこれをやる」と魔石を渡された。

 「戦いたくなければ使え」と。

 俺は王族だ。

 戦いの訓練も受けてる。

 実践経験こそ少ないどころか皆無に等しいが、覚悟はしていた。

 つもりだった。

 魔術師は言った。

 「経験しているかしていないかはでかいぞ」と。

 今なら、素直に感謝できる。

 確かに身内と殺し合う経験はなかったから。

 剣を投げた。

 

 

「!?」

 

 

 同時に発動された魔法で、視界が途切れる。

 ロアは消えた。

 いなくなった。

 見えなくなった。

 横に見える景色は今までと変わらない。

 目の前。

 正面だけ。

 四角い箱がある。

 

 

   ≪悪魔の玩具箱≫

 

 

 魔術師はそう言った。

 どこまでわかってて、この魔法をいれたのか。

 皮肉にも程がある。

 中から音はしない。

 当然だ。

 最高位魔術師の魔法を、一介の学生如きが対抗できるはずがない。

 力が抜けた。

 地面に座り込んで、座っている力も抜けた。

 大の字になって、天を仰いだ。

 空が明るくて眩しい。

 腕で顔を……目を覆った。

 

 

「……俺にはお前を殺せないよ。たとえ生き還らせられるといわれても、一度死んだお前は本当にお前なのか? 俺はもう……俺がきっかけで誰かが死ぬなんて、嫌だ……」

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