【3/27 電子書籍一巻発売】魔術師は死んでいた。   作:彩白 莱灯

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第14話

 ……うん、私様は(・・・)満足したし、そういうことにしてしまおう。

 

 

「一発入れられたな」

「え」

 

 

 確か、王子サマ側の勝利条件は『一発入れるか拘束』としたはずだ。

 服しか破れていないが、薄皮一枚ぐらいは切れてるかも?

 いや、切れてる切れてる。

 あーんいたーい。

 

 

「……いやいやいやいや! さすがにそれは違うと思うが!?」

「えー? 見えてないだけで傷ありますよー? ほら、私様の柔肌に赤い筋が……」

「見えん」

「心の目で見てください」

 

 

 まあ納得できないわな。

 ならもう致し方あるまい。

 

 

「満足した」

「は!?」

 

 

 正直に言うしかねぇわな。うん。

 実際、女魔術師には驚かされたし、連携も見れたし、魔法のレベルもある程度わかった。

 騎士サマはもちろんだが剣が主体で、魔法はそこまで使えないのか使う気がないのか。

 王子サマは補助的に使っていたし、これから方針が決まってくるだろう。

 私様からの視点ではどうしても魔術師の魔法に集中してしまうのだが、魔術師団は上級魔法は詠唱せず十分な威力を出せている。

 この二人の役職はまだ確認をとっていないが、団長格だとしたら十分か、少し物足りない。

 本気ではない可能性も十分に考えられるから、まあこんなもんか、というのが本音の感想。

 ヒスイの今後のことを考えたら、こいつら程度の魔法は余裕で扱えるようになってもらわなくてはならないな。

 

 

「勝者、おーじさまー!」

「はぁ!?」

 

 

 納得のいっていない抗議の声をギャーギャーとあげているが、知らん。

 私様はもう満足だし、なんなら一発魔法で黙らせてもいいんだが。

 王子サマだしなぁ。

 めんど。

 耳元まで近づいてきて「納得いかない」だの「まだやれるだろう」と言われて騒々しいことだ。

 

 

「魔法石二つにしとくから」

「そっ……れは嬉しいが!」

 

 

 素直だな。

 騒ぐのは終えてブツブツと独り言を言い始めた。

 もうあの王子サマは置いておこう。

 赤髪は痺れが取れたようだが、寝そべって両手で頬杖をついている。

 微笑ましそうに見るな。

 騎士サマは……あれ、蔓斬って抜け出してた。

 助太刀しようとしたタイミングで終わらせちゃったか。

 腰の鞘に剣を戻していた。

 肩をぐるぐる回したり、前屈したり……うん、体は問題なさそうだな。

 

 

「みなさんどーもどーも。ご協力ありがとねー」

「殿下、お怪我は」

「ああ……大丈夫だ……アオイは?」

「僕も大丈夫でーす」

 

 

 主君である王子サマを中心に集まってきた。

 私様は服が少々破けただけだが、騎士サマは土がついていたり頭に葉っぱが乗っている。

 赤髪は≪伝雷≫のせいで全身ボロボロだ。

 王子サマは汚れてはいないものの一番疲れて見える。

 勝負は負けたのに見た目だけなら勝ったような感じだ。

 

 

「お疲れさまでした」

 

 

 女魔術師もきた。

 この人は水と土で服が少し汚れただけか。

 

 

「もう十分なのですか?」

 

 

 金色に輝く瞳が妖しい光を宿して問いかける。

 まるで探られている感覚さえ感じる眼光。

 この充足感の問われ方は、「動けたか」ではなく「必要な物は揃ったか」の意だ。

 そしてはこれは思い込みでも錯覚ではなく、確信。

 こいつは、もしくはこいつらは、気付いている。

 

 

「……あぁ。十分だ」

 

 

 こいつらがヒスイにこの世界のことを教えている。

 私様も協力してやろう。

 

 

「私様が直々に、ヒスイに教えこんでやる」

 

 

 私様の体のこと、大きすぎる魔力も、使い方も、オリジナルの魔法についても。

 いつか来る戦いの日までに、叩き込んでやる。

 これからのこと。

 さらには今の戦いを思い出し。

 頬が緩み、ずっと頭の中にあって温めていた一言を言い放つ。

 

 

「それにしても、王子サマの剣は良かったですね。まさに『でんか』の宝刀!」

 

 

 

 

 

 ―――――……

 

 

 

 

 

「てことになったぞ」

「はい……よろしくお願いします」

 

 

 意識の中で、また胡座と正座で膝を向かい合わせ、ヒスイと話す。

 王子サマたちとの戯れが終わって、結界魔法を解いたらオレンジ色の空が部屋の中を照らしていた。

 まさかこんな時間まで私様に付き合わされるとは思わなかったのだろう。

 王子サマや赤髪たちはウーとロロについての報告に係る書類作成などがあるとのことで、慌ただしく部屋を後にした。

 ウーとロロはその後も寝続けている。

 結界を張っていたとはいえ、遊んでいる間も起きなかったのは魔物として大丈夫なのか疑問だが。

 起きるまでしばらくかかるかな。

 今は休息と夕飯までの暇潰しと事後報告を兼ねて、また意識下でヒスイと話している最中だ。

 

 

「まさかいきなり戦いになるとは思いませんでしたよ」

「ははっ! さすがに急すぎたかもな。身近にいるだろうあいつらの力を確認したかったのもあるが、私様が体をどこまで扱えるのか確認したかったもんでな」

 

 

 魔法を使って確認できる機会なんて早々ないだろうし、ほぼほぼ強制的に協力してもらった。

 少しばかりは悪いと思っているが、プレゼントも付けたし、許してくれている、はずだ。

 

 

「大きな怪我がなくてよかったです」

「私様が? それともあいつらが?」

「みんな、です」

「……お前はどう思ったんだ。私様が戦ってて」

 

 

 今のこの体はお前の物でもあるんだぞ。

 そういう意味も込めて、試すように聞いてみた。

 ヒスイは貼り付けたような真顔、それこそ人形のような読めない表情でいることが基本だが、微妙な変化は見える。

 目をぱちくりさせて、伏し目がちになって、頭の中で質問をかみ砕いて、思案。

 

 

「えと……魔法ってすごいなとか……殿下も、アオイさんもロタエさんもカミルさんも、やっぱり戦う人なんだなとか、体を廻る感じがするとこれが魔力なのかな、とか…………」

 

 

 まだ言いそうなのに、言葉が止まる。

 貼り付いた真顔からは何が言いたいのか察しがつかず、言葉が続くのを待つ。

 

 私様の目よりも、胸元よりも、下。

 大体足元だろうか、その一点を見つめた瞳は赤いのに、色がないと思わせるように影が差しこんでいる。

 

 

「……今までの私の体じゃないな、っていう、確信。今までの私の体はどんなだったかな、とか……今までの体でいた時はどうだったかなとか」

 

 

 真顔。ずっと、真顔。

 無表情にしては生きている感じがするし、しかし紡ぐ言葉に宿る感情を読み取るとそれにしては無表情ともとれる。

 ヒスイに感情を聞けば答えるだろう。

 だがそこは自覚があるものだろうか。

 少し前に聞いた時は『恨み』を読み取ったが、それは自分が立たされている状況を主観的に見れていると、本当に言えるだろうか。

 例えば全く違う誰かの話を聞いて、同情のあまり『恨み』という感情が芽生えた。

 自分のことだが、認められなくて、認めたくなくて、客観的にしか受け止め、表出できない。そしてそれを自覚していない。

 そういう考え方もできるだろう。 

 そう考えたら。

 

 

「もし、確かに死んでいて、今が生まれ変わったのだと確かに言えるなら……」

 

 

 その言葉の先にある感情は、果たして誰の、どんなモノだろうか。

 それは、生きたまま連れてこられた奴だからこそ出る、苦悩。

 そんな奴はこの世界で探して奇跡的に何人かいるが、話ができる状態ではないだろう。

 同類はいないようなもの。

 つまりそれは、一人で抱えるにしては大きすぎるものを背負っている身としては心細いどころではないと察するのは容易い。

 『唯一の』と言い換えれば聞こえはいいかもしれないが、結局心の底で感じるのは孤独だろう。

 いくら王子サマたちが親身になったとしても、生きていた世界とは別の世界の人間であることは変わりない。

 他人事だろうと思われてしまえば、それまでだ。

 

 逆に考えてみよう。

 しかも死んでいたらそりゃあ「死んだんだからしょうがない」とか「むしろラッキー」とか思えるかもしれない。

 しかし。

 向こうの世界では自分はどうなったのか、親は、兄弟は、友人は……自分の体は、どうなったのか。

 死んだ人間にはどうすることができないとしても、今『前世の記憶を持って生きている』と自覚がある奴からしたら、もし仲のいい奴がいたのだとしたら、気にしないなんてことこそ難しいかもしれない。

 考えることは簡単だ。

 そんな簡単なことが、確かめる術がないというだけでヒスイを苦しめる。

 

 

「…………ヒスイ」

 

 

 足下に向けていた視線がゆっくりと上を向く。

 光を宿していない赤い瞳は私様を見つめ、私様と同じ顔が、その瞳に私様が見ている姿を写す。

 

 

「お前に課題を与える」

「……課題?」

 

 

 突然何だ、と思われても仕方のないことを言った自覚はある。

 だがこれはヒスイに必要なことだ。

 そう強く思う。

 

 

「いくつかある。しっかり心に刻め」

 

 

 

 一、≪回想の香≫を使って自分を思い出せ。

 

 二、人と関われ(王子サマたち以外)。

 

 三、この世界を知れ。

 

 四、魔法を学べ。

 

 

 

「人と……?」

「お前、学校に行くつもりなんだろ。王子サマはともかく赤髪たちはいないんだ。通うまでに時間があるなら、この世界の人間に慣れろ」

 

 

 この世界で生きていくことは決まっているんだ。

 さすがにそれは口にはしなかったが、その覚悟が必要だとヒスイも思っているのだろう。

 反対の言葉は出なかった。

 どうやって関わっていくかについては、≪回想の香≫を使い、ヒスイが何をしていて、何が得意だったかを思い出すことができれば、それを絡めていく予定だ。

 無駄に物わかりが良さそうなこいつは、特に反論もなく静かな声で「わかりました」と呟いた。

 私様と同じ声だから違和感どころか気持ち悪さを覚えるが…………言わない。

 

 

「応用的な魔法については私様が教える。喜べ。最高位魔術師の『弟子』という称号をくれてやろう。その体についても教えておく必要があるしな」

「『弟子』ですか……。体についてとはなんですか?」

「追々な。あ、でも一つだけ言っておく。髪は切るな」

「髪?」

 

 

 私様の髪は膝裏ぐらいまで伸びている。

 今は座っているから毛先ののほうは床に広がっている。

 生きている頃と違った色で新鮮なんだが、体を使ってみてわかった。

 この体は生前の特徴のままの体だ。

 いくつかある私様の秘密をそのまま残している。

 研究者ども程度に私様の体をどうこうできるとは思わないし、できないように魔法もかけていたのだから当然と言えば当然なのだが。

 

 

「前髪とか毛先だけとか、少しならいいんだがな。いきなり肩まで短くするとかは本気でお勧めしない。やめとけ」

「わ、わかりました……」

 

 

 ヒスイは自分の髪を目の前に持っていきながら「そんな秘密が」とか呟いている。

 つられて私様自身も髪束を掴んで見る。

 ヒスイに秘密の内容を言ってもいいんだが、周囲にはあまり広めてほしくはない。

 内緒にする前提で話すのは……ヒスイは隠し事が得意かどうかがまだわからないからなあ。

 どっちにしろ、余計な負担はないに越したことはないだろう。

 

 

 

 

 

 ―――――……

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