【3/27 電子書籍一巻発売】魔術師は死んでいた。   作:彩白 莱灯

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第7話―― アオイ視点

 ―――――……

 

 

 

 

 

「マリーという少女、結構手強そうです。少し離れていてくれますか」

「あ、ああ」

「ウ・ドロー家のご子息が動くかもしれませんので、注意してください」

「わかった。そっちは俺が引き受ける」

「助かります。正直、マリーが思いのほか手練れで、よそ見しているとやられそうです」

 

 

 弱音ではなく、本音。

 マリーという少女は明らかに強い。

 一般よりも多そうな魔力。

 魔法発動スピード。

 魔法の質。

 大体は勘でしかないけれど、嫌な予感というものは当たるものだ。

 外れるとしたら悪い方に。

 シオンを守りながら戦って勝つ。

 というのは奢りだと思った。

 もう一人いることだし、ひきつけてもらうことにした。

 もう一人を挑発したシオンに「気を付けて」とだけ言って見送る。

 向こうも一対一を望んでいたのかわからないけど、幸いなことに何もしてこなかった。

 それはそれで不気味だ。

 

 

「随分おとなしく見送ったんだね。健闘を祈ろうともしないの?」

「わたくし、ロア様に期待はしていませんの」

 

 

 おや。

 一緒にいただけじゃ仲間意識はないのかな?

 

 

「あの方、丁寧ぶってますけどたまに粗暴な言動が目立っていまして。近くにいるのは失礼ながら遠慮させていただきたいぐらいでしたの。願いのために一緒におりましたけど、そうでなければ辞退させていただいておりましたわ」

 

 

 頬に手を添えて、一息つく。

 世間話の苦労話でも聞いているかのような、なんでもない仕草。

 願いは一つとはいえ、その願いに辿り着く理由はいろいろある。

 ロアのように『貴族至上主義の世界を作る』という大規模な願い。

 マリーのように『死んだ家族を蘇らせたい』という中規模な願い。

 ロタエのように『別人に生まれ変わりたい』という小規模な願い。

 何をどれだけ巻き込んでいるかは様々だ。

 ここにはいないけど、カミルの願いは予想がつくし、願う理由も理解する。

 けれど、カミルと同じ立場であるクザ先生は、そうは願わなかった。

 そう。

 願うか願わないかはその人次第。

 そして何をどれだけ巻き込むかも、その人次第。

 

 

「君たちは多くの人を巻き込んだ。自分勝手な願いのために、相手の意思を捻じ曲げて。それは到底許せることではないよ」

「ふふ、捻じ曲げただなんて、そんな……。いずれそうなるのですもの、早いか遅いかですわ」

「その過程が大事なんだよ」

「結果が一緒ならばショートカットしてしまってもよろしいのでは?」

 

 

 話しにならない。

 いや、話をしようとしていない。

 もう言葉はいらないだろう。

 この子と話しているとどうしても苛立たしい。

 神経を逆撫でされているというか、上げ足を取られているというか。

 とりあえず、相容れない。

 指揮棒(タクト)を構える。

 向こうはハンドベルを構えた。

 演奏を始めるように、双方の腕が大きく振るわれる。

 

 

「≪第一楽章≫」

「≪白昼夢≫」

 

 

 武器に記録された魔法が自動(オート)で発動する。

 火の中級魔法が僕の意思を伴わずに、僕にしかわからないタイミング(テンポ)でマリーに向かって行く。

 ハンドベルを一鳴らししたマリーは、逃げる様子もなく、ただその身に魔法を受ける。

 

 

「きゃぁ!」

 

 

 叫び声に耳を疑った。

 当たったことが信じられない。

 避けられると思っていたのに。

 

 

「ふふ……」

「!? うわっ」

 

 

 再び、耳を疑った。

 悲鳴を上げた声と同じ声が、今度は妖美に笑った。

 声を聞いた瞬間に両足を捕まれる。

 そして、地面の中に引きずり込まれた。

 

 

「幻覚……!?」

「ええ。見事でしょう?」

 

 

 地中の中から声がする。

 さっき違和感を感じたのは、厳格だったからか。

 ダメージを与えられたことに違和感を覚えたけれど、それ自体が罠だった。

 けど、甘いね。

 

 

(アル)初級魔法(トゥワン)

「ひゃ……」

 

 

 僕の足を引きずり込もうとするマリーごと、地面の土を抉り、浮かす。

 スグサ様が言っていた、魔法の使い方。

 ロタエと初めて戦っている様子を見て、感銘を受けた。

 初級魔法は簡単だ。

 簡単ゆえに汎用性が高い。

 大規模な魔法、魔力消費の激しい魔法を使うよりも、初級魔法の使い方を工夫すればいい場合もある。

 呪文はいらない。

 操作は比較的簡単。

 基本を大事にしていればしているほど、応用的な魔法を知らなくても何とかなってしまう。

 強い魔法を使えれば強いなんて、そんなことはないのだ。

 土を浮かせながら、中央に凝縮する。

 マリーは中にいるはずだ。

 押しつぶさないように、けれど拘束も兼ねて。

 

 

「くっ……(アル)初級魔法(トゥワン)っ」

「ほぉ」

 

 

 自分の周りの土だけ操作して、底から脱出された。

 すべての支配権を僕から奪うことはしなかった。

 確かに、こういう使い方もありだな。

 勉強になる。

 抉った分だけ低い位置に着地したマリーは、平然とした顔のままハンドベルを頭の上に掲げ、複数回鳴らす。

 

 

「≪夢魔(むま)≫」

「ぐっ!?」

 

 

 耳に……脳に直接響いてくるような、高く不快な音。

 両耳を押さえても音は弱まらない。

 集中力をそがれる。

 隙だらけだ。

 

 

「……っ、≪第二楽章≫!」

 

 

 押さえても意味がないのならと、片耳を外して指揮棒(タクト)をふるう。

 ≪第一楽章≫とは別のリズムで繰り出される魔法。

 僕が意識しなくても魔法を使えるという利点。

 たぶん、マリーにとって、僕との相性は最悪だろう。

 けれどマリーのこの攻撃も厄介だ。

 隙を作らされれば、命取りだ。

 

 窪みから足早に脱出し、≪第二楽章≫の攻撃を軽やかに交わす。

 素早い魔法の連射に、≪夢魔(むま)≫と唱えた魔法の維持は疎かになった。

 

 

「≪草木と星々の狂恋≫!」

 

 

 空中から自動(オート)で発動される魔法に対して、地面からは複数の蔓がマリーを捕らえようと蠢き、襲う。

 

 

「くっ……」

 

 

 苦い顔だが、確実に、安全な場所へ移動して、一定の距離をとりつつ避けている。

 ≪第一楽章≫は単調で短めの前奏曲(プレリュード)

 ≪第二楽章≫はアップテンポでリズミカルな諧謔曲(スケルツォ)

 リズムはとりやすい。

 リズムさえわかってしまえば躱されることも多い。

 ただそれは、相手が聞き分けられる場合だ。

 魔法の発動中だったり、僕が別で魔法を発動していれば二方向からの攻撃となる。

 発動していた魔法は消えた。

 二方向からの魔法は避けられる。

 ……トントン、かな。

 ≪第二楽章≫が終わった。

 躱され続ける≪草木≫に見切りをつけた。

 

 

「ふふ、わたくし如きと同程度の実力? そんなはずありませんわよね? だって、一国の魔術師団長ですものね」

 

 

 認めているようで認めていない。

 ご令嬢は煽り上手だなぁ。

 

 

「謙遜しなくていいよ。でも、そうだな。あんまり余裕はないね」

「まあ。あれだけ容赦なく魔法を繰り出していましたのに、まさかもうギブアップですの?」

「気持ちのね」

「……まあまあ」

 

 

 魔法を使う余力はまだまだある。

 ただ、冷静さを装うほどの余力がないんだ。

 ロタエを迎えに行きたい。

 シオンが心配。

 他のみんなはどうしてる。

 仲間だから。

 亡くしたら、戻らないたった一人ずつしかいないみんなだから。

 

 

「……≪第三楽章≫」

 

 

 幻想曲(ファンタジア)

 空から光が指す。

 周囲に。

 大地に。

 僕に。

 暖かさを全身で受け止めて、心穏やかに、精神を落ち着け、魔力を整える。

 決して癒されないだろうマリーは、まるで演奏するようにハンドベルを鳴らす。

 

 

「≪予知夢≫。……あら。攻撃ではありませんのね」

「ああ、わかるんだ? そうだよ。これは攻撃じゃない。もちろん治癒でもないけれど」

「気持ちの余裕がないと言っておいて、まだまだやる気がおありのようですね」

「そりゃあね。君たちのしようとしていること、早々に許されることじゃないよ」

「まぁ。なぜ?」

 

 

 なぜ、と来たか。

 

 

「なぜですの? わたくしはわたくしから奪われた『平穏な日常』を取り戻すため。ロタエさんは『なりたい自分になる』ため。ロアさんは『自分の理想を叶える』ため。それぞれが目標のために頑張っているだけですわ。それの何がいけないこと?」

「上澄みだけ舐めて美味しい所語りしないでくれるかな。君たちが自分たちのために努力をするのは確かにいいことだけど、それを他人を巻き込んでまでするなってこと。生きた人間も、死んだ人間も、どちらの意志捻じ曲げながらすることは高尚な願いとは言えないよ」

「……どうしても理解していただけませんのね」

「相容れないね。当然」

「冷たい人」

「君にだけは言われたくないな」

 

 

 僕は結構、人と仲良くなるのは得意だった。

 ここまで『無理』と思った人間は初めてだな。

 この子が向こう側の陣営でなければ、とても心強かっただろう。

 魔術師団にスカウトしていたかもしれない。

 どうして、この子はこの道を辿ったのか。

 どうして、この子だったのか。

 どうして、どうして、どうして……。

 

 ま。

 考えたところで、答えなんて出ないけれど。

 出るほどこの子を知っているわけでもないし。

 とにかく。

 この子たちの願いは、ロタエもカミルも、コウ様もヒスイちゃんも巻き込んだもの。

 自分勝手に巻き込んで、遣りたい放題。

 魔法の発展と言えば聞こえはいいし応援したくもなるけれど、これは、そうではない。

 暴虐だ。

 人の人格、意志、尊厳を無視している。

 僕は、僕の周りを穢されることは、許さない。

 不条理な願いなんて燃やし尽くしてやる。

 

 

「≪夢魔(むま)≫」

 

 

 ハンドベルが鳴る。

 耳鳴りが脳と体を蝕む。

 けれど、今の僕にはただの音でしかない。

 ≪第三楽章≫で高めた集中力。

 音が響く中で、僕は僕の声を紡ぐ。

 

 

「――――。(イル)特級魔法(レヴン) ≪光年の旅路、万華鏡屋敷≫」

 

 

 ガラスが天から、地から、宙から、無から。

 まるで最初からそこにあったように現れる。

 逃げようとするマリーを、ガラスは先読みして逃げ場をなくし、囲む。

 

 動きを制限。

 魔法も反射。

 音も反響。

 叫び声すら、こちらには聞こえない。

 

 この魔法は継続して魔力を配給する必要がある、結界系魔法。

 僕が魔力を供給し続ける限り、ガラスの強度は一定に保たれる。

 一撃で破られる場合を除いて、僕の魔力供給が早いか、マリーの結界破壊が早いか。

 スグサ様だったら……簡単に一撃だろうなあ。

 指鳴らして終わりかな。面白がって閉じ込められて、高笑いしながら出てきそう。

 その点。

 マリーは精神干渉をする戦闘スタイルのようだ。

 ほぼ確実に僕の方が早い。

 そして。

 それだけなら特段脅威ではないだろう。

 なんせ、二種類の魔法の発動はスグサ様や例外(・・)を除いて不可能と言われているんだから。

 僕が魔力配給を行っている限り、他の魔法は発動できない。

 つまり、『鐘を壊す』という目的を果たせない。

 ちなみに――

 

 

「……≪最終楽章≫」

 

 

 僕の武器は、その例外(・・)にあたる。

 指揮棒(タクト)に魔力を流す。

 それは≪万華鏡屋敷≫と同じことをする。

 両手で同じ動作をするのは造作もないこと。

 マリーを捕らえた≪万華鏡屋敷≫から目を逸らし。

 はるか遠くの、アーマタス。

 その国の建物の一つを視認する。

 指揮棒(タクト)を振るう。

 ≪最終楽章≫は、譚詩曲(バラード)

 

 

(アム)特級魔法(レヴン) ≪炎熱の太陽は我が灼熱に焼かれる≫」

 

 

 青い炎が上がる。

 目当ての鐘が融け消えるまで、燃え続けるだろう。

 ゆっくりと。

 誰かの願いを諦めさせるまでの間も、ずっと。

 ……ずっと。

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