【3/27 電子書籍一巻発売】魔術師は死んでいた。   作:彩白 莱灯

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生と死
第1話―― ヒスイ視点


「『再生』。私の知りうる知識では、ホローテのようなものでしょうか」

「カッ!! 頭が回るなぁ!! それを戦いにも活かせればよいのだがな!」

 

 

 当たったついでに、もう一つ確認しよう。

 

 

「あなたは……『蘇生者』ですか?」

「カーァッカッカッカ!!! キレ者め!! いい導師になるやもしれんな!!!」

 

 

 嬉しくない。

 予想外な情報を得た。

 まさか一国の王が、すでに死んでいたはずの人間で、生き還ってまで王でいるとは。

 ……ちがう?

 すでに死んだはずの人間が生き還って王になったのか。

 もしくは王であった人間が蘇りながらその立場に居座っているのか。

 王になるのは生き還ってからか生き還る前からか。

 これは小さいことか?

 常に同じ思想を持ち続ける王が、何代にもわたり居座り続ける。

 それは一国という、多人数が関わる大きい組織を私物化しているのと同じではないか?

 蘇ったのはいつか。

 何人分の人生を生きているのか。

 生き還るのに何人が犠牲になっているのか。

 気になってしまったら、聞くしかない。

 ≪剣≫をへし折って傷が治った腹をさする。

 さすがに服は再生しないのか、小麦色の肌が見えている。

 隆起した筋肉はさぞ自慢だろう。

 イオラさんに抱えられ続けていた私は、そんな光景を見ながら床に下ろされる。

 一時休戦ではないけれど、とりあえず戦闘態勢はとらない。

 話を聞きたい。

 

 

「貴方のその体と魂は同一人物の物ですか?」

「ああ。正真正銘、儂の体だ」

 

 

 ……あら、そうか。

 いやいやいや。

 ちょっとマヒしてきたけど、体も魂も自分の物だからと生き還ることを容認しようとは思わない。

 ただ、本人の意思も否定はしない。

 

 

「小細工はしているがな」

「小細工?」

「貴様に見えている儂のは、本来の儂の姿ではない。他人の姿形だ」

「……貴方はだいぶ昔の人間で、姿が知れ渡っているから、ですか?」

「近い。だが、詰めが甘い。儂はアーマタスの王だぞ?」

 

 

 『アーマタスの王』。

 アーマタスは武の国。

 『力こそすべて』。強い人間が正義であり、法律であり、支配者である国。

 ビー・フォーさんは昔の人間。

 姿が知れ渡っていたのなら、もともと王様だった可能性がある。

 

 

「……実験自体は公表されていなかった。だから、ビー・フォーさんは蘇ったとしても知られるわけにはいかなかった」

「そうだ。だが。まだ甘い」

 

 

 まだ?

 なんだろう。

 姿を隠す理由はあっているのだろう。

 他に何がある……?

 

 

「ソノ姿、誰ノモノダ?」

 

 

 聞こえた音を声と認識し、言葉として意味を理解するまで数秒のタイムラグがあった。

 はっとしてイレンさんを見たが、目線はビー・フォーさんに向いていた。

 視線を戻す。

 王者の威厳を振りまくその人は、口元が緩んで、口角は上を向いていた。

 

 

「カッ、カ、カァーッカッカッカッ!! そうだ! この姿は最近の王の物! 儂が蘇った時に王の座についていたものだ!!」

「え……なぜ、その人の姿が必要なんですか……別に他の人でも良かったでしょう?」

「キレ者と思ったが、思い違いのようだったか。儂はアーマタスの王と言ったであろう。アーマタスは強き者が頂点に立つ。かつて王だった儂が蘇ったのならば……」

 

 

 間が開く。

 ここまで言われれば、ようやくわかった。

 『力こそすべて』で、『強者が支配者』。

 

 

「……元・王と、現・王。どちらが強いのか、命がけの勝負をした」

「楽しかったなぁ……あの戦いは……!」

 

 

 大きな弧を描いた口の中で、唾液が糸を引いている。

 興奮すると唾液の粘度が上がるという。

 戦いを思い出して恍惚と笑む、筋肉隆々のおじさん。

 ……引く。

 

 

「あの時の戦いは魔術師と戦った時以来だった……。強き者との戦いは血沸き肉躍る。貴様ともそんな戦いがしたいものだったが」

「まさか、貴方がスグサさんと戦ったという、当時のビー・フォーさん……?」

 

 

 アーマタスの国に行ったときに、スグサさんから聞いた話。

 それがまさかその人だなんて。

 思わず目に力が入って、口からぽろっと出てしまった。

 まさかまさか。

 その言葉を聞いたビー・フォーさんも目を見開くだなんて、思ってもみなかった。

 

 

「貴様っ!!! それを誰に聞いた!!!」

「ぅえ?」

 

 

 予想外の反応に体が硬直する。

 真正面にまで迫ってきたスピードはすさまじく、私もイレンさんも動けなかった。

 息を荒くし目を血走らせた濃ゆい顔面が視界を埋め尽くす。

 

 

「あ奴との戦いは非公式だ! 儂があ奴の存在を聞きつけて突撃した、非公開で行われた戦い!! なぜ貴様が知っている!!!」

 

 

 押しかけ女房かよ。

 ……ど、どうしよう。

 怖いんだけど……。

 

 

「す、スグサさんに、聞きました……」

「…………あ奴も、蘇ったということか?」

「いえ、あの人はあなたたちの言う方法では蘇ってません。ただ、スグサさん自身は存在はしています」

 

 

 言ってしまった。

 上手い言い訳も思いつかなかったし、何より剣幕が怖かった。

 ぽやっとした顔になったものの、堀の深い顔が近くにあるという状況が怖く、体が動かない。

 どれくらいの時間が経ったか。

 数秒か数分か。

 ふらっとよろけたように後ろへ下がったビー・フォーさん。

 手で顔を覆い、どんな顔をしているのかは見えない。

 

 

「っ!?」

「引ケ!!」

 

 

 ズン、と重い音とともに沈む床。

 二人一斉に飛んで距離を取った。

 沈んだ床の中心にいるビー・フォーさんは、全身の筋肉を隆起させて血管が浮いている。

 よくよく見れば小さく体を震わせている。

 泣いてない。笑ってる。

 

 

「ク、カ……クカッ、カァーッカッカッカッカッカ!!! あ奴もいるのか!!! 面白い! 面白いぞ!! 貴様と遊ぶのは早々に終わらせ!! あ奴と再戦することとしよう!!!」

 

 

 言わなきゃよかったと後悔した。

 明らかにやる気に満ち溢れた姿を見て、そう思わずにはいられない。

 全ての力を出し切るつもりだろう。

 魔力も活力もフルで使って、でもこれはウォーミングアップとして、スグサさんのところへ行こうとしている。

 スグサさんが負ける姿とか想像できないけど、こんなすごそうな人に勝てるビジョンも浮かばない。

 私、勝てる?

 

 

「一ツ、提案ガアル」

「な、なんでしょう」

 

 

 耳をすませる。

 イオラさんの声が小さいから。

 相手に聞かれるのはまずい内容なのか。

 

 

「アイツ、コノママ行カセタラドウダ」

「そーれは……」

 

 

 イオラさんを行かせるため、ビー・フォーさんの攻撃の妨害目的で発動した≪悪魔の玩具箱≫。

 それは入口付近にはあるが完全に塞いではいない。

 だから、行こうと思えば行ける。

 それなのに、スグサさんとの戦いを優先せず私たちと戦うと選択したのは、つまりは『見逃すつもりはない』ということ。

 あの人の立場であの人らしく言えば、『せっかくの戦いの場を素通りするのはもったいない』とかそんなところだろう。

 

 

「あの人は私たちを素通りしないと思います。スグサさんと戦うことが第一目標となったのなら、こちらに脇目も振らず向かっていると思います」

「交渉ノ余地ハナイ、カ……。勝テルカ?」

 

 

 その問いには即答できない。

 嘘でも答えた方がいいのかもしれないが、どうしても口が動かなかった。

 だって、怖いもの。

 戦いなんて、この一年で何回あったかだし。

 その前は一度もなかったよ。

 たぶん。

 そもそも戦いのある環境で育ってなかったのに。

 私が戦う意味がわからない。

 私が巻き込まれている意味もわからない。

 どこかの主人公みたいに、『使命だから』とか『やらなきゃ誰がやる』とか、そんな心意気も正直ない。

 ……だから、私は『私が何をしたいか』を優先する。

 

 

「勝てるかはわかりません。けど」

「ケド?」

「……元の私の人生を強制終了させた人たちを目の前に、何もせず、何も言わず、ただやりたいようにさせていられる『人形』ではありません」

 

 

 この人たちもやりたいことをやっただけ。

 本当にそれだけ。

 世の中そんなことばかりかもしれない。

 誰かの願いのために、誰かが多少なりとも損をしている。

 当たり前のことすぎて、常態化しているだけ。

 もしかしたら許すべきなのかもしれない。

 けど。

 

 

「私、謝られてませんし」

 

 

 悪いことをしたら「ごめんなさい」ってしないといけないでしょう。

 

 

「人の人生にチャチャ入れて。汚れ仕事をさせて。便利な道具扱いして。ふざけんなって話ですよ。私だけじゃない。私の家族や仕事、友人や周りの人にも迷惑かけてるんですよ。向こうの人には謝れなくとも、私には謝ってくれても良くないですかね」

 

 

 あ、なんかイライラしてきた。

 そうだよ。

 向こうも向こうでやりたいことをやってるんだから、私も私でやりたいことをやってもいいよね。

 うん。よしやろう。

 両手でガッツポーズ。

 意気込んだ。

 イオラさんがいつもの無表情で私を見ている。

 見つめている。

 

 

「……オ前、ソンナ感ジダッタカ?」

「……えっと、そんな感じ、とは?」

「イヤ、イイ」

 

 

 首を捻って、納得いかな様子のまま話を区切られた。

 聞かれた内容は心当たりがある。

 私も私で、なんというか、感情が出やすくなったと思う。

 心当たりは……スグサさんと体を分けた時から。

 やっぱり一人の体に二つの人格というのは無理があるのだろうか。

 多重人格っていうのも精神に負担がかかって自己防衛的に形成されるものだし。

 怒りも、悲しみも、楽しみも、感じやすくなった。

 感情のない『人形』が、少し『人間』らしくなった気がする。

 主観だけの自己分析だけど。

 

 

「イオラさん、手伝ってくれませんか? あの人を倒せなくても、一発入れたい。そしたら鐘を鳴らします(・・・・・)

「ハードル高イナ。殴ッテ、鳴ラス」

「…………頑張ります」

「フッ、引カナインダナ。ワカッタ。ヤロウ」

 

 

 笑われた?

 少し照れる。

 顔を隠すようにして高ぶっているビー・フォーさんに向き直る。

 大きなクレーターの中央から動かずに、自身を高めている。

 なんだろう。

 怒気?

 気迫?

 なにか精神統一しているような。

 一目でわかる。

 やばそう。

 

 

「話は済んだか」

 

 

 待っててくれたんだ。

 

 

「はい」

「そうか。ならばもう、問答無用だな」

 

 

 流れるように何かしらの構えをとった。

 私は武道や武術に関しては詳しくはない。

 だからどんな攻撃が来るかもわからない。

 つまり予測はできない。

 かっこよく言えば、後の先をとるしかない。

 ……武術を鍛えた人を相手に『後の先』とは。

 自嘲的に笑う。

 

 

   ≪(イズ)身体強化(サーズ)

 

 

 見切る。

 動きがわからないことには避けることもできない。

 まずはそこに注力しよう。

 見合って。

 見合って。

 声もなく。

 見合って。

 空気が止まっているような錯覚。

 こう考えている間、いきなり来たらどうしよう。

 

 

   (……動けない)

      (威圧感が凄まじい)

 (こんな状態で)

    (後の先をとるなんて)

  (できる……?)

「  っは」

 

 

「破ぁ!!!!!」

 

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