【3/27 電子書籍一巻発売】魔術師は死んでいた。   作:彩白 莱灯

145 / 164
第5話―― スグサ視点

 ―――――……

 

 

 

 イレンが全力で走って戻ってきたのは、私様が異形たちを≪炎熱の太陽は我が灼熱に焼かれる≫で葬った直後だった。

 息を切らして到着した寸前に膝から崩れ落ちるおっさん。

 申し訳なさは少しばかりある。気がする。

 そして無茶な状態で戻ってきた時点で、こいつは送り返された(・・・・・・)のだと察する。

 弟子が『やり直し』を命じた。

 『やり直さなければならない状態になった』と。

 そして、一考。

 

 

()が行くわ」

 

 

 考え始めてすぐだった。

 まさかの立候補。

 マルスの上からゆっくり立ち上がる。

 動ける程度には回復したらしい。

 ……何かが残念そうにしているのは見なかったことにする。

 

 

「……どういう風の吹き回しだ?」

「別に。()かスグサしか動けない状態で、()がこの場で他を抑えておけると思う?」

「私様が全員拘束しておくとか」

「らしくないわね。いえ、らしい(・・・)といえばらしい(・・・)けど、向こうはどれだけのことをしてくるのか想定付かない連中よ?」

「一理ある」

 

 

 この実験でさえ『よくこんなことやったなあ』と思うぐらいだもんな。

 全く驚くことをしてくれた。

 確かに、私様の予想を超える事態というものはこいつらにもある。

 

 

「ふむ」

「じゃあ、行ってくるわよ」

「頼んだ」

 

 

 まさか、シクが自分から言うとは思わなかった。

 光となって消えるように、シクは姿を変えてふわりと飛んで行く。

 バラファイの姿の方が邪魔はなく、また最短距離で行けるということだろう。

 私様よりもこの建物の構造には詳しい。

 そこらへんはもうアイツ任せだ。

 さて。

 そうなると、私様はどうしてようかなあ。

 

 

「ぅげ!」

 

 

 うわ。

 座り心地悪。

 アイツよくこんなのに座ってたな。

 

 

「あ……アぁ……違ウ……」

「……≪メメント・モリ鑑賞中≫」

「ヌァあァ!」

 

 

 なんかムカついたから、コイツも縛っておこう。

 座る場所に困ったら浮けばいいし。

 丸い体にリボンで可愛らしいじゃねえか。

 そこらへん転がっとけ。

 

 

「お、おい……貴様……本当に本物のスグサ・ロッドなのか……!?」

「ん? あー、その話しか。ちょっと待て」

 

 

 体を浮かし、周囲を見る。

 床に座り込むベローズ自体の戦力はそれほどでもないはず。

 目の前で変な動きをしたらコイツもラッピングの刑だ。

 異形たちはもういない。

 蘇生者の二人は変わらず拘束中。

 そうなると、ここ以外の現状を把握したい。

 視界を飛ばすなら今だ。

 

 

   ≪手を伸ばしても届かない瞼の距離≫

 

 

 片目を閉じて、瞼の裏にここではない風景が映し出される。

 それは弟子はもちろん、王子サマや騎士団長たち、学生どもの様子。

 そして気になる点が一つ。

 

 

「あいつなにやってんだ」

 

 

 はぁ、とため息。

 同時に「子どもだしな」と諦める理由を作る。

 指をパチンと鳴らす。

 宙に浮いた私様の丁度腹の上。

 魔法陣が光り、軽くもなく重くもないそれが落ちてくる。

 

 

「わ」

「なーにしてんだお前」

「すー!」

 

 

 突然景色が変わったのにも関わらず、それについての反応は薄い。

 私様を認識した瞬間に抱き着いてきて、匂いをしみこませるようにすりすりすりすり自身を刷り込む。

 

 

「ロロ。何をしてたんだと」

「あのねー。しおがどっかいっちゃったのー」

「シオンな。どっか行って、何してたんだ?」

「おえかきしてた。あ、あとむしさんみてた」

 

 

 …………まあ、うん。子どもだしな。

 ぐりぐりと頭を撫でてやれば、どんなに強くしても喜んでくる。

 無邪気な奴だ。

 癒し。

 

 

「そいつは……」

「お前の研究成果だ」

「……まさか……いや、なんだ、その姿は……まるで人間のような……」

 

 

 なんだ、そんなことか。

 

 

「人間に化けさせてるからな。元の姿は双頭のウロロス、そのまま」

「なぜ、そんなことを……」

「別に意味なんてねーよ。このほうが話しやすい、コミュニケーションがとりやすいってだけだ。お前らのおかげで体も変形できるようになったからな」

 

 

 ロロだけではなくウーにも混ぜられたライーバ。

 不定形であるがゆえに意志を持って姿形を変えることができる。

 ライーバ自体の知能は高くはなかった。

 けれどウロロスが基になったことで、ウロロスの知能が加わった。

 人間に近い姿をとれるようになったんだ。

 

 

「私様もお前も、片付けるの苦手だろ」

「いや……そんなことは」

 

 

 ……こほん。

 

 

「私様は苦手だ。片付けをしている暇があれば研究を進めたい。片付けをしているとそっちに集中する必要がある。そもそも片付けを後回しにしているから量が多すぎる」

「だからなんだ」

「なぜ量が多いかだ。時間の経過を見る必要がある。ではどれだけの時間を見るんだ? 変化が収まってからか? 目に見えない変化があるかもしれないのに? 私様たちは何を根拠にその判断をしている? 今までやってこなかった実験なのに?」

「それは……」

 

 

 私様達には知識が足りない。

 それこそほかの世界では当然のように知られている情報すら、私たちは知ろうもしてこなかった。

 先人たちも。

 

 

「『ない』ことを証明するのは難しいことだ。知識を持たない人間ほど早々に『ない』と切り上げ、次のことをやろうとする。次に行くことは大事だが、少しの可能性も疑問も振り返りもないんじゃあ遠回りになるだろうよ」

「遠回り……」

 

 

「お前が生み出したロロ(こいつ)ウー(もう片方)は、治癒魔法という存在だ」

 

 

 何を言っているのか、という顔。

 まあそうもなる。

 私様もそんな表現をすること違和感を感じる。

 私様の腹の上でうとうとするロロ。

 見た目は子ども。

 けれどその体は、無情な人間に弄られ、本来の『ウロロス』という存在とは一線を画してしまった。

 

 

「お前はウロロスとライーバを合成させた。こいつらはその成功例だよ。私様がやったのはこいつらに形を与えただけ」

「なん……だと……」

「喜ぶんじゃねーぞ。ウーとロロ(こいつら)は怪我は治るし今のところかかった病気もない。だが、一生このままだ」

 

 

 それの何が問題か。

 大問題だ。

 

 

「ライーバは成長がない。ウロロスは一定期間を二頭で過ごし、いずれ分離して、また頭が生える。どちらも共通するのは『死』だ。こいつらも死ぬことには変わらなかった。けど、お前が二つを合わせたことによって、奪ったんだ」

 

 

 ウーとロロは死ぬまでこのままだし、死にたくても死ねない体になった。

 

 

「『不死』だの『不老』だの『再生』だのを目的としていたならば大成功だ。人間で試す前の魔獣実験だが。が、魔獣実験を行う上で大事なこと、お前はそれを忘れている」

 

 

 話している間、ベローズは目を輝かせている。

 私様の声が耳に入っているからこそだろう。

 私様は批判をしているのだがな。

 研究が成功。

 『治癒』ができる。

 そんな目先のことしか見えていない。

 やっぱ、こいつは馬鹿だ。

 

 

「実験された側の今後、考えたことがあるか? 体を弄って放り出して、責任を放棄しやがって。こいつらは苦しくても辛くても仲間の元には戻れない。異物は廃されるからだ。仲間と呼べる奴らはこの世でお互いだけだ」

 

 

 眠りかけていたロロが私様を見つめてくる。

 私様の言っていることがわかったのかわからないからなのか、悲しい顔で。

 頭を撫でれば目を閉じてゴキゲンに。

 けど、再び開かれた目は、やはりどこか悲しそう。

 不幸中の幸いは、こいつらは二人だったこと。

 一つの個体だが二人になって、お互いがお互いの傷を癒しあえる。

 もっと言えば幼すぎたこともよかった。

 辛い現状を完全に理解しすぎないだろうから。

 

 

「し、しかし……! それは人間のためには必要なことで……!」

「人間のためには必要なことでも、こいつらには何の関係もねぇんだよ。自分勝手。自己中。傲慢」

「っ。なら……どうすればよかったというんだ!!」

 

 

 両手の拳で床を殴る。

 ロロの体がびくりと震えたので、また頭を撫でた。

 

 

「死にたい奴なんていない! 痛いのも苦しいのも好き好んでなる奴がどこにいる! 求めている奴がいたらそいつほど治療が必要だ! 人間にはその知識がないんだ! 怪我が治れば元の生活に戻れる! 病気が治れば余生は穏やかに過ごせる! 不意に死ぬことが亡くなれば納得した人生を送れる! すべてはすべてのためなのに!!」

 

 

 誰にでもなく叫ぶ姿はとても滑稽だ。

 自分にしかできない、と思ったわけではないだろう。

 頼まれたわけでもない。

 ただ、自分がやりたい、必要だと思ったから。

 人間の発展という意味では『未知』を解き明かすことは大事なことだ。

 そういう意味ではベローズの行いは間違っていない。

 ただ、やり方を間違えた。

 

 

「お前の実験の被害者はロロだけじゃないことを忘れるなよ。ウーもいるし、さっきまでいたバラファイのシクだってそうだ」

「あいつは……死なないわけじゃないだろう」

「お前、死ねって言われて死ねるか?」

「……っ」

「ここで黙るならこの実験をする資格はねぇよ。自分にできないことを課すんじゃねえ。……シクは、一度お前らに殺された。死ぬ恐怖を体感した。体感したうえで、もう一度死ぬ。死ぬ恐怖を知っているのにやれると思うか?」

 

 

 簡単に死ねるとかいうこいつにまた腹が立ってきた。

 死ねるからいいってことじゃない。

 シクは恐怖だと感じたことをもう一度しなければならない。

 それは今じゃないし、今後の話。

 けれど、その時が来たら『恐怖』するだろう。

 わからないからこそ怖いこともあれば、わかっているからこそ怖いこともある。

 ベローズは実験で、シクをこの世に縛り付けた。

 

 

「死にたくないと願っている奴がいるのは確かだろう。なぜ死にたくないか。知らないからだ。知れば恐怖しなくなるか? 知るということは死ぬということなのに? 死ぬことが怖くないというのは、この世に見切りをつけたか、次があることに希望を持った奴だけだ」

 

 

 私様は完全に後者だが。

 シクはどちらでもない。

 今の世に希望はないが、次の世にも希望もない。

 そもそもの手段を拒否している。

 この世に留まるしかないんだ。

 

 

「再度聞く。お前は神にでもなったつもりか? 不変で絶対、生物における終着であり解放でもある『死』を奪った気持ちとやらを、人間である私様│たち《・・》に教えてくれよ」

 

 

 耳を澄ます。

 荒げて上がった呼吸。

 そして、駆けてきた忙しない足音が、室内に入って止まる。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。