【3/27 電子書籍一巻発売】魔術師は死んでいた。   作:彩白 莱灯

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第6話

 イレンが帰ってきたよりかは幾分マシな状態で、しかし肩で息をするほどには全速力で移動してきた弟子。

 背中にでっけー男……あれはビー・フォーか。

 そうか。

 そいつが目的地付近にいたからイレンを『やり直し』させたのか。

 そしてさらに後ろにもう一人。

 ローブを被ったその姿は、ラッピングの刑に処した二人と似通っている。

 おそらくアイツも『蘇生者』だろう。

 戦った形跡はない。

 けど大人しくついてきたようだ。

 どういう状態だ?

 

 

「ただいま」

「お、おかえり。……イオラか?」

「ええ。もう安らかに眠ってるわ」

「そうか」

 

 

 シクも帰ってきた。

 コイツにしては珍しく、両腕で男を抱えながら。

 見覚えのあるそいつには生気がなく、けれど傷もなく、違和感の塊のような男だった。名前を尋ねたら「そうだ」と。

 つまり、そういうこと。

 

 

「詳しい話は後だな。状況簡潔に頼む」

「鐘のある部屋にビー・フォー(あの男)がいた。それと戦って、イレン(コイツ)は役目を全うした。ヒスイ(あの子)ビー・フォー(あの男)を眠りにつかせ、事実上勝利。ほぼ外野のローブはビー・フォー(あの男)の命でないと動かないらしいの。連れて行くって言ったらついてきたわ」

「なるほど。わかりにくいがわかった」

 

 

 ビー・フォーは寝ているだけか。

 やはり殺せなかったか。

 甘く優しい弟子らしい。

 その優しさは、弟子が前に進もうとしたときに足枷になるだろうが。

 シクはイオラを壁際に寝かせに行った。

 私様はロロを抱えながら、弟子に向き直る。

 

 

「弟子、来い」

 

 

 息を荒らげたままの弟子が、大きい荷物を背負ったまま寄ってくる。

 足取りは重い。

 けれどしっかりと踏みしめ、自分の足で進んでいる。

 重い足取りは、もうすでに足枷を付けているからか。

 それでも進もうともがいている姿か。

 

 

「今からベローズに色々聞いていこうと思うんだ。お前もどうだ?」

「……はい。聞きたいです」

「そうか。じゃあ荷物を下ろさなきゃな」

 

 

 私様と同じ顔二つを前に話させるという何とも面白い光景。

 私様の頭脳は言わずもがな。

 もう一人の私様は被験者で被害者で、全く違う分野の人間。どんな質問が飛び出すやら。

 よーくおねんね中の大の男もラッピングして、ローブは大人しいから放置。

 

 

「それじゃ。どうぞ」

 

 

 話し手はベローズに一任する。

 私様や隣の弟子に土下座しそうな体勢。

 私様は浮き、弟子は直立。

 責めている状況ではないが、そう言われても不思議ではない状況。

 何故か話しづらそうに言葉を詰まらせる。

 一考に進まん。

 

 

「私から聞いてもいいですか」

 

 

 同じことを思ったのか、弟子は名乗りを上げた。

 なんとなく。

 ほんとうになんとなく。

 怒りを潜ませたような顔。

 自分の顔なんてそうまじまじと見ていなかったからよくわからんが。

 肩を竦めてやれば、弟子は一歩前に出る。

 ベローズの意思は関係ない。

 拒否権も選択権もないのだから。

 

 

「失礼します」

 

 

 一言言って、何をするかと思えば。

 床にぺたんと座り込んだ。

 目線の高さは、ベローズとほぼ同じ位置。

 私様だけが二人を俯瞰で見ている。

 まるで蚊帳の外。まあいいが。

 

 

「私は貴方に召喚されました。貴方の実験のため。この世界にない治療手段、治癒魔法の代わりとなる『転生魔法』のために。私だけでなく、何人かの魂が。そうですね?」

「あ、ああ……間違いない」

「なぜ、私たち(・・・)だったのでしょうか」

 

 

 さすが弟子だ。

 私様とベローズでは実験についての話しばかりになってしまうところだった。

 だが、被験者としての立場での質問。

 当然思うだろう。

 巻き込まれた側の心理。

 

 『なぜ、自分たちなのか』

 

 

「……理由、か」

「はい」

「……正直に言うと」

「はい」

「わからない」

「……はい」

 

「おい。ベローズ」

「っ」

「それは、調査をしていないのか? 調査したが、わからなかったのか?」

「して、いない」

「あっそ」

 

 

 良くも悪くも結果がすべてだったのだろう。

 こいつらは「『所持する魔力が限りなく少ない』魂を召喚する」と標的を絞った。

 結果、世界を超えて弟子たちが召喚された。

 弟子たちの世界では魔力が少ないかほぼないのだろう。

 そういう奴ならば操作しやすいから。

 操作しやすい。

 それだけがわかればよかった。

 

 

「つまり、私たちは運が悪かったということですね」

 

 

 悲痛。

 そう表現するのが適当だろう。

 私様と体を分離してから乗るようになった感情。

 運が悪かった。

 それだけというのは、納得できるような、納得できないような。

 自分の努力ではなんとも出来なかったということは確かだが、それだけで割り切れと言うのは当事者ではないから言える言葉だ。

 

 

「二つ目です。元の世界に戻すことはできますか?」

 

 

 おや。

 弟子は戻る気はないと聞いていたが。

 あ、他の奴らか。

 

 

「……できない」

「できるぞ」

 

 

 言葉を被せた。

 二人が私様の方を向く。

 目を見開いて。

 

 

「え、スグサさん?」

「スグサ・ロッド……まさか……貴様、本当に?」

「私様が魔法に関して嘘を吐くと思うか?」

 

 

 二人して首を振る。

 うん。

 よろしい。

 

 

「そういえば言ってなかった。私様は生きていたスグサ・ロッドの『記憶』だ。生前の記憶はすべて残っている。だから、お前が私様の家に研究の交渉に来た時のことを昨日のことのように思い出せるわけだが」

 

 

 床に降りる。

 ロロをシクのそばに行くよう背中を押して。

 私様は間を溜めて、距離を詰めて、ベローズに上から笑いかける。

 

 

「あんたらがいなくても、私様は一人で十分。新しい魔法を作るなんて造作もない」

 

 

 異形たちは転生せられた奴らではなかったから、葬ってやればそれでまた次の生に導かれるだろう。

 だが、弟子やローブたちは別。

 そもそも別の世界から来た魂。

 この世界に則ることができるのか。

 それは誰にもわからない。

 もちろん、当人たちにも。

 ならば。

 どうしたいか。

 

 

「しつこいようだが、弟子」

「はい」

「お前はどうする?」

 

 

 省略された質問でも、弟子は何の迷いもなく首を振る。

 

 

「私は、運の悪い『蘇生者』の中でも、運のいい方でした」

「ほう」

「私が宿った体には、スグサさんがいてくれた。こういう想定しにくいことを想定して、手を打って、私を導いてくれました。私は、この世界で生きていきます」

「そ」

 

 

 どこかすっきりしたような、けれど今にも泣きだしそうな顔。

 本来のこいつの様相は知らないが、結構感情表現豊かな奴だったんだな。

 私様の顔というのはどうしても(おぞ)ましいが。

 ということで、残りはローブの三人衆。

 シクを呼び寄せ、一人一人の魂に語り掛ける。

 果たして返答はあるのかと気にはなったが、一度、シクはローブの「帰りたい」という言葉を聞いている。

 別のローブも、誰の意見を聞くかという人の認識と区別は出来ている。

 自由意思がないだけで、個人の意思というのはあるのだろう。

 

 

「聞いてきたわよ」

「どうだった?」

「三人とも、帰れるなら帰りたいって」

「そうか。わかった」

 

 

 何もしていなかった最後のローブもラッピングの刑にする。

 これは体の魔力を減らし、体が魂の意思に反して活動しようとするのを防ぐため。

 先に刑にあっていた二人は十分ぐったりしている。

 申し訳ないが、もう少しの辛抱だと言い聞かせる。

 

 

「よし」

 

 

 床に足を付ける。

 ふわり、と体の周りを漂う魔力を感じる。

 少しの緊張。

 なにせ、この魔法を使うのは初めてだからだ。

 

 

「よく見てろよ、ベローズ。これが、お前ら凡人と私様という天才の違いだ」

「……くそっ」

「悔しがれ。凡人が天才になるにも、天才が天才でいるのにも、反骨精神と興味関心が鍵だ。決して盲目するな」

 

 

 ラッピングした奴らを浮かせ、足元に魔法陣を描く。

 失敗できない時、慣れていない時こその魔法陣。

 行先はそれぞれが考える『元の居場所』

 それは場所でも、体でも、世界でもなんでもいい。

 自分が生きたいと思った場所に還る。

 もちろん、もうすでにないかもしれない。

 そうなったらその世界を浮遊することになるだろう。

 そのことも説明し、「それでもいい」と。「かえれるなら」と。

 

 

「私様には確認しようがないからな。すまない」

 

 

 こいつらがどう思っているかはわからない。

 シクには聞こえていたかもしれないが、言わなかった。

 知りたいとは思わなかったから、それでいい。

 許されたところで許されるものではない。

 私様が直接関わっていなかったとしても、この世界の住人として、最高位魔術師として、なにかできたかもしれない。

 たらればで当てもなくどうしようもない可能性の話だが、『最高位魔術師』という称号を持つ以上、特に可能性を持っていた。

 悔やむことはない。

 だが、悔しい。

 

 

「さあ、始めよう」

 

 

 魔法陣の中心にローブの三人。

 魔法陣の外側に私様。

 他の外野はより外側に。

 自分の髪を掴んで、半分ぐらいざっくりと切った。

 魔法陣の中に投げ入れ。

 息を吸う。

 

 

「≪この声を聞き届けよ≫」

 

 

 

 ≪其はこの世界に生まれ落ちた≫

 

 ≪其は求められた≫

 

 

 ≪それは意思ではない≫

 

 ≪それは意図ではない≫

 

 ≪それは意地ではない≫

 

 

 ≪ならば求めよ、意志を≫

 

 ≪ならば求めよ、自由を≫

 

 ≪ならば求めよ、在りし日を≫

 

 

 ≪それは生まれ落ちたものに与えられる権利≫

 

 

 ≪誰にも奪われることのない≫

 

 ≪誰にも奪われてはならない≫

 

 

 ≪ただ唯一奪う者≫

 

 ≪それは其である≫

 

 

 ≪其が許す限り、其は在り続ける≫

 

 ≪其が認めぬ限り、其は抗い続ける≫

 

 

 ≪いつの日か、其を受け入れた時≫

 

 

 ≪其の行く道が、光照らされよう≫

 

 

 

 

   ≪在りし場所へ還られ給へ≫

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