【3/27 電子書籍一巻発売】魔術師は死んでいた。 作:彩白 莱灯
「う?」
マルスを挟んだ壁沿いにいる子ども。
ロロ程度一飲みにされてしまう!
ロロを食われるのは……やばい!!
「「≪
「シク!」
「わかってるわよ!」
同時に発した魔法。
弟子はロロを浮かせ、シクがキャッチ。
私様はマルスを囲い、視界を妨害した。
「そのまま連れてけ!」
「スグサ! あいつの『食事』は魔力を使ってるわ! 魔力を断てば少なくとも食われないんじゃないかしら!」
「おう。さんきゅ」
「すー……」
「ロロ、追いかけっこだ。ちゃんと逃げろよ」
「……うん!」
天井に空いた穴から光を巻き散らし、二人は退散した。
ちゃっりイオラも連れていってくれてありがたい。
魔力を断つか。
いやそういえば、マルスは『メメント・モリ』を破ったな。
あれは使えないと考えるか。
「ベローズさんも逃げてください」
「わ、私は……」
何をちんたらしてんだ。
コイツがいたところで何の役にも立たない。
さっさとどっか行って欲しい。
……飛ばすか。
「≪
「っな、ああああ!?」
「ベローズさんっ!」
「……底か」
一歩遅く。
底から伸びた腕がベローズを鷲掴む。
そのまま底を通り、おそらくは本体の所へ戻った。
風の魔法を解けば、やっぱり。
「ひ、あ、たす、たすけて……」
「くそ! テメェにはまだ話があんだよ!」
風の魔法を飛ばす。
刃となった風が、奴の腕を切り落とした。
「弟子! あいつ回収できるか!?」
「行きます!」
爆速で駆けた弟子が、腕から解放されたベローズの回収に向かう。
私様はその間、マルスを足止めしなければ。
「≪悪魔の――」
「ジャ、マ」
「チッ」
二本目の腕が底から伸びる。
魔法を中断された。
「そんなに生きたいか!! 何に執着する!!」
「イキ、イイイキタイイ。シヌ、ノ……ナンデ? ナンデ、シヌ? コワイ……ワカラナイ、コワイ! イママデキヅイタ……スベテ。ワタシノッ! スベテ!! ダレカニワタルノ! ユルセナイ!!!」
死んだ先に生きていた時に得られたものはすべて持っていけないからな。
そんなの当然。
人生の終着を、己の執着が邪魔をしているのか。
そんな当然のことも受け入れられない。
それは、『死ぬ』ということを受け入れていないから。
それは、『死ぬ』ということを知らないから。
知らなければ当然わからないし、当然、怖い。
ふむ。「なぜ死ぬ」か。
今の私様が回答するならば『進化』のためだろう。
ベローズに誘われた当時を思い出す。
『不老』や『不死』が人類の進化だと抜かしてたなぁ。
なんと矛盾なことだろうか。
「『知らない』から『怖い』。
『知る』には『死ぬ』しかない。
『死ぬ』ことは『無くす』こと。
『無くす』ことが嫌なら……『与えろ』。お得意の上から目線でよ」
『死』は『命を無くす』ことであると同時に、『与えられたモノ』でもある。
自分で得たものを渡したくないのなら、自ら与える、という形を取ればいい。
それが『遺言』だ。
自分の意思で、自分のものをどうするか決めろ。
死を恐れることは結構。
知るためには死ぬしかないのだから、恐怖し続けるのは当然のこと。
だが、恐れるが故に他人を殺し、ましてや生きる時間を『奪う』など、到底許されるものでは無い。
「一度死んでる私様が一つ教えてやろう」
「ナ、ニ……」
「死んでからのことだがな」
「っ」
「存外、楽しいもんだぞ」
実際は知らないけどな。
『
だが嘘は言っていない。
今は結構楽しんでいる。
「……ウソダアアアアアアア!!!!!」
「あれ?」
バレた?
「シンジナイ……シンジラレナイ! コワイ、コワイコワイコワイ!! シニタクナイイイイイイイ!!!!!!」
「っ、弟子!!!」
マルスの腕が伸びる。
私様の死角に在った、四本目の腕が。
三本目が見えておきながら……!
「ベローズさん!!」
「ご、ごば……すまなかった……しにたく、ない……」
「っ、手を!」
ベローズの腕が伸びる。
弟子の腕も、お互いの距離を引き寄せるように。
手が、互いを掴んだ。
「よかっ」
「わりぃ」
「えっ……スグサ、さん?」
「ぅああああああああああああ!!!!!」
「!? ベローズさん!!」
「イノチ……イタダキマス」
「やめっ! たす、け」
「ごくん」
弟子とベローズは、互いに手を取った。
その時にはもう、マルスがベローズの足を掴んでいた。
手を取り合った弟子も連れていかれてしまう。
マルスの腕を切ってしまえばあるいは、とは思うが、正直わからない。
切ったはずの腕がくっついている。
切って、またすぐに伸ばされて、キリがなかった。
……と、今では考えられるが。
あの場で考えたことは一つだった。
『弟子が食われるのは絶対阻止』
それは私様の執着で、言い換えれば愛着。
だから、弟子とベローズの手を、離させた。
「べ、ろ……ず、さん」
人を咀嚼する音が聞こえる。
言い表したくない音が、鼓膜を揺らす。
人の食事をする音を聞いて、いろいろな感情が湧き出てきた。
恐怖はもちろん、気持ち悪いとか、憎悪とか、よくないものもあれ。
……ちょっと興味。
「……すまん」
二つに対して謝った。
興味が出たことと、弟子しか助けなかったこと。
腕を切って二人ごと回収できたかな。
出来たかもしれない。
出来なかったかもしれない。
それを試さない選択をとった。
結果、ベローズは食われた。
弟子が助けようとした奴を、私様は見殺しにした。
呆然としながらマルスの方を見る弟子、を見る。
何も言わないな、と。
「……足、掴まれてましたものね」
「気付いてたのか」
「はい。「あ、やばい」って思っちゃいました。私も食べられるって」
「……へぇ」
全部は言わないが、たぶん、弟子も躊躇したのだろう。
このまま手を掴んでていいのか。
手を離したらベローズが食われる。
手を離さなければ……。
「力になれず、すみません」
誰に向けた言葉なのか。
下げた頭はすぐに上がる。
弟子の目は、死んでいない。
「想像よりかは大丈夫そうでなにより」
「助けたい気持ちは本物でしたよ。けど、全員を助けられるとは思いません。私は私ができることしかできない」
拳を握っている。震えるほどに込められた力の行き場。
口では何と言おうと、感情はどうだかな。
「ベローズさんが食べられてしまったことで、何か変わったことはありますかね」
「あー……弟子。残念なことになったかもしれん」
「え?」
「ベローズは魂に体を糊付けする方法をとっていた。それが能力なのかはわからんが、そういうことが習慣化された体だ。それを食った」
弟子の顔がみるみる変わる。
顔の横に汗が一筋流れる。
「『魂に体が寄ってくる』とか?」
「なくはないな」
「てことは、『魂が食べに行く』じゃなく」
「『魂がそこにあるだけで体の方から寄ってくる』ってな。どういう状況かはイメージしにくいが」
……。
「「それはない」とかかってしまうよりかは、「あるかも」と思った方が良いだろうな」
「ですね。じゃあ、魂をどうにかしないといけないんですね」
「そうなる。だが、私様たちじゃあ魂は見えない。魔力を盛大に使って効果範囲を広げて、魂を引っ掴まえるしかないな」
密室なら魂の逃げ場もない。
すり抜けるわけではないからな。
この場であれば天井を塞いで出入り口も塞げば……。
「ちなみに言っておくが、私様たちが食われたらよりやばいからな」
「全属性ですもんね」
「ついでに魔力は無尽蔵回復だ」
「え、つら。ラスボス? 裏ボス?」
私様も弟子を敵にしたくないし……したら面白そうだが。
弟子は私様を敵にしたいとは思わないだろう。
「スグサさんが敵に回ったら、私は戦わずに死にます。むりむり」
…………誉め言葉として受け取っておこう。
「それはともかく。どうするかな。『メメント・モリ』は破られて今だからな」
「……魔力が使えなければ、いいんですよね?」
「そう、だ……な?」
あ。
あーーーーーーーー。
「……弟子」
「はい」
「ちょっと耳を」
不快な音を打ち消すように、耳打ちする。
それはこれからの行動の確認で、決意の確認。
もう、後戻りはできなくなる。
しつこく再三の確認で、鬱陶しいを超えるほどだ。
それでも、確認せずにはいられなかった。
考えによっては、あいつを無効化できるから。
「……どうだ?」
一応、考えは伝えた。
よくよく考えろ。
考えて、最後の答えを出せ。
これが本当に、最後のチャンスなんだ。
「この作戦だと、髪の魔力と一緒に
「ん、ああ。それは大丈夫だ。別の手段がある」
「? そうなんですか? だったら、私はもちろん賛成です」
ケロッとした顔で、考えたんだか考えてないんだか軽く答えを出した。
いやまあ、今までから考えてもそうなると思ったけどよ。
「……じゃあ、サヨナラだ」
「はい。もう、とっくに未練はありません」
ガシガシと頭を掻く私様。
どこかすっきりした顔で、ふんわりと息を吐く弟子。
私様もそういう顔、してたときがあったのだろうか。
「なら、手順を言うぞ」
再度、耳打ち。
弟子にやってもらうことはいたってシンプル。
私様も、やることはほぼ二度目。
「いいか?」
「はい」
目を見る。
二人同時に頷き、
しっかり味わって満足したのだろう。
喉から、胃から、体の奥底から、モノと一緒に取り込んだ空気を盛大に吐き出す。
きったね。
「ウ、ガ、ァアァアアア」
動き出した。
真っ黒でどこを見ているかもわからない目が、私様たちに狙いを定める。
「やるぞ」
弟子が自分の髪を握り、潔く切った。
私様よりも短くなった髪の毛が床に触れる。
「よろしくお願いします」
「ああ。気を付けろよ、弟子」
……いや、違うな。
「ヒスイ」
髪の毛を握る手が、一瞬強く握られる。
けれど、私様のそっくりな顔とは裏腹に、気持ちよく笑う。
「いつぶりですかね、名前を呼ばれるの」
「さあな。いつの間にか弟子と呼んでたからな」
「ゴハァァアアアアンンッッ!!!」
待ちきれなくなったマルスが突進してくる。
弟子改めヒスイを抱えて二階に移動。
横の動きは早いが、縦の動きは今のところ見せてこない。
腕が伸びるのは危険だが、もう油断はしない。
「髪、預かるな」
「はい。よろしくお願いします」
「初めての共闘だ。ビビるなよ」
「いやビビりますよ。私を誰だと思ってるんですか」
「私様の弟子」
「そうだけどそうじゃない」
「はっ」
「……じゃあ」
「おう」
「いってきます、師匠」
「やめろくすぐったい」
もう一度にこりと笑って、それだけだった。
笑顔で駆けて行く。
まるで遊びに行きそうな。
もしくは、まるで「また明日」と言いだしそうな軽やかな足取りで。
「≪
二階から落ちた、訂正して降りたヒスイ。
頼もしくなったもんだ。
さて。
私様は私様でやらなければ。
ヒスイにさせたのは足止め。
躱すのは教え込んだ、私様のお墨付き。
向こうも、私様たちがいるんじゃあ別の所に移動しようともしないだろう。
「じゃあ、私様もやるとしますかね」
内心で楽しんでいる私様がいるのは、口が裂けても言えないな。
ぱちん。
指を一鳴らし。
≪
≪贋物だと知るのは贋物のみ≫
≪透視≫
≪オリジナル 創造神の見様見真似≫