【3/27 電子書籍一巻発売】魔術師は死んでいた。   作:彩白 莱灯

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第9話

 作るのは一体の複製体。

 私様そっくりの目を閉じた私様。

 ちなみに全裸。

 

 服を着せ替え、シクから預かった石を首からかけさせる。

 目が開かれる。

 

 

「よし」

 

 

 目を閉じた方の体を肩に担ぐ。

 反対の手でヒスイから預かった髪の束を握る。

 開始前の準備は完了。

 あとは始めるだけ。

 なんか……さらに楽しくなってきた。

 

 荷物を持って、一階の様子を見る。

 

 

「お」

「あ」

 

 

 見事や見事。

 マルスを氷で固めている。

 身動きが取れなければ食われにくいということか。

 氷という物質であることも食われにくさを増している。

 口あけっぱなのが気になるけど。

 

 

「なかなか上出来じゃん。口は何やってんだ?」

「風を送ってます。咀嚼と嚥下で色々摂取してるみたいなので、風で口を塞ぐのを防いで咀嚼を妨害してます。唾液が乾けば飲み込めないし」

「おお……そんな発想が」

 

 

 おもしれえええ!

 

 

「はっ」

「ん?」

「あははははははは!!」

「え?」

「ヒスイ! こっち来い!」

 

 

 コイツの発想はいいな!

 単純に止めるんじゃなく、体の機能を理解したうえで効率的にやってやがる。

 この世界にはない知識!

 この世界の人間にはしにくい発想!

 それが魔法と合わさって、私様でもするかわからない。

 『未知』な発想。

 大好物!!!

 

 

「テンション上がっちゃったな!」

「はい?」

 

 

 隣に来たヒスイが引く。

 いやなんか、それすらも面白い。

 

 

「ふへへへへへ」

「ええ……」

 

 

 ああ、やばい。

 ちょっと落ち着こう。

 

 

「く、ふ……いや、ヒスイにいつ伝えようか考えてたことがあってな。今言っちゃうわ」

「な、何ですか?」

 

 

 距離を取られたが、まあいい。

 もうなんでも楽しい。

 ツボが浅いどころか盛り上がってる。

 

 髪の毛をマルス目掛けて放り投げる。

 魔力を流した髪の毛は私様の意のままに浮く。

 

 

「これ、私様の体なんだがな」

「……ぜんらぁ……」

 

 

 浮いて、留まる。

 そして描く。

 

 

「今からやることは『導き』が必要。それにはお前の魂が召喚されたときにできた『道筋』が必要だった」

「……だから、()の体が必要かと、言ったんですが」

 

 

 胸元を握るヒスイ。

 自分がこれからのことに必要だと思っている故の行動。

 必要。つまり『犠牲』。

 その体を使ったら、どうなるかはわからない。

 

 

「召喚された体ってのはな、こっちだ」

 

 

 担いだ体をふわりと浮かせる。

 目を閉じて脱力したままの体。

 それこそ『人形』。

 

 

「……え?」

「正しくはさっきまで私様が使っていた体な。今≪創造神≫で作った体が、私様が今喋っている体」

「え? え?」

「まあつまり何が言いたいかって言うと」

 

 

 

 

 

 ヒスイの体は、私様が生きていた時に残していた、『生きている体』だ。

 

 

 

 

 

「……へ?」

「詳しくは後でな。言いたくてしょうがなかったんだ。あーすっきり!」

「ええぇぇえ」

「うっせー」

 

 

 ああ愉快愉快!

 私様は言えて満足!

 

 さあ、次!

 

 

「ちょ、ちょっと待って」

「待たねえよ、アイツが」

 

 

 マルスが氷を崩し始めた。

 咀嚼こそできていないが、動きが出てきたのならば咀嚼もそのうちし始める。

 ヒスイも集中力が途切れそうだし、いい加減始めよう。

 

 髪の毛が彩った模様。

 それはさっきも使った≪在りし場所へ還られ給へ≫の魔法陣。

 

 魔法陣に組み込まれたマルスに向かって、人形(・・)を投げ入れる。

 

 

「ほい」

 

 

 食われる前に使う。

 もう後戻りも待ち時間もない。

 

 

「――≪この声を聞き届けよ≫」

 

 

 さっきも唱えた同じ呪文。

 今度の戻り先はひとつだけ。

 

 それは、『ヒスイの元の体』

 

 ヒスイが戻りたいと思った時の唯一の行先。

 魂がこちらにきて、どうなっているかわからない体。

 どれほどの時間が経過しているのかわからない世界。

 わからないことが多い中で、それでもわかることがある。

 

 

「ヒスイの元の体には魂がない! つまり魂の受け皿として使える! もし体が無くなっていたとしても世界は辿れるし、ヒスイの世界に魔力がないなら魂だけでは何もできない!」

 

 

 こいつらの実験が作った『召喚の道』を辿る!

 それはヒスイが召喚された時に使っていた体で、かつ記憶を思い出した体。

 『道』としての役割は十分果たせる!

 

 

「ウアアアァァアアア!! イヤダ! イキタクナイ! ツレテイカナイデ!! イキタイ!! イキタクナイ!! シニタクナイイイィィィイ!!」

 

 

 氷を砕いて身を捩る。

 喋れる程度には風も氷も攻略しやがった。

 魔法陣を描く髪の毛が崩れ、魔力が吸われ始めた。

 

 眉間に皺が寄る。

 それと同時に、私様の隣に佇んでいた弟子が魔力を練る。

 

 

「私はこの世界で生きています。だから貴方も、向こうの世界で生きてください」

 

 

  ≪誘う泥沼≫

 

 

 マルスの体が、マルスの影に沈む。

 手足と腹が影という《泥沼》に沈み、せいぜい捩る程度でしか動けなくなった。

 同時に、ヒスイは風を操ってマルスの声を封じる。

 

 

「大丈夫。私がいます。勝手にこの世界に連れてこられた私ですが、この通り人の体で生きています。安心してください」

 

 

 めっちゃくちゃ満面の笑み。

 屈託なく笑ってる、光と花の幻覚が見えそうな爽やかさ。

 ……ちょっと冷や汗が出た。

 

 気を取り直して、魔力の主導権を握り直す。

 

 

「さあ、行ってこい!!」

 

 

 この世界のために、異世界に!!

 

 

「イィィィャダアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」

 

 

 断末魔ともいう叫びが、やまびこの様に反響して小さくなっていく。

 

 私様からしたら自業自得。

 そこまで嫌がることをさせていたんだ。

 『道筋』自体もあいつらの実験によって作られたもの。

 もっと簡単に言えばあいつらが作った『道筋』。

 皮肉だと笑いこそすれ、罪悪感などない。

 私様、は。

 

 

「お元気で……」

 

 

 ヒスイにとってはどうだろうか。

 マルスや、食われたベローズ、ビー・フォー、イレンたちをこの世界から飛ばした。

 自分が『された』ことを『した』。

 果たしてこいつはそれを受け止めているのだろうか。

 

 マルスが消えていった光の先を見つめるヒスイに、問いかける。

 

 

「……ヒスイ」

「はい?」

「元気か?」

「……え、はい」

 

 

 何を聞いてんだコイツ。

 という顔をされている。

 

 思った以上に普通そうだ。

 無理をしているようにも見えない。

 

 じろじろと見つめる私様から距離をとる様に、上体を逸らせる。

 少しの焦りを見せる。

 

 

「ほ、本当に元気ですよ? 元気というか、まあ、後悔はしてない、という言い方が正しいでしょうか」

「ほぉーう」

「私、ネガティブだけど一周回ってポジティブというか。『最悪、こうならなきゃいいな』と考えて、そうならないように行動することが多いんです」

「避けられたと?」

「そうですね。私の考える最悪なパターンは、変質したマルスさんやその魂が、もっと食い荒らしてしまうことでしたから。向こうの世界では活動出来ないでしょうし……いいや私としてはそれよりも」

「ん?」

「体……どういうことですか?」

 

 

 んあーーー。そっか。

 テンション上がって言ったんだった。

 事が済んで忘れてた。

 

 

「よーく思い出してみろ」

「はい?」

「私様とヒスイが分離したときのことだ」

「はい」

「まず、分離する直前に見せた私様の体」

「ありましたね」

「そのあと昔話をして、分離する魔法を使った」

「そうですね」

「私様は、どっちの意識をどっちに移したと言った?」

 

 

 ……。

 ぽく。

 ぽく。

 ぽく。

 ちーーーーーん。

 

 

「言って…………ない」

「おう」

「え、言ってない。言ってない? え? スグサさんの意識が本体に戻ったんじゃ?」

「いや言ってない」

「え?」

「本体に入れたのは、ヒスイの魂だ」

 

 

 わかりやすく説明すれば。

 

 私様とヒスイが共存していた体。

 あれは私様が≪創造神≫で作った『複製体』。

 そこからヒスイの魂を『別の体』に移す。

 私様は『複製体』に留まった。

 ヒスイの魂を入れた『別の体』というのが『生前使っていた体(オリジナル)』。

 さっき魔法陣に入れたのが『道筋(複製体)』。

 今私様が喋ってるこの体は『コピーのコピー(複製体から複製した体)』というわけだ。

 

 

「え、じゃあこの髪は? 目は?」

 

 

 短く肩口から見える髪を触る。

 私様は背中の真ん中ぐらいまではあるから、正面からの見た目はそう変わらなかった。

 髪の短い私様を見るのはいつぶりか。

 死んでから七十年。

 百年ぶりぐらい? いやもっとか?

 

 

「魔法でいくらでも変えられる」

「あ、ああ……そっか……」

 

 

 心底驚いた顔をしている。

 大丈夫かコイツ。

 戦いで頭でも打ったか?

 

 

「……でも」

「ん?」

「スグサさんは、亡くなったんですよね? それならこの体も、もう生命活動は終えた体ということ――」

「あー、その体は終えてない」

 

 

 まんまる。

 目がまんまる。

 間の抜けた声を出して、説明を求めるかのように口をパクパクと動かす。

 

 

「私様は研究者だ。研究者はみすみす『オリジナル』を使い切ることなどしない」

「……つまり?」

「おいおい。頭の回転が鈍ったか?」

「はい」

「潔い。まあいい。つまりだ。私様は初めに『複製体』を作った時点で、魂を移した。さらに『本体(オリジナル)』に≪外気で作る砂時計≫を使って、魂の無い体のまま永久保存した」

「それ、って」

「ああ。不老不死の状態にしたんだ」

 

 

 目だけでなく口も真ん丸に開けて、もはや声すら出ないという心情だろう。

 顔を見ればわかる。そう言ってる。

 

 フッと鼻で笑ってやった。

 

 

「私様、実は天才なんだ。知らなかったか?」

「あ、はい、知ってます。うん。そうでしたそうでした」

「なんか適当だな。師匠に対してそんな適当な態度とりやがって」

「ソンナコトナイデスヨシショー」

「下手くそ」

 

 

 唾吐いてやりたくなるぐらい下手くそだ。

 隠そうともしてないだろ。

 

 はあ、と一つの息。

 それを皮切りに二人とも口を開かず、ただ空を見上げる。

 朝だ。

 もはや昼かもしれない。

 半日立たず、大戦を控えた戦いは終わった。

 

 終わったのだ。

 

 

「…………実は」

 

 

 余韻に浸っていると、ヒスイが天を見ながら話し出す。

 顔を見ても視線を合わせようとしない。

 気付いているのか、いないのか。

 語りだした内容に耳を傾ける。

 

 

「スグサさんに賭けで勝った報酬で、お願いしようとしてたんです」

「……賭け? お願い?」

「賭けは、長期休み中に行ったお祭りで、「コウ殿下が買ってくる飲み物は何か」という勝負をした時のことです」

「ああ、あれな。私様の気分で始めた奴」

 

 

 やっべすっかり忘れてた。

 

 

「んで、お願いは?」

「お願いは……この体を、私にください……と、お願いするつもりでした」

「なーるほどね」

 

 

 ヒスイとしては、いつまで経っても体の持ち主は『スグサ・ロッド』であったというわけか。

 まあ、私様が一緒に使ってたんだし、そう思うのも無理はない。

 自分で言うのもなんだが、私様は自己主張激しいからな。

 

 

「それならもっといいもんやるよ」

「いいもの?」

「ま、それはまた今度な」

 

 

 一先ず今は、後片付けでもしようじゃないか。

 

 

 

 

 

 ―――――……

 

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