【3/27 電子書籍一巻発売】魔術師は死んでいた。   作:彩白 莱灯

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第6話――スグサ視点

 ―――――…… 

 

 

 

 

 

「シクはおそらく私様の家に行ったと思う。そこにいなきゃ一度戻ってきてくれ」

「はい。行ってきます」

「おう」

 

 

 もう立派に魔法を使いこなして、弟子は空を駆けて行った。

 なんとなく、これが親離れか、と思う。

 親になったことないけど。

 寂しいよりも誇らしい気持ちが強い。

 答え合わせはいらない。

 

 

「さて」

 

 

 私様は私様の仕事を。

 戦いで損傷したこの広場に生物の気配はない。

 なぜなら、私様が全てを『無』にしたから。

 在るべき場所へ還した。

 いきたい場所へ逝かせた。

 葬った。

 言い方はたくさんあるが、つまるところ、「殺した」。

 

 命を奪うのは一人でいい。

 私様だけでいい。

 元より、もう一人にはさせないつもりだった。

 アイツは生死の境を生きる人間じゃない。

 死を扱う人間じゃない。

 生き方を語らう人間だ。

 

 

「≪星々は夜の(とばり)を貫いて≫」

 

 

 目を閉じて、瞼の裏の星を探る。

 上の階には星はない。

 しかし地下……今も地下のはずだが、さらに下があるようだ。

 

 地下に無数の光。

 一等星の様に強い光。

 六等星の様に弱い光。

 流星のように絶えず動いている光。

 惑星の様によく見ないとわからない程に動きがない光。

 さて、あれはなんだろうな。

 

 

「うーん」

 

 

 考えること、一秒未満。

 行くしかない。

 行かないことにはわからない。

 直接行ったら危険かもしれないが、幸いなことにここには私様一人だ。

 特大の魔法をポンポン使っても問題ない。

 心を小躍りさせながら、光のある方へ向かう。

 

 いかにも『ここです』と言っているかのような両開き扉がある。

 いや、それしかない。

 中で蠢く無数の光。

 私様にも気付いたのか、扉付近に光は寄ってこない。

 奥に引きこもってしまった。

 警戒。いや、恐怖。怯えだ。

 

 

 コンコン、コン

 

 

 礼儀は大事だ。

 扉をノックしてから、片方の扉を開ける。

 

 

「びぃぃぃぃぎゃああああああああ!!!!!!」

「はいストップ」

 

 

 耳障りな声をあげながら飛んできたのは、鋭い刃。

 ……と、思われた、鎌。

 腕に風を纏わせて受け止めた。

 ついでに鎌を風で包んで逃がさない。

 

 

「なんだぁ?」

「クル! ナ! クルナ!!」

「んあぁーーー、お前ら、混ぜられた奴らか」

 

 

 聞き覚えのある聞き取りにくい発語。

 見た目は人間の肌が虫の羽の様に透明で、内側の見えてはいけないものが見えている。

 それだけではない。

 腕も虫の様に鎌に変形している。

 大まかなシルエットのみが人間。

 明らかに、実験によって混ぜられた奴だ。

 

 そいつ以外を見れば、奥にはもっと……十や百で足りるだろうか。

 絶対足りない。

 もっといそう。

 

 

「なあ、お前ら、死にたい?」

「!?」

 

 

 体を強張らせ、一瞬にして身を引いた。

 腕は犠牲にしたようで、風に纏われた腕は頼りなくぶら下がっている。

 痛くないんかな。

 と思ってみたら、もうすでに再生している。

 なるほど。

 一応治癒系の研究も進めていたのか。

 表情というものはあるようだ。

 

 そして、明らかに意思疎通が取れる。

 それは好都合。

 上の広間にいた……もうすでに葬った奴らは意思の疎通は取れそうになかった。

 だからこそベローズたちによって強制され、シクによって意思を伝達してもらった。

 

 こいつらは幸か不幸か、人間の部分も色濃く残ったようだ。

 

 

「すまんな。唐突過ぎた」

 

 

 よっこらせ、とその場に座り込む。

 私様の一挙手一投足に警戒の色を見せ、ざわざわと喚く。

 人間らしからぬ音がする。

 それでもこいつらは主張するだろう。

 「自分たちは人間だ」と。

 それこそ弟子(ヒスイ)の様に。

 いかに姿形が変わろうと、残った意識と記憶が『他』であることを認めない。

 認めてしまえば今この場にはいないだろう。

 私様が葬った中にいるはずだ。

 

 

「今まさに起こったことを説明しよう。振動とかはここにも伝わっていたんじゃないか? そのことだ」

 

 

 再び騒めく。

 私様が何を言おうと騒めくだろう。

 もういいや、気にせず進めよう。

 

 

「お前らを今の姿にした奴らは死んだ」

 

 

 今日一の騒めき。

 それは決して喜びではなく、悲しみや不安。

 これからどうなってしまうのか、と。

 自分たちは生きるしかないのか、と。

 もう元には戻れないのか、と。

 

 

「残念ながら、現状私様にはお前らをどうこうできる力はない」

 

 

 今日初の静寂。

 見るからに意気消沈。

 受け入れるしかないのかという悲嘆。

 

 

「私様から問う。この後席を外している間に考えてほしい」

 

 

 数名が私様を見る。

 光の宿らない、絶望に満ちた目で。

 臆するな、私様。

 夢だけ見ていられるような甘ったれではないだろう。

 

 

「生きたいか、死にたいか。どちらかを選ばせてやる。全員揃えなくていい。死にたければ苦しまずに。生きたければ苦しくとも、その手段を提供してやる」

 

 

 二度目の静寂。

 あ然とでもいうか。

 死んでいたような目が見開かれ、光が宿る。

 はてさてそれはどちらの光か。

 

 よっこらせ、と立ち上がる。

 

 

「私様は席を外す。しっかり考えてくれ」

 

 

 また来る、と言い残し、部屋を出た。

 扉は閉めた。

 まとまっていてくれないと困るから。

 

 さあ、内部を探るかね。

 情報が残っていればいいが。

 残っていて、戻す手段があれば選択肢も増えるのだが。

 『人間に戻れる』可能性がどれほどあるのだろうか。

 

 と、言うことで。

 地下を探りながらこの後どこに行くかという問い。

 果たして上には何階分あるのか知らんが、手当たり次第見てみるかー。

 非効率だか、日ごろの運動不足も兼ねて歩いてみることに。

 

 ……と、思ったが。

 これと言って面白そうな装飾などは見当たらず、すぐに飽きた。

 なので、視界を飛ばして気になる場所を探ることにした。

 

 と、言うことで。

 

 

「資料庫と実験室にでも行くか」

 

 

 当たりを付けて行先を決定。

 同じ地下にあり、そして早く事が済みそうなところから行くことにした。

 

 

「はい、実験室どーーーーーん」

 

 

 一人で言ってて寂しくなった。

 

 適当に開け放った扉はでかい音を立てた。

 音を立てたところで何かが来るわけでもないのでやりたい放題だ。

 気にしない気にしない。

 

 真っ白で清潔感を感じる空間は≪放り込まれた玩具箱(おもちゃばこ)≫を連想させた。

 入った部屋は器具が沢山。

 もちろん稼働はしていない。

 魔力を通せば使えるだろうが、中身も何もないので魔力の無駄に終わるだろう。

 

 大量の魔石がガラスの筒に入れられ、そこから管が出る。

 管の先は別の魔石だったり、また別のガラス筒だったり。

 そう言うのが沢山。

 本当に沢山。たくさんある。

 いったい何人を同時に実験していたんだという。

 そしてどんなハイペースで実験をしていたんだという。

 ぞんざいな扱いをしていたのではないかと思う。

 

 中央にいる、ただの白かったはずの長方形の台。

 生々しく紅をさしていて吐き気がした。

 

 

「クソだわー」

 

 

   ≪虚無≫

 

 

 この部屋のものはすべて取り込む。

 見た目で何をするかの予想は立ったから、もうこいつらが私様に与える情報はただ『目障り』ということだけ。

 遠慮もクソもなしに回収した。

 

 

「次行こ次」

 

 

 まるで空き部屋のように何もなくなった部屋を後にして、次に向かうのは資料室。

 それは地下からの出口である『教祖』と書かれた部屋、の真正面にあった。

 ついでだから私様に関する資料もすべて回収してしまおう。

 こんなところに私様の資料があるなんて鳥肌。

 

 と、言うことで。

 『教祖』の部屋ももぬけの殻。

 入った瞬間になんかムカついたので扉を思い切り閉めてやった。

 対して清々しくなるわけでもないが、八つ当たりにはちょうど良い。

 振り向いて、今度は普通に扉を開けた。

 ちなみに意味はない。

 

 

「こりゃまた。ご丁寧なこって」

 

 

 という感想が思わず口から洩れてしまうほどには整理整頓されていた。

 いくつもの本棚に、びっしりと敷き詰められたファイル。

 同じ色。同じ見た目。たぶん全部同じファイルで統一されている。

 逆に不便そう。

 

 

「……んー……」

 

 

 面倒くさくなってきた。

 資料はなるべくすべてに目を通すつもりだったが、これは一日二日では終わりそうにない量だ。

 なんなら地下の奴らのこともある。

 的を絞っていくしかない。

 『誰にどういう実験が行われて、それは元に戻すことが可能なのか』。

 それだけでも早急に調べなければ。

 

 棚を適当に眺める。

 殺気の実験室でも察したように実験の数がまず膨大だ。

 それは犠牲になった人数も膨大ということ。

 一人一人とまではいかないにしろ、実験の種類も細分化されているだろう。

 

 一つのファイルを手にして、ふわりと体を浮かせる。

 リラックス状態。

 体の負担はなるべく減らして、読書に集中するスタイル。

 何分、量が量だからな。

 

 

「やらない選択肢はないからなあ」

 

 

 自分に喝を入れるつもりで呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「スグサ」

「んお」

「やっと気が付いたのね」

「シク」

「ええ、()よ」

「……あ、そっか。そういえば呼んだな」

「……」

 

 

 叩かれ……ない。

 叩かれると思ったのに。

 前屈したかと思えば、何かを持ち上げた。

 

 

「すー!」

「ぬっ!?」

「ぎゅーーー!!」

 

 

 状況からしてウーが頭を包むように抱き着いてくる。

 これがヘッドロックか。

 手加減なしの抱擁に息ができない。

 

 

「むー!」

「はい、終わり」

「ぷはっ」

「次は()

「んん!?」

 

 

 ウーが力任せとしたら、次は勢い任せだった。

 私様の脇に腕を通して、背中に手を回す。

 細いながらも強い力で抱きしめる。

 少し震えてる。

 

 

「スグサ。スグサ。スグサ」

「……おー」

 

 

 目下の頭をなんとなく撫でる。

 気まずい? 申し訳ない?

 どっちもか。

 シクはわかってるんだ。

 これから起こることを。

 

 

「ありがとう。()の頼みを聞いてくれて」

「頼み……あー、世界に戻してくれってやつ?」

「そう」

「どういたしまして。あれぐらいどーってことねぇよ」

「最高位魔術師だものね」

「だ」

 

 

 足元のウーが見上げてくる。

 口に指を当てて、察したウーは両手で口を押えた。

 

 

「ねえ」

「ん?」

この後(・・・)はどうするの?」

 

 

 抱き着いたまま離れないシク。

 顔を見せたくないのか、肩に額を当てている。

 シクのいうこの後(・・・)

 もうすでに決めている。

 

 

「国の方向性が決まったら、な。もう決めてる」

「それは?」

「言わなくてもわかるだろ? シクなら」

 

 

 この世界で一番信頼を置いているのはシクだ。

 弟子も信頼はしているが、どちらかを選べと言われたら相当迷う。

 けど、シクは長い付き合いでもあるし、私様に向ける気持ちもストレート。

 応えるのは使命感や責任感ではなく、必然。

 

 

「……そうよね」

「ああ」

「ずっと一緒にいるわ」

 

 

 それはできない。

 私様がそう言おうとしたこともわかっていたのだろう。

 一層強く抱きしめて、さっと離れた。

 『聞く耳を持たない』というようにバラファイになって。

 

 一つの溜息。

 次のファイルに手を伸ばした。

 

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