【3/27 電子書籍一巻発売】魔術師は死んでいた。   作:彩白 莱灯

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第9話

 せっかくなので、コウの部屋を訪れることにした。

 窓を叩けば驚いた顔の部屋の主。

 一瞬だけ体を強張らせ、わざとらしく息を吐いたような動作をした後にようやく招かれた。

 

 

「お加減は?」

 

 

 胸元を押さえ、頭を押さえる。

 セリフをつけるなら「心臓がー」とか「体調がー」とかそんな感じだろうか。

 驚かしたことに対するセリフだと察しがついたんだろう。

 

 

「お元気そうで」

 

 

 そんな動作が取れるなら確かに気持ちに余裕ができた証拠だ。

 コウはニッと笑う。

 これだけ表情が明るいのに、目が見えず声も出ないというのだから、人の体というのは不思議なものだ。

 不思議で、面白い。

 

 コンコン、コン

 

 お。

 この城でこの叩き方をする奴は。

 

 

「失礼しま……す」

「おっす」

 

 

 弟子が来た。

 

 今、この城で純粋な人間というのはこの二人だけ。

 そして他の部屋には、生き残った混ぜられたものたちが生活している。

 

 魔物と人間が混ぜられたものたちが生きていく手段を検討した結果、レルギオは他国と隔離することとなった。

 幸い、レルギオは他国との接点は少ない閉鎖的な国だった。

 また、他の国はそれぞれ自立している。

 いずれは領土云々の話も出るかも知れないが、それはのちに任せよう。

 

 ちなみに。

 アーマタスでは代表が消えたことで何か変わったかと思いきや、何も変わらない。

 ただ次の代表が必要だと大会が行われるだけだ。

 『力こそ全て』。

 それは『敗者のことを気にしていられない』ということ。

 愚直で薄情な言葉だ。

 

 ちなみにちなみに。

 研究に関わった奴ら。そいつらも洗脳にかかっていたようだった。

 というのも、そいつらは『かつての戦い』で誰かを亡くしていたり、病気や怪我だったりその家族だったりと、生き還りをより強く望むものたち。

 人の欲を利用して、自分たちの欲に利用していたようだ。

 実験の動作だけやってくれれば、資料を見てベローズが判断するという流れだろう。

 自分に都合の良い人形を作り上げた、人間らしからぬ所業だ。

 

 人形といえば。

 

 

「ほれ。魔法石できたぞ」

「あ、ありがとうございます。じゃあさっそく?」

「ああ」

 

 

 仄かに光る魔法石を死んだように眠る王妃サマへ捧げる。

 その場を見届けようと、弟子とコウも行くと言う。

 王妃サマが眠るのは地下。

 ないとは思うが、もしものため、眠らせておくのは混ぜられたものたちがいた部屋。

 そこは内からは開くことはない、外からは一定以上の魔力が必要な部屋。

 弟子ならば安易と開けることができるが、コウでは出来ない。

 監禁……もとい、静かに眠らせるには打って付けの場所だ。

 土に埋めるわけにも、燃やすわけにも、海に流すわけにもいかないし。

 

 

「こんばんは」

 

 

 棺に眠る王妃サマにご挨拶。

 若くして亡くなって、かつすぐに魔法を施されたのだろう。

 見目麗しい王妃サマ。

 王サマが必死になるのもわかる気がする。

 気がするだけ。

 

 

「すぐにでも。いいか?」

 

 

 コウが棺による。

 胸に拳を当て、祈るように目を閉じる。

 弟子は近づくことはせず、コウの後ろで静かに目を閉じていた。

 弟子、そしてコウが目を開け、私様が近づく。

 王妃サマの両手で石を抱えさせる。

 その上に私様の手を重ね、魔法を込める。

 

 

「よい夢を」

 

 

 派手な演出はなく。

 ただ少しだけ光が強まり、石の中に二色の光が宿る。

 青と黒。

 冷却と眠り。

 これで、王妃サマは眠り続けることだろう。

 命が尽きた時、魔法は止まり、体は自然と朽ちていく。

 

 

「シオンには会わせないでよかったのか?」

 

 

 一仕事終えた後で、兄であるコウを見る。

 少し悲しそうな顔をして、首を横に振った。

 指が宙を指差し、何かを描くように動く。

 

 

「『話はしたが、本人が会わないと。覚えていないし、今はやるべきことがある』。ほお」

 

 

 魔法で書かれた文字を読み取る。

 今のコミュニケーションは専らこれだ。

 話せなくとも手段はあるもんだ。

 

 シオンも封印のことは知った上で『会わない』とした。

 話がついているなら私様からはもう言うことはない。

 魔力がついてないか確認する役割を弟子に与え、棺の蓋を閉じた。

 

 この部屋は弟子だけが出入りする。

 正確にいえば弟子がいる上で出入り可能。

 コウや、希望すればシオンも、母親の顔を見に来ることはできる。

 

 

「あとは任せた」

「はい」

 

 

 部屋、そして地下から出ればもう日が落ちかけていた。

 鬱陶しい湿気を吹き飛ばす風が心地いい。

 暗い空に眩い星々。

 死んだ人が星になると言う話があったが、それを聞いた時は子どもながらに「少なすぎる」と思った。

 毎日誰かがどこかで死んでいる。

 生きたいと願っても死ぬし、死にたいと思ってもすぐには死ねない。

 結果、いつか死ぬ。

 それだけ。

 

 私様だって死ぬ。

 

 

「他の奴らはどうしてる?」

「今はまだ生活環境を整えているところです。そのあとは仕事について検討していきます」

「赤髪とかは?」

「聞いた話では、アオイさんとロタエさんは入籍準備しているそうです。様子はあまり変わらないそうですが。カミルさんは引退されてクザ先生と穏やかな生活を送ろうとしているそうです。もうそれでも気張っている気がしますが」

「誰から聞いたんだ?」

「シオンから」

「仕事の合間の雑談か。詰め込みすぎないあたり優秀だな」

 

 

『詰め込みすぎた』その人は苦虫を噛んだ顔をしてる。

 ニヤニヤ。

 

 さて。戦後もそろそろ落ち着いてきたか。

 

 

「……弟子」

「はい?」

「夜、私様の家に来い」

「……わかりました」

 

 

 最期に言い残すことはあるかな。

 

 

 

 

 

 ―――――……

 

 

 

 

 

「さて」

 

 

 真夜中。

 雲がちらほらとあるものの、その奥に光る星の方に視線が向く。

 私様の家の周りは森で喧騒はない。

 街中ならば外の光も多いだろうが、今この瞬間は星が光源となっている。

 

 

「できれば弟子と二人で話したいんだが?」

「いやよ」

 

 

 屋根の上で茶でも飲みながら待とうと、私様が茶を入れていたところをシクに見られた。

 私様が茶を入れていることにこの世の終わりみたいな顔をして、その次には「何を企んでるの?」と聞いてきた。

 私様を一体何だと思ってやがる。

 

 

()、これからずっとスグサのそばを離れないから」

 

 

 ……うーーーーーん。

 まあ、いいけど。

 シクに何を言おうと、これと決めたらなんとしても実行に移す奴だし。

 そういう行動力を邪魔したいとは思わないし。

 私様に迷惑をかけるわけでは……なくはないけど、まあいいや。

 

 

「じゃ、シクも飲めよ」

「あら。初めてね、スグサが入れてくれたお茶。美味しいの?」

「飲んでみろよ」

 

 

 ……。

 

 

「うん、美味しい」

「そ」

 

 

 二人並んで、茶を啜る。

 話しを終えて星を見ているだけだが、それを苦とは思わない。

 本当ならばこの時間は存在しない。

 今更だが、何か変なことをしてこの時間が短くなってしまうのは……いやだった。

 

 

「あれ」

「お。お先」

 

 

 本来の目的の人物が浮遊してきた。

 

 

「すー!」

「しーもいるー」

「……ストラップかよ」

 

 

 弟子の足にそれぞれがぶら下がってる。

 ゆらゆら揺らしてるのは弟子か、こいつらか。

 弟子がやたらと高く浮いて、ウーとロロが先に着地。

 私様のくっつき虫たちには夜風は寒いのか、小脇に潜り込んでくる。

 ようやく弟子も足を屋根につけて、私様の横、シクとは反対側に腰を下ろした。

 

 

「今日はどんな一日だった?」

 

 

 茶を入れながら、らしくもない質問をしてみた。

 いかんな、緊張しているのか。

 私様が。

 この私様が。

 湯呑を持つ手に奮えはない。

 弟子は差し出した湯呑を両手で丁寧に持つ。

 

 

「今日は学校再開するにあたっての手続きをしてきました」

「ああ、休学してたんだったな」

「国単位のの混乱でしたからね。情報統制がとれてからというシオンの指示です」

「死んだ奴も、死んだような奴もいるからな」

 

 

 センという男は死んだ。

 しかしそれは、ごく一部の人間にしか知らされていない事実だ。

 

 

「センさんのことは『アーマタスへ帰還した』ということになりました」

「それだけ?」

「もともとセンさんは「勘当された」と公言していましたから、撤回されたということですね。和解とも強制送還とも言わず、ただ帰ったと。学校は始まったばっかりで、センさんも『間抜け』や『寄生虫』と同じようなポジションにされてましたから、詳しい事情を知っているのは今回の騒動を知っている人たちだけ。よく知らない人間に対しては、結果だけの情報を作って想像力を掻き立てさせた方が、作り上げた情報を流すよりも勝手に納得してくれるものです」

「……それは誰の台詞だ?」

「ヒイラギ先生です」

「お前っぽくないと思ったら、年の功ってことか」

「ヒイラギ先生はまだそんな歳ではないですよ」

 

 

 そうか。センというガキは家名を名乗っていなかった。

 弟子がされていたように[『家名がない変な奴』としてあぶれていた。

 それは奇しくも、『間抜け』を嫌う青髪(ロア)のおかげでもある。

 クラスの同調圧力が作った隔離。

 そこに王子(シオン)がいたことも、『近寄りがたい』状況を作っていたのかも。

 敵対していた二人が作った環境が、ガキの在り方を作った。

 『そこに()た』という状況を作った。

 その状況は、生きている人間の中で続いていく。

 

 

「女の方は?」

「マリーさんはクラス内でも交流は多い人でしたが、あの人も『宗教の布教のため』と言っていましたので。次の土地に行ったということになるそうです」

「旅人か」

「そんなものですね」

 

 

 実際は私様の家の一部屋で寝ているのだが。

 レルギオで寝かせた方が都合はよかったが、一般的に『被害者』と『加害者』が同じ空間で生活しているという状況は精神衛生上よろしくないだろう。

 それを黙っている方も。

 そういう環境づくりも大事と言ったのは弟子だ。

 まあ、長くはないだろうしな。

 

 

「さっき様子を見てきましたが……だいぶ衰弱してきましたね」

「飲まず食わずだ。医術師はなんて?」

「「マリーさんが望んで眠ったのなら、そのように」と」

「ま、そうなるな」

 

 

 アイツももうすぐ死ぬだろう。

 それがそいつの望み、というのは私様たちの想像でしかない。

 少なくとも共通した意見は『生きたいと思っていない』こと。

 それは『死にたい』ということと(イコール)ではないにしろ、延命は望んでいない。

 そのままを受け入れるしかない。

 

 

「お前らは?」

 

 

 茶を啜る。

 興味なさそうなシクは自分で茶を入れている。

 両脇の子どもは夜なので寝ている。

 私様よりも丁寧な所作で茶を飲む弟子はお代わりを要求してきた。

 

 

「ライラさんは武術科に、ナオさんは普通科に転科します」

「ほお」

「それぞれの適性や、将来的にやりたいことを見つけたからだそうです。私とシオンは魔術科継続です。ロアさんのことを確認するためもありますが」

「監視だろ」

「……まあ」

 

 

 色々な形が変わった。

 立場が変わって、役割が変わって、生き方が変わった。

 それはつまり『生きている』からと言っても変わりないだろう。

 

 

「『生きる』というのは『得る』こと、そして『変わる』こと。それ以上でも以下でもない」

「それは誰の言葉ですか?」

「私様」

 

 

 

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