【3/27 電子書籍一巻発売】魔術師は死んでいた。   作:彩白 莱灯

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第10話

「『得た』という時点でも言ってしまえば『得る前とは違う自分』ではあるとは思いますが、スグサさんが言いたいのは『得たうえでどうするかを考えることで変われる』。それが生きること?」

「大正解」

 

 

 私様が口酸っぱく言う『知れ』『知りたがれ』『情報を集めろ』というのはつまりはそういうこと。

 生きている以上、人間は何らかの情報を得ている。

 それは視覚だったり、聴覚だったり、味覚だったり嗅覚だったり触覚だったり。

 表在感覚だったり深部感覚だったりもする。

 なんでもいい。

 なにかしらを得て、その情報から何かを導き出せ。

 それは自分の経験値で、いつか何かしらに使うかもしれない。

 使わないかもしれないけど、知らないよりかは知っていた方が良い。

 知っているというのはヒントが多いということ。

 インプットがあってこそアウトプットができるということ。

 とてもとても適当に言ってしまえば、『ない』より『ある』。

 そんだけ。

 

 茶を一口含む。

 味わって、飲み込む。

 喉を通った感覚がした。

 

 

「ライラさんが武術科に転科する、という件ですが」

 

 

 話題を変えたのかと思うほどに唐突に話し出した。

 私様の語りは無視か?

 いや、そんな様子はない。

 湯呑をゆらゆらと揺らし、水面を見つめる。

 

 

「双子の馬鹿力のほうか。女の」

「う、あ、はい。『魔法のコントロールを極めるよりも、それは必殺技として残しておいて、魔法以外の手数を増やしたい』と思ったそうです」

「細かいこと考えるのは苦手そうだもんな。いいんじゃねぇの?」

「どちらも正解だと思います。……今回の件でどっちに行きたいかを決めるきっかけになったんだなって」

 

 

 ああ、『得たうえで考えて変わる』の話の続きだな、これは。

 

 

「ナオさんが普通科に転科するのも、じじさんの件があったからだそうで」

「普通科……経営?」

「はい。施設の経営のためです」

「なるほどなー」

 

 

 双子のどちらも、今回の経験を『得た』ことで、『考えて』、結果『変えた』。

 『変える』ということは必ずしもする必要はないが、それが『考えた』故の結果ならばいいのだろう。

 『考えた』時点で何かしらの『変化』があるということだから。

 『変化』がなければ『考え』もしないのだから。

 

 茶を飲み切った。

 もう中身はないし、次の茶もない。

 まさか他の奴らも来るとは思わなかったから想像よりも早く飲み切った。

 

 

「よっこらせ」

 

 

 なんとなしに立ち上がる。

 それによって見えるのは私様の家の庭。

 その片隅に、最近できたスペースがある。

 

 

「場所はあそこでいいのか?」

 

 

 それを見ながら言う。

 普通ならば何のことかと思うだろうが、弟子は「ああ」と察した。

 

 

「はい。時間帯で日もあたるし、風通しもいい所です。ありがとうございます」

「お前が任務を達成できたのはアイツのおかげだ。弟子の恩は師匠もともに返す。私様の流儀だ」

「お弟子さんを他にもとったことがあるんですか?」

「ない」

 

 

 目線の先は、墓。

 何を隠そうイオラの墓である。

 命を賭して。

 言葉の通り何度も死んで。

 弟子が鐘の洗脳を解く時間を稼いだ。

 今回の立役者。

 今回の件と、イオラという存在上、表に出すわけにはいかない。

 だからこうして、静かに、かつ内密に葬ることしかできない。

 だがまあ、こいつはこれがいいんじゃないかと勝手ながら思う。

 あんまり賑やかにされるのは好きそうじゃなかったし。

 今は夜で想像でしかないが、昼間は地面に星が瞬くように日が射すだろう。

 

 夜の墓参りというのはあまりよろしくないかもしれないが、今しかないので一言言いに行こうと降りた。

 

 

「出涸らしで悪いな」

 

 

 予想以上に飲む奴がいたんだ。許せ。

 湯呑を墓の前において、直立閉眼。

 祈るのは趣味じゃない。

 願うのも嗜好じゃない。

 語りかけるのも好みじゃない。

 だから、言い放った。

 

 

「お疲れさん」

 

 

 生きるのも死ぬのも。

 

 屋根に戻り、だが足は付けない。

 ただただ浮いて弟子を見て、見続ける。

 何かを思った……いや、察した弟子が立ち上がる。

 私様と同じ目線。

 師匠と弟子という勝手な立場。

 それはもう、卒業か。

 

 

「弟子にいいものをやる」

「いいもの?」

 

「弟子は卒業だ。ヒスイ。お前に『ロッド』の名をやろう。これからは『ヒスイ・ロッド』と名乗り、私様の後継者を称し、この世界に生きる一人として生を堪能するがいい!」

 

 

 まるで神のように、闇夜を背景に言ってみた。

 神ってホントにいるんかな?

 自分でも偉そうだと思うほどに偉そうに言ってみたが、弟子は……まあ、少しは想像していたが、反応が薄かった。

 

 

「…………え、家名?」

「ああ。『ロッド』。いらない?」

「え、いえ、あ、えっと」

 

 

 反応薄いというか、驚いて反応が追い付かなかったのか。

 表情を見るに薄っすら喜んでいる様。

 目の下の頬が少し膨らんでいる。

 それは口角が上がっているということ。

 目を多方へ動かし、でも最後は私様を見て。

 

 

「ありがとうございます! 拝命します!」

 

 

 嬉しそうに言った。

 よしよし。

 私様も満足だ。

 折角やるんだからもらっとけってな。

 

 ……では。

 というか。

 ……さて、かな。

 

 

「そろそろ、最期(・・)としようか」

 

 

 

―――……





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