【3/27 電子書籍一巻発売】魔術師は死んでいた。   作:彩白 莱灯

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第11話―― ヒスイ視点

 

 

 

 

 

 

 最期(・・)

 『さいご』と、言った。

 今、こんなにも勿体ぶって言うのだから、『最後』ではないだろう。

 

 瞬きを二回。いや三回。

 目の前の人は、言った発言のわりに自信満々にほくそ笑む。

 いや、実はもしかしたら、内心では自信以外の何かがあるかもしれない。

 ……ないかもしれない。

 それはそれでスグサさんらしくて良い。

 

 

「さいご」

「そ、最期」

「さいご……」

 

 

 なんとなしに、なんとなく、なんでもないように言ってしまう。

 こちらが感じている言葉の重さと、スグサさんが考えている言葉の重み。

 それは天と地ほどではないにしろ、雲と海ほどの違いはあるだろうか。

 

 ぼーっとしてるようでスグサさんを見つめ続け、見ているだけで考え続けた。

 考えた結果。

 なんとなく、言いたい一言がある。

 

 

「やっぱりかぁ」

 

 

 だ。

 

 

「なんだ、わかってた?」

「なんとなくは。スグサさんがこのままいるわけないとは思ってました」

「ほお。理由は?」

「なんとなく」

「そうか」

 

 

 くつくつと。

 それは小さな笑い。

 決して嫌そうではない反応。

 嫌そうではなくて、寂しそうでもなくて、未練もなさそう。

 

 

「できれば恩返しをしたいと思ってましたけど」

 

 

 と言うと、なんというか、ぽやっとした顔をする。

 鳩に豆鉄砲のような、ちょっと驚いた顔。

 

 

「恩? なんの?」

「私のことを支えてくれた恩です」

「それは……あー、いい。なんでもない。そうか。恩か」

 

 

 ふむ、と、今度は考え込む仕草をする。

 考えるときの癖なのか、風の魔法で浮いて、足を組む。

 リクライニングソファーに座っているようにリラックスした姿。

 考えることだけに注力した姿。

 

 

「……じゃあ」

 

 

 ポツリと呟く。

 宙を見ていた目は私を映し、心底楽しそうに口角を吊り上げる。

 

 

「欲しいものがある」

「ほしいもの?」

「ああ。お前からもらいたいものだ」

 

 

 はて。さて。

 スグサさんが欲しい物とはなんだろうか。

 私がスグサさんに渡せるものなんて、スグサさんはもうすでに持っていそうだ。

 むしろ「あげたものを返せ」と言われたら……迷うけど返すだろう。

 元々はスグサさんのものばかりだ。

 名前も、体も、魔力も、この世界で得た知識も。

 いやいや、それよりも。

 

 

「何が欲しいんですか?」

 

 

 素直に問うた。

 すると、スグサさんはゆらりと手を伸ばし、私を指さす。

 ああ、やっぱり。

 そう思った。

 が。

 

 

「お前の」

 

 

 指がひっくり返る。

 

 

「思い出した記憶」

 

 

 頭に指を突き刺した。

 

 

「記憶」

 

 

 私の思い出した記憶。

 元の世界で生きた記憶。

 それを私は覚えている。

 では、スグサさんは?

 

 

「なに、弟子から奪うわけじゃない。私様のこの体、正しくは私様という『記憶』に弟子が思い出した『記憶』もある。それ(・・)を貰う」

 

 

 ああ、そうなんだ。

 私が思い出していた時、スグサさんと同じ体だった。

 体を共有していた。

 体の『記憶』も魂の『記憶』も、どちらも『記憶』。

 ただただ同じもの。

 『記憶』なんだから繋がっている。

 私が思い出している時、スグサさんは『経験』してた。

 

 

「……ふふ」

「ん?」

「いえ。ぜひ、貰ってください」

 

 

 笑いながら、喜んで差し出した。

 スグサさんの知識の一つとしてもらってくれるのは純粋にうれしい。

 そして、スグサさんの知的探求心の根源である『未知』を一つ、埋めてしまった。

 スグサさんの一部となった。

 

 主は苦い顔をした。

 

 

「なんかやだぁ……」

「え、何でですか」

「なんか、嫁入りみたい」

「ぶっ」

 

 

 嫁入り……!

 

 

「何言ってるの!!!」

 

 

 私もそうおもいますよ、シクさん。

 一度は抑えた笑いだが、シクさんがスグサさんに詰め寄る姿を見て、アウト。

 ダムが決壊。

 

 

「あっははははは!」

 

 

 なんで嫁入りなんだろう。

 いや、私が言ったのか。

 いやいや、それを嫁入りと思うのはなんでだろう。

 スグサさん、嫁入りされたことあるのかな。

 まさかの連想に笑いが止まらなくなった。

 

 

「あは、ははは! ……っふ、ふふふ」

「……お前、笑うようになったなあ」

「うるさいぐらいね」

 

 

 笑う私の正面で、詰め寄る人と詰め寄られている人は言う。

 耳に届いたその呟きで、笑いが鎮火していく。

 たしかに。

 私、笑うようになったな。

 怒りもするし、悲しみもする。

 嬉しいとも感じるし、楽しいこともしたくなる。

 

 

「うぅ……」

「なぁにぃ?」

 

 

 足元の子どもたちが目を覚ましてしまった。

 スグサさんが屋根に足をつけ、起き上がった二人を抱える。

 うとうとと寝ぼけ眼の二人は、大好きな人に抱えられてまた寝そうだ。

 

 

「召喚された当初のお前は、まさに今のこいつらみたいだったんだろうな」

「……寝ぼけていた?」

「というか、夢現(ゆめうつつ)だな。現実味のない映像。この世界では『召喚(日常)』でも、お前の世界では『召喚(非日常)』なんだろ? 魂が現実を拒否していたのかもしれない。さらにいえば、私様という『記憶』が同居していたからというのもあるかもな」

「なるほど……」

 

 

 たしかに『召喚』は、私の世界では『非日常』、つまり『空想・幻想(ファンタジー)』なものだった。

 創作物としてはあったとしてもそれが現実として起こるとは思わなかったし、ましてや自分がに起こりうるとは思わなかった。

 

 

「今のお前は一つの体に一つの魂、そして一人分の記憶・人格を持つ。この世界に存在する一人の人間、ヒスイ・ロッドだ」

「ヒスイ、ロッド」

「お前……いや、ヒスイの人生はこれからだ。この世界に来て一年。知り合いができて一年。魔法を学んで一年。学校が始まって半年。友人ができて半年。自分で稼げるようになって数ヶ月。一人前の体を持って数日。ヒスイ、お前の人生は始まったばかりだ。いつか終わるが、いつ終わるかはわからない。けれど必ず終わりは来る。その時のために今を、一生懸命やりたいようかち、真っ当に生きろ。そうだな。これは師匠から最期の課題だ」

 

 

 

 

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