【3/27 電子書籍一巻発売】魔術師は死んでいた。   作:彩白 莱灯

17 / 164
第2話

「スグサさん」

 

 

 スグサさんがこうして話に割り込んでくることは珍しい。

 カミルさんじゃない人との会話でも割り込むことはほとんどない。

 私が一人でいるときに魔法の使い方とか雑談をするぐらいだった。

 

 

「すみません、少しいいですか」

「ああ。気にするな」

 

 

 カミルさんに断ってから、目を閉じる。

 スグサさんと話をするときは大体の場合は意識下に入る。

 顔を合わせながら話そう、というスグサさんの提案だった。

 今ではもう見慣れた、お馴染みの灰色の空間。

 スグサさんは腕組して仁王立ちしていた。

 そうは言っても怒っている表情ではなく、普段通りのニヤッとした顔だ。

 

 

「こんにちは」

「おう。てことで本題だが」

 

 

 組んでいた腕の片方を垂直にして、指を一本立てる。

 指先の少し浮いたところに、黒縁の眼鏡がどこからか出てきた。

 

 

「この城の保管庫に、こういう眼鏡がある。『透視』の魔法が込められてる」

「≪透視≫って違法だって聞きましたけど……」

「この眼鏡は私様に合わせてある。つまり一般人には使えないほどに魔力の消費が激しいものだ。だから一見普通の眼鏡なんだよ」

 

 

 うーん。質問と回答があっていない気もするけど……。

 おそらくは盗用の心配はなく、怪しまれて調べられても、かけた魔法がわからなきゃバレにくい。

 つまり問題にはなりにくいということだろうか。

 

 何度か話をしてわかったのが、スグサさんは黒やグレーゾーンなことも『バレなきゃ良し=白』というスタンスをとっている。

 そうでないとできない研究もあったらしい。

 どんな研究かは教えてくれなかった。

 

 

「使用者の意図に合わせて透視する。お前に知識があるなら、それが反映される」

「わかりました。聞いてみます。ありがとうございます」

 

 

 必要なことだけ話して、意識を外の世界に戻す。

 ゆっくり目を開けると、隣から静かにこちらを向いていたカミルさんと目が合った。

 

 

「え、と。……戻りました?」

「ああ。おかえり」

 

 

 淡々としている。

 見つめられていて少し驚いてしまったが、もちろんのことだが他意はなさそうだ。

 

 

「途中にすみませんでした。もう一度巻きますね」

「すまん。頼む」

「いいえ。巻きながら聞きたいことがあるんですけど……」

 

 

 スグサさんから聞いた話を、そのままカミルさんにも話した。

 カミルさんは眼鏡のことは知らなかった。

 だけど今は寮に移った殿下と会った時に、眼鏡があるかどうか、使っていいかを聞いてくれるということになった。

 

 

「じゃあ、確認したら知らせる」

「ありがとうございます」

「俺の方こそ、包帯ありがとうな」

 

 

 カミルさんは持ってきた荷物を持ち、部屋を出て行った。

 私はというと、快晴の空を見上げて、思い出した記憶を辿る。

 私は誰かと話をしていて、人と会って、一定時間を過ごした後にまた別の人のところに行く。

 それを繰り返していた。

 人と会ってからやることは、体調の確認と、あとは似たことだったり、全く違うことだったり。

 確かなことは、医療の知識があったということ。包帯の巻き方もその一つ。

 

 

「この世界で……役に立つのかな……」

 

 

 医学が発展していないこの世界だからこそ、伸び代があるか、衰退するかがわからない。

 ある程度の知識がある環境ならば汎用性もあったかもしれないが……。

 でも悪い内容ではない。

 何かの役には立つかもしれない。ノートにでも書き留めておこうかな。

 

 

 

 

 

 ―――――……

 

 

 

 

 

 数日後。

 未だに手首に包帯を巻いているカミルさんの案内の元、城とは違う大きい建物に向かって歩いている。

 外を歩くのは初めてで緊張し、あまり周囲を見て歩けない。

 フードを被っているから怪しまれているかも。

 目があって何か言われたら冷静に対応できるかわからない。

 たまに振り返って体調を聞いてくれるカミルさんには強がって見せたが、上げられない目線は前を歩くカミルさんの足元で、ぐらぐらと揺れる地面に酔いそうになる。

 

 ただ歩いているだけなのに、やたらと息が上がる。

 動悸もする。

 指先が冷えてきた。

 変な汗もかいている。

 頭がひんやりしてきた。

 視界が、白っぽくなる。

 

 ……やばい気がする……。

 

 

「ヒスイ」

 

 

 体に浮遊感を感じた時、私の名前を呼ばれて、足が地に戻った。

 顔を上げると学生服を着た殿下が目の前にいて、目を合わせた瞬間にギョッとされる。

 周辺を見てなければ目的地まであとどれくらいかなんてわからず、当然、もうすぐ目の前だったのだと言うこともわからなかった。

 

 

「顔色が悪い。やはり無理をさせたか……」

「いえ……少し休めば大丈夫です」

 

 

 殿下が肩を貸してくれようとするが、丁重にお断りした。

 その場でゆっくり屈伸する。なぜ屈伸したかはわからない。

 体が動いただけ。

 本当はこうなることも予想はできていたし、馬車を使う案もあるにはあったのだが。

 それらが却下になったのは、私の立場の問題だった。

 私の存在は具体的に周知はされておらず、むしろ隠している。

 私が自由に動くことを良しとしない研究者たちも城に出入りするから、大っぴらには行動できない。

 そうなると乗り物を使うことは必然になしとなった。

 だから、最近は机仕事が多いと言うカミルさんに同行してもらい、そう遠くはない距離を歩いて移動していたのだが……。

 

 

「ここまでとは……」

「私もびっくりです……」

 

 

 「少し休もう」と校内に入ることを促される。

 こんな道中じゃあ人目につくし、そうしてもらえたらと受け入れた。

 

 

「じゃあ、私はここで」

「ああ。ご苦労」

「カミルさん、ありがとうございました。気を遣わせてしまってすみませんでした」

 

 

 体調が悪くなっていっていることに、カミルさんは気付いていたと思う。

 何度も振り返ってくれたのはそういうことだろう。

 それでも強がって、意地を張って、結果こんなにも心配させては、せっかく案内してくれたのが申し訳なかった。

 

 息が……胸が、苦しい。

 

 カミルさんは包帯を巻いていない方を私の方に向けて、頭に乗せた。

 そのままクシャクシャと撫でる。

 

 

「ヒスイは気にしすぎる性格のようだな。もう少し力を抜け。疲れるぞ」

 

 

 相変わらず表情の変化は、私にはわからない。

 声の高さや喋り方も、普段とそう変わらないと思う。

 それでも伝わってくる優しさが、申し訳なさで詰まりかけていた胸が、ふわっと広がったような感覚。

 ああ、この人も、なんて優しいんだろう。

 大きく無骨な手が離れて、頭が軽くなる。

 

 

「体調不良者の頭を揺するな」

「あ、すまん」

 

 

 そんなこと、全然気にならなかった。

 主従関係なのにどこか緩い関係性の二人に、また呼吸を楽にしてもらって、カミルさんは城に、殿下と私は校舎に向かって行った。

 校舎に入って、教室を何部屋か通り過ぎたところで、『自習室①』とプレートが掛けられた部屋に入る。

 机と椅子の組み合わせがいくつかある。

 座学のための部屋のようで、そんなに広くはない。

 

 

「ここで少し待っていてくれ。目の前の職員室に行って外部関係者用の札をもらってくる」

「わかりました」

 

 

 椅子にも座らず、殿下は部屋を出た。

 私は近くの椅子に座り、フードを取って、通るようになった息を吐く。

 壁は真っ白。机は茶色。そして大きな窓。

 一階に位置するその窓は、校庭と木と、青い空までを写し、太陽の光がキラキラと輝いて美しく彩っている。

 空調の効いた部屋は心地よく、見知った人に会えた安心感が動悸も冷や汗も落ち着けてくれた。

 

 コンコン、コン

 

 殿下が出て行ってからそう時間はかからず、また扉が開く音がする。

 

 

「ヒスイ」

「あ、おかえりなさ、い」

「こんにちは」

 

 

 背を向けていた扉の方を振り返って、いつも通りな感じで声をかければ、扉を開けた殿下の後ろから女性が顔を出す。

 低めの身長で、人当たりの良い笑顔をこちらに向ける、その人。

 歳は五十代ぐらいだろうか。

 知らない人を目の前に話すのは久しぶりで、思わず身体が固まってしまった。

 気付いた頃には女性は殿下を通り越して私の目の前に立っている。

 急いで椅子から立ち上がり、頭を下げる。

 

 

「は、初めましてっ、おおおおじゃましてますっ」

 

 

 ぐらっ

 

 いきなり立って、いきなり頭を下げたのが悪かった。

 目眩がして身体がグラつく。

 倒れるほどではなかったが、明らかにふらついてしまった。

 

 

「あらあら、いいのよ、体調崩してるのでしょう。座って座って」

「すみません……」

 

 

 大人しく今まで使っていた椅子に座りなおす。

 改めて女性の顔を見ると、にっこりと微笑んでくれた。

 保母さんとか、教育者とか、まさにそんな感じの安心感のある笑顔だ。

 白髪の混ざった髪を、後ろで低い位置にお団子にして、全体的に小さい印象。

 座っている私と立っている女性だが、顎を少し上げるだけで目線が合う。

 

 

「わたくしはコウ君の担任のクザです。外部者に許可証をお渡しする時はお顔を拝見しなければならないの。はいこれ。首にかけて見えるようにしておいてね」

「ありがとうございます」

 

 

 『入校許可証』と書かれた札を受け取る。

 太めの紐がつけられたそれを首からかけて、ちょうど胸元の高さに調整した。

 クザ先生から「それで大丈夫」とお墨付きをもらって、話を続ける。

 

 

「コウ君からあなたのお話は聞きました」

「え……話って……」

「別の世界から来たことと、スグサ・ロッドの体であることだ」

 

 

 口振りからは、スグサさんの記憶がある? いる? ことは言ってはなさそう。

 でもそこまで話してしまって良いのだろうか。

 自分のことだけど、相当重要な機密だと思うのだが……。

 城でも一握りの人しか知らないことだし。

 黙ってしまった私から考えていることを悟ったのか、クザ先生はお淑やかに笑う。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。