【3/27 電子書籍一巻発売】魔術師は死んでいた。   作:彩白 莱灯

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第3話

「ふふふ。実はね、お体のこと以外、可愛らしいお嬢さんがいるってことは少し早く聞いていたの」

「そう、なんですか?」

「そう。さて、なぜでしょう」

 

 

 片手を口許に当てながら、楽しんでいる。

 聞いていたと言うのは、つまりは身近に関係者がいたのか、はたまたご本人が城にいたのか。

 小柄な上に、私の回答をわくわく音が聞こえてきそうな面持ちでこちらを見る様は、いたずら好きの子どものようにも見える。

 お淑やかだったり子どもっぽかったり、最初の印象で感じた年齢は実際どうなんだろう。

 

 

「関係者と繋がりがあるか、お城に来ていたとか、ですか?」

「そう、正解。関係者と繋がりがあるの。ではそれは誰でしょう」

 

 

 うーん。

 ご年齢が不明確だけど、近そうな人だとベローズ所長や陛下あたりかな……。

 ベローズ所長は、もしかしたらおだてれば機密でも話すかもしれない。

 陛下はよく知らないだろうから話さなさそう。

 でもあの二人がこんな優しそうな女性と知り合いとは……想像できないかな。

 となると知っているのは殿下の周辺の人たちや一部のメイドさん……。

 

 考えても考えても決め手がなく埒があかない。

 一番可能性があるのは担任と生徒という関係の殿下だが……殿下なら今この場にいるし、勿体ぶる必要はない。

 殿下から聞くよりも前に、ということだろうし……。

 いつの間にか唸り声を上げていた私を、クザ先生と殿下は対照的な表情で見守っていた。

 片や笑顔、片や、苦笑い。

 

 

「んーーーーー…………殿下、ですか?」

「ふふっ、残念。正解はね、カミル君よ」

「あのカミルさんですか?」

「そう。あのカミル君」

 

 

 騎士団長のカミルさんの関係者だったようだ。

 どういった繋がりなのか、想像がつかない。

 まさかお母さん?

 クザ先生は私の隣に椅子を出し、腰かける。

 そして変わらず優しい、柔らかい笑顔から言葉が紡がれる。

 

 

「カミル君はね、私の旦那さんなの」

「……え!?」

「ふふふ。驚いた?」

「はい……あ、すみません。失礼なことを……」

「ううん。驚くのが普通よ。驚かせようと思ってこういう伝え方をしたのだし」

 

 

 「ごめんなさいね」と。

 少々悪戯好きのような性格が垣間見えた。

 そして同時に、あの大柄で仏頂面のカミルさんと、小柄でほんわかしたクザ先生がご夫婦ということに、違和感も納得もある。

 クザ先生は、膝に置いていた私の両手をとって、両手で包み込む。

 

 

「貴方のことを知っている理由は他にもあるのだけど、そちらはいずれ。今日は貴方がこちらにお顔を見せに来てくれると聞いて、是非お会いしたかったの」

「えと……なぜですか?」

 

 

 カミルさんにはとってもお世話になっているし、お礼を言いたいのは私の方だ。

 クザ先生とお会いしたのは本当に今日が初めてだろうし、お礼を言われる理由がわからない。

 殿下を見れば壁に寄りかかって、慈愛の表情でこちらを見ている。

 この状況は想定済みなのだろうか。

 

 

「カミル君の手首の包帯、巻いてくれたと聞いたわ」

「あ、講義してくれた後に、ほどけかかっていたので」

「ありがとうね。「早く治るように」と気を遣ってくれたのだと聞いたわ。騎士にとって体は資本だから、カミル君の体を大事に扱ってくれて、嬉しいわ。ありがとう」

 

 

 本当に。本当に。

 少しひんやりとした手に包み込まれて、私の手先が温まっていく。

 言葉にも熱が溢れているようで、耳も胸も、温かさを感じるようだ。

 クザ先生は何度も「本当に」と「ありがとう」を繰り返し伝えてくれて、少し恥ずかしい。

 

 

「……私には、それぐらいしかできません。むしろお世話になっていてお礼を言うべきなのは私の方です」

「「それぐらい」なんてことないわ。あの人、不愛想で人付き合いも苦手なの。そんな人がヒスイさんのことを気にかけていたから、どんな人か会ってみたかったの。「お礼を」と言ってもらえるほど、ちゃんとお相手できているようで嬉しいわ」

 

 

 確かに愛想がいい方ではないと思う。

 それでも真摯に向き合ってくれているのが伝わる、真面目な人。

 時々おっちょこちょいだけど。

 

 

「カミルさんは、お城でも私が一人でいると、話しかけてくれます。体調が悪いことにも気付いてくれて、優しく接してくれます。この世界のことも、わかりやすく説明してくれました」

「うふふ。それが聞けて安心したわ。あの人も騎士としてはいい歳なのに、まだまだ頑張ろうとするから……もしお手間じゃなかったら、ヒスイさんからも気にかけてくれないかしら」

「私でよければ、よろこんで」

 

 

 私なんかで良いのだろうか、という言葉は飲み込んだ。

 せっかく私にここまで感謝の意を示してくれている人に対して、「私なんか」と表現するのは、失礼なんじゃないかと思ったから。

 本当に、やったことは包帯を巻き直しただけ。

 それもあやふやな知識だったのに。

 それでもクザ先生……奥さんは、これほどまでに感謝をしてくれるものなのだろうかと疑問に思った。

 が、すぐ、わかった。

 

 カミルさんは『騎士』だ。

 クザ先生の言った通り、体が資本の職業だ。

 怪我をした手首が治らなかったり、治癒が遅ければ、その後の活動にも支障が出てしまう。

 もし不十分なまま仕事として戦うことがあれば、最悪、命を落とすのだ。

 そして治癒魔法が乏しいこの世界では、騎士が怪我をするというのは、想像よりもずっと、重いことなのだろう。

 朗らかな春の陽気を思い出させる雰囲気のクザ先生は、去り際はそよ風のように穏やかに去っていった。

 私が学校に通うことになればまた会えるだろう。その時はまたご挨拶したい。

 

 

「意外だったろ」

 

 

 壁際にいた殿下が、空いた席に座る。

 そういえば今日は制服を着ている。

 紺地に白のラインが入った、シンプルなブレザーの制服だ。

 お城では白ベースに金の装飾のスーツとマントを羽織っていたから、こちらの方が年齢相応に見える。

 

 

「そうですね」

「出会いの話も聞けば教えてくれるぞ。カミルの印象が変わるんじゃないか」

「そんなに衝撃的なんですか」

「それは当人たちに聞いてからな」

 

 

 カミルさんに聞いても教えてくれるだろうか。

 どんな表情で教えてくれるのか、そっちの方も気になるな。

 それから少しの間、殿下は学校での様子を教えてくれた。

 どんな授業をしていて、どんな生徒がいて、どんな先生がいるのか。

 ちなみに生徒の数は一クラス二十人ほど、四クラスあるらしい。

 学歴順というわけではなく、皆バラバラ。

 学年ごとにクラス替えも行うと。

 私が入学するとすれば四年生からとなり、そうすれば殿下の弟さんと同学年なんだとか。

 

 

「四年生ですか? 一年生ではなく?」

「一年生から三年生は基本的な内容を、四年生からは発展的な内容を学ぶんだ。一年生からだとさすがに体格的にも難しいだろうと思う。基本的な内容は今まさにやっているしな」

 

 

 なるほど。

 じゃあ一年生は十三歳からだ。

 今の外見は十代後半だから確かに浮いてしまいそう。

 編入するならばもう少し学年が上がった方が混ざりこみやすい。

 

 

「殿下って何人兄弟なんですか?」

「三人だ。もう公務を務めてる兄が一人、弟一人」

 

 

 そういえば以前、「第二王子」って名乗ってた気がする。

 

 

「兄はともかく、弟にはいずれ会う時間を作ろう。正直どこまで話すか迷っていてな。決めるまではまだ待っていてくれ」

「はい。楽しみにしてます」

 

 

 区切りのいいところで、殿下が講師の講義を行う。

 私のいた場所での国語や数学などは、この国では基礎学に当たる。

 そして私の記憶の中ではそれらは『基本的なこと』に分類されるようで、そこまでの苦労はしなかった。

 数学には特にのめりこんだ。計算楽しい。

 あとは、やはりというか、生物分野は比較的わかった。

 社会はこの国では国学に当たるので、記憶として新しい。

 

 

「字も問題なく書けているようだな」

「スグサさんの体だからでしょうか。聞くのも困ったことはありませんし、違和感ないです」

 

 

 そう。

 体はこの世界に生きていたスグサさんの体なんだ。

 もともとこの世界にいた人の体なのだから、できることも多いのだと思う。

 ただ内臓がどうなっているのかまでは……考えたくはない。

 ここで、密かに疑問に思っていたことを提示する。

 

 

「スグサさんって、若くして亡くなったんですか?」

「そこは謎なんだ。本人が聞いているだろう状況で言うのはどうなのかと思うが、伝記では数十年は若い姿だったのだそうだ」

 

 

 つまりは何十年もこの姿で生きていたっていうこと……?

 

 

「この世界では『不老』というのは……」

「俺は聞いたことがない。むしろ俺もスグサ殿に聞きたいぐらいなんだが」

「……スグサさん」

 

 

 聞かれてましたか?

 

 ―― 聞いてた。

 

 回答っていただけるでしょうか?

 

 ―― ……まあいいか。もう死んでるし。

 

 

 スグサさんは必要な時に必要な分だけ教えてくれる。

 やや考える時間があったのは、それが必要なことかどうか、検討したからだろう。

 そして検討した結果、

 

 

 ―― 不老に近い状態ではあったが、不老ではない。

 

 

 こんな謎かけみたいな回答になったのは、意味があるのだろうと思う。

 

 

「うーん……?」

「スグサ殿はなんて?」

「「不老に近い状態であったが、不老ではない」、と」

「うーーーん?」

 

 

 そういう反応になりますよね。

 

 

 ―― ま、私様は最高位の魔術師だったんだぞ。できてしまうことの方が多い。『不老』に興味はなかったが、必要があったんで若い状態でいただけだ。

 

 

 まあ、確かに。

 逆に何ができなかったかを聞いたほうが、できたことを聞くよりも早そうだ。

 「必要があった」というのは、やはり研究についてだろうか。

 聞いてみたが、研究については詳しくは教えてくれなかった。

 というところで、スグサさんの話題は終わり、謎かけだけが残った。

 殿下とあれやこれやと言い合ったが、結局しっくりする答えは出ず、スグサさんも口を出してこなかったことで、自然と話題は変わっていった。

 

 

「じゃあそろそろ移動するか」

 

 

 と言い出した殿下は座っていた椅子からのっそりと立ち上がる。

 ちなみにどこに行くかは聞いていない。

 けど一人で座っているままなのもよくないかと思い、立ち上がって椅子を片付ける。

 荷物は学校のものが大半なのでそのままでいいようだ。

 手荷物は首から下げた許可証のみ。

 

 

「どこに行くんですか?」

「学校の中をふらふらと。今日は学校は休みだから生徒もほとんどいないが、一応フードは被ってくれ」

 

 

 自習室に鍵をかけて、職員室でクザ先生に声をかけて、さあ出発。

 行先は殿下にお任せで、学校散策が始まった。

 

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