【3/27 電子書籍一巻発売】魔術師は死んでいた。   作:彩白 莱灯

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第6話

 水柱は一分も保たず、次第に高さが落ちていく。

 打ち上げられた白髪(シオン)はどこに行った。

 

 

「っはぁ、……っ、どうだっ!」

 

 

 青髪(ロア)は息も絶え絶え。渾身の一撃だったようだ。

 水柱は尽きたのに、白髪(シオン)の姿がない。

 勝利宣言をしたいのか、青髪(ロア)は辺りを見回し、白髪(シオン)を探している。

 

 

「……? どこに……」

 

 

 下の方には青髪(ロア)の姿しか見えない。

 水柱の分の水が一体に広まって、歩いたら水音がする。

 焦って体を四方に向きを変える青髪(ロア)の水音しか聞こえない。

 となると。

 

 

「……ほほう」

 

 

 いた。

 

 

(イズ)中級魔法(フィフォ)! ≪隔絶された水槽≫!」

 

 

 白髪(シオン)の声が高い位置から響き渡る。

 水平にしか探していなかった青髪(ロア)は声の出所に気を取られ、まんまと魔法にかかった。

 ≪隔絶された水槽≫は水の拘束の魔法。

 水の四角い牢に閉じ込めるもの。

『隔絶』と名がついているだけあって、外気と遮断されるのが特徴だ。

 中級ゆえに使える人間は比較的多い。

 消費魔力も少ない。敵を弱らせるのにも使える。

 だからこそ、使用には注意が必要な魔法だ。

 

 

「……っ!?」

 

 

 決まったと思っていた作戦をやり過ごされ、反撃を受ける。

 さらに囚われて反撃不可能。

 水槽の中の青髪(ロア)は空気を吐き出しながら顔を歪める。

 大事なことだが二度は言わん。

 必要なことを話す。

 必要だから話す。

 私様が話すことはすべて必要な情報だ。

 殿下が立ち上がる。

 後ろから男教師の声が響く。

 

 

「そこまで!」

 

 

 声が響いたと同時に一陣の風が吹く。

 

 ぱしゃん

 

 水槽が、風に切られて形を崩す。

 水槽から解放された青髪(ロア)は這いつくばりながら体内に入った水を吐き出した。

 後ろから靴音が聞こえ、スピードを付けたその体はどこぞの少女の様に手摺を飛び越えた。

 

 

「お前らは加減ってのを知らねぇのか!!」

 

 

 めっちゃ叫んでる。

 こりゃお仕置きコースだな。

 王子サマが風の魔法を使わなければ、青髪(ロア)は窒息の危険性があった。

 王族の子どもが貴族の子どもを殺すなんてことはあってはならない。

 だからこそ王子サマは問答無用で水槽を崩したし、男教師も即座に声をあげた。

 

 もっと言えば。

 青髪(ロア)の水柱も今回みたいな決闘もとい模擬戦としてみれば幾らか威力をつけすぎだとは思ったが。

 学生同士の戦いで上級というのも度が行き過ぎてるんじゃないのか?

 何より貴族が王族をという事態になることが特に悪い。

 まあ人が人を殺すこと事態良くないんだが。

 そしてそれらが今ここで起こってしまった場合、監督者である教師にも責任が行く。

 青髪(ロア)が上級を使った時点で止めなかったと言うことは、白髪(シオン)が回避していることに気付いていたのだろう。

 だがその後の白髪(シオン)の魔法はだめだな。

 ありゃ止めなきゃ死ぬ。

 

 

「俺がどうなってもいいのか!」

 

 

 人質に使うような言葉を自分に使ってるやつは初めて見た。

 吹いた。

 青髪(ロア)には威力、白髪(シオン)には使い方についてきっちり指導し、最後は保身。

 あいつ面白いな。

 

 

 白髪(シオン)の魔法を解くために立ち上がってからそのままだった王子サマも、男教師の叫びを聞いたせいか、脱力したように座り込んだ。

 

 

「弟王子はやらかし王子ですか?」

「後先考えないところを直せとは言っているんだが……」

 

 

 日頃から言われている内容らしい。

 まだまだガキだな。弟王子。

 周囲に人がいなくなったところで、聞きたいことを聞いておこう。

 

 

 弟子。魔法は何ができるようになった。

 

 ――― 中級魔法を属性文で発動できるところまでです。

 

 詠唱はなしか。上級は?

 

 ――― 上級は詠唱ありで練習中です。風と闇はできます。

 

 

 ふむ。

 青髪(ロア)のレベルが平均でどれくらいかにもよるが、少なくとも弟子は青髪(ロア)よりも上だな。

 

 

「王子サマ」

「何か」

「喧嘩中の二人は学年で言うと平均と比べてどのレベルですか」

 

 

 青髪(ロア)は貴族だから平均より上の可能性がある。

 さらには成績も白髪(シオン)に対して自慢気だった。

 それを考慮するともしかしたら学年の中でも上位に入ると予想する。

 

 

「二人ともまだ基本を習っている段階ですが、二人とも優秀な部類です。魔法の成績だけで言うならシオンよりもロアの方が上です」

 

 

 そこは想定通り。

 

 

「そしてそのロアは、学年トップではないようですが優秀な方と聞いています」

「ちなみに誰から?」

「……ウ・ドロー家当主、ロアの父親です」

 

 

 息子自慢をする貴族は誇張せず、良い事実をこれでもかと自慢したがる風潮があるから、まあ親馬鹿評価ではないだろう。

 王子サマ相手に言うってことは媚び売って将来的には側近とか考えてたりしてな。

 

 

「あいつらの学年で魔法のレベルについては?」

「中級の魔法が発動できれば普通、属性文のみでなら優秀でしょう。四年生から発展的な内容になるので、しっかり学校で習うのはまだ先です」

 

 

 なるほど。

 やはり青髪(ロア)は優秀な方のようだ。

 上級魔法を発動でき、作戦通りに行えたのだから。

 弟王子もまあ優秀なようで。

 弟子は青髪(ロア)よりも上位に行きそうだ。

 入学までを考えればトップも夢じゃない。

 しかしそれでは目立ってしまう。

 ただでさえ編入生は目立つ。

 弟子の立場を考えれば誤魔化す必要があるか。

 

 

「……落ちこぼれとして入学させるのもありですかね」

「いや、もう遅いでしょう」

 

 

 だよなー。

 客人として紹介しちゃってるし。

 むしろ悪目立ちするよなー。

 となるとやっぱ、魔法の出力をコントロールして程々の立ち位置を築くしかないか。

 ま、いっか。

 入学するのは弟子だし。

 魔法のコントロールで頑張ってもらおう。

 目立ちだがり屋ではなさそうだし、慎ましく過ごせるのなら弟子にとっても都合がいいだろう。

 

 

「じゃ。私様はそろそろ」

「ああ。またいつか」

 

 

 にやっと不安にさせてしまう笑みであいさつ代わりとして。

 余計な人の眼がないうちに弟子と交代としよう。

 

 

 

 

 ―――――……

 

 

 

 

 目を開ければそこには、先生に怒られている男の子二人がいました。

 

 

「戻ったか?」

「はい」

 

 

 隣から声をかけてくれた殿下にぺこりと会釈して、前を見やる。

 青と白の頭が垂れ下がっている。

 二人の目の前にぼさぼさの頭から指導と言う名の叱責。

 その三人から距離を開けて様子を伺う何人か。

 先生の指導は終わりどころが見えない。

 さてどうしようかと問うよりも早く、隣の人が立ち上がった。

 

 

「行こうか」

「いいんですか? 弟殿下とは……」

「あの様子じゃあしばらくは無理だろう。時間も時間だ。最後の締めは模擬戦と思っていたんだがな」

 

 

 爽やかだけどどこか悪戯っ子のような雰囲気の笑みは、私に「安心したか?」と問うているようだった。

 ええ。

 安心しましたとも。

 ええ。

 座席から立ち上がり、訓練室①を後にする。

 訓練室②は素通りし、自習室に戻ってきた。

 机に広げた問題集や教科書をまとめる。

 殿下はカミルさんに来てもらうため、職員室に連絡しに行った。

 窓から見える景色はオレンジ色で、日が落ちるのが早くなってきたのだと実感する。

 片づけをして、お迎えを待って、お城に変えれば夕飯時には着いているはずだ。

 

 

 

 

 ―――――……

 

 

 

 

「じゃあまたな」

「はい。ありがとうございました」

「失礼します」

 

 

 校門前で殿下とはお別れ。

 殿下は寮に向かうため、お城とは方向が逆だ。

 感謝の意を込めてお辞儀し、カミルさんと帰路に就く。

 夕焼けの空には、ふわふわと宙を漂い、金色の鱗粉を撒く白い蝶らしきもの。

 青空で見たときもキレイだったけど、夕日でもキレイだなー。

 行きと同じように前を歩くカミルさんは、距離が空きすぎないように歩幅に気を付けて歩いてくれているよう。

 つかず離れず、程よい距離感で。

 無言でいることに違和感や苦痛はないが、せっかくなので話をしてみよう。

 

 

「カミルさん」

「なんだ?」

「今日、クザ先生と会いました」

 

 

 ピクリ、とカミルさんの肩が震える。

 表情は変わらないがそれは気付けた。

 

 

「そうか」

「年上に失礼かもしれないですけど、とても可愛らしい方ですね」

「……そうだな」

 

 

 素直だ。

 これを機に色々聞いてみた。

 クザさんとのこと。

 出会いについて。

 お子さんについて。

 嫌そうな顔をせず、いや、もしかしたら嫌だったかもしれないが、答えてくれた。

 愛妻家で家族愛に溢れている話だった。

 そんな幸せなお話が途切れたのは、あっという間にお城についたから。

 

 

「あ」

 

 

 お城についてすぐ、カミルさんが声を上げる。

 声から察する、「そういえば」と。

 

 

「殿下から、眼鏡の件の了承を得た」

「あ」

 

 

 続けて私が声を上げる番だった。

 そういえば。忘れていた。

 

 

「ありがとうございます」

「今から行くか?」

「……行きたいです」

 

 

 ということで、部屋に戻る前に寄り道が決定。

 以前は緊急事態の騒動に乗じて移動していたが、今日はそんな事態ではないので。

 外からこっそり保管室に向かう。

 丁度、夕飯時ということだったから人気は少なく、移動しやすかった。

 保管庫に入り、眼鏡を探す。

 

 

 ――― 向こう。

 

「こっちですか」

 

 ――― そう。んで上。

 

「上……あ、あった」

 

 

 うん。見せてくれた眼鏡と同じだ。

 試しにかけてみた。

 眼鏡越しに自分の手を見る。

 自分の知識が反映されると言っていた……『骨を見る』とかの指定でもいいのだろうか。

 

「あっ」

 

 殆ど度の入っていないガラスに映る手が、透ける。

 手根骨、中手骨、基節骨、中節骨、末節骨。

 不思議。骨の名前がわかる。

 手の骨以外は透けて、まるで骸骨だ。

 でもこれで≪透視≫の魔法が使えることは確かだ。

 

 

「カミルさん、手を貸してください」

「ああ」

 

 

 左手の包帯を外す。

 自分にした時と同じように、『骨を見る』。

 カミルさんの皮膚や筋肉が消えて、血管も神経も消えて、骨が浮き上がる。

 

 

「…………うん。折れてないです」

「そうか」

「てことは捻挫とかだと思うのですが、完治までは大体三十日前後を見てください」

「……長いな」

「少しぐらいの痛みだからって、あんまり使っちゃだめですよ。癖になりやすいですから。自分で弱点を作るようなものですよ」

「…………わかった」

 

 

 捻挫は本当に癖になりやすいから……。

 カミルさんは忠告を無視することはないだろうから、無理して動くことはないだろう。

 ……「弱点を作る」なんて、意地の悪いことを言ってしまった。

 

 

「ありがとうな」

「……え」

「? 俺のために言ってくれているんだろう?」

 

 

 クザ先生の言葉を、思い出す。

 「ありがとう」と言ったクザ先生の顔は、どんなだったか。

 

 

「……いえ。お大事にしてください」

 

 

 包帯を直す。眼鏡を元に戻して、保管庫を後にした。

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