【3/27 電子書籍一巻発売】魔術師は死んでいた。   作:彩白 莱灯

24 / 164
第9話

「さむっ」

 

 ―― あんの野郎……!!

 

 

 吹雪が吹き荒れるどこかの山。

 一人……スグサさんと二人、城から離れた雪山に飛ばされた私は、これから『討伐』という仕事をすることになった。なってしまった。

 

 ことの経緯は、同日の数時間前に遡る。

 

 

 

 

 

 ―――――……

 

 

 

 

 

 私がこの世界で生きていくと決めてから、もう数えきれないほどの日数が過ぎた。

 夏っぽい時期から冬っぽい時期になったから、向こうで言えば半年ぐらいは過ぎたことになる。

 向こうも同じだけ日数が過ぎているのか、はたまた全く時間は進んでいないのか、時間の流れが違うかもしれない。

 少なくともこの世界にいるだけで一年の半分は終わっているし、この世界の一年も終わりかけている。

 こちらの世界は一年は六百日。十二カ月。

 ひと月は五十日で統一している。

 季節は四ではなく六季ある。

 年の始まりから冬、春、湿、夏、秋、乾。

 向こうでは梅雨と言っていた部分がここでは湿に当たる。

 まあ日数と季節の個数が違うだけでほぼほぼ一緒だ。

 今、時期は冬。寒い。

 すっかり厚着をするようになった。

 フローレンタム国では屋根や道に雪が降り積もっている。

 お城の外ではしんしんと雪が降る中、訓練に励む騎士団の人たちの声が聞こえる。

 目の前の騎士は転んだわけではないが、腕を骨折をした。

 掌を上へ、下へ何度か返して、腕の動きを見る。

 

 

「動かして痛みはありますか?」

「少し」

「じゃあもう少し固定しておきましょう。添え木は外しておきますね。包帯で巻いているところ以外の関節は動かしてください」

「わかりました」

 

 

 雪のせいで転ぶ人が多い。

 そうすると転んだ表紙に手をついたり、腰や足の付け根をぶつけて骨折する人も多い。

 お城の医術室には騎士の人が怪我をして訪れるが、数はそんなに多くない。

 新規で怪我をしてくる人は一日に一人いるかいないか。

 クザ先生は街の医術室にも顔を出しているそうで、日に何人も訪れる人がいるそうだ。

 

 

「ありがとうございました」

「お大事にしてください」

 

 

 鎧の音を立てながら退出するのを見守って、部屋には今、私一人だ。

 今の騎士さんは骨折してからひと月は経っているので、もうほぼほぼ治っている。

 包帯は巻かなくてもよさそうだったのだが、注意喚起というか意識付けも含めて巻くようにしている。

 騎士という職業柄なのか、無理をしやすい。念のため。

 

 

 

「ふぅ」

 

 

 人と接するのはまだ緊張する。

 クザ先生は今は別件で部屋にいないので、医術室には私一人。

 今の人は何度か顔を合わせているのでまだマシな方だ。

 初対面の時には診察を渋っていて、実際診るときもツンケンされたことは記憶に新しい。

 その時と比べると今日は今までで一番丸くなった。

 ちなみに今の私の格好。

 タートルネックのロングワンピースを着て、その上にローブとフードを被っている。

 ローブは口元が隠れるほどに襟が大きい。

 足元はもこもこのショートブーツ。

 そして秘密のアイテム、『透視』の魔法が備わった眼鏡。

 顔もほとんどが見えないから、最初は警戒しない人はいなかった。

 けれど警戒されるたび、クザ先生も殿下も、カミルさんもアオイさんもロタエさんも説明してくれた。

 今では一人でいても対応できるほどに、私のことを『怪しいが大丈夫な医術師見習い』だと広めてくれた。

 

 時計を見ると時刻はお昼を過ぎたところ。

 そろそろ私の担当分野の部屋に行かないと。

 部屋を簡単に片づけて、医術室の札を『不在』『訓練場⑧』に直す。

 これから向かうのはお城にある施設の一つ、訓練場⑧。

 そこには過去大怪我をして退役した人たちが集まってくる。

 私の担当は、後遺症を持つ人たちの支援だ。

 廊下を歩いていると見覚えのある人が待ち合わせ場所にいる。

 

 

「よう」

「こんにちは。殿下」

 

 

 冬休みということでお城に滞在中のお人。

 暖かそうで質の良さそうな服にマントを羽織っている高貴なお人。

 窓の間の壁に背を預けたままこちらに手を振るお人。

 雪が降っている光景の中に映えるその姿。様になるなあ。

 訓練室でやる私のやることを見学したいと以前から言われていて、今日がその日となった。

 

 

「お久しぶりです」

「久しぶり。仕事はどうだ?」

「仕事には慣れてきました。けど人はまだちょっと身構えます」

「そうか。前進はしてるんだ。焦るなよ」

 

 

 殿下が学校の寮に戻ってから、不定期で会っている。

 私のお城での過ごし方とか、与えられた仕事についてとか、殿下が学校で習ったこととか、そんな内容を都度話している。

 私がお城で仕事を与えられたことについては研究員と大分揉めたと後々に聞いた。

 研究員としては「医術師のために作ったわけじゃない」「そんな使い方をするなら調査に回してくれ」と主張していたそうだ。

 それを殿下は。

 

 

「俺がしたい」

 

 

 王族らしい……と言ったら語弊があるかもしれないが、有無を言わせず承諾させたらしい。

 それを聞いて、王様の有無を言わせない投げやりな台詞を思い出し、何かに納得してしまった。

 

 歩き慣れたお城の廊下を、他愛のない話をしながら進んでいく。

 景色はだいぶ見違えてしまったが、それはなんとかこの世界で景色を見る余裕があるほどに生活できている表れなんだと最近気が付いた。

 殿下が無理な理由を付けて周りを納得させるのも、忙しい時間の合間を縫って気にかけてくれるアオイさんたちも、私のために行動してくれている。

 気付くのが遅すぎたかもしれないが、突然この世界に意識を持ち直してから、出会えた人は本当にいい人ばかりだ。

 魂を選ばれたのは置いといて。

 運がよかった。と思う。

 

 

「ここに来るのも久しぶりだな」

 

 

 目の前にあるのは『訓練場⑧』と縦看板のある扉。

 ある程度の人数が集められる広めの部屋で、お城の人たちがあまり来ず使わない場所を貸してもらっている。

『訓練場⑧』はお城の中でも奥まった場所にあるので使う人もあまりいないのだそう。

 ドアをノックして入る。

 中には男の人が三人ほど。

 いつもより少ない。

 

 

「殿下! お久しぶりです」

「お元気そうで……!」

「……ご無沙汰してます」

「久しぶり」

 

 

 殿下が来ることは伝えてあった。

 伝えたうえで三人は来てくれた。

 誰もいないんじゃなくてよかった……。

 騎士の怪我は勲章、と言われているが、それは騎士として現役でいられるのならそうかもしれない。

 もしくは永いことやり切った後で、そろそろ引退かなって考えるタイミングなら、そうかもしれない。

 中には若くてまだまだこれからだったり、精神的な怪我を負って引退を余儀なくされることもあるが、この世界ではその理解はまだ少ないようだ。

 今いる三人は、切断、外傷による神経損傷、精神疾患をそれぞれ抱えている。

 

 

「すみません。時間も限られているので、殿下は少し離れたところで見ていてもらってもいいですか」

「わかった。扉の辺りでいいか?」

「いえ、できれば反対側で」

「? わかった」

 

 

 部屋の奥、扉と反対側に待機してもらい、私たちもようやく動き出す。

 

 

「じゃあいつも通りに。いつも通りの順番でやりましょう」

 

 

 最初は切断の人。

 足の中間からバッサリ切れてしまっており、歩くのに不便が生じている。

 原因は馬のような生物に乗っていた時に攻撃を受け、転倒。

 足を掛けていた金具で足自体を痛めてしまったことによる怪我だ。

 

 

「歩きと長時間付けていることで、違和感や痛み、痺れはありますか?」

「いや。最近はほとんどない。農作業してても大丈夫だ。痛みが出てきたら休憩をとるようにして、一日活動してても支障ないぐらいだ」

「よかったです。その使い方でいきましょう。予備をいくつか作ってきたので、今日は持って帰ってください。あと今日は杖は?」

「あ、忘れた」

「じゃあまた今度持ってきてください。杖なしで歩いてみましょう」

 

 

 切断で失われた部分には、疑似的で着脱式の足を作った。

 つまり義肢だ。

 向こうの世界でも数えるほどしか作っていなくて不安だったけど、この世界特有の魔法で何とかなってしまった。

 魔法って便利。

 人体そのものが再生できるわけではないが、代償の何かを作り出せる。

 それがその人に受け入れられれば。

 止む無く足を切断してしまった人のように、歩き出すことができると思う。

 

 

「うん。怪我をした足にも体重をのせられてますし、方向転換もぶれなく安定していますね」

「ただ歩くより農作業の方がきついな」

「そんなもんです。でも無理な体勢にはならないようにしてくださいね」

「心得てるぜ」

 

 

 切断の人はもうすぐで卒業してもいいかもしれない。

 あとは支給した杖がこの人にあっているかだけだ。

 それを確認したら、卒業第一号かも。

 次は、神経断裂の人。

 怪我をしたのは腕。

 肘から下がだらんと垂れ下がり、左右の腕を見比べただけで明らかな筋力差がわかる。

 しかも利き腕なので、日常生活への影響は大きい。

 垂れた腕の管理が不十分だったので、首にかけて腕を支えられるバンドを作った。

 これで振り回してぶつけたり、踏みつぶしたりすることはなくなったが……。

 座って、力の入らない腕を触る。

 抵抗力もない腕は容易く曲がり、私が支えなければ文字通り落ちて、関節で引っかかったように止まる。

 

 

「肘を曲げてみましょう」

「……っ」

「……はい、ありがとうございます」

「…………やっぱり、だめだな」

 

 

 眼鏡の≪透視≫を使っても、肘から下の筋肉の収縮は本当にわずかなもの。

 腕の重みを持ち上げるほどの力は発揮できていない。

 さっきの切断の人と違い、自分の体の一部はここにある。

 なのに自分の体とは思えないほど使えない、そんなもどかしさがこの人の中にある。

 

 

「動かそうとする意志は腕まで伝わっています。けれど微弱なので、動かすという結果には伝わっていない状態です」

「……そうか」

 

 

 この人は諦めてはいない。諦められていない。

 怪我をしてから何年も経っているし、その間にやっていたことは、現実逃避とがむしゃらに体を使うことだけだと聞いている。

 一度失った機能を取り戻すのは、失った直後の行動が特に大事だ。

 この人は、それを当に失ってしまっている。

 この世界では、諦めなければ、それこそ魔法のような力でなんとかなるのだろうか。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。