【3/27 電子書籍一巻発売】魔術師は死んでいた。   作:彩白 莱灯

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第11話

「さむっ」

 

 

 吹雪が吹き荒れるどこかの山。

 お城にいたはずなのに、一瞬でこんな所に移動しているだなんて。

 これが噂に聞く≪転移≫だろう。

 着こんだ格好ではあるが、お城の中での服装で吹雪の中にいるのは寒い。

 このままでは凍えて死んでしまう。

 

 ……死ぬ? 死ぬのかな?

 

 

 ―― あんの野郎……!!

 

「スグサさん?」

 

 

 独りぼっちだと思っていたが、切っても切れない位置にとても頼りになる人がいたことを思い出した。

 忘れてないですよ。

 なにやら憤慨しているようだ。

 

 

 ―― 気持ち悪い! おい! 変われ!

 

「えっあっ、はい?」

 

 

 姿は見えないはずなのに怒涛の剣幕が見えるようで、いつものことなのだが有無を言わさず体の主導権を譲ることとなった。

 

 

 

 

 ―――――……

 

 

 

 

 あぁ気持ち悪い気持ち悪い!

 他人の魔力を纏うほど気持ち悪いと思ったことはない!

 アイツがわかっててやったんなら本気で殺す。

 アイツのことはもう二度と名前で呼ばん。

 浄化の魔法でアイツの魔力の残り香を消した。

 まだ纏われていることには変わらないが、致し方ない。

 寒いのも嫌いなのでついでに防風・防寒・撥水・保温の魔法を自分の体に施す。

 

 

「ふう。よし」

 

 

 落ち着いた。

 が、いつまでもここにいるわけにもいかない。

 辺り一面真っ白。

 吹雪のせいでフードは着けていられず、髪の間に雪が混ざって湿っている。

 バッサバッサと髪が乱れるので、紐だけ作って髪を結った。

 あいつの思惑通りに動くのは癪なのでさっさと帰ってもいいのだが、兄があったのかは気になるとところだ。

 

 

 弟子。一先ず私様が動く。状況を確認しに行くぞ。

 

 ―― 殿下たちを待たないんですか?

 

 待っている時間があればさっさと動いて終わらせる。

 

 ―― ……わかりました。

 

 

 了承まで時間が空いたが、不満というわけではなさそうだ。

 言ってしまえば「ふーん」みたいな感じ。

 あまり突っ込んでくる気配はないので自由にさせてもらおう。

 雪の中はとても歩きにくいことこの上ないので、風の魔法を使って雪の上を滑るように移動する。

 ≪透視≫の眼鏡をかけていたおかげで、雪を透かして山の様子を探ることができた。

 ウロロスと思われる影を見つけ、一直線に向かう。

 幸い、私様たちが風下にいたので、高さに気を付けながら進む。

 

 

 ……いた。

 ここからなら遠近法で手の上に乗る程度の大きさだが、近づいたら余裕で丸呑みされるぐらいの大きさはあるだろう。

 ウーとロロより大きそうだ。大人の個体だな。

 六匹、いや。七匹いるな。

 頭は十四だが。

 ウロロスの使う魔法は水。

 十四の頭が多方面に、それこそお互いのことも構わずに水の魔法を使いたい放題している。

 なぜこんなことになっているのかはわからないが、ギルドが関わっているのだとすれば、人的要因が考えられるところだが。

 人の気配は……ふむ。

 

 

「さーて。どうすっかね」

 

 

 ウロロスなら飼ってたし、生態についてもよく知っている。

 大人しくさせて凍らせてしまえばいい。

 だが。

 あいつの思惑通りに動くのは、やはり癪。

 研究員のことだから、まさか私様が負けるなんてことは考えていないだろう。

 それこそあいつらの自信作なのだから。

 だとしたら目的は処分ではなく達成だ。

 ウロロスを討伐するなり治めることをお望みなんだろうなあ。

 わりと本気で考えていると、ウロロスから離れるように移動する魔力を持った何か。あれは、人だ。

 

 よし。決めた。

 即行動。

 

 向かって右側、山の麓の方へ逃げる人間は一人。

 風上へ移動し、距離を開けたところから魔法で眠ってもらうことにした。

 

 

  闇属性魔法 ≪回想の香≫

 

 

 弟子にはお馴染みの魔法。

 よく寝ていてくれるし、香りだから距離を開けてても風上からなら効果は届くから今は都合がいい。

 体勢を崩して雪の上に倒れこんだ。

 近づいてみると、雪山に適した格好をしている。

 ここに来ることを目的にしていた奴だろう。

 元凶か巻き込まれたかは知らんが。

 さすがにこのままでは死んでしまうので、闇属性魔法の≪実況中継部屋≫で外界と遮断。

 黒い靄がこいつの周りに漂う。

 精神状態もわかるから、もし目を覚ましたり行動を起こしたらすぐわかる。

 ポケットの紙は抜いておいた。

 ちなみに弟子が女魔術師にかけられたのも、ウーとロロが保管庫でかけられたのもこれだ。

 

 下準備はこれでいいか。

 

 より風上にいるウロロスたちは変わらず暴れ続けている。

 このままでは本当に雪崩でも起きそうな勢いだ。

 だが、私様がやるのはここまで。

 

 

 弟子。

 

 ―― はい?

 

 あとはお前がやれ。

 

 ―― ……はい?

 

 

 聞こえないことはないはずなんだが、聞き返された。

 知らないふりをするつもりだが、焦っているようだ。

 

 

 私様が動くのはここまでだ。

 あとはお前がやれ。

 

 ―― …………いやいやいや。私に何ができるっていうんですか。

 

 何かやるんだよ。

 魔法は練習してんだろ。

 

 ―― やってますけど、え、どうしろと?

 

 どうするかは教えてやるよ。

 とりあえず交代だ。

 

 

 ウロロスの対処の方法を知らないやつに全部任せるほど、私様も鬼じゃない。

 魔法を使うちょうどいい実戦だ。

 嫌だとしてもやらせる。決定。

 

 

 

 

 ―――――……

 

 

 

 

「さむ……くない」

 

 

 この意識の取り換えについて呼び名が欲しいところだが、とりあえず交代させられてしまった。

 状況は……。

 スグサさんがかけてくれた色々な魔法のおかげで、寒さはもう感じない。

 というより暖かいとすら思う。

 すぐ横には黒い靄の球体。

 ロタエさんが私に魔法を試しに使ってみるように言った時に使用されたものだ。

 懐かしい。

 その中には暖かそうなもこもこの服を着た……たぶん男の人。

 ゴーグルやフードをがっちり来ていて顔は見えない。

 ただ怪我をしているようで、右肩が傷ついている。

 肩周りは血で染まっているし……。

 

 

 これ、止血とかしないでいいんですか?

 

 ―― すぐには死なんだろ。先にウロロスを仕留めてからでいいと思ったが。

 

 これの中って寒くないですか? 暖かいほうがいいと思うんですが。

 

 ―― じゃあ魔法の内に魔法かけろ。やり方は教えてやる。

 

 

 靄の中は外気がそのままなので、体温維持のために保温の魔法をかける。

 表情は辛そうだが、傷口を圧迫できる物もないから、ひとまずはこれぐらいしかできない。

 靄はスグサさんがかけてくれた魔法だから、そう簡単には解けない……と思うし、しばらく待っていてもらおう。

 ウロロスの方を向いて、対策を考える。

 風上にいるから雪が邪魔だが、幸い眼鏡をかけたままだったので、ゴーグル代わりになってくれている。

 

 

 ウロロスを大人しくさせるにはどうしたらいいんですか?

 

 ―― ま、眠らせるのが早いな。だがあそこまで興奮してちゃあ早々眠らないだろうし、疲れさせるのが第一だな。

 

 

 結構暴れててもまだまだ元気そう。

 それどころか本当に雪崩が起きてしまいそうだから、暴れるにしても場所を変えてもらった方が良さそう。

 

 

 魔法でウロロスを隔離しますか?

 

 ―― そうだな。その上でまた派手に暴れさせる。治まってきたら氷漬けにしてやればいい。

 

 ……私が使う魔法で大丈夫でしょうか……?

 

 ―― まずはやってみろ。どの魔法を使うかは決めたか?

 

 ……一応。

 

 

 魔法の名前を挙げて、「それでいい」と了承を得た。

 今の距離では魔法を使うには離れすぎているので、近づくしかない。

 ウロロスの方に向かうとなると、向かい風なので飛んで行くのはより難易度が高い。スグサさんのように雪の上を滑ることも考えたが、慣れない場所で慣れない魔法を使うのは思わぬミスにつながると思った。

 なので、考えた。

 

 

(ナル)上級魔法(ゼヴェニィ) ≪愚者一掃≫」

 

 

 自分を中心に、大きな竜巻が巻き起こる。

 吹雪を巻き込みより想定より強い風が、音や振動に敏感なウロロスを刺激するはずだ。

 

 

 ―― 数秒で良い。解いたらすぐ次の魔法の準備をしておけよ。向こうから寄ってきてるはずだ。

 

「はい」

 

 

 頭の中で返事をすればいいのに、思わず声に出してしまった。

 でも周りには人はいないし、いっか。

 

 十秒経つ前に、魔法を解く。

 遠近法で手乗りサイズだったウロロスは、もう手に乗らない程度には近づいてきていた。

 これがすぐ近くだと私が乗れちゃうサイズだもんな。

 ……思ったより近づいてきていたから、思考が現実逃避してしまった。

 次の魔法のため。

 そして頑丈な、そして大きな物を作るために、魔力を多めに練る。

 視線はウロロスの方に向けたまま。

 スグサさんが視界を確認して、魔法のタイミングを計ってくれている。

 

 

 ―― ……用意。四、三、二、一。

 

(アー)最上級魔法(ナエト)

 

 

   ≪放り込まれた玩具箱《おもちゃばこ》≫

 

 

 ウロロスがコンパクトに、一列にこちらに向かってくれるなんて奇跡は起こらなかったので、保管庫七部屋分以上の大きさで魔法を展開した。

 見た目は真っ白な箱だったんだー。

 実はこの中に入ってばかりで見たことはなかったなー。

 

 

 ―― 余裕そうだな。

 

「……思ったより、辛くはないですね」

 

 

 一つの体に対して、魔法は結界系が二種類発動中。

 保温や防風などの付与系が四種類。

 単体発動は一種類発動した。

 たぶん、多いほう。

 

 

 ―― 私様の記憶では、魔法の同時発動は三種類できればなんかすごいって言われてた気がする。

 

「スグサさんは本当に別格なんですね。付与系で四種類」

 

 ―― お前、自分がやったこと自覚しておけよ?

 

 

 この流れで課題を追加された。

 「一般基準を学べ」と言われてしまった。

 一般的じゃないことをやったことはわかってたけど……必要なことではあると思うので意見はしないでおいた。

 

 ≪玩具箱≫の中でウロロスたちが暴れているのがわかる。

 見た目には何の変哲もない箱も、魔法の使用者だからか振動が絶えず伝わってくる。

 これから箱の中に入って、ウロロスたちを疲労させなければならない。

 

 

 ―― 水は使うなよ。あいつらの十八番だ。やるなら火。

 

「火は……ウロロスたちが危なくないですか? 死んじゃったりしませんか?」

 

 ―― そこは加減次第だな。あいつらは熱に弱いから、燃やすまではいかなくてもその程度でいい。

 

 

 ウロロスが使う魔法が水属性ならば、火を使っても対処は出来るだろうとのこと。

 対策できるほどの知能があるんだなーと感心。

 燃やさない程度でいいのなら、怪我をさせないで済む方法があるかもしれない。

 

 

「じゃあ、行きます」

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