【3/27 電子書籍一巻発売】魔術師は死んでいた。   作:彩白 莱灯

29 / 164
第14話

 何を話すかと言うと、もちろんあの怪我人の話だ。

 

 

「どーも」

「いつになく不機嫌そうですね」

 

 

 赤髪にそう言われ、否定しない。

 自覚もある。

 (くだん)の研究者の意地汚いやり方にイライラしているからだ。

 適当な位置に手を差し出し、空を掴む。

 手を引けば目的の物が握られている。

 弟子はこれを「手品だ」と言っているが、手品ってなんだ。

 

 

「それは?」

「怪我人の所持品です」

 

 

 机の方から見たそうにしている殿下とその周囲の人間。

 だが、見せない。

 私様は別に意地悪しているわけではない。

 むしろ優しさに溢れているからこそこうしているのだ。

 ……っていうのは言わないとわからなそうだなぁ。

 

 

「見ることはお勧めしませんよ。あんたらでは黒幕に利用されかねない」

「……スグサ殿は、何を知っている?」

「お話ししましょう」

 

 

 ソファーに深々と座り直し、足を組む。

 スカートは履いた記憶はほぼないが、これはこれで楽だな。

 内心別のことを考えながら、私様の考察を語る。

 

 まず、このくすねた手紙のこと。

 この手紙には暗示……催眠と洗脳と言った方が正しいか、その類の魔法が込められている。

 それは魔術師団長や副団長だという赤髪たちが見るのもやめておいた方がいいと確信するレベルの強い物。

 当然だが私様には効かない。

 

 なぜそんなものを怪我人が持っていたか。

 一。怪我人は催眠の魔法をかけた張本人。

 二。怪我人が催眠の魔法をかけられていた。

 三。拾った。または何らかの方法で手に入れた。

 

 絞り込みは内容から推測できた。

 その内容とは、『―― 最上級(-) センリの山にて氷の破壊、または融解を行うこと。報酬は ――』と書かれている。

 雪で濡れたのか、この前後は滲んでしまって読めない。

 難度は特級の+(プラス)を上位として、下位が初級-(マイナス)だったはず。

 それは私様の時代から変わっていないらしい。

 初級、中級、上級ときて最上級ならば中の上だ。

 その上は特級があるだけだから、危険度は比較的高い。

 難度の高いものほどリスクを書面化する必要があるのに、恐らくは、センリの山の注意点がこれには書かれていなさそうだ。

 こんなもの、ギルドの依頼だとしたら大問題だ。

 となるとギルドを通していない。

 もしくは、ギルドにこれを仕組んだ奴がいる。

 そして、紙の内容と怪我人が怪我をしていた理由から、紙を持っていたのは依頼を受けたからだ。

 一人か複数人かで、依頼の通りに氷を破壊するか溶かすかしたのだろう。

 ウロロスが眠っているとも知らずに。

 

 ここからさらに、もし怪我人一人で任務を受けていたのなら。

 あんたたちの話に上がっていた謎の男は依頼主か、ギルドで依頼を通した奴か、またはこっそり監視してたんだろう。

 どれにしろそいつがウロロスが暴れるのを確認して、ギルドに戻り城に救援を出すように誘導した。

 もし複数人で依頼を受けていたとしたら、怪我人以外は死んでるだろうな。

 喰われたか、遭難したか、口封じか。

 

 

「ここまでで質問は?」

 

 

 一気に話したが、誰も何も口を挟まなかった。

 顔は何か言いたげなようにも見えたが。

 まあこっちが話しているんだ。

 まずはすべて話させてもらえると説明する側としても楽だったし、いいんだが。

 一番何か言いたそうに見えなかった女魔術師が小さく挙手。

 

 

「催眠の魔法とはどのようなものかわかりますか」

「≪虫に食われた指人形≫だな。何らかの目的を達成するまで利用されて、さらに記憶操作されたんだ。≪回想の香≫で眠らせたから任務の前後の記憶は普通より残ってたはずだ」

 

 

 なぜ私様があのタイミングで弟子と変わったか、今の一言で察しがついたようだ。

 王子サマは綺麗な顔を歪め、他の三人も眉を寄せたり、表情を暗くしたり、舌打ちしたり。

 

 

「じゃあその怪我人からは、聞き出せる情報はない、か……」

「でしょうね」

 

 

 ≪回想の香≫を使ったのはたまたまだったが、思わぬ収穫が得られたのは幸いだ。

 耳かき一杯程度だが。

 

 

「他になければ話を続けますよ。その催眠の魔法をかけた奴だが」

「わかるのか」

「ベローズですよ」

 

 

 座っていた奴らが一斉に立ち上がった。

 赤髪は目の前のテーブルに足をぶつけていたが、痛みがいないのか痛みを忘れるほどに驚いている。

 女魔術師でさえも目を見開いてまあまあまあ。

 

 

「そんな驚くほどか?」

「驚くだろう!」

 

 

 王子サマ直々の突っ込みとはなんとも光栄な。

 

 

「座ってくださいよ。話はまだあるんですから」

「いやいや、ベローズを拘束するのが先でしょう!」

「いいから話を聞け」

「ん゙んっ!?」

 

 

 隣に座っている赤髪が出て行こうとしたので、組んでいた上の足でこいつの足を踏みつけた。

 感謝するんだな。体を震わせるほど有難く思われるのはさすがに気持ち悪いぞ。

 

 

「あいつは泳がせろ」

「なぜですか!」

「それを今から話すんだよ。聞け」

 

 

 同情の目をしてる奴らもしっかり聞けよ。

 催眠の魔法だが、私様には効かないものの大したものだ。

 魔法そのものはベローズの魔力だが、さらに相当な魔力を込めてやがる。

 そうだな。人間の一生使う魔力二人分は使ってるな。

 そう。二人分だ。

 なぜそんな大量の魔力を、ベローズが保有している?

 ……気になるだろ。

 だから泳がせとけって言ってんだ。

 手紙は発見しただの回収しただの言えるが、あんたらじゃこの手紙見た時点で操られてる。

 これを提示しようものなら鎖みたく連なってどんどん広まるだろ。

 操られないのは私様ぐらいだろうに、どう説明する気だ? 赤髪。

 それと、ベローズが今回の黒幕だったとして、なぜこんなことをしたかだが。

 

 

「……ヒスイか」

「でしょーね」

 

 

 弟子に手柄を上げさせる。

 それはウミノオヤのベローズの功績とも言える。

 戦闘力が認められれば城から離すべきではないと賛同者も増えると考えたのかもな。

 もっと言えばベローズは弟子を研究したいはずだ。

 今回の実績をさらなる発展に活かしたい気持ちもあったかもしれん。

 

 

「子離れできてねー奴だ」

 

 

 …………キモ。言うんじゃなかった。

 

 

「だが、所長はヒスイが帰宅したとき、何も反応していなかったぞ」

 

 

 騎士団長の言うことはもっともだ。

 が。

 その理由もわかっている。

 

 

「一つ。ベローズは怪我人と接触していない。顔も知らなかったんだろう」

「なぜ言い切れるのですか」

「情報を与えないためだ。いくら催眠の魔法を強力にかけているとはいえ、可能性はできる限り潰しておくべきだろう。研究者は用心深いんだ」

 

 

 同業者だからわかる。

 だがまあ本当に、『覚えているかもしれない』なんて可能性はないに越したことはない。

 城に属する者が、危険を明記しない完全不備の依頼を出しただなんてな。

 しかもそれは私欲のためと言っても過言ではないのだから。

 

 

「そうは言っても、その可能性がないことも確認はするだろうな」

「というと……保護した後に」

「だろうな」

 

 

 城に到着。

 怪我人を引き渡し。

 夜だから見張りは付けつつも人気は減る中。

 ベローズが直接接触することはないだろうから、未だに謎の奴が介したかな。

 手紙はすでに私様が回収してしまったから、持っていないと判断したのか?

 テキトーな奴かもしれないな。

 

 

「とまあそんなところと踏んでいるがな」

 

 

 足を組み直す。

 たくさん話したから茶でも飲みたいところだが、あいにくそんなしゃれたものは今はないようだ。

 やれやれ。

 以降、手紙の処分は私様に任された。

 というか私様しかできないし。

 さらにベローズの監視、怪我人の保護、そして謎の人物の調査を行うことが決まり。

 あと弟子の学校生活準備も。

 城の人間が国民を危険にさらしたことを、王子サマとしては見過ごせるものではないだろう。

 これ以上ないほどに悔しそうな顔をしていた。

 しかし城で堂々と動けるという状況と、弟子のこともある。

 弟子の体に何かがあれば、診れるのはベローズしかいないと考えているのだろう。

 だから、ベローズを拘束したりすることは今はできない。

 今できることは、せめて損害が大きくならないよう、後の先をとることだ。

 

 

 

 

 

 ―――――……

 

 

 

 

 

 灰色の以下略。

 胡坐と正座で以下略。

 ≪嘘つきな鏡≫は今日も使ってる。

 魔法を使ったり討伐したり、暗躍されていることを知ったりだが、その点についてどう思っているかを聞いたのだが。

 

 

「まあ、そうですよね」

 

 

 とどこ吹く風。

 私様の方が表情が多く変化してしまう。

 違うそうじゃないんだ。

 

 

「お前、危機感とかねぇの?」

「ないことはないと思いますが……」

「お前の考えを二百文字程度で述べよ」

「小論文?」

 

 

 両手を膝に乗せて、背筋は伸ばして、目線を斜め上。

 頭の中で考えでもまとめているのだろう。黙って待ってみる。考えるときってどうしてそういう行動なんだろうな。

 

 

「えと。ベローズさんや狙ってきている人? についてなんですが」

「おう」

「がんばってるんだなーって」

「…………えー……」

 

 

 十文字……!

 

 

「ベローズさんが私……『五番』に執着するのは、それだけ大きな研究だったからなんだと思います。お爺さんの代から続けてきた研究を達成したんですから、当然かなと」

「ああ……まあ、悲願の達成だろうな」

「なので納得はしてます。少し困りますけど」

「少しで済ませるのか」

 

 

 こいつちょっとやばいんじゃないの?

 へらへらしていればもうちょっと心配できるんだが、何分こいつは通常運転の真顔だ。

 強がりを言っている様でもないし、むしろ至極真面目に言っているように見えてしまう。

 長所としては警戒心がない所か。

 アイツは人形と言っているのだし、怖がったり警戒したりすれば違和感を持つだろう。

 今ぐらい平然としている方が、向こうの動きを調べるうえではいいかもな。

 向こうも警戒心を抱きにくいわけだし。

 んーーー。

 優先事項は向こうの状況を知ることだ。

 後の先をとるためには今のままで言ってもらうか。

 

 

「まあいいや」

 

 

 そういう奴なんだ。

 弟子のことを知りたかったのだから矯正する必要はなし。

 

 

「私からもいいですか?」

「おう。なんだ?」

「ウーとロロは冬眠しないんですか?」

「ん? 言ってなかったっけ?」

 

 

 ウーとロロはウロロスだが、違う性質を持っている。

 特異体質ってやつだ。それも原因があるものなのだが、詳細は省く。

 ちびどもも冬になれば冬眠する。

 私様がいない間に眠っていたのはそれのせいだ。

 だがあいつらは氷じゃなくて石の中にいただろ。

 それがミソなんだ。

 あの石は私様が与えたものだ。

 保温の魔法が込められている。

 だからあいつらは冬の間でも冬眠することなく過ごせる。

 食事も飼い主である私様が与えていたしな。

 ちなみに特異体質である所以は、夏になると溶ける。

 これは普通のウロロスにはない特徴だ。

 溶けた液体をまとめておけばいずれ戻る。

 

 

「じゃああの石を身につけておけば大丈夫なんですね?」

「そういうことだ」

「わかりました。納得しました」

「じゃあ今後のことを話すぞ」

「はい」

 

 

 今後のこと。学校のことだ。

 雪山で使った魔法は学生レベルとしては行き過ぎていた。

 なのでこれからは通常の魔法を練習しつつも、一般学生レベルを知ることも必要だ。

 やることが増えた。

 コントロールの練習にもなるが、ぶっ放すよりは確実に面倒になる。

 がんばれ。

 

 

「あと二月後ぐらいか」

「百日程度ですね」

 

 

 四年生として編入し、城を出て寮に入ることが改めて決まった。

 城から離れることにはなるが、学校の方が人目も多いしいい面もあるだろう。

 だが、弟子が担当している負傷兵の訓練をするために数日に一回は城に戻る。

 これはアイツからの提案だ。

 十中八九、鉢合わせたり城から離れられないようにするためだろう。

 足元見やがったな。

 

 

「いろいろとやることも増えて忙しくなっただろうが、目標は三十日間で一般程度のレベルを自在に操ること」

「三十って、ペースとしては早い気がしますが……」

「間に合わなくなるだろ」

「何にですか?」

「編入試験。え、受けるんだろ?」

 

 

 初めての表情変化は、口をぽかんと開けた阿呆面だった。

 

 

 

 

 

 ―――――……

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。