【3/27 電子書籍一巻発売】魔術師は死んでいた。   作:彩白 莱灯

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第3話

 筆記試験が終わった。

 できたような、できてないような、不安。

 自信はあるんだけど、試験はまだ終わってないから見直しができない。

 お城に戻ったらすぐ解き直しをしないと落ち着かない。

 自己採点は怖いけど、しないでいるのも落ち着かない。

 後ろの席から送られてきたに自分の回答用紙を裏返しで乗せて、また前の人に渡す。

 全員分が回収されたら指示通り、最初の部屋に戻ってきた。

 一番扉側の席に座っていたので、先頭で戻ってきて訓練室①の扉を開けた。

 ら。

 

 

「僕はっ、まだっ、一人でいたいんです!」

「んまぁ! そんなこと言わないでくださいまし! ぜひ(わたくし)の娘と今度お会いになってくださいな!」

「いいえ、(わたくし)の娘と是非!」

「僕から声かけますからっ!」

「今度お茶会を開くのでいらしてくださいませ!」

「うわあぁぁぁあっ」

 

 

 囲まれていた。

 訓練室の奥まで追いやられたアオイさんを、ドレスを着た奥様方が取り囲んでいる。

 男性陣は遠巻きに集まって眺めているだけのようだ。

 扉で立ち止まってしまっていたら、なんだなんだと後ろから覗き込む人に押され、室内に入り込んだ。

 バランスを崩して転びかけたが、何とか耐える。

 体を起こして視線を戻すと、目が合った。

 おもちゃを見つけた犬のような目をしている。

 

 

「おかえりー! 今そっち行くねー!」

「っ」

 

 

 室内全体の視線が、先頭にいる私に集まった。

 ご婦人方からの目線は「あの子はいったい何なの」と睨まれているようで痛いし、男性陣からは恰好のせいか「なんだこの怪しい奴は」と疑いの目を向けられている。

 体は硬直する。

 見られたくなくて、足元を凝視する。

 少し離れたところからアオイさんの声が近づいてくる。

 早く来てほしい。ここにいれば来てくれる。

 ここにいれば……。

 

 

「はぁっ、ごめんね。さ、行こう」

「っ、はい……」

 

 

 抜け出るのと駆け足で来てくれたのとで少し息を上げながら、肩を抱えられて最初に座っていた椅子に戻った。

 他の保護者の人たちも、自分たちの子どもが戻ってきたことに気付いてそれぞれ迎えているようだ。

 室内はまた賑やかになる。

 

 

「試験はどうだった?」

「まあまあ、ですね。何とか全部埋めました」

「よかった。じゃああとは実技だ。もう安心だね」

「気が早すぎですよ」

 

 

 緊張感をほぐしながら、休憩中は筆記試験の内容を振り返る。

 試験中、正直な話、スグサさんに聞きたくなる問題もあった。

 内側から「ほうほう」「ふーん」「なるほどなー」と聞こえ、そのおかげで聞きたくなる気持ちは落ち着いた。

 天邪鬼だったんだな、私って。

 対抗心もあってから、解答欄を埋めるための努力はいつも以上にできた気がする。

 

 

 

 

 

 ―――――……

 

 

 

 

 

 解き直しもそこそこに、休憩の一時間はすぐに終わってしまった。

 すでに何人かが実技試験を受けている。

 呼ばれ方は申し込み順らしい。

 だから位や筆記の結果は関係ないと、ヒイラギ先生が言っていた。

 今、子が戻ってきた。

 そして別の子が呼ばれ、部屋を出て行く。

 その間に、小声で魔力量測定についてアオイさんとおさらいする。

 

 

「測定の仕方は、魔力を込めるだけなんですよね?」

「試験方法については確認したからそのはずだよ」

 

 

 測定方法は場所により色々あるそうだが、学校ではで水晶の色で判別するとのこと。

 明確な数字は出ないうえ、込める魔力によっては判定も操作できるというもの。

 ほとんどの人は最大値を出そうとする。

 私みたいな魔力が多すぎて少なく偽る人はそうそういない。

 必要なときに明確な魔力量が欲しい場合は、別の手段を使うとのこと。

 学生時は伸び盛りなのと、区別を付けないために大まかな色で見ているのだそうだ。

 

 

「私が目指すのは薄い黄色でしたよね」

「そうそう。普通より多めね。その方が便利だろうから」

 

 

 色の種類は、下から黒、青、赤、黄、白、そしてまた黒。

 水晶は透明だが、魔力を込めると下の色から順に変化していく。

 だから私は、黄色になってから白へ変わる直前まで魔力を注げばいい。

 うっかり入れすぎると即効で黒になると言われている。

 むしろ割れるかもしれないらしい。

 スグサさんの魔力すごい。

 

 

「できるかなぁ」

「ゆっくり注いでいけば変化も急じゃないから、大丈夫だよ」

「うーん……」

「気にしすぎ気にしすぎ! 的当ても忘れないようにね」

「あ、そうでした」

 

 

 肩を叩かれながら、頭の中で的当ての文字が突然飛び出てきた。

 魔力量測定も的当ても、結局どちらもコントロールだ。

 そう考えたらどちらもやることは一緒。

 うん。できる気がしてきた。

 もう大半の生徒が呼び出され、戻ってきただろうか。

 嬉しそうに両親に報告する子。

 残念そうに肩を落とし、慰められている子。

 自信満々に椅子にふんぞり返っている子。

 そわそわと落ち着かない様子で、扉を何度も確認する子。

 十人十色だ。

 また一人、戻ってきた。

 親の元へ描けて戻ったその後ろから、呼名係の先生が書類を見ながら名を読み上げる。

 

 

「ヒスイ……? ヒスイさん、試験に向かってください」

「っ、はい」

「がんばって」

 

 

 また視線が集まるのを感じながら、かけてもらった声援で頭を埋め尽くす。

 そうしないと緊張に持って行かれそうだったから。

 扉を出て、聞こえた蔑称を聞き流しながら、扉を閉めた。

 

 向かった先は筆記試験を行った部屋と同じ。

 前の部屋で私を呼んだ呼名係の先生が、扉を開けて入るように促す。

 筆記試験で使用した机はなくなっており、審査員というのだろうか、大人たちが五人ほど、横一列になって席についている。

 その中にはヒイラギ先生もいるが、他四人は知らない人だ。

 審査員たちと並行に視線を伸ばした先には的。

 というか風船が、壁一面に(まばら)らに散りばめられている。

 上下左右、大小もさまざまだ。色は白と赤。

 聞いていた通りだ。

 呼名係の先生が扉を閉め、的を正面にして足元に線がある場所に来るよう言う。

 その場につくと、左側の、的との距離の中間より手前に審査員の人たち。

 すぐ右手には例の水晶が、お洒落な足をした小物置に座布団の上で鎮座させられている。

 

 

「よろしくお願いします」

「よろしくお願いします。まずはお名前をお願いします」

「ヒスイ、と申します」

 

 

 さっきの今なので、先生たちの反応を気にしていたのだが、先生の中には家名がないことを気にする人はいなさそう。

 ……表面上は、だが。

 

 

「では、実技試験を始めます。水晶に触れ、魔力を流してください」

 

 

 右手で上から水晶を覆うように手を乗せる。

 ひたすら練習した魔力の操作。

 指の腹から糸を出すように、繊細に。

 透明な水晶はわずかに光り輝き、透明から黒に色づく。

 青、赤ときて、黄色。

 ここまで一定に流していた魔力を、やや減らす。

 光はそのままだが、黄色は色が和らぎ、城っぽさを見せる。

 そこで、これでもかというぐらい魔力を減らす。

 

 

「ほう。これはなかなか」

「この年代で黄色を超えるのは将来有望ですね」

「ヒスイさん。計測できましたので、手を放して大丈夫です」

 

 

 印象的には好感触だ。

 手を離した水晶はクリーム色から色を失っていき、透明に戻りつつ光も消えていく。

 何の変哲もない水晶に戻った。

 

 

「体調に変化はありませんか?」

「大丈夫です」

「では、実技試験に移ります」

 

 

 試験概要は聞いていた通り。

 どんな魔法でもいいので、白い風船のような的だけに当てるという物。

 加点方式だが、赤い風船に当たってしまった場合は減点される。

 さらに赤い風船に当たった場合は風船は割れず、天井に向かって飛んで行ってしまうらしい。

 風船の数は計百五十個。内、白は百個。

 制限時間内に何個当てられるかというタイムアタック制だ。

 質問は特になかったので、開始の合図を待つ。

 

 

「用意。……始め」

 

 

 声から一瞬間が開いて、右腕を前に突き出す。

 指を伸ばし、中指だけ曲げて、親指で押さえる。

 距離は電車の一車両の端から端ぐらいかな。

 

 

(アム)初級魔法(トゥワン)

 

 

 デコピンで、小さい火の玉を飛ばす。

 目線より低い一番下の段の白い風船に命中した。

 また中指を親指で押さえ、風船の間隔分、腕の方向を調整しながら繰り返す。

 

 

「変わったやり方ですね」

「確かに。ですが的確です」

「威力も強すぎず弱すぎず、とても丁寧だ」

 

 

 高さが出るとその分距離が開いて、狙いが定めにくくなる。

 赤い風船に当たりそうになることも増えてきた。

 

 あと半分。

 

 あと三十個。

 

 あと十五個。

 

 あと、十個。

 

 

「……そこまで」

「んー……」

 

 

 あと八個、余った。

 数えられる程度が残ると、数えられないぐらい残るよりも悔しいなあ。

 

 

「お疲れさまでした。体調に変化はありませんか?」

「ありません」

「では、元の教室に戻りましょう」

「はい。ありがとうございました」

 

 

 審査員の教員らしき人たちに一礼し、呼名係の先生を追って部屋を後にした。

 戻ってきた教室は賑やかで、アオイさんがまた囲まれていた。

 呼名の先生が教壇に立ったので解放されるのは早かった。

 最初と同じ、アオイさんの前の席に座る。

 私よりも疲れていそうに見えるが、座って頭の位置が近くなると、耳打ちしてきた。

 

 

「お疲れ様。どうだった?」

「全部はできませんでした」

「そのいい方なら結構いい方なんじゃない? 詳しくは戻ったら聞かせてもらおうかな」

 

 

 ぱっと表情を明るくさせたすぐ後に、教壇に立つ先生から書類が回されてきた。

 

 

「今お配りしていますのは、結果発表、編入準備、始業式などの予定が書かれています。必ず一度は目を通していただきますようよろしくお願いいたします」

 

 

 貰った紙を見ると、一番近い予定が五日後の結果発表。

 合否書類が通達されてくるそうだ。

 その後に制服の採寸やガイダンスのようなものがあるそう。

 少しの連絡事項を聞き、解散となったら行動は早かった。

 アオイさんが捕まらないようにするためだ。

 

 

 

 

 

 ―――――……

 

 

 

 

 

「うん。これなら筆記の方は大丈夫だね」

「よかったです」

 

 

 お城に戻ってきて、引き続きアオイさんにお世話になっている。

 今は、筆記試験の問題用紙に書き込んだ自己回答から採点してもらったところ。

 何か所か間違えはしたが、おそらく合格ライン。

 

 

「よしよし。実技の方は?」

「試験方法は聞いた通りでした。成績は、的が四つ残ってしまいました。白は当ててません」

「ノーミス一桁残しかー……」

 

 

 良いとも悪いとも言わず、アオイさんにしては珍しく真顔で、宙を見つめている。

 あまりいい成績ではないのだろうか……。全部出来て当然、とか。

 

 

「……たしか、スグサ・ロッド殿が編入したときはノーミスで満点だったんだよね」

 

 

 …………え?

 

 

「僕でも三つ残しちゃったなあ。ミスはしなかったけど」

 

 

 …………ん?

 

 

「うん。余裕だね!」

 

 

 余裕らしい。

 

 

「……受かりそうならよかったです」

「よかったよかった」

 

 

 うん。よかったよかった。

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