【3/27 電子書籍一巻発売】魔術師は死んでいた。   作:彩白 莱灯

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第4話

 仮の採点結果もそうだけど、なんとなく気になることが聞こえた。

 

 

「スグサさんとアオイさんも編入だったんですか?」

「そうだよ。伝記によると、スグサ殿は編入したってわけではないけど、試験は受けたみたいだね。僕は家の手伝いで初めは学校に通えなかったんだよ」

 

 

 アオイさんの名前を他の人が呼んで初めて聞いたが、フルネームは『アオイ・ベイト』と言うらしい。

 名前と家名の間に貴族の証はない、ただの一般市民。

 

 

「勉強はしたかったけど、家のことも助けたかったからね。魔法や国学なんかは独学で頑張ったんだよ。努力の甲斐あって今は団長までなっちゃって、忙しいのなんのってね」

 

 

 明るく話をするけれど、その努力は並大抵のものではないはず。

 学業に集中できる環境のことは違う。

 家の手伝いの少しの空いた時間で、学校に通っている子たちの何倍、何十倍もの密度の勉強をしていたのだと思う。

 それこそ、私なんかよりも。

 教えてくれる人がいたのかはわからないけど、いてもいなくても、個人の努力が相当なくては今の地位にいることはできないだろう。

 そんな大変そうなことを、この人は目の前で、あっけらかんと易々と語っている。

 

 

「楽しかったね。色々なことを知れるのは」

 

 

 突然、ぽっと頭の中に言葉が浮かんだ。

 誰のかはわからないが、「自分のしていることに楽しみを見出すことが出来なければ、滅多に成功することはない」という言葉。

 この人が語るそれは、まさにこの言葉があうと思う。

 

 

「好きこそものの上手なれ、ですね」

「そうだね。僕は魔法が大好きだ」

 

 

 少年の様な笑顔はそれはもう眩しいものだ。

 

 コンコン、コン。

 

 いつものノック音が室内に響く。

 待ち合わせをしていた人物たちだ。

 

 

「はいはーい、どうぞー」

「失礼する」

「こんにちは。殿下、ロタエさん、カミルさん」

 

 

 殿下はまた休み期間に入っているので、お城で過ごすスタイルでマントを羽織っている。

 ロタエさんとカミルさんもいつも通り。

 ローブと動きやすそうな服。

 殿下は誕生日席の一人掛けソファー。

 アオイさんの隣にカミルさん、私の隣にロタエさんが座る。

 もはや定着したともいえる席順。

 

 

「まずはヒスイ。試験お疲れさん。どうだった?」

「ありがとうございます。採点してもらったところ、合格ラインは固そうです」

「優秀で何より」

 

 

 ニッとはにかみながら「わかってたけどな」と。少し照れる。

 

 

「アオイの方はどうだ」

「目星は付けてきましたよ」

 

 

 そう言って、懐から四つに折られた一枚のメモを取り出した。

 それには人の名前と特徴らしき言葉が書かれている。

 

 

「周囲と話をしなかったり、魔力が強そうだったり、単純に怪しそうだったり。気になった点と名前、特徴をまとめました」

「この中の誰かが、アイツの言う同行者なら話が早いんだが……」

「断言できるほどの根拠はありませんしね」

「警戒できるだけまだマシだな」

 

 

 私が試験を受けている間、アオイさんは保護者や子どもの観察をしていた。

 ベローズさんが言っていた『同行者』、元い『見張り』を見つけるため。

 もちろん見つかるとは思っていないが、ベローズさんに情報が行きにくいように用心するためだ。

 編入してくるのか、もともとの学校関係者なのか、大人なのか子どもなのか、人なのか、別なのか。

 真面目に報告しているので、ご婦人たちにもみくちゃにされていたことは黙っておく。

 

 

「合格を前提に動くとしよう。ヒスイ」

「はい」

「この紙に書かれている奴らの特徴と名前、覚えておいてくれ。科、クラスが同じなら、そいつの周りでは特に注意して、危ういことはしないように」

「わかりました」

 

 

 渡されたメモ用紙を受け取り、さらっと眺めてみる。

 男性も女性もいるようだ。

 しかしここに書かれているのは学生候補。

 つまり子どもだ。

 年端も行かない子どもが、国の研究に関わって密偵をさせられているなんて、考えたくはない。

 せっかく学校に通っているのに。

 

 

「試験も終わったし、俺たちが教えることも一段落ってとこだな」

 

 

 熱の入った雰囲気が殿下の一言で冷やされた。

 この話の続きは、合否が発表されて、正式に入学するとなってからだ。

 というか、じゃないと動けない。

 

 

「そうですねー。なんか名残惜しいなー」

「団長は通常業務に戻っても問題なさそうですね。魔法についてはスグサ様がいらっしゃいますし」

「いや! 僕が引き続きやるよ!」

「……「お前には無理だ」って言ってます」

「…………仕事つまんなーい」

 

 

 駄々をこねるアオイさんは学校に通う学生よりも幼く見える。

 それを慣れた手つきで落ち着かせるカミルさんは保護者だなあ。

 となると、殿下とロタエさんは兄と姉だろうか。

 ……いいなあ。

 

 

「ロタエも仕事に戻るんでしょ?」

「いえ。私は入学まで続けたいと思います」

「え、なんで?」

「実技がありますから」

 

 

 そうだった。

 そう言えば、ロタエさんは私に教えてくれる内容として、魔法と武術も担当してくれていたんだった。

 今までは魔法について教わることが多く、武術については軽くしか触れていない。

 体力づくりや柔軟程度だったのだが。

 そもそも、私に武術ができるのだろうかというところからなのだが。

 

 

「入学までの五十日間は、武術を実戦で行いたいと思います」

 

 

 ……急展開じゃないかな?

 隣に座るロタエさんは至って冷静に、誕生日席の殿下に向かって進言する。

 

 

「ヒスイさんは魔法に関しても秘密が多いので、魔法を使わずともある程度の戦闘力は必要だと思います」

「そうだな。俺も同意見だ」

「なので、カミル団長にもご協力いただきたいと考えています」

「えっ」

 

 

 思わず声を上げてしまった。悪気はありません。

 ただ、騎士として現役のカミルさんはガタイがとてもよく、男というより漢と言った方があっているような、見るからに筋肉隆々なのだ。

 訓練とはいえ、私のこの細腕でどうしろと。

 殿下もやや目を見開いて、豆鉄砲を食らったような顔だ。

 なのだけど、カミルさんに至ってはずっと微動だにしていない。

 先に知っていたのかもしれない。

 

 

「どんなことをやるつもりだ?」

「変わったことは考えておりません。組手です」

「組手ならロタエでもできるだろう」

「相手は私に似た人物だけとは限りませんよ。それこそその密偵は子どもの可能性もありますし」

「子どもとカミルの体格を一緒にするな」

 

 

 部長と主任が新入社員のために話をしているの図。

 と言う感じだろうか。大事に育てられている。

 正面に座る団長同士も口を出さず、静かに座っている。

 かくいう私も意見を言ったりはしていないのだが。

 驚きはしたが、カミルさんがお相手してくれることについての不安は多くはない。

 だってカミルさんだし。

 突然聞いたし、体格差が大きいというのが驚いた理由であって、決していやではない。むしろありがたい。

 

 

「カミルはいいのか?」

「はい。喜んでお相手する所存です」

「じゃあまあ。よろしく頼んだ」

「よろしくお願いします」

「そうだ。それで思い出した」

 

 

 双方の了承が得られ、挨拶の一例で話が終わると思いきや。

 殿下は言った言葉の通りの表情で、胸元の内ポケットから……石のようなものを取り出した。

 拳大程の石は、深みのある、黒寄りの灰色をしている。

 ゴツゴツとしているが尖ってはいない。

 重そうに見えるが、片手で持てると言うことはそこまででもないのか。

 椅子から立ち上がり、私の目の前に差し出した。

 

 

「ヒスイにやる。合格祝いだ」

「……まだわかりませんが」

「落ちてたら慰めの品ってことにしていいぞ」

「じゃあ、頂きます」

 

 

 私が貰う以外の選択肢はないらしい。

 座ったままなので、手だけは恭しく両手で下から受け取った。

 両手で支えてもずっしりとした重みを感じる。

 これを軽々と片手で持っていたということは、殿下もやはり鍛えているんだなあ。

 ところでこれはなんだろう。

 椅子に座り直した差出人に聞いてみよう。

 

 

「あの、これは何ですか?」

「魔石器という、武器を作るための石だ」

「武器、ですか」

 

 

 スグサさんから「武術は習っていたのか」って聞かれたことがあったなあ。

 あれは試験の前だったか。

 それと関係があるのかな。

 

 

「四年生の最初は武器の使用訓練から始まるんだ」

「魔法科でもですか?」

「魔法科だから、だな。武術科はすでにやってる」

 

 

 聞くところによると。

 魔力というのは有限であり、当然のように使えている魔法も、もしかしたら使えない時があるかもしれない。

 さらに言えば、魔法を使うよりも、武器を使うときの方が適した場面があるかもしれない。

 以前スグサさんが言っていた、遠距離ではなく近距離で戦う場合も含む。

 その時のために自分に適した武器を持ち、使いこなせるようになろうということだ。

 魔法科ということで、最初はもちろんを魔法を学ぶのだが、基本ができれば次は武器。

 それが四年生ということらしい。

 スグサさんに入学前に聞かれたときは、なんとなく格闘技だと思っていたけれど。まさか武器とは。

 騎士という職業があって、戦いに備える習慣があるのだから、当然か。

 

 

「武器は学校で作ることもできるんだが、持ち込みも許可されているんだ。ヒスイはどういうのが適しているか分からないから、素材をやろう。何にするか決まったら鍛冶師を紹介する」

「……ありがとうございます」

 

 

 さて。困った。

 武術についてこれといったものは浮かばず、経験があるかもわからない。

 根拠のない勘だけど。

 まだ思い出していないだけかもしれないが、いつ思い出すかもわからない。

 となると、使いやすそうなものがいいのか。

 

 

「最初はイメージしにくいと思うから、武器庫でも見学に行ってみたらどうかな? ね、カミル」

「見るか?」

「……見たいです」

「わかった。日付はまた伝える」

 

 

 使い方すらもわからないものだらけだろうけど、知らないよりはきっと良いはず。

 提案してもらえてよかった。

 

 

 

 

 

 ―――――

 

 

 

 

 

 数日後、私は森にいた。

 いや、ただいるだけではない。

 逃げている。

 

 

「っ、はぁ……はぁ、ふう……」

 

 ―― いいじゃんいいじゃん。楽しくなってきたなあ。

 

「全然楽しくない……。今までで一番怖いですよ」

 

 

 大鎌を持ったロタエさんは、ウロロスの大群よりも怖い。

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