【3/27 電子書籍一巻発売】魔術師は死んでいた。   作:彩白 莱灯

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第8話

 魔力を込める方法もあると教えてくれたのはスグサさんだが。

 迷ってばかりで一向に決められなさそうだったので、もう任せることにした。

 適正なんてわからないし、得手不得手も、他を知らなければどうってことはない。

 戦って勝つためと言うよりも、得意な状況に持っていくための物が欲しい。

 それだけを念じて作ろう。

 という気持ちでいる。

 

 

「そうか。やりかたはわかるか?」

「スグサさんが知っているそうです」

「実は俺、そのやり方をしている奴を知らないんだ」

「私もです」

 

 

 実はマイナーなやり方らしい。

 大体の人は作りたいものがあって、専門の鍛冶師に頼むのが一般的。

 たまに面白半分で魔力を流して作る人もいるみたいだが、魔石器も安いものではないので、普通に考えれば大事に扱うようだ。

 

 

「運任せにしてすみません」

「いや、気にするな。考えて決めたことなんだから」

 

 

 ということで、さっそくこの場で作ることにした。

 殿下とカミルさんは見学したいとのことで、部屋の隅にいる。

 全ての工程を使用者が魔力を込めながら行う必要があるため、準備は大体私がやることになった。

 広めのテーブルを借りて、白い用紙に魔法陣を描く。

 描き方は、魔力を指に通わせ、指で紙をなぞるだけ。

 一見何も描かれていない用紙でも、実は陣が描かれている。

 そして紙をテーブルの中央に、魔石器を紙の中央に置く。

 

 

 ―― あとは石に手を(かざ)して、魔力を込めるだけ。

 

「……いきます」

 

 

 石の上の掌を意識して、魔力を込める。

 数秒の後、黒っぽい石の中心が灯り始めたと思ったら融け、形を成した。

 

 

「……ん?」

 

 ―― お。

 

「え、終わり?」

 

 

 もっと光ったり、グニャグニャ形を変えたりすると思ってたのに。

 思いの外シンプルだった。

 掌をどけて見ると、確かに武器にはなるが、大丈夫かなこれ。

 実際、向きによっては掌で隠れる程度の大きさで、石と出来上がったものの体積はほとんどあっていない気しかしないのだが……。

 鍛冶師が武器を作ってもこうなったのかな。

 

 

「それ……終わったのか?」

「終わったっぽいです」

 

 

 寄ってきた殿下とカミルさんに、出来上がった武器らしきものを指でつまんで見せる。

 ちりん、と高い綺麗な澄んだ音は、『武器』や『戦い』と言った言葉とは無縁な気しかしない。

 

 

「これは……」

「針……」

「と鈴……ですよね? 私の見間違いじゃないですよね?」

「間違いではないんじゃないか」

 

 

 普段冗談を言わないカミルさんが言うなら、間違いではなさそうだ。

 二十センチ弱程度で、ミシン針程度の太さの針。

 その一方の端には小さめのたこ焼き程度の鈴がついている。

 どちらも銀色一色だ。

 鋭さだけ見れば立派な武器だが、光を反射する輝きや鈴の音色はどうも似つかわしくない。

 

 

「こんな武器、この世界にありますか?」

「針を使って戦う奴がいるかどうか、といったところか。騎士団にはいないだろ?」

「いませんね。ギルドの方がいる可能性はありますが」

「身近な相手ではないな」

 

 

 この様子では二人とも針を使って戦ったことはなさそうだ。

 と言うことは、ロタエさんやアオイさんも針を武器にしている様子はないということかな。

 実はこっそり使ってたとか……はさすがにないかな。

 魔法主体だろうし。

 つまり、針を使った戦い方を誰かに教わるのは難しい、か。

 

 

 ―― ……ふ。

 

「え?」

「ん?」

 

 ―― ふっ、ぐ。

 

「え、え。どうしたんですか?」

「ヒスイ?」

「スグサ・ロッド殿ではないですか」

「あ、はい。スグサさんが、なんか……変」

 

 

 苦しそう……? いや、なんかこれは。

 

 

 ―― ぶっ、っく……ぐふっ……!

 

「スグサ殿がどうかしたのか?」

「……なんか……」

 

 

 きもちわるい……。

 

 

 ―― ふっ、あっはっはっはっは!!

 

「わあっ」

「どうした!?」

 

 

 突然頭に大きな笑い声が響いて、意味はないのに耳を塞いで肩を揺らした。

 なんか堪えているようだったが、笑いだったようだ。

 脳内で大爆笑しているスグサさんに勘弁してくれと思いながら、耳から手を放す。

 

 

「すみません……。スグサさんが大笑いしてまして」

「は?」

「スグサ・ロッド殿が……?」

 

 

 二人して顔が引きつってる。

 まあ確かに、スグサさんが大爆笑って言った私も、なぜかよくないことが起こるんじゃないかと考えてしまった。

 たぶん二人も同じだと思う。

 爆笑していて聞こえるのかわからないが、聞いてみよう。

 

 

「スグサさん、どうしたんですか?」

 

 ―― あーっはぁ、ふは。いやなに、驚いたもんでな。

 

「驚いた?」

 

 

 何に?

 

 

 ―― 持ってる針のことだがな、それの扱いについてならおそらく私様が一番よく知ってるぞ。

 

「知ってる?」

「え、なんだ、どういうことだ?」

「スグサさんが、この針のことを知っているそうです」

「スグサ殿が……。伝記では武器については不明となっていたが、まさか」

 

 ―― 私様が使っていた武器は、針だ。

 

 

 なんということだ。

 身近には居ないだろうと思われていた、針を武器にする人がこんなゼロ距離にいるなんて。

 誰が予想できただろうか。

 

 

「スグサさんの使っていた武器が針だそうです」

「なんという……」

「こんな偶然、あるんだな」

 

 

 唖然とする二人に同意する。

 これが剣や槍とかならば偶然もあり得るだろうが、針で偶然が起きるなんて……本当に偶然か?

 そして私とスグサさんの場合だから、偶然と言うには単純すぎる気もする。

 

 

 ―― 弟子、少し変われ。

 

「え、はい……」

 

 

 まだ笑っていそうな声を聞きながらも、瞼を合わせてゆっくり沈み込む感覚に身を委ねた。

 

 

 

 

 

 ―――――

 

 

 

 

 

 目を開けて小僧とおっさん……王子サマと騎士サマが視界に入る。

 

 

「どうもお二方。こうして会うのは久方ぶりですね」

 

 

 まださっきの余韻が残っていて口角が上がる。

 そのせいか、二人の男は頬を引き攣らせる。

 

 

「その口調は正しくスグサ殿だな。お久しぶりです」

「ご無沙汰しております」

 

 

 片手を上げる王子サマと会釈する騎士サマに「どもども」と軽く口で返す。

 あれ、これは普通はダメか?

 まあいいか。

 そんなことより、この左手に置かれた針。と鈴のこと。

 

 

「これなんですがね、私様の使ってたものとよく似ています。もうそっくり」

「ではスグサ殿は、針を使って戦っていたのですか?」

「戦うなんてほどではありませんけどね。まあそんなんで、弟子へこの針の使い方を教える役目は私様が引き受けましょう」

「それはありがたい」

「ただ」

 

 

 武器をまじまじと見る。

 よく知っているものだ。持った感じ、長さ、見た目。

 それらは記憶の中のものと一致する。

 ただ。

 

 

「この鈴なんですがね。これは知りません」

 

 

 私様が使っていたのは単純に針の部分だけだ。

 こんな鈴はついていなかった。

 魔石器からできたものだ。

 ただの飾りと言うわけではないだろう。

 

 

「なので、まあ確認してからになりますが、私が教えるのは針の特性と使い方だけです。鈴のことは調べてみてから考えるとします」

「……ああ、それで頼む」

 

 

 何やら男二人で目を合わせてからだが、了承を得た。

 針の特性。

 そもそも『特性』というのは。

 魔力を吸って形を変える石ということで、それから作った武器は、魔力から読み取った情報から一つの個性を持つ。

 他人と同じものもあれば、例にはないものもある。

 そこらへんはそいつ次第。

 私様の体の魔力を使って、私様が生前使っていた武器が生成された。

 ならば、おそらくはその特性も同じ。

 

 

「てことで、確認しましょう」

「は?」

「え」

 

 

 ぱちん、と。

 

 

 

  無属性魔法  ≪放り込まれた玩具箱(おもちゃばこ)

 

 

 

 何度目かの便利な魔法。

 王子サマの書類と本と煌びやかな装飾の類は真っ白な壁の外側に追いやられ、味もそっけもない戦いの場が一面に広がる。

 突然景色を変えたのにも関わらず、二人は慌てる様子はほとんどなく、ただ「あぁ……」と。

 心外にも呆れられているような気がする。

 

 

「さっき確認って言った時な」

「はい。こうなると微かに思いました」

 

 

 さっき目を合わせたのはそれか。

 この魔法を使ったのなんて最初の頃ぐらいだろうに。

 そんな印象的(トラウマ)にでもなったか?

 まあいいか。

 

 

「それなら話が早い。どちらかお相手願えますかね?」

 

 

 私様としてはどちらでもいいので。

 挑発したつもりはなかったが、そう取られたらしい。

 微かに表情を強張らせた二人はまたも見合わせて、

 

 

「俺が」

「私が」

 

 

 と声を合わせた。

 仲いいなあ。

 

 

「私様としては二人でもいいんですけど、今回は針の確認だけなんで別にって感じなんですよねぇ」

 

 

 二人は前の時も共闘してきたし、個人がどの程度かもわからない。

 力量なんていらないし、適当に相手してもらえればいいのだが。

 だがこの二人、どちらも譲る気はなさそうだ。

 相手のことを見ようとせず、あっつい視線を絶え間なく私様に向けてくる。

 焦げそう。

 

 

「ま、いいや。今日は騎士サマにお願いすることとしましょうかね」

「喜んで受けて立ちましょう」

「なぜだっ……!」

 

 

 え、そんなにショック?

 血の気ひいてるけど。

 

 

「今回は組手目的ですんで。騎士サマなら弟子の組手相手でしょ? 弟子のためにもなりますし」

「くっ……仕方ない……」

 

 

 弟子のため、というのはわざと言ったのだが、思いの外効果的なようだ。親か。

 甲冑はないが、弟子と組手をした時の同じ服装のままである騎士サマは、王子サマをその場に置いて威風堂々、意気揚々と中央に向かう。

 ここの奴らは意外と好戦的なのな。

 騎士サマに続いて中央付近まで来て、向き合う。

 間に王子サマが立ち、どうやら審判役でもやってくれるようだ。

 

 

「一応確認する。スグサ殿は武器を使用。カミルは素手のみ。双方、相手への直接の魔法攻撃はなし」

「ある程度本気でよろしく」

「承知しました」

 

 

 一方は武器ありという少し微妙な設定だが、今回は良しとしてもらおう。

 組手に関しては相手の方が上手だし。

 実のところ、組み合うつもりはないのだが。

 私様と騎士サマの間に、王子サマが手を差し出す。

 口を一本に無んでいる騎士サマの腕の長さならば、踏み込んで振えば当たる距離。私様の初手はすでに決まっている。

 ローブが長袖で手元が隠れているのはありがたい。

 一時の静寂。

 

 

「……始め!」

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