【3/27 電子書籍一巻発売】魔術師は死んでいた。   作:彩白 莱灯

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フォリウム学院
第1話


「おはようございます。本日から新しい学年となりました」

 

 

 暖かな陽気の中、晴れて学生になりました。

 ぽかぽかと日の当たる校庭を横目に、ひんやりとした空気が残る体育館。

 全校生徒であってほしいほどの大人数が、若干の隙間を開けながら整列している。

 折りたたみ椅子だがクッションが仕事をしているので座り心地が良い。

 在校生が前から並び、編入生はその後ろに並ぶように言われた。

 そのため私は後方にいるのだが、私の後ろにも二・三人いる。

 外見は、見覚えはあるようなないような。

 編入試験で見たかな、ぐらい。

 ただ、アオイさんが気になると言っていた人の特徴には当てはまっているのが一人。

 余計なことはせず、何も知らないふりで通そうかと思っている。

 

 

「寒かった時期が過ぎ、草木は芽吹き、動物が目を覚ましました。みなさんも新しい学年となったことで、様々なことに挑戦することでしょう。――」

 

 

 前を見れば、知っている頭が四つ。

 第三王子のシオンさんと、その友人の二人。

 そして喧嘩していたロアさん。みんな同じクラス。

 そしておそらく、試験官や喧嘩の立会人をしていたヒイラギ先生が担任になる。

 シオンさんとロアさんに「またお前らとだよ」って言っていたから。

 先生としてはその台詞はどうなのかと思うが、これも知らないふりをしておいた。

 

 

「――。今年は編入生も多くいます。みなさん切磋琢磨しあい――」

 

 

 ……長いなあ。

 校長先生の話は長いというのは、どこの国……いや、どこの世界でも一緒なのか。

 

 

「――。わが校の古い鐘も、近いうちに新調されます。爽やかに響き渡る鐘の音は、皆さんの新しい一歩を後押ししてくれることでしょう」

 

 

 こういう時、座っていられるというのは危ない。寝てしまいそう。

 

 

「校長先生、ありがとうございました。それではみなさん、順番に教室に向かってください」

 

 

 ……おっと、終わったようだ。本当に危なかった。

 六学年中四学年ということで、私がいる列はまだ動かない。

 待っている間、座ったままストレッチ。

 新品でなじんでいない制服の固さを感じる。

 入寮前に顔を合わせた三人とは距離があるし、後ろの編入生たちは同じ立場とは言え話しかけにくい。

 黙って待つしかない。

 一列目、二列目、三列目……n列目ときて、ようやく動き出せる。

 教室の場所はすでに知っていても、体育館からの帰り道はまだ曖昧なので、同じクラスであると目星をつけた人について行く。

 

 

「ヒっスイー!」

「わっ」

 

 

 後ろから何かが飛び乗ってきた。

 重くはないが軽くもない、名前を呼ぶその声は、最初に見かけていたときも飛び跳ねていた人と同じ。

 薄紫色で、ゆるいパーマがかかっている髪を肩の高さで切りそろえている。

 桃色の瞳でにこにこしてる。

 

 

「ラ、イラ、さん」

「ライラでいいよう。一緒に行こ!」

 

 

 元気いっぱい。

 若いっていいなあ。例えるなら跳ね回るうさぎ。

 歩くたびにふわふわと跳ねる髪がまたさらにうさぎ。

 小柄だから、人波に見失ってしまわないように、なんとかついて歩く。

 

 

「ナオさんとシオン殿下はいらっしゃらないんですか?」

「二人は先に行ったよっ。私はヒスイとお話ししたくて!」

 

 

 好奇心旺盛なのだとすぐにわかる言動と、純粋な好意を向けられて少し戸惑う。

 悪い気はもちろんしていないのだが、年下と接するのはいつぶりだろうか。

 ……いや、考えるだけ無駄か。

 聞かれるのは他愛のないこと。

 それでも体育館と教室の間の距離では少なかったようで、配属された『四年一組』に到着する。

 すでにクラスの大半は戻ってきていたようで、みんな席に着いたり、近くの人と話していたり。

 教室に入った途端、多数の視線を浴びる。

 編入生だし、珍しさもあるだろう。

 ローブは着ていない。

 もちろん、フードもない。

 以前決めた通り、前髪を編み込みにして、左目を隠すようにしている。

 さらに長めのマフラーを巻いて、口元を隠す。

 後ろ髪はざっくり三つ編みにしているが、それでも膝裏は過ぎるほどの長さだ。

 気にしちゃだめだ。気にしちゃだめだ……。

 

 

「ナオ! シオンさま! 来たよー!」

「ライラうるせーよ。もう少し静かにしろって」

 

 

 シオン、殿下……。

 殿下を小柄に、幼く、可愛らしさを追加したような感じ。

 紫がかった白い髪が、金髪の殿下とは違った高貴さを感じさせる。

 だがその高貴な見た目に反して、第三王子は口悪めで目つき悪めなようだ。

 おまけに喧嘩っ早い。

 その隣に座る、ライラさんの双子のナオさんはおどおどしてる。

 臙脂(えんじ)色でパーマのかかった髪で、前髪で両目が見えない。

 ライラさんと桃色の瞳。

 

 

「もー、ひどいなー。ヒスイ、こっちに座ろ!」

「座らんでいい。担任は俺だー。荷物置いたら訓練場にこーい」

 

 

 すぐ後ろの扉から入ってきた声と人は、やはり、ヒイラギ先生。

 手ぶらでやってきたかと思えば、すぐに移動しろという。

 頭の上にはてなマークが浮かびそうだが、他の生徒は慣れた様子で小学生さながら声を合わせて返事をする。

 そしてわらわらと立ち上がっては、教室を出ていく。

 

 

「え」

「ヒイラギ先生のクラスは毎回そうなんだよー。始業式の後はいっつも訓練場に行くの」

「何するんですか?」

 

 

 訓練場、と言っていたが……まさかね?

 

 

「試合!」

 

 

 そしてついたのは訓練場。

 ここに来たのは、殿下が校内を案内してくれた時と、編入試験を受けに来た時。

 味もそっけもない訓練場だから、特に何か変わった様子もなく。

 クラスの全員が入っても圧迫感を感じることもない。

 恐らく全員が訓練場に入ったところで、ヒイラギ先生が出席簿を取り出す。

 

 

「さて。編入生も試験で知っていると思うが、一応。俺はヒイラギだ。編入生は前でて」

 

 

 隣のライラさんに「いってらっしゃい」と声をかけられながら、小幅で歩く。

 同時に動き出しているのは私の他に三人。一クラスに編入生四人、か。

 

 

「はい、一列並んでー」

 

 

 先生の横に四人並んで、生徒の方を向かされる。名乗るのかと思いきや。

 

 

「手前から、マリー、セン、ヒスイ、ゴルドだ」

 

 

 まとめられた。

 気の抜ける語尾で「はい戻ってー」と。前に出ていた時間はほんとに数秒だった。

 編入生同士の交流もなく、再びライラさんのもとへ戻る。

 

 

「おかえり!」

「た、ただいま」

 

 

 にこにこと、つっこみもない。

 こういう淡泊な対応はいつも通りなのか。

 そして、試合のことについて説明する、と。

 

 

「やるのは俺対全員。勝敗は、俺を拘束・無力化するか、お前らが全員拘束・無力化されるかな。俺は武器のみ。お前らは魔法のみ」

 

 

 一人対クラス全員と言われた時点で、生徒たちは騒めきだした。

 魔法を学んでいる身とはいえ、何十人といる生徒だ。

 聞こえてくる声は、先生一人だとしても楽勝、無謀と思っているようで。

 

 

「先生はねー。いっつも私たちとこういう力比べをしたがるの。一人一人見るより楽だし楽しいんだって」

「え、先生の好みでやってるんですか」

「そうなの。ああいう先生の性格的に一気に終わらせたいとか、そういう意味もあるんだろうけど」

 

 

 めんどくさがりなんだって、って。

 それでいいのか先生。

 

 

「遠慮はいらん。が、魔法は中級までな。危険行為をしたら即失格。わかったかシオンとロア!」

 

 

 何やら地面に線を引いて囲いを作りながら、名前を読んだ瞬間に顔を上げる。

 名指しされた二人は突然の大声に体を固めるのと、顔を背けるのと。

 クラスの大半は「なんだなんだ」と興味深そうだが、理由がわかる身としては同情を寄せるしかない。

 

 

「俺がここに入れた奴は体は動かせても拘束とみなす。逃げるなよ」

 

 

 ドロケイの監獄みたいなものか。

 と一人で納得する。

 動けても出てはいけないゾーン。

 

 

「じゃ、十秒後に初めるぞ」

「ヒスイ、頑張ろうね!」

 

 

 先生は数を数えながら、どこからか武器を取り出す。

 ライラさんの声に耳を傾けながら、先生の取り出した武器に目を奪われる。

 それは武器なのか、と思うのはしょうがないと思う。

 鎖。

 それが先生の武器のようだ。

 私の武器も大概だけど、先生のは殺傷能力とかはあまりなさそう。

 鎖で殴るか締めるか?

 ……ああ、うん、辛いわ。

 ライラさんに腕を引っ張られ、先生から距離をとる。

 

 

「あの鎖、伸びるからまずは距離をとった方が良いよ」

「え、伸びるの」

「結構伸びるよ!」

 

 

 結構とは。

 まだ数えている先生は長袖のシャツ来ていて、袖口から垂れ下がる鎖は先端が地面に着いて弛んでいる。

 人ひとりに巻き付けるのがやっと程度の長さだが、伸びるのか、あれ。

 

 

「はい、十」

 

 

 と、言った瞬間だった。

 左手を大きく振ったと同時に、鎖が腰の高さで伸び、先生に一番近かった生徒数人をまとめて拘束する。

 いや本当に、一人がやっとだと思ったら五・六人はまとめている。

 何重にも絡みついているから、単純に五・六倍以上は伸びている。

 でも右手側から垂れ下がる鎖に変化はない。

 

 

「あれが先生の武器の『特性』なんですね」

「みたいだよねー。これって断言はしてないけど、伸びることは確かだよ」

 

 

 遠くから観察できてよかった。

 やるならちゃんとやりたいし、自分が行く前に情報を集めさせてもらおう。

 捕まえた生徒は枠の中で開放し、鎖は元の長さに戻った。

 一列目の生徒がいなくなったことで、次点に近かった三人の生徒たちが魔法を使おうとしている。

 

 

(アム)初級魔法(トゥワン)!」

(イル)初級魔法(ドゥワン)!」

 

 

 いくつかの火の玉と光の玉が先生に向かって飛んで行く。

 躱すのかと思いきや、右手を前に出し、振り回す。

 鎖が高速で円を描きながら魔法の玉をかき消した。

 

 

「――――。≪大地は我々を食す≫!」

 

 

 私の知っている、土の中級魔法だ。

 先生の足元に地割れが起きる。

 

 

「お前らはいつもその手順だな」

 

 

 先生は軽々とジャンプして避ける。

 人を飛び越えられるほどのジャンプ力って何。

 

 

「鎖を地面に垂らして、バネみたいにしたんだよ。あの三人はいつもあの連携やってて、先生もいつもあんな感じに避けてるの」

「そうなんですね……」

 

 

 鎖って結構幅広く使えるんだな。

 使い手の技量もあってこそだけど、まず鎖を武器にしようとしたところがすごい。

 

 

「もっと他のことやってこい」

 

 

 攻撃していた生徒たちの裏に行き、防御していた左腕の鎖で三人を拘束した。

 拘束された三人はそのまま枠内に伸ばされる。

 先生が跳んだことで、私たちとの距離が近くなった。

 

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