【3/27 電子書籍一巻発売】魔術師は死んでいた。 作:彩白 莱灯
鎖を解き、全員を見回す。
鎖は瞬く間に消えていて、おそらくは形を変えたのだと思う。
大分動き回ったり攻撃を受けてたりしてた先生だけど、服も髪も汚れてはいない。
ただちょっと乱れてるだけ。
「怪我してるやつはいるか」
問いかけに答える生徒はおらず、つまりは無事と判断される。
「よし、じゃあ総評」
ある生徒たちは、ワンパターンすぎる。
ある生徒たちは、攻略された後の対策が不十分。
ある生徒は、威力を考えろ。
「四学年になったお前らは、これから近接系の戦いも学んでいく。魔術師は基本遠距離での戦いが主だ。近接は苦手意識がある奴も多い。相手が近接に持ち込もうとしているとき、どうやって自分の得意な場に持ち込むか、考えとけ」
ぶっきらぼうにまとめ、さり気なく宿題を課される。
私としては、近接には受けて立つとでも言えそうな戦い方だけど、今回は向かっていく場面だったからね。
逃げるときは逃げる。
それはもう振り向きもせず。
他のクラスはどうやっているのかわからないが、私の所属するクラスは、訓練場でオリエンテーションを終えた。
よって、今日は下校と言われ、寮に変えることになった。
帰り際に「これからよろしくお願いしますね」と赤い瞳に声をかけられ、背筋に冷たいものを感じた。
―――――……
次の日。教科書類を配って、授業をする。
時間割は、午前中は座学、午後が実技と言ったように大まかに分かれている。
ちなみに今日は、午前中の一時間を使って教科書類の配布がある。
編入試験時に魔力量を測ったが、在学生は前学年の学年末に測っているそうだ。
個人情報になるのでどれくらいというのはあまり話題にはならず、聞くのもマナー違反のようだ。
そして、クラス内で過ごすうちに、かすかに聞こえて来る言葉がある。
『寄生虫』
ん?
と思って聞いていたが、おそらく私のこと。
一部の生徒から言われているようだ。
聞こえた方を向けば、青い髪のロアさんを中心にした集団がいて、私を見ている。
殿下から『間抜け』と言ったことを咎められていたと思ったが、懲りていないというか、鬼の居ぬ間にというか。
目の前の人も「あいつ、前も兄上に咎められてたくせに」って言っている。
『寄生虫』。
『寄生』。
ロアさんは、私が殿下と一緒にいたことも名前からわかっているだろうし……。私が王族に取り入っていると考えているのだろうか。
まあ、がっつり甘えてしまっているし、『寄生虫』と言われてもしょうがないのかなー。
あ、そういえば、スグサさんの体に宿らせてもらってるから、確かに『寄生虫』だ。
うん。お見事。
最初に見かけたときも思ったけど、ロアさんはたぶん、殿下とシオン殿下のことをよく思っていない。
理由はわからないけど、随分とあからさまな、とは思う。
たかが十代中盤の子が、同級生だけでなく上の存在にまで、ただの対抗心どころではなさそうなものを向けているのは……子ども同士だけの話ではなさそうだな。
とまあ、ここまで勝手な妄想。
この世界の上下関係がどうなっているのか、ロアさんの家のウ・ドロー家がどんな人たちなのか知らないので、なんか変だな、というところで留めておくのが無難だと思っている。
幸い、シオン殿下も、ライラさんもナオさんも一緒にいてくれるし、言われるだけならどうってことない。
中の人は「このクソガキが」って言ってくれているので、怒るのはこの人に任せよう。
さて。今はお昼休み。
座学はアオイさんたちから習った範囲だったので、もはや復習しているような感覚だった。
食堂でお昼を食べたのだけど、食費は一月後に請求が来る一括後払い制らしい。
食費分は稼げるようにしたいな。
それかお弁当を作るか。
台所あるし。
鐘の音が響く。
午後の授業は実技。
といっても、授業としては初日なので、前学年までの復習とのことだ。
始業式後と同じように、訓練場に皆が集まった。
服装は動きやすいように体操服やジャージを着ている。
「始める前にお知らせが……エーット……なんだっけ」
なんだっけ。
「あ、思い出した」
思い出した。よかった。
「遠足があります」
はあ。……え?
「はい! いつですか!?」
「来月ー……の十日だったかそれぐらい」
唐突だし曖昧だなあ。
名も知らぬ生徒が続け様に質問したことで、少しずつ情報が得られた。
来月の十日ごろ、国内のキャンプ場に一泊二日の遠足に行く。
国内だしそんなに遠くはないそうだが、移動は転移のよう。
到着してからを重視しているようだ。
その到着してからというのは、ギルドの任務を果たすという物。
といっても採取で、難易度はとても低い。
恐らくの狙いは、集団生活、協力体制、交流、地域貢献といったところか。
そして重要なこと。
初めての、遠出。
「遠足のことはまた教室に戻ったら話す。今からはコントロールを重視した初級魔法を行う」
えーっ。と。
不満の声の大合唱。素直な子が多いようだ。
それとも余裕の表れか。
例に漏れず、シオン殿下やライラさんも素直な子に分類されている。
ナオさんは……控え目なのはいつも一緒か。
「これで俺が不十分と判断した奴は、遠足連れていかねーからな」
さらに大きい、不満の大・大合唱が起こった。
耳を塞ぎたくなった。
先生は両手で遠慮なく堂々と塞いだようだ。
半開きの目は抗議の声による変化は一切見られず、淡々と話す。
「自然と学年は上がったが、実力と気持ちは自分で上げなきゃそのままだ。どっかのタイミングで基礎を卒業した基本学級生だと自覚しろ」
言い換えれば、少しは大人になれる、と。
いつまでも子どものままでいるなよ、と。
十五歳前後にいう言葉にしては少々厳しすぎるかとも思う。
けれど、戦いの場が近いところにあるのなら、自立心は早いほうが良いのかもと考え直した。
その点では、私は確実に十代ではなさそうな心持ちだと思う。
言いくるめられたと言うべきか、不満の声は三度目は上がらなかった。
一番の大人が「よし」と頷いて、背後に置いていた籠を目の前に出した。
その中から一つの帽子を取り出し、帽子にくっついている風船を膨らました。
「じゃあ今日は、これだ」
取り出されたのは、ふくらます前の風船。
三人一組のチームを作り、全七つの風船を囲って周囲の攻撃から守るゲーム。
三人チームはランダム、それをAとし、攻撃するのは三人チーム以外の全員、それをBとする。
Aチームは初級魔法を使って、Bチームの初級魔法を打ち落としながら風船を守る。
Aチームは風船が全部割られたら、BチームはAチームに攻撃が当たったら課題追加。
課題のことを言われた瞬間、三度目の大合唱が起こったが予想は出来た。
「そんじゃーチーム分けから。はい、クジ引いて」
どこからか箱を取り出し、皆が順番に古典的に引いていく。
中身は見ても、言ってはいけないらしい。
一組目、二組目と呼ばれたら初めて顔合わせというサプライズ。
私の前にクジを引いたライラさんが「私はねー」と言ったところで、先生の拳がとんできた。
……優しい人と一緒がいいなあ。
「全員引いたな。中身を確認したら一組目は中央に。それ以外の奴は壁沿いに均等に広がるように」
私ではない。
だから壁沿いに行く。
知らない人たち三人が中央に集まって行って、最初のグループはあの人たちなのだと判明。
開始の合図を待っていると、横から声をかけられる。
「こんにちは」
「あ、こんにちは……」
にこやかな人当たりのいい笑顔を向ける、マリーさん。
ジャージ姿が恐ろしく似合わないな。
「ご一緒してもよろしいですか?」
「あ、はい」
「あ! こんにちはー!」
「こんにちは。初めまして」
ライラさんが隣にいてくれるから、変なことはしてこない。
と思いたい。初対面同士が自己紹介している間で、こんなことを考えているとは予想がつくのだろうか。
マリーさんは表面上はすごく普通。
ただ顔立ちが綺麗でお上品で、所作も美しいとさえ思わせるほどの、ただそれだけの人。
アオイさんは、なぜそんな人を怪しいと思ったんだろう。
今度聞いてみよう。
「一組目始めるぞー」
その声に意識を中央に向け、三人の奥の風船を見据える。
距離としては……バレーボールのエンドライン間ぐらいかな。
ここからの攻撃を三人で守るって、結構大変そうだな。
「制限時間は三分間。よーい」
初め。と言われて一斉に放たれる多属性の初級魔法。
「
Aチームの生徒の一人が、膝上程度の障壁を作り出す。
床が土だから生成までの時間は早く、大半の魔法は弾かれてしまった。
力加減がよくわからなかった私。
とりあえず届くぐらいにと思ったら思ったより弱かったため、あえなく撃沈。
「
やる気に満ち溢れた声が鼓膜を突き破りかける。
いつも元気なライラさんは、魔法を使う時も元気元気。
初級魔法か疑うほどの、でっかい火の玉が出来上がっていて……息を飲んだ。
「ら、らいらさん……」
「あら、まあ……」
「どおりゃああああああああ!!」
「ばっかライラ!」
掛け声とともに投げ飛ばされた火の玉に、周囲にもどよめきが起きる。
先生の先生らしからぬ声が聞こえたが、何かする前にライラさんの手から火の玉が離れてしまった。
「きゃあああああ!」
「っ!」
「うわああああ!」
中央の人たちが逃げるよりも火の玉の方がが早い。
水属性は申請で出していないけど、仕方ない……。
「イ」
ぱしゅん。ぱしゅ。ぱしゅ。ぱしゅ。
手を伸ばして、呪文を唱えようとした瞬間。
火の玉が、水の玉にかき消された。