【3/27 電子書籍一巻発売】魔術師は死んでいた。   作:彩白 莱灯

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第4話

 水蒸気のようなものが薄っすら立ち込める。

 微かに見える中央の三人は、へたり込んではいるが無事に見える。

 隣のライラさんも無事。目をまん丸にして、火の球を投げた体勢で固まってるけど。

 火の玉の大きさに対し、半分程度の大きさの水の玉が、まず初めに一発当たった。

 その後続けて三発。

 後半の三発は粘度が高く、火の玉を包み込むようにして、火の玉とともに蒸発して消えた。

 火の玉に飛んできた水の魔法は……。

 

 

 ―― 真横からだな。

 

 

 真横……。

 白く霞んでいてよく見えないから左右を繰り返し見る。

 段々人影がはっきりしてきて、ああ、あの人だ、となんとなく察した。

 スグサさんも「いい腕だったな」って褒めてるし。

 周りの人もその人に視線が向いている。

 その人は結構な魔力を込めたのか、大分疲労困憊。

 隣にいる友人に支えられ、それでも口元は安心したように笑っている。

 あの人が笑ってるの、初めて見たな。

 先生がその人に近寄って、肩を貸す。

 先生の口元は「よくやった」と言っているように動く。

 続いて中央の生徒たちの安否を確認。

 そして、その視線は優しいものから厳しいものになり、私がいる方へ向けられる。

 

 

「ライラ!」

「っ!」

 

 

 訓練場内に響き渡る声量が、隣の人の名前を呼ぶ。

 明らかに怯え、肩を震わせて、目を強く閉じる。

 

 

「……お前も怪我は」

「……ない……です」

「よし、ちょっとこっち来い」

 

 

 俯きながら、いつもの元気の欠片もなく向かっていく。

 かける言葉が見つからず、見送るしかできない。

 だからか、周囲の声がよく聞こえる。

 

 

「まただよ」

「これで何度目?」

 

 

 クラスメイトから聞こえる、ライラさんの評価は決して良いものではない。

 決して大きい声ではないのに、耳を塞ぐことができない。

 聞きたくはないのに、頭の中で聞こえてくる言葉が反芻してしまう。

 目線はライラさんの背中を追っている中。隣に人の気配。

 

 

「大丈夫でしょうか……」

 

 

 マリーさんも心配しているようで、眉を下げながらライラさんを視界に入れている。

 何と答えることもできず、押し黙る。

 

 

「……水の魔法、すごかったですね」

「あ……そうですね。的確でした」

 

 

 答えられないことを悟ったのか、話題を変えてくれたようだ。

 微妙に視線を変えれば、視点を上げるシオン殿下と、水の魔法を放った張本人であるナオさんが、先生に背負われてぐったりしている。

 辿り着いたライラさんと先生が一言二言交わし、ナオさんがライラさんに引き渡され、訓練室を出た。

 ナオさん、軽々と担がれてた……。

 周囲の白い靄はすっかり晴れ、生徒は倒れつつも怪我をしたと訴える人はいない。

 先生が中央に行って、安否を再度確認した後、手を上げる。

 

 

「怪我した奴はいないかー?」

 

 

 無言は肯定としてとられ、「よし」と頷く。

 

 

「授業は継続する。二人ほど退室したから、その時は俺が入るからな」

 

 

 ここで否定する生徒はさすがにおらず、淡々と授業が進められる。

 ライラさんの魔法が衝撃的だったようで、みんなの魔法は少し控えめになったようだ。

 マリーさんはずっと隣にいる。

 時折気遣うような言葉をかけられ、探りを入れられているように思ってしまう。

 先入観が疑心を抱かせる。

 

 

「打ち方やめー」

 

 

 もう何組目かの組み合わせが終わった。

 今のところ、全て守り切った組も、全て割れてしまった組もいない。

 最初以外、ただただ、淡々と進んでいた時。

 

 

「次。十組目」

 

 

 あ、私だ。

 と動き出す前に、近くで影が動く。

 

 

「私、行ってきますね」

 

 

 ……マリーさんと、一緒。

 今も隣で魔法を使っていたけれど、こう、くじ引きっていう偶然を引き当ててしまうと、やっぱり疑心につながってしまう。

 

 

「ヒスイさん?」

「……私もです」

「まあ、奇遇ですね」

「そうですね……」

 

 

 奇遇ですね。そうですね。

 ……私、こんなに疑り深かったのか。

 自然と二人並んで中央に移動する流れになり、先に到着していた三人目と合流する。

 

 

「遅いぞ。ちんたらして俺を待たせるんじゃない、っ」

 

 

 仁王立ちで、親の仇でも見るような目つきの、青い髪のロアさん。

 さすがにこの場では『寄生虫』とは呼んでこないか。

 

 

「お待たせして申し訳ありません。マリー・ウ・リーダーと申します」

「ほう、そちらも『ウ』の者か。ロア・ウ・ドローだ。よろしく」

 

 

 この人が笑った顔も初めて見たな。

 同格の人と話すときでもやや上から気味に聞こえるが、表情はいたくご機嫌に見える。

 貴族だったマリーさんと挨拶を交わし、私のことは無視と。

 まあいいけど。

 

 

「お前のような奴と同じ組とはな。精々足を引っ張てくれるなよ」

 

 

 虫ではなかった。

 見るほどでもなかったのか、その男の子は小さい背中で語りかけてきた。

 足を引っ張らないように頑張りますよと心の中で返事しておいた。

 相談もなしに適当に三角形に位置取りし、先生が手を上げる。

 

 

「じゃ、十組目、はじめー」

 

 

 「もう飽きてきた」という気持ちを隠す気もない声が、訓練場に木霊した。

 風船を背に、三人が構える。

 開始の声と同時に向かってくる、初級魔法。

 いろんな属性があるが、自分の得意な属性で相殺する。

 風属性だから、火属性だけは注意をしないといけない。

 ロアさんが水属性を使うから、できれば対応してほしいとは思うのだけど……。

 

 

「自分の範囲ぐらい自分で対応するんだ! お前に頼られる筋合いはない!」

 

 

 ときたものだから、頼むわけにもいかない。

 いっそのこと闇属性で対応するのもありか。

 と思っていたけど、さっきのことを見ていたせいか、火属性を使う子は思いの外少ないようだ。

 風属性でも問題なさそう。

 思ったより数が多く感じ、見えてるものや自分の方に向かってくるものはもちろんだが、ギリギリ視界に入っていたり、たまたま自分の範囲『外』の者にも対応してしまって。

 私よりも対応に追われているロアさんからの視線が痛い。

 

 

「僕の! 邪魔を! するな!」

 

 

 そんなつもりはないんだけどなあ……。

 汗をにじませながら睨まれた。

 言い返すとめんどくさそうなので何も言わないでいると、

 

 

「無視とはいい度胸だ……!」

 

 

 えー……。

 そんなつもりはなかったのに。

 というか、魔法を弾くのに必死なんだから、そっちに集中すればいいのに。

 

 

「すみません」

「っ!」

 

 

 一応謝ったけど、また皺を深くしていた。

 謝るのもよくなかったのかな。

 割ったし、コミュニケーション下手くそ……?

 

 

「ふふふ」

 

 

 反対の隣側からは含み笑いが聞こえ、一人楽しんでいるようだ。

 土属性魔法で、床の土を利用して下から打ち落としているようだ。

 風属性も容易く打ち消していて、それなりに力の差があるか、魔力を込めているのだろうと思う。

 本人は笑って、こちらの様子を窺えるほどには余裕があるのだろう。

 盗み見た表情はとても涼しげだ。

 

 

「……はい、すとーっぷ」

 

 

 先生の声で、魔法の一斉射撃もやんだ。

 結果は、二アウト、五セーフ。普通よりはいい成績だ。

 ただ、ロアさんの両サイドが割られているというのが……なんとも言えない。

 私の横と、マリーさんの横でもあるにはあるのだが……。

 こっそりロアさんの様子を見ると、私の方を見て肩を震わせていた。

 顔の色はいつもより血色がよろしいようで。

 

 

「お前っ!」

「は、はい」

「調子に乗るなよ! お前が邪魔したから僕のリズムが崩れたんだ!」

「うわ、ちょ、っ」

 

 

 掴みかかろうとする勢いの大股で歩み寄ってきて、反射的に体がのけぞる。

 倒れるっ。

 と思ったのもつかの間、誰かに支えられた。

 

 

「あら、まあ」

「マリーさん……」

 

 

 にこやかに。

 その表情の裏に何かある、と思ってしまうのは、私の先入観から来る勘違いか、もしくは。

 支えられていた腕が離れ、マリーさんが一歩前へ出る。

 同格と向き合うことで、ロアさんも少し落ち着いたのか、喋り口調の棘が削れている。

 

 

「ウ・リーダー殿。なにか」

「いいえ。ただ少しばかり、賞賛を送りたいと思いまして」

 

 

 賞賛、という言葉を聞いて、きょとんとしたのは私だけではない。

 明らかに驚いているロアさんの両手を、マリーさんが自身の手で覆い、胸元へ寄せている。

 ……ちょっとあたってるな。

 

 

「とても威力が高く、また的確で、繊細な魔法でした。ぜひ正面から見せていただきたかったですわ」

「そ、そうか……? それほどでも」

「そんなご謙遜なさらないでくださいまし。ぜひ今度、私に魔法を教えてくださいませんか? 手取り、足取り……」

 

 

 相手を褒めつつ、妖艶に微笑むマリーさんからは、年齢に似合わず大人な色香を感じる。

 女の私でそうなのだから、正面の至近距離、手を握られ胸の感触もあり、十代の男の子ならば、それはもう。

 

 

「い、いいだろう! 俺が教えてやる」

「ありがとうございます! 楽しみにしていますわ」

 

 

 顔を赤くし、まんざらでもない表情で承諾したロアさんは、やはり年相応に男の子だった。

 惚れたな。

 振り返って私に向き直るマリーさんにウインクされ、確信犯だと確信した。

 乾いた笑いしか出ないが、ひとまず火の粉が収まったようで私としては助かった。

 確信犯さんに促され、壁の方に戻る。

 何もしなかった先生だが、ロアさんの所に行ってなにやら話をしている。

 対角に位置しているため、何を話しているかはわからない。

 とりあえずロアさんの表情は急転直下したように見える。

 

 

「お疲れさまでした」

「お疲れさまでした。それと、ありがとうございます」

「あら。何のことでしょう」

 

 

 うふふ、と。

 笠に着ず、穏やかな雰囲気で話せる。

 いい人だな、と素直に思った。疑心が薄れていくのを自覚する。

 

 

「マリーさん、魔法お上手ですね」

「ありがとうございます。両親が丁寧に教えてくれたんです」

「そうなんですね。マリーさんはどういった経緯で編入されたんですか?」

「私は引っ越してきたんです」

 

 

 宗教の国、レルギオから来た、と。

 

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