【3/27 電子書籍一巻発売】魔術師は死んでいた。   作:彩白 莱灯

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第6話

 ―――――……

 

 

 

 

 さて。

 今回はほとんど口を出さなかったわけだが。

 城とは違い、学校はやることが一貫しているからわかりやすい。

 逆に、変なことをすれば目立つ。

 まあそこを怪しまれないようにやる奴が潜入なんかに雇われるんだが。

 

 マリー・ウ・リーダー。

 高位の貴族。レルギオからの移住者。

 魔法はなかなかだが、最大値は今のところ分かっていない。

 物腰が柔らかく、人当たりのいい性格。

 いかにもお嬢様。

 怪しまれる要素がほぼない。

 強いて言えばレルギオからって言うのだけが気になるところだが、そういう奴が居ないわけではないからな。

 布教のためと言えばなんとでも言える。

 

 正直、私様もレルギオのことはよく知らん。

 私様が死んだのが七十年前、国ができたのが十数年ってんだから、無理は言わないでほしい。

 まあ、ここら辺は弟子に調べさせよう。

 

 

 ―― ほら、崩れてきたぞ。

 

「いや、ちょっ、と、キツイ……」

 

 ―― あと百歩。

 

「ええぇ……」

 

 ―― 木を伝って移動する練習ができないんだから仕方がない。それにお前が言い出したことなんだから、黙ってやれ。

 

「くぅっ……」

 

 

 丸めた紙くずの上を、潰さないように歩き続ける。

 絶妙なバランス能力だったり、不安定なところを渡る練習として、弟子が考えた部屋でもできる訓練法。

 「木の上を渡る練習なんて知らない」と言っていたが、私様も知らん。

 これでいいのかなんて私様も弟子もわからん。

 私様の中での練習方法は実践あるのみだ。

 それでもやらないよりかはいいだろうということでやっている。

 慎重に、潰さないように、風魔法でバランスを取りながら、両手を広げてまるで綱渡りのように部屋の中を闊歩する。

 

 

 ―― 遠足ってどこ行くんだっけ。

 

「えぇっと、フローレンタムの、レルギオ寄りの、リーオン、っという……高原らしいです」

 

 

 歩きながらだがポツポツ喋る。

 止まって喋ればいいのに。相変わらず器用なんだか不器用なんだか。

 リーオンという場所は聞いたことがある。

 まあ山の上だな。広い土地で自然豊か。

 別荘なんかもあるが、基本的には国の所有地だったはず。

 自然が多いということは、それ系の魔物も多いわけだが。

 それについては何かしら対処がされていることだろう。

 そもそも、魔術クラスなんだから、ある程度は対応できるようになってもらわないとならない。

 

 

「はぁ……」

 

 ―― お。オツカレー。

 

「はい……」

 

 

 神経すり減らしたようで、床にへたり込む。

 よくやったよ。私様ならやらないな。こんなめんどくさそうなこと。

 

 

 ―― ギルドの任務も受けるんだっけ?

 

「みたいです……。基本は採取系任務を。でも一応、討伐系も一種類受けるそうです。恒例みたいで」

 

 

 毎年やってるなら、まあ教師や学校側の対策もとれているだろう。

 期待しておこう。

 暑いのか、弟子は夜中にも関わらず窓を開けに立ち上がる。

 小さいベランダがついている窓を開けると、夜空の月が国中を照らしている。

 風は弱く、火よ風邪にしては冷えるというほどでもない。

 ベランダに出て、手摺に寄りかかって夜景を見下ろす。

 

 

「ライラさんとナオさん、大丈夫かな……」

 

 ―― ま、大丈夫だろ。ただの魔力切れだ。

 

「魔力が切れちゃうとあんなに苦しくなっちゃうんだ」

 

 

 お前の場合はほぼないだろうけどな。

 というのは言わないでおこう。

 こいつの、つまりは私様の魔力は、早々魔力切れを起こすなんてことはないほどの量だ。

 魔力回復も人の二倍三倍、五倍は早いか。

 比べたことはないからわからんが。

 実例で言えば、魔術師団が最低限使えなければならない結界系上級魔法。

 それなら一週間は余裕で使い続けられる。てかできた。

 ……あ、あとあれだ。

 たぶん、それに限って言えば使用魔力量と私の魔力回復の割合がほぼ同等なんだ。つまり恒久的に使える。

 うわ、私様強くね。

 そこまでのこと、あんまりないんで忘れてたな。

 

 

 ―― 魔力切れなんて、起こらないのが一番だ。

 

「スグサさんは、魔力切れになったことあるんですか?」

 

 ―― ある。遠い昔だがな。

 

「へえ。意外」

 

 ―― 私様も、最初から天才だったわけではないからな。

 

「自分で言う」

 

 

 自覚があるのは悪いことではないだろう、と反論したくなったが、言わなくてもいいか。

 ふと、夜の街の夜景のど真ん中、つまりは目の前に、夜景の一部になりそうな輝く鱗粉を巻き散らす奴が現れた。

 

 

「あ、この蝶。よく見ますね」

 

 ―― バラファイ。死者を喰う魔物。

 

「え゛」

 

 

 驚くよなあ。

 見た目はただの綺麗な虫だもんな。

 戯れに出した指を引っ込める。

 戯れに留まろうとして居たバラファイは、動きに驚いたのか、高く飛んで行った。

 

 

「見かけによらないものですね」

 

 ―― 『バラファイが近くにいるところでは人が死ぬ』って言い伝えがあってな。

 

「……そうなんですね」

 

 

 意地の悪いことを言った自覚はある。正しい言い伝えは、『大量の』とつくのだが。

 まあ、死体の周りにそんな奴がいたら、気にもするだろうが。

 これを機に、あまりバラファイには興味を持たないでもらいたいものだ。

 あいつは少々……大分面倒だから。

 

 

 

 

 

 ―――――……

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