【3/27 電子書籍一巻発売】魔術師は死んでいた。   作:彩白 莱灯

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第7話

 青い空。白い雲。緑の大地。紺色のジャージ。

 ここはフローレンタム国・リーオン。

 スグサさんに話した通りの高原で、春のぽかぽか陽気の中での遠足だ。

 と言っても、ここまで転移で飛んできたので『遠くまで足を使って』移動してはいない。

 魔法らしさが前面に出た移動方法だ。

 

 

「ナオー、そっちあるー?」

「……少し奥に見えるよ」

「じゃあそっち行こう! ヒスイ! マリーもこっちだよー!」

 

 

 高原の中の、森の中。

 遠足の一環である、ギルドの任務を熟すべく、薬草を探しているところ。

 学校からの移動がないと思ったら、高原から森、森から薬草の場所までの移動時間が必要だったわけだ。

 今探している薬草は、日陰にしかできないもの。

 だから森の奥の方まで探しに来ており、ようやく見つけられた。

 三人ずつで探していたのに、ナオさんの言葉を聞いて一人駆けていくライラさんをマリーさんと追う。

 ナオさんもシオンも、センも追い越して、うさぎの様にぴょんぴょん跳ねて行ってしまう。

 

 

「あはは、ライラっちは元気だなあ」

「そんなこと言ってないで、俺らも追うぞ」

「はいよーシオン様」

 

 

 センは、私やマリーさんと同じ編入生。

 黒っぽいけどやや赤みのある襟足の長い髪と、オレンジ色の瞳を持つ。

 ちょっと飄々とした男の子。

 今回六人グループを組むのに、「入れてー」と猫のように寄ってきた。

 呼び名こそシオンに『様』を付けているが、話し方はほとんどみんな一緒に軽いというか緩いというかなので、本当に分け隔てなく接している。

 シオンはそれを気に入っているようだ。

 私的にはゆるキャラ的立ち位置。

 

 

「はーやくー!」

「そちらにありますかー?」

「少しだけどあるよー!」

 

 

 マリーさんも、グループを組むうえで「一緒にいいですか?」と声をかけてきてくれた。

 ライラさんの授業中のトラブルのこともあって、クラスメイトはあまり近寄ってこなかった。

 そんな中でもマリーさんは変わりなく接してくれた少ない一人。

 ちなみにセンは「そんなこともあったなあ」って感じだった。

 

 

「あ、本当だ」

「これで間違いありませんわね」

「でもこれだけじゃあ少なくなーい? ナオっち、俺らは他を探してみないー?」

「え、う、うん」

「あたしも行くー!」

「迷子になるなよ。特にライラ!」

「大丈夫だもーん!」

 

 

 双子とゆるキャラは別の場所を探しに行って、編入生二人と王子様は草を毟る。

 品質も大事なので、丁寧にとるために無言で作業をする。

 いくつか取って慣れてきたところで、口が緩んでいく。

 

 

「シオン様はこちらに来たことはあるのですか?」

「あるにはあるが、小さい時だ。記憶にも残っていない」

「まあ、ではほとんど初めてなんですね。ヒスイさんはいかがですか」

「私も初めてです」

 

 

 マリーさんも「シオン様」と呼ぶ。

 センのような分け隔てのないものではなく、完全に堅苦しい呼び方だ。

 マリーさんは貴族だししょうがない面もある、と私は思うけれど。

 シオンとしては外してほしいらしい。

 だが、マリーさんの「うふふ」ではぐらかされ、諦めたようだ。

 うふふ強い。

 

 

「さて、ここはもういいか」

「そうですね」

「三人はどこまで行かれたのでしょう」

 

 

 三人が向かって行った方を見るが、戻ってくる様子はない。

 それほど奥まで行ってしまったのか、別の方向に行ってしまったのか。

 この場で立っていても仕方がないのだが、待ち合わせも何も決めていなかったのが悩み。

 進むか、待つか、戻るか。

 

 

「どうしましょうかね」

 

 

 二人を見るが、二人とも悩んでいるようで、返答はこなかった。

 慣れない場所の、さらには森の中。

 迷子になる可能性は高い。

 魔法が使えるので遭難なんてことはないと思うが、一つの懸念事項がある。

 

 

「進んでみよう」

 

 

 シオンの一言で、方針は決まる。

 ただ当てもなく進むのはよくないということで、三人が進んでいった方向に、三人と別れてから経過した時間の半分だけ進んでみることに。

 作業時間がおよそ五分ほどなので、二分半は進む。

 それでも合流できなかったら、大人しく戻って先生に報告する。

 

 

「一列に。俺が先頭を行く。ヒスイは真ん中。マリーが後ろを頼む」

 

 

 王子様が先頭でいいのかと一瞬悩んだが、先に進んでしまったのでその通りにする。

 周囲を警戒し、三人を探す。

 奥に進む足取りは重いけれど、ゆっくりしていては二分半なんてすぐ経ってしまう。

 少しずつでも進むたびに暗くなっていく森に、やや恐怖を覚える。

 ここでの懸念は、もう一つの任務。

 本当ならばクラス全員で、明日挑むはずだった討伐系の依頼。

 すでにこの森に生息する魔物を討伐するという、珍しくはない任務ではあるのだが。

 場所が悪い。

 森。

 ライラさんを含む三人。

 ライラさんの属性は火。

 

 早く過ぎてほしくない時ほど、時間というのは駆け足で去って行ってしまう。

 あっという間の二分半はとうに過ぎ、倍の五分、三人と別れてから十分以上経ってしまった。

 辺りは鬱蒼とし始め、日の光が届きにくい。

 動物の声が怪しく響き、二の足を踏ませてくる。

 

 

「……これ以上はダメだな。暗すぎる」

「では、戻りますか?」

 

 

 戻りたくはない。

 その気持ちは全員持っている。

 だからこそ、言葉も出なければ足も出ない。

 そんな私たちには福音か凶報か。

 私たちの真横、森の奥側から、草を踏み分ける何かが近づいてくる。

 

 

「あー、よかった。いたー」

「お、おい!」

 

 

 大きなため息とともに間の抜ける声を発しながら、センさんが姿を現す。

 その姿からは安心や無事とは想像しにくいほど、紺色のジャージは茶色く汚れている。

 姿を見て即座に反応したシオンが駆け寄り、後に続いて私もマリーさんも走る。

 汚れてはいるが、歩けてはいたし、汚れがひどいだけで大きな怪我はなさそうだ。

 

 

「何があった!?」

「いやー、ずんずん進んでいったらまさかの穴に落ちちゃって焦った焦ったー。俺が土属性持ってなかったら下まで落ちてたよー」

「穴、ですか?」

「結構でかかったよ。ヒスイっちが横になっても余裕で落ちるぐらい。あ、シオン様も落ちるね」

「軽口は相変わらずだなオイ」

 

 

 私が横になっても、ということは二メーター近く大きい穴か。

 なんでそんなものがこんな森の中にあるのか、というのも気になる。

 だが、それよりも気になることもある。

 

 

「あの、ライラさんとナオさんは一緒じゃありませんの?」

 

 

 二人の姿が見えない。

 センさんだけが無事で戻ってきたのか。

 じゃあ二人は、と悪い予想が脳裏をよぎる。

 二メートルもする穴、普通ではないと考えるのが普通だろう。

 この世界の人間のセンが「でかい」と表現するんだから。

 ただの穴ならば良い。

 だけどそれを証明するものはない。

 むしろ、今回のたった一つの討伐任務では、その魔物は穴を掘る習性がある。

 マリーさんの問いかけに、センさんは目を丸くする。

 

 

「え、いないの?」

 

 

 

 

 

 ―――――……

 

 

 

 

 

 森から抜けた私たちは、先生の姿を一目散に探し、見つけた。

 が、先生もまた、私たちを探していた。

 

 

「お前らは何やってんだ!!」

 

 

 まるで鬼のような形相の先生に睨まれ、怒鳴られ、立ち竦む。

 それよりもと口を開きたくなる気持ちを、鼓膜を揺らす涙声が制してくる。

 

 

「みんなああああ、ごめんねええええええ」

「ごめんなさいっ、ごめんなさいっ」

 

 

 薄紫の頭は天に泣き、臙脂色の頭は素早い動きで上下する。

 実は先に戻ってきていた双子は、私たちの姿がないと先生に知らせに行き、先生たちは私たちを探しに行こうとしたところだったという。

 絶妙なすれ違いが起きそうになっていた。

 先生たちが出発する前に会えたからセーフ。

 

 

「俺がどうなってもいいのか!」

 

 

 ……その台詞を二度も聞くと思わなかったよ。

 

 

「もう聞き飽きたよその台詞。それよりも先生」

 

 

 シオンからしたら二度目なんて序の口のようだ。

 口を開いた流れで、シオンが森の奥の大穴について簡単に説明し、センも実際に見たものとして状況を伝える。

 先生は怒りはどこへやら、真剣な表情で耳を傾ける。

 

 

「その話ならナオからも聞いている。だがそれは明日になってからだ」

 

 

 話は強制的に終わってしまい、「服洗って来い」という指示のもと、小さな川に来た。

 そこで、二人と四人の行動を確認しあった。

 無我夢中で進んでいたライラさんと、懸命に追っていたナオさんは二人して大穴に落ちそうになった。

 しかしすぐ後ろで追っていたセンさんが、自身の土魔法を使って落下を阻止。

 その代わり急に使った代償として、土を被ってしまったそうだ。

 落ちかけたことで冷静になったらライラさんたちは、周囲の変化に気付き、戻ることを決めた。

 センさんは私たちと居るだろうと、進んできた方へ逆走しようと歩き出した。

 その後ろでライラさんとナオさんは、センさんと違う方向に進み始めたという。

 

 

「えーなんでー?」

「えと、なんとなく……あ、人がいたから、付いて行った……」

「声かけてくれればよかったのにー」

「呼んだんだけど……」

 

 

 大穴があった場所は結構深い場所だと思っていたが、そのあたりにまだ人がいたのか、という疑問が残ったが。

 何かを隠す様子に、クラスメイトや仲のいい人たちがいる今この場で聞く気にはなれず、聞き流した。

 

 

「先生たちは、大穴のことを聞いてどうされると仰ったんですか?」

「ギルドに確認するって言ってたよー!」

「あはは、ライラっちの目ぇ真っ赤ー」

「腫れてるぞ。ひでー顔」

「んもー! 見ないでー!」

 

 

 すっかり泣き止んだライラさんの目はもったりしていて、どれだけ泣いたのかを物語っている。

 しかし、すっかり元通りに近く元気な様子は、森と大穴の恐怖を和らげてくれた。

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