【3/27 電子書籍一巻発売】魔術師は死んでいた。   作:彩白 莱灯

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第8話

 その後は、採取した分の草を提出して、キャンプの準備をして、夜を明かす。

 火おこしや水汲みなんかは魔法で苦労なくすんじゃうけど、料理についてはスゴカッタ。

 経験者・未経験者というより、得手・不得手というより、可能・不可能と表現するべきか。

 一部の貴族同士のグループに関しては、魔物でも作ったのかと思うぐらいすごいものが出来上がっていた。

 レシピが知りたい。

 私たちのグループは、私とセンさんで貴族の四人をフォローした。

 マリーさんに包丁を持たせたらダメだ。

 夕飯後の、焚火を囲んでの一時。

 

 

「ライラさんとナオさんも貴族なんですね」

「く、位は、一番下なんだけど、ね」

「あら。でもク・フロロのお名前なら私も存じ上げていましたわよ」

 

 

 『フロロ』というのが、ライラさんとナオさんの家名。

 『ク』というのは、殿下やシオンの『ゼ』を筆頭とする五大階級のうちの一番下。

 

 基本、王族の『ゼ』は上がり下がりはないから、王族以外の貴族は四大階級。

 功績によってそれらは変わる。

 ちなみに。

 四大階級の中で一番の高位は、マリーさんやロアさんの『ウ』。

 次点がロタエさんの『ドゥ』。

 その下に『レ』がいて、最後がライラさんとナオさんの『ク』となる。

 

 

「センさんは一般の人なんですね」

「そー。俺はアーマタスから来たの。こんな細腕に武術なんて務まるわけないってぇ。痛いの嫌だし」

 

 

 腕まくりをして、ひょこりともしない上腕二頭筋を見せてくる。

 確かに細い。

 

 

「女の人もいたけど、みんなガチムチばっかでさー。そんなのつまらないじゃん? 導師って提案もされたけど、それなら魔法全般学べて可愛い子が多そうなこっちに行きたいって言ったら、追い出されちった」

「……え、じゃあ、一人で来たんですか?」

「そーなんだよー。寮があってよかった。最低限の物しか持たせてくれなくてさー」

 

 

 終始軽く、最後には「鬼だよねー」と言っているが、なかなか壮絶そうな話だった。

 着の身着のままでないだけよかっただろうが、そういう世界もあるんだな、と、作り物を聞いているような気分。

 

 

 ―― 気の身さえなかった奴の話をしたらどういう反応するかな。

 

 ……さあ?

 

 

 今は話せないけど、いつか話す時が来るだろうか。

 その時が来たとしたら、私はどんな顔で話しているんだろう。

 内側から聞こえる声を聞こえなかったふりをして、囲んでいた焚火をぼーっと眺る。

 クラスの大人数がお風呂に行っていて、人は少なく、静か。

 私は髪が長すぎて時間がかかるため、人が少なくなったころ合いを見計らってゆっくり入ろうとタイミングをずらしている。

 横になったら寝てしまうかな、という一抹の不安を火の中にくべて、夜空を見上げる。

 町の光がないし、空気も綺麗だから、星が良く見える。

 火もいいけど星もいいな。

 と、半分黄昏ていた時。

 目の前を何かが覆い被さり、夜空が見えなくなってしまった。

 

 

「っ」

「ここで寝たら風邪ひいちゃうよ」

「……ん?」

 

 

 目の前だけでなく、体全体を覆っていた毛布をずらす。

 いつからそこにいたのか、横には火に照らされている赤い髪の人。

 

 

「こんばんは。いい夜だね」

「アオイさん……?」

 

 

 大の大人が体育座りをして、頬杖をついて笑顔を向けている。

 人懐っこい笑顔は赤い髪から透ける火の光に照らされて、大人の色香を燻らせる。

 体を起こし、顔をじっと見つめてみた。

 なぜここにいるのか、なんて疑問は、わざわざ問うまでもない。

 

 

「この遠足の恒例行事で来たんだよ」

「恒例行事? 討伐系任務のことですか?」

「そう。ギルドと城の魔術師も参加して、生徒にいい所を見せようっていう恒例行事」

 

 

 勧誘を兼ねているのだとか。

 四年生となれば、早い子ならば将来的な方針を決める時期でもあるそうで。

 貴族の子なんかは特に早いらしい。

 そのため、学外演習のようにギルドの任務を実施し、ギルドの人間と城の魔術師がそれとなくいいところを見せて、優秀な人材を引き入れようということらしい。

 現段階で直接声をかけることはマナー違反とのこと。

 

 

「私に声かけていいんですか?」

「ヒスイちゃんは特別だよー。それに、聞きたいこともあるんだよね」

 

 

 ニコニコ、ニコニコと。

 今ほど裏があるとわかる笑顔もそうそう見られないだろう。

 それでも特別嫌な感じがしないのは、お世話になった相手で、いい人だと知っているからだと思う。

 

 

「大穴のことですか? 『同行者』のことですか」

「優秀。両方だよ」

「大穴のことは私はあまり知らないんです。直接見てもないので。私の身長よりも大きいということぐらいしか……」

「スグサ殿はどうかな? 何か言ってない?」

 

 ―― 森に入った瞬間から異様な気配はあった。って言っとけ。

 

「「森に入った瞬間から異様な気配はあった」、らしいです」

「ありがとう。そうか、やっぱり……」

 

 

 大穴の件は、もしかしたら目星はついているのだろうか。

 私やスグサさんに聞きに来たのは、裏付けか念押し?

 焚火を見つめるようで、どこか違うところを見ている桃色の瞳は、不思議な力強さを秘めている。

 目を閉じて、「うんうん」と頷いて、「よし」と声を上げる。

 大穴のことはアオイさんの中で結論が出たようで、表情はスッキリしている。

 

 

「よし。じゃあもう一つ。『同行者』についてはどう?」

 

 

 編入してから接するようになったマリーさんとセンさんについて話した。

 マリーさんは変してすぐに接触してきた人。

 勘違いかもしれないが、探るような様子があること。

 魔法の使い方が上手く、力を秘めていること。しかし人柄がよく、最初は先入観もあって警戒心があったが、今は友人として接していると。

 センさんについてはあまりわからず、飄々としていてこちらの気も抜けてしまう。

 こういう警戒心を解く人ほど警戒したほうがいいのか、悩みどころ。

 話していて、自分が少し疑心暗鬼になっているのかと疑問を持つ。

 

 

「アオイさんは、マリーさんが怪しいと思った点はどこですか」

 

 

 隣で黙って聞いてくれている人に尋ねる。

 私を見つめていた瞳は「んー」と悩ましげな声と共に空を見上げ、発する言葉を整理している。

 

 

「……そうだね。何も考えていないようだったからかな」

「……? と、いうのは」

「実技試験のために呼ばれるのを待っている時、保護者らしき人と話も目も交わさずに、じっと前だけを見ていたんだよ」

 

 

 それは、たしかに異様だ。

 緊張していたから、と言われればそれまでだが、それにしても様子としては個性的すぎる。

 今のマリーさんからはあまり想像できない。

 怪しいというか、異様だ。

 

 

「名前が呼ばれても、保護者に一声もなく黙って行ってたのも気になった。意気込みとは言わずとも、(めくばせ)ぐらいしそうじゃない?」

 

 

 首を傾け、問うてくる。

 マリーさんが緊張してリアクションが少なくなっていたとしても、保護者はそこまででもないだろう。

 反応がないだろうとしても、目で追うぐらいはしそうな状況だ。

 でも、それもなかった。

 

 

「正直、マリーという子については勘違いだったとしても、保護者については断トツで怪しいと思ってるよ」

 

 

 保護者は学校ではほぼ関わらない。

 だがマリーさんを通じて何かしてくるかもしれない。

 そういう意味で警戒対象にしたのだと言う。

 

 

「今のところは、これと言って何もされてないです」

「それは良かった。友人と思っている時に辛いだろうけど、気をつけてね」

 

 

 自信満々に『友人』と言えない状況は寂しいけど、受け入れるしかないか……。

 今度は私が焚火を見つめ、無言の時間が出来た。

 アオイさんは、私から口を開くの待っているように思う。

 

 

「センさんの方は、何かありますか」

 

 

 逃げとも取れるような話題転換をしてしまったと思う。

 それでも、アオイさんはいつもと変わらない表情で受け止めてくれた。

 

 

「セン、という子については、あまり印象には残ってないかな。特別目立っても目立っていなくもなかったんだと思う」

 

 

 騒いでもいないし、マリーさんみたく無反応でもなかったと。

 それはそれでセンらしくない気もするが、自然な状態だったと言うことか。

 

 

「どういう子なら安心して付き合っていける、ってものはないけれど、あまり意識しないでね。楽しんでいいんだから」

 

 

 火の揺めきを映しながら、柔らかい笑みを向けてくる。

 信じる信じないも、私の自由だと言っている。

 研究者に召喚された時点で、少なくとも研究者側の人の可能性があるだけで、信じることは難しいと言うのに。

 ……信用できる人の見極め方ってどうやるんだろうな。

 途方に暮れたような気持になっていると、アオイさんは立ち上がり、両手を広げて伸びる。

 

 

「ともあれ。ヒスイちゃんが人に興味を持ってくれてよかったよ」

「? どういう意味ですか?」

「魔法の勉強は好きみたいだったけど、人に興味を持たなかったらどうしよう、って心配だったんだ。人と接するのを嫌がるなんてそれこそスグサ様みたいじゃない?」

 

 

 そういえば、スグサさんは一人で研究に没頭するタイプの様だった。

 学校もすでに知っている内容だからって通わなかったぐらいだし。

 心配事が消えたような晴れ晴れとした笑顔を見て、釣られて悩み事が消えたような気持になる。

 実際は考えなければいけないことだけど、今じゃなくてもいいか。

 私も意気込んで立ち上がる。

 

 

「アオイさんは明日何をやるんですか?」

「ん? 僕はね、かっこいい所を見せるためのパフォーマーだよ」

 

 

 詳しくは明日、実際に見せてくれるらしい。

 そう言い残し、他の生徒が来る前にと別れを告げた。

 

 

 

 

 

 ―――――……

 

 

 

 

 

 次の日。遠足二日目。

 生徒は一か所に集まり、大人たちが前で揃っている。

 大人たちというのは、先生だけではなく、魔術師団とギルドの人も含めている。

 制服を着た人たちは魔術師団、服装ばらばらで冒険にでも出れそうな格好はギルドのひととわかりやすい。

 今日来ている人たちは、生徒たちからしたら憧れの的のようで、黄色い声や感声が上がっている。

 そんな最中。

 ヒイラギ先生が寛闊声(かんかつごえ)を上げる。

 弛んでいた空気が、

 

 

「これから、今日の討伐任務『毒鳥・ピーチ』について説明する」

 

 

 甘そう。

 私だけ緊張がゆるんでしまったと思う。

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