【3/27 電子書籍一巻発売】魔術師は死んでいた。 作:彩白 莱灯
『毒鳥・ピーチ』とは。
肘から指先ぐらいまでの体長……おそらくは鷹やフクロウぐらいのサイズ。
つまり大きめ。色はオレンジと紫でまだら模様。嘴は銅色。
想像しただけで危なさそう。
全身に毒、血液にも毒を持っている。
なので討伐の仕方は魔法が推奨される。
一番いいのは火属性。水や土、闇や光で弱らせてからというのもあり。
風で傷つけてしまうのが一番よくない。
大体の人は無属性をのぞいても二属性は持っているとされるので、得意ではなくとも風属性以外を使うことになる。
私も火属性か闇属性を使うことになる
今回討伐対象となったのは、鳥自体が危険ということもあるが、この森の奥地に繁殖してしまっているらしい。
「今回の作戦は、ギルドと魔術師団と協力のもと執り行う。作戦を説明する」
ずらりと並んだ大人たちが整列し、緊張感が漂う。
ギルドや魔術師団たちが土属性の魔法で地震を起こし、ターゲットであるピーチを飛び上らせる。
飛び上ったピーチは生徒たちが魔法で狙い撃つという。
動くものを狙い撃つ、というのは、オリエンテーションでやったような状況と似ている。
他の動物・魔物たちは一応対象から外し、なるべく攻撃はしないようにとのこと。
「森の入り口にグループごとに配置。三人ずつ前衛・後衛を交代しながら行うように」
はい、と生徒のやる気に満ち溢れた声が揃う。
憧れの人たちを目の当たりにしていたこともあり、テンションは最高潮だ。
ここで配置につくかと思ったが、ギルドと魔術師団から長の紹介があるらしい。
見知った人と、ローブを着て暗い雰囲気の人と二人、先生の隣に並ぶ。
「王城の魔術師団から来ました、団長のアオイ・ベイトです。協力して頑張りましょう」
甘いマスクで、甘い声で、優しく気遣う優男、アオイさん。
女子たちの黄色い声に交じって女性ではない声も聞こえる。
老若男女、人気なようだ。
歓声に一礼して優雅に答える様子が、また優雅。
続いて、隣の人に視線が集まる。
「ギルド代表。コモ」
……。
以上のようだ
ローブと大きい襟で顔はほぼ見えず、さらに襟を持ち上げていたせいで顔の三分の一も見えなかった。
ちらりと見えた髪と目が桃色っぽくて可愛らしさを感じたけれど、性格は真逆のようだ。
アオイさんとの違いが大きくて、他の生徒たちも反応を忘れて、口を一本に結んでいる子が多い。
「コモくんはこんな感じだけど、仕事は早いしすごい魔法も使えるから、みんな安心してねー!」
「……重い」
唐突にアオイさんが肩を組みだし、明るくアピールする。
二人は知り合いなのか、どちらも慣れたように会話している。
その雰囲気に安心したのか、生徒の表情は緩んでいた。
「お前ら、終わったならさっさと行けよ」
「ヒィくんつめたーい」
「うるせえさっさとしろ」
「……重い」
あれ、ヒイラギ先生も知り合いなのかな。
話し方が他人行儀ではない。
促された二人は一方的に肩を組んだまま、先に配置につきに行った。
先生は一つ大きくため息をついて二人を見送り、気を取り直して私たちに向き直る。
「そもそもあいつらはここに派遣されるような奴らだ。力は確かだから、安心して挑め。それともう一つ」
人差し指を立てて、見渡す。
無音の時間が流れることによって、先生の次の言葉に注目が集まる。
「昨日、ライラとナオとセンが、森の中で大穴を見つけている」
騒めきが起こる。
さっきまでの雰囲気は一転して、不安気な声がそこかしこから上がっている。
それをかき消すように、乾いた音が響いた。
「その報告により、ギルドと魔術師団にも連絡が取れ、もしもの時に備えることができている。全員、ライラたちのように何か異変を感じたらすぐ言うように」
頼もしい言葉を聞いて、生徒たちは安心を取り戻した顔をする。
強い人たちがいてくれる、備えてくれている、守ってくれている。
それが分かっただけで、心構えはだいぶ違う。
そして敢えて名前を出したことは、ライラさんがオリエンテーションで生徒を怖がらせてしまった時のことを挽回するためと勝手ながら思う。
「……終わったと思っても、最後まで気を抜くな。焦るな。落ち着いて挑め」
激励なのか、注意喚起なのか。
不穏な言葉にもとれるそれを胸に秘め、討伐準備に取り掛かった。
―――――……
配置につき、開始の合図を待つ。
配置はグループごとにまとまって、一直線に配置されている。
両端はそれぞれギルドと魔術師団がいる。
しかし長であるアオイさんとコモさんは生徒たちの正面にいて、念話で連携を図るようだ。
仕事中のアオイさんを見ることはあまりなかったので、指示出しをしている姿は少し新鮮。
私たちのグループでは、火属性を使えるのは私とライラさん。
土属性はマリーさんとセンさん、水属性はシオンとナオさん。
組み合わせは私、センさん、シオンが前衛。
ライラさん、マリーさん、ナオさんが後衛となった。
「俺がピーチを弱らせて、ヒスイっちが火で攻撃して、シオン様が消火って感じ?」
「そうですね」
「へまするなよ」
「へーい」
手順を確認し、合図に備える。
他の皆も三人一列で前後に並び、黙って合図を待っているようだ。
ドクン、と、心臓の脈打つ音が鮮明に聞こえる。
ウロロスの時に実戦は経験しているけれど、あの時は自分しかいなかったし、スグサさんが助けてくれた。
今回も大人たちがいたり、クラスメイトと協力するわけだが……一人で自由にやれるのと、人の目がある中で隠しながらやるのとだと、また違う緊張感がある。
集中したいときに別のことを考えてしまって、気付けば正面の二人が生徒を見回して頷きあっている。
背後に備えているヒイラギ先生から「よし」と声を発した。
「これより作戦を開始する! 全員構え!」
駆けだすわけではないが、中腰になって森を見据える。
魔法を発しやすいように、右手は森の上空を指さす。
「……初め!」
「魔法、発動を命ずる」
「やれ」
先生の掛け声、それに団長と代表の開始の合図で、大地が揺れる。
―― 土属性の上級魔法、≪嘆きは鳴動となりて≫だな。複数人による乗算もされてるだろう。
思わぬ解説が得られた。
スグサさんによると、上級ではあるが、鳴動の大きさはそこまででもないらしい。
だが複数人に行うことで広範囲に効果を広げているのだろう、と。
森とその周囲を揺らすことで、動物・魔物が驚き活動し始める。
木の上へ飛んでいる魔物で、一際大きいものがピーチと聞いている。
オレンジと紫のまだら模様ということで、その毒々しさは遠目から見てもよくわかる。
「おーし。
センさんが間延びした言い方で、土を放つ。
一匹のピーチにあたり、土がまとわりつく。
魔法の操作は継続したまま、私が続く。
「
見るからに火の玉を放ち、ピーチに当てる。
森の上での作業なので、下ろすことはできない。
もし落ちてしまって森に延焼してしまった場合は、ギルドや魔術師団が対応してくれることにはなっている。
が、そこは学生の訓練も兼ねているので、なるべく空中でやることになっている。
十秒間は火を上げたまま、空中での状況を見守るよう言われている。
そしてその秒数が空いたとされれば、仕上げとなる。
「
張りきったシオンが魔法を放つ。
形的には、以前使っていた≪隔絶された水槽≫。
あの時は危険な使い方だと言われていたけど、今だったら良さそう。
中級魔法だから魔力消費が続くかどうかというところだが、本人は一発程度なら余裕そう。
魔法の指定もされていないし、いいのかな?
ともあれ一匹は仕留めたので、後衛の第二陣と交代。
他のグループも着々と、一匹ずつ仕留めて行っている様子。
―――――……
確実に仕留めて行き、交代は何往復も繰り返された。
初級魔法と言っても連発しているとしんどいもので、他の四人は疲労を隠せていない。
隠すどころか疲れていないのは私。
実は疲れているかもしれないのがシオン。
シオンは中級魔法から初級魔法に切り替えてはいたので、もしかしたら疲れているかもしれない。
だがその表情はまだまだ余裕が伺える。
センさん、マリーさん、ナオさんは単純に魔法の連発だからだろうが、ライラさんは……たぶん、コントロールに集中しすぎて精神的に疲れたかな?
一人ケロッとしている私だが、周りから浮いてしまうのは避けたいので、慌てて膝に両手を置いて中腰になる。
生徒からの攻撃が途絶えてしまったのはすでに伝わっているだろう。
森の周りにはピーチの残骸がいたるところに見える。
もう残りのピーチもほとんど飛んでいないのも含め、作戦はもう終わりと思われた。
しかし。
先生も、アオイさんも、コモさんも。
森を見据えて、硬い表情のまま。
緊張感を途切れさせてはいない。
まだ何かあるのか。
そう思った時。
また、大地が揺れた。
「まだやるのか……?」
余裕そうに見えていたシオンの声には疲労の色が滲んでいて、やはり疲れてはいるのだと思う。
もう動けなさそうな子もいる中で、この中でやるのは酷だが。
―― これは≪鳴動≫じゃねーな。
「え」
思わず声が漏れてしまった。
魔法かどうかの判別ができることにも驚きだが、魔法でないなら何なのだろうという疑問が湧く。
その疑問に答えてくれたのは、スグサさんではなかった。
「生徒は俺の後ろに控えろ」
何時にもなく頼りになる言葉を発した先生にも若干驚きながら、動けない生徒に肩を貸して移動する。
状況を分かっているような先生や長二人に説明を求めたいが、三人とも森を見ているので聞くに聞けない。
その心情を察してか、生徒が控えたのを確認した先生が、口を開く。
「大物だ。全員、目標にしてるやつも多いだろう。二人の姿をよく見とけよ」
森、ではなく、自分たちの前に佇む代表と魔術師団長を見据えながらそう言った。