【3/27 電子書籍一巻発売】魔術師は死んでいた。   作:彩白 莱灯

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第11話

 騎士団と魔術師団がスパデューダとピーチの後片付けをしている間、生徒たちは先生によって集められていた。

 

 

「このあと、転移で学校に戻る。到着した奴から解散していい」

 

 

 楽しいだけでは終わらなかった遠足は、ようやく終わるようだ。

 魔法を連発したり、思わぬ危機を感じたり、一流の魔法を見たり。

 忙しい遠足だった。今は体力は回復している生徒たちも、疲れた顔をしている。

 

 

「グループ課題を出す。スパデューダとピーチの生態の生態をまとめること。討伐任務難易度の根拠づけについても記載するように。期限は二週間」

 

 

 突然の課題だが、いつもの大合唱は起きなかった。

 多くの生徒は声を出すほどの余裕もないほどに疲れていて、早く帰りたいというのが本音だろう。

 隣にいるマリーさんとライラさんはいつも通りの表情だが、実は疲れているのかな?

 

 

「じゃ、グループごとに転移の魔法陣に入るように。呼ばれたらすぐ来いよー」

 

 

 先生は魔法陣の準備に取り掛かる。

 生徒は思い思いに待機して良いとのこと。

 私たちはグループ課題について予定を立てることにした。

 

 

「いつから活動しましょうか」

「うわ、マリっち余裕そうだねー。俺もうヘトヘトー」

「僕も……」

「私元気ー!」

「今日は帰ったら休もうぜ。明日からでいいだろ」

 

 

 男性陣は疲れを露にしていて、ひとまず今日は集まらずに解散することになった。

 私は疲れ……ているような気はしないので、先に調べておこうと思う。

 だから帰って一息ついたら図書室に行こうかな。

 順番に呼ばれているグループを眺めながら、この日の計画を練った。

 

 

 

 

 

 ―――――……

 

 

 

 

 

 魔術師団団長、アオイ・ベイトと、ギルド代表、コモ・クルアネ。

 部下に森の周りの整備を任せ、二人は森の奥にいた。

 足元には、ライラとナオとセンが落ちかけた大穴。

 

 

「ここが報告にあった穴だね」

「こんな手前まであったとはな」

 

 

 穴を眺めながら、二人は顔を強張らせる。

 頭を悩ませているのは、スパデューダによる穴。

 スパデューダが穴を掘る理由は、住処とするため。

 穴に住み、周辺の気に糸で巣を作るという。

 掘り進んだ先で気に入らなければ移動するため、掘りかけの穴を見つけたらスパデューダの可能性を考えるのが基本とされていた。

 ただし、スパデューダが住処を作る条件として『暗く、湿気のある場所であり、体長の二倍の周辺環境が必要』というものがある。

 この穴がある場所は、昼の光も夜の月夜も差し込む。

 些か条件に合わない。

 

 

「ただの気まぐれか、夜の活動中に勘違いしたか」

「嫌なことを考えれば、奥はもうすでに一杯ってことかな」

 

 

 森のもっと奥、深い所には完全な巣があると予想する。

 二人は敢えて口にすることなく、奥へと足を進める。

 それが目的なのだから、行かなければならなかった。

 

 

 進んでいけば、日の光は減り、鬱蒼とした草木が増え、歩きにくい場所。

 二人は平然としながら奥へ奥へと進み、木に纏わり付く巣を見つけ、卵を見つけ、ようやく見つけた住処は沼の近くにあった。

 『暗く、湿気のある場所』という条件も合致している。

 

 だが、またさらに問題点が出てきた。

 通常のスパデューダの巣は、住処周辺の木の大きさ程度になると言われている。

 この周辺の木は目測で五メートル程。

 そうするとスパデューダの体格は精々三メートル弱といったことになるはずだった。

 しかし、討伐したスパデューダは三メートルなど優に超えている。

 

 

「うわ、でか……」

 

 

 足元に空いた穴は、五メートル以上もの幅を持っている。

 ライラたちが落ちかけた穴が二メートル程ということから、もし同一個体による穴だとすれば、急成長していることになる。

 ≪鳴動≫によって慌てて出てきたのだとしても穴としては大きすぎる。

 

 

「異常だね。何が起こってるんだろう」

 

 

 アオイが一人立ち尽くしている時、コモは穴を覗いて、ほとんど見えない顔を(しかめ)める。

 

 

「……アオイ」

「ん?」

「中を覗く。周囲を頼む」

「わかった」

 

 

 コモは口元の襟を持ち上げ、目は閉じつつも顔を歪めながら魔力を練る。

 

 

(デス)上級魔法(ゼヴェニィ) ≪深淵の瞳≫」

 

 

 瞼の裏に、穴の内部の光景が広がる。

 広い大穴の中は暗いはずが、魔法の効果によって薄っすらと見えている。

 森の奥地から、穴の奥地へ視界をずらし、底などあるのかというぐらい下ったところで、見えた光景。

 コモは目を見開き、腰を抜かした。

 

 

「っ!?」

「コモくん!?」

 

 

 攻撃されたと勘違いしたアオイは、コモを守るようにして周辺をより警戒する。

 しかし周辺の様子は変わらず、気配もない。

 卵の様子も生まれる気配はなく、またスパデューダの別個体の気配もない。

 

 

「……すまん」

「だ、大丈夫? ……顔色、ひどいよ」

「ぐ、っ……」

「コモくん!?」

 

 

 元々色白の肌が青みがかり、ただ事ではないことを語るには十分だった。

 額には脂汗が滲み、瞳孔が開いている。

 動揺しているせいか、瞳も体も震えている。

 口では大丈夫と言っても体はそうではなかったようで、コモは堪らず、胃の中の物を吐き出した。

 

 

「っは、あ……」

「どうしたの!? なにがあったの!?」

「……ひどいもんだ」

 

 

 語ったコモは、口に出したことを後悔して再度吐いた。

 本当にひどいものだと、聞いたアオイは後悔した。

 

 

「穴の底には、半分溶けた状態の魔物と、同様の、人間と思われる四肢や胴体が大量に埋め尽くされていた」

 

 

 獄蟲(ごくちゅう)・スパデューダ

 森や洞窟などの暗い場所を好んで生息する、昆虫型の魔物。

 体長は大きいもので成虫で大人一人分の胴体を持つが、個体差は大きい。

 遠足前に確認されているものでは最大で二階建ての民家程度の大きさと文献より。

 自身は地面に穴を掘りその中で日中を過ごす。

 卵を産む際は、周辺の木や洞窟の壁に糸を張り巡らせ、絡めるようにして固定している。

 肉食。

 魔物や人間などの生物を自身の身体から吐き出す糸で繭状に拘束し、保管、または捕まえたものを溶かして繭ごと捕食する。

 そのため、保存食として巣穴に保存されていることが多く、繭に包まれずにいることは生態上ありえない。

 

 

 

 

 ―――――……

 

 

 

 

 弟子は遠足後、グループ課題を終え、学校生活を謳歌しているようだ。

 「しているようだ」というのは私様の推測に過ぎない。

 なぜなら弟子は相も変わらず、表情は変えないため、何を思っているのかとってもとても分かりにくい。

 ただわかるのは、無表情は素知らぬ顔。

 こいつはやはり、どこか他人事としてすべてを見ているということ。

 他の生徒は自分のこととして考えていたから、その点で言えば弟子は落第点だ。

 危機感を感じているんだか感じていないんだかわからんが、他人事として見ている間はギルドの任務なんて言ったら速攻死ぬだろう。

 怪我の一つや二つ、して来ればよかったのに。

 

 

 ―― ……あー、怪我、か。

 

「んえ? 怪我?」

 

 ―― や、なんでもない。

 

 

 例の如く、弟子の部屋で魔法の練習をしている。

 学校では風・火・闇と無属性の魔法を使うことは届を出しているので可能だが、水・土・光は使えない。

 なので、今は室内を暗くして、光の魔法を一定に長時間使う練習。

 今更なようだが、足元には以前やっていた丸めた紙屑の綱渡りだ。

 こいつさらっと多属性魔法の同時使用をやってのけやがる。

 なんか悔しい。

 

 

 ―― もうちょっと暗くしてみろ。

 

「え、今でも結構難しいんですけど」

 

 ―― さっさとしろ。

 

「ええぇ……」

 

 

 大きいものを一撃出すより、意図的に弱い力を継続して出す方が実は難しかったりする。

 意地の悪いことをしている自覚はあるが、結局は弟子のスキルアップにもなるんだから、結果オーライ。

 ……文句言いながらなくせにさらっとやってのけやがって……。

 舌打ちしたくなるわ。

 

 

 ―― チッ。

 

「え」

 

 ―― あ?

 

「ナンデモナイデス」

 

 

 さすがに大人げないな。

 気を取り直して。

 

 

 ―― さっき思ったんだがな。

 

「はい」

 

 ―― 今度長期休み入るだろ?

 

「そうですね。まあ一月(ひとつき)先ですけど」

 

 

 入学して早二月(ふたつき)経とうとしている。

 三月(みつき)百五十日通い続けたら、一月(ひとつき)は休みに入るという。

 生徒によっては寮で過ごすもよし、自宅に帰るもよしな期間。

 弟子はどうするのか知らんが、私様の妙案を早めに伝えておいた方が計画も立てやすいだろう。

 

 

 ―― ギルドの依頼を受けてみたらどうだ。

 

「え、ギルド、ですか」

 

 ―― ああ。魔法の練習にもなるぞ。

 

「身分とか……」

 

 ―― あー……王子サマに聞いてみろ。

 

 

 生徒の身分でやっていいもんなのかね、そこは。

 遠足の時を考えると、例えギルドに登録できたとしても受けれる任務は雑用ばかりな気もする。

 リスク管理がまだだっつって。

 魔法を使うことが目的なのに、街のお手伝いじゃ意味がない。

 

 

「長期休みかあ……一つ用はあるんですよね」

 

 ―― ああ、医術師の婆さんか。

 

「そんなおばあさんでもないですよ、たぶん」

 

 

 光量に若干の歪みを生じさせながら窘める。

 懐いてるな。

 

 

 ―― 十日ぐらいだろ。

 

「はい。なので、それに被らなければ、やってみたいです」

 

 ―― お、乗り気だな。じゃあ王子サマに聞いてみよう。変われ。

 

「え」

 

 

 体の主導権を無理やり奪う。

 ……ちょっと奪いにくくなってきた気もするな。

 弟子の魂が体になじんできたかな。

 

 

「よっしゃ、行くぞ」

 

 ―― え、どこに……?

 

「王子サマんとこ。寮にいんだろ」

 

 

 窓から風の魔法を使い、宙に浮く。

 夜の散歩だ。

 昔はよくこうやって飛び回ったなあ。

 夜は人がいないから好きだ。

 ええっと、王子サマの魔力はっと。

 ああ、あっちだ。

 男子寮。上の方。角部屋。

 いい部屋じゃねえか。

 窓の明かりがあることを確認し、三回ノック。

 城でやっていたリズムなら伝わるだろう。

 もちろん明かりがついていなくてもやっていた。

 大きな物音がしてから、間隔を開けて、カーテンがそっと開かれる。

 ただし、手ではなく剣先だが。

 

 

「よっ。コンバンハ」

「っ! スグサ殿……、さすがに自由すぎますよ」

 

 

 はああああ、と大きなため息を貰い、ごちそうさまと言っておく。

 窓を開けてもらったが、さすがに中には入らず窓枠に腰掛ける。

 中は……特に変わりないような……いや、部屋は広いな。

 心なしかいい匂いもする。

 

 

「突然どうされたんですか?」

 

 

 シャツとスラックスという完全にラフな状態だが、帯剣している辺りはやはり王族だからか。

 変な期待をさせてしまって申し訳ないので、早々に聞いて立ち去ろう。

 

 

「ギルドの任務がてら、弟子に魔法を使わせたい。登録は可能ですか?」

「ヒスイにですか?」

「ああ。届け出以外の魔法とかをな」

 

 

 「ああ、なるほど」と。顎に手を当てて、しばらく考えている。

 即答しない分、問題があるのか。

 その場合は任務外でこっそり町から離れたところにでも行くかなあ。

 

 

「フォリウム学院の学生はみんな一斉に登録するので、先に登録することは難しいです」

「へえ、そうなんだ」

 

 

 学校には通ってない私様じゃ知り得ない情報だ。

 聞いといてよかった。しかしそうなるとやっぱ、こっそり行くかなあ。

 正規ルートではない方法を考えながら、じゃあ行くかと王子サマに背を向けてまた飛ぼうとした時、「なので」と続きがあったことに気が付く。

 

 

「俺が任務を受けるので、それに同行する形なら大丈夫だと思いますよ」

 

 

 勢いよく振り向いて、王子サマの悪餓鬼風な笑顔を見つめる。

 同行と言っているが要は「連れてけ」と言うことだろう。

 なんでもいい。

 楽な方法があるなら願ったりかなったりだ。

 

 

「それはいい。だが王子サマはどれくらいまで受けられるんです?」

「最上級任務までは。ただし誰か兵も同行させることにはなりますが」

 

 

 王子サマの年齢で最上級まで受けられるなら相当優秀だろう。

 それも王族ゆえか。

 お付きがつくのも立場上はしょうがない。

 言ってしまえばパーティーを組むということだろう。

 

 

「どうせ見知ったやつでしょ。私様は構いませんよ」

「そこはもちろん。いつごろの予定を?」

「長期休み」

「なら話は付けておきます。長期休みの前夜にまた来てください」

 

 

 今度は紅茶でも入れてくれるのかね。

 ともあれ、これで実践の場は確保できた。

 どこからか重い吐息が聞こえるが、なぜやら理由がわからないなあ。

 

 

 

 

 

 ―――――……

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