【3/27 電子書籍一巻発売】魔術師は死んでいた。   作:彩白 莱灯

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長期休暇
第1話


 季節は湿となり、雨が降っていることが多い時期となった。来月は一月(ひとつき)丸まるお休みとなるので、先週一週間を使って期末試験が行われた。

 

 筆記と実技の試験を行い、今は結果を記した一枚の紙切れを順番に配られている。この学校では総合順位トップテンまでは張り出すらしい。名前は出てほしくないかつ乗らない予定の私的には嬉しい。

 

 続々と名前を呼ばれ、紙を受け取った生徒は一喜していたり一憂していたり。室内では二極化している。

 

 そんな中、私は一人、私しか考えていないだろうことが頭の中を占めている。

 

 

 実は、私がこの世界で意識を取り戻して、もうすぐ一年が経とうとしていた。

 

 

 この世界で言えば一年は六百日。もうそんなに経ったのか、というのがまず最初の感想。次の感想は、前の世界ではどうなったのだろうか、ということ。

 

 前にスグサさんに「戻る気はない」と言ったことは、今でも変わっていない。それでも、親や友人がどうしているか、どういう気持ちでいるのか、気になってしまう。

 

 思い出さないようにしていた時期もあったが、最近はそんな気もなく考えていなかった。学校に通うようになってから、そちらに気を取られていたというのが大きい。

 

 それでも、こういう節目だと気付いてしまうと、考えてしまうことは避けられない。天気が雨というのも、以前住んでいた地域についてノスタルジーを感じてしまう。

 

 

「次。ヒスイ」

 

 

 ヒイラギ先生が名を呼ぶ。

 

 返事をして立ち上がって、教壇に向かって紙を受け取る。

 

 

「手ぇ抜かなかったか?」

「全力です」

「へえ」

 

 

 怪しまれているような気がするが、素知らぬ顔で席に戻る。先生の目は見ないように。

 

 皆と同じぐらの魔法にするために『全力』を使ったことには変わりない。

 

 スグサさんと練習していると、授業で見ている魔法のレベルと全然違うんだよね……。色んな魔法が使えたり、威力も強いものが使えたりするのは楽しいのだけど、外見や立場上、あまり目立ちたくはない。

 

 ベローズさんに報告されたりしたくないし……。

 

 スグサさんも学校には通っていなかったそうだから、学生のレベルというのを知らないのだとか。

 

 だからってスグサさんのレベルで習ってしまってはそりゃあ学生レベルではないのだけど。なんたって最高位魔術師らしいし。

 

 

「ヒスイ、どうだったー?」

「まあまあです」

「良さそうな感じだね! 私はダメだー! あは!」

「ライラ……母上に怒られちゃうよ……」

「はっ」

 

 

 ライラさんとナオさんのお母さんは厳しいのだろうか。笑い飛ばしていたライラさんがぴたりと動きを止め、冷や汗だけが静かに滴った。

 

 

「あらあら」

「マリっちはどうだったー?」

「聞くまでもないだろ。トップだったじゃないか」

「いやいや、学年トップへの勝利インタビューだよー」

「うふふ。頑張りました」

「屈託のない笑顔ありがとーございまーす」

 

 

 マリーさんはトップテンの一番上に名前を掲げ、先生が誇らしげにしていた。編入する時点で平均より上の学力が必要ではあったが、トップは純粋にすごい。テストの点も貴族であるということも笠に着ないので、クラス全体から祝福されていた。

 

 休み期間中、マリーさんが先生となって勉強会も開くらしく、私も参加しようかと考えている。時間があえばだが。

 

 

「みんなはお休み中は何するのー?」

 

 

 センさんが机に突っ伏し、貰った紙で風船を作りながら問う。いいのかな、紙。

 

 

「私は両親とレルギオに行きます」

「お、教祖様に報告?」

「ええ。ご挨拶に」

 

 

 ユーカントリリー教の布教でこの国に来たと言ってたが、マリーさんは寮に入っているので活動はご両親が行っていたのだろう。定期的に国へ戻って、状況を伝えるのだそうだ。

 

 

「俺は一度城に戻るが、すぐ戻ってくるぞ」

「ほんと? じゃあ俺と遊んでー」

「気が乗ったらな」

「ひどっ」

 

 

 シオンはあまり城にいたがらない。去年は私が人目を避けていたのもあるが、私がいたことも、殿下から教えられるまで知らなかったみたい。

 

 センさんは勘当されたものなので、帰るつもりもなければ帰る家もないのだと。一月(ひとつき)を寮で過ごすようなので、仲間が欲しくて仕方がないのだろう。

 

 

「あたしとナオは家のお手伝いに行ってくるよー!」

「手伝い? って何やんのー?」

「えと、事業の、手伝い……」

「……ってどんなこと?」

「んっとねー……聞いてないや!」

「聞いてないかー」

 

 

 二人も貴族だが、あまり裕福ではないのだと以前行っていた。長期休みとなると人手として駆り出されるのだそう。

 

 

「ヒスイっちは?」

「私も寮を空けます。見習いの方で活動しないとなので」

「あーじゃあクザせんせーと一緒かー」

「そうですね。外出もあるようなので」

 

 

 クザ先生と訪問診療に行ったり、言わないが殿下とギルドの依頼を受けに行く。その間に寮に戻ってくることもあるだろうが、正直わからない。任務次第では泊まる可能性もあるようなので、いないことにしておいた方が後々楽だろう。

 

 ああ、そういえば、殿下にギルドのことがどうなったか、そろそろ聞きに行く頃合いだ。

 

 

 とある日の昼。

 成績が配られている今日は終業式まで残り十日。

 終業式という言葉にどことなく懐かしさを感じる。

 社会人ではギリギリまで出社していたもの。

 

 この後の十日間では、人によっては帰省の準備。

 人によっては自習。

 人によっては遊び、人によっては補習を受ける期間である。

 私を含む六人グループは、『ほとんど』がそれぞれで活動する。

 

 

「ライラ、明日遅刻すんなよ」

「ナオ一緒に来てよおおおお」

「ぼ、僕は家に呼ばれてるからダメだよぉ」

 

 

 教室を去るヒイラギ先生に念を押され、ライラさんの涙が溢れ出る。

 その水分はナオさんの制服に浸み込み、いずれ蒸発する。

 ああ、これが循環という物かと一つ学びを得る。

 教室でも極僅かという少数の中に、私たちの中からはライラさんが含まれてしまっていた。

 

 

「補習が終わったら遊ぼう! 月末とか!」

「じゃあ、予定空けられるように調整してみます」

「私も、その頃には帰ってこれるように両親に伝えてみます」

 

 

 この世界での連絡手段には、もちろん携帯なんてものはなく、専ら手紙か念話が主だ。

 学生では念話をしている様子を見たことがないので、高等手段なのか、学校での使用は許可が必要なのか。

 とりあえず、私たちの遊びの予定は、寮の扉のポストに手紙を入れておくことになりそうだ。

 この日はそのまま成績表を貰ったら解散。

 先生も教室を出て行ったことだし、私たちも荷物をまとめて教室を出た。

 男子寮・女子寮で分かれ、女子も階ごとに分かれ、私も自室に入って一息をつく。

 午前中で終わった今日は、このあと外出する予定。

 行先はお城の訓練場。機能訓練だ。

 学校に通い始めてから頻度は減ってしまったが、定期的に行うことはできている。

 

 学校入学前に行方不明となってしまったルタさんは、未だに見つかっていない。

 

 部屋で軽くお昼ご飯を食べ、荷物を持って、管理人さんに外出届を提出する。

 制服の方が身分が伝わりやすいので、服装はそのままだ。

 ちなみに、顔を隠すためにのマフラーもそのまま身に着けている。

 湿気のある今の時期は辛いかとも思っていたが、どういう効果なのか全く辛くない。

 これも魔法なのかな。

 

 

 もはや通いなれた道と城壁を目の端に映しながら、滴る汗に湿度が高くなって太陽も照るようになってきたことを実感する。

 歩く道はコンクリートではない分、照り返しがないのが幸いだ。

 だが、今日は荷物がある分、早く到着して日陰に入りたい一心だ。

 無意識に早足になっていた足が城門にたどり着き、見覚えのある人がまるで巨木のように立っている。

 

 

「カミルさん」

「……久しぶり」

「お久しぶりです」

 

 

 この人と会うのはいつぶりだろうか。

 学校へ編入するときは仕事で、なんどか機能訓練に通っていた時もタイミングはあわず、アオイさんやロタエさんと会うことが多かった。

 騎士団は魔術師団とはまた違った忙しさがあるようで、百日以上はあっていない気がする。

 

 

「少し瘦せましたか?」

「どうだろうな、気にしていなかった」

「暑くなってきましたし、栄養摂ってくださいね。騎士団長が倒れたら大変です」

「肝に銘じておく」

 

 

 門番さんに会釈し、騎士団長の肩書を持つ人の後ろを歩く。

 もうこの中もローブを被らずとも歩けるようになった。

 暑さはともかくとして、オドオドしないで過ごせるのは精神的にも安らかだ。

 『人と関われ』というスグサさんの宿題は、こういう意図があったのかな。

 

 

「今日は何を持ってきたんだ?」

「魔石のストラップ、みたいなものです」

「何に使うんだ?」

「カミルさんみたいに、夏でも鎧を着たり、外仕事をしている人たち用なんです。体温上昇が抑えられるように、≪冷風≫を入れてあります。服の中でも使えるように、平べったい石を選びました」

「へえ。いいな」

 

 

 いわゆるミニ扇風機。

 前の世界の、働く人のためのお店にあった商品を参考にした。

 外仕事だった私も大変お世話になっていた……という夢を見た。

 便利な道具は共有しなければ。

 

 

「カミルさんもお一つどうですか?」

「そうだな……いや、今日来ている兵たちの分が余ったら買おう。余らなければ改めて注文する」

「わかりました。ありがとうございます」

 

 

 負傷した兵の人たちの中には、職業復帰として農業をやっている人もいる。

 工場の勤務や、体温調節が難しくなった人も。

 

 こういうアイテムは、作ったら買い取ってくれていて、そのまま私のお小遣いになっている。

 これも編入直前の、ガーラさんにポータブル スプリング バランサーの件からの習わしになっている。

 有難いことだ。

 

 

「じゃあ、それが終わったら殿下の執務室に向かってくれ。ギルドの件でお話があるそうだ」

「わかりました」

 

 

 訓練場へ続く通りの直前で、カミルさんは別の方向へ進んでいった。

 私はこの先に用があるので、一人進む。

 殿下がいるということは、補習は大丈夫だったのかな。

 あまり補習を受けているイメージはもちろんないが。

 ギルドの話がこのタイミングで聞けるとは思っていなかった。

 パーティーメンバーについてかな。

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