【3/27 電子書籍一巻発売】魔術師は死んでいた。   作:彩白 莱灯

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第3話

「レルギオねえ。よくは知りませんけど、第一王子が行く程にイイ所なんです?」

「宗教国家ということもあって、国外にはあまり情報を出さないんですよ。だからこそ、ですね」

 

 

 良く知らない国だからこそ、第一王子に行かせて内情を確認しようということか。

 第一王子ならば向こうでも恭しく対応するだろうと考えたのは、果たして誰なのか。

 まあそんなこと私様にとってはどうでもよくて、気になるところは別にある。

 

 

「随分とイイ性格をしているようで」

 

 

 あの実験を知っておいて、かつ生きた人型である弟子を見て、ああも即座に『死体』『人形』扱いできるのは、正直たまげたものだ。

 適応能力、状況理解能力、なんて言っていいモノか。

 第一王子が冷静で人当たり良くて聡明で、というのに喜ぶ奴は多いだろうが、先程の対応力は一部の人間が特に喜びそうだ。

 王子サマは苦虫の汁でも飲んだような顔をして、紅茶で喉に流し込む。

 

 

「……あの人は、人が嫌いなんだ。だから逆に、ヒスイには好感を持ったようだ」

「アレで?」

「「アレ」って……。護衛として身近に置きたいと考えるのは、そういうことだと思う」

 

 

 第二王子の言葉だ。信憑性は高い。

 だが……アレで気に入っているという判断材料になるのかあ……。

 第一王子は随分曲者のようだ。

 人嫌い。

 だがら『死体』で『人形』である弟子のことを気に入って、護衛ということで身近に置きたいと。

 つまりは『生きた』『人間』を置きたくない、体のいい人払い。嬉しくねえ誉れだな。

 

 

「人嫌いだが……いや、人が嫌いだから、人を見極めるのは得意なんだ。優れているところも劣っているところも。だからどの仕事を誰に割り振るか、人の動きも含めて、指導者としてはとても優秀な人だ」

 

 

 紅茶の水面を見つめながら、語ってくれているようだが、まあ半分は独り言に聞き耳を立てている感じ。

 弟としては複雑なところでもあるのだろうか。知らんが。

 

 

「じゃああの人が「弟子(ヒスイ)をこちらに」なんて言えば、信者たちは「右に倣え」と言ってきますかね」

「臣下と言ってください。まあ、そうでしょうね」

 

 

 信者だろ。

 まあでもめんどくさそうなことはわかった。

 決定権を主張した王子サマの心境も。

 精々守ってもらおう。

 

 

「なら、さっさと外出でもしましょうかね」

 

 

 テーブルに広げられたままの、任務の書類を見る。

 『上級(-)』『上級(+)』『最上級(-)』。

 任務受注が初めてにしては高ランクだが、高レベルの魔法を周囲に気にせず使うなら、高レベルの任務出ないと人の目がありすぎる。

 内容はさておき、場所は人気はなさそうなものばかり。

 

 

「いいんじゃないですか? 場所も多様性があって」

 

 

 砂、海、廃村は……どこだこれ。

 まあ国の端っこかな。

 ギルドならば受注したときに目的地付近までの転移の魔法石を買えたりもするから、移動には問題ない。

 同時に受注者がいなければより良い。

 

 

「じゃあ私が受注してきます」

 

 

 女魔術師が三枚の紙をまとめ、書類の束の一番上に置き直す。

 そのまま立ち上がり、「仕事に戻ります」と言って部屋を出て行った。

 もう一杯紅茶が飲みたい私は、置きっぱなしになっているティーセットに手を伸ばし、自分のカップに注ぐ。

 

 

「王子サマもいります?」

「あ、じゃあ」

 

 

 どうぞどうぞ。

 私様が入れるなんてこと、ほとんどないから貴重ですよ。

 まあそんなこと言わないけど。

 …………。

 

 

「なんでレルギオに行ってたんですか」

 

 

 無言の空間が重い!

 問われるとは思わなかったのか、動きを止めた王子サマは思い出すように天井を見上げる。

 

 

「ああ、えー。確か。学校を卒業して、公務付けになるのが嫌だから、勉強としてレルギオに行きたい、と兄上が言い出したのが初めだったか」

「なんだ。我儘ですか」

「いえ……そう、かもしれないですけど、一応公務の一環で言っていたんです」

 

 

 レルギオという、詳細不明な国で滞在し、魔法について学ぶこと。

 それが公務だという。

 ここからは王子サマの予想になるが、主に動いていたのは臣下たちだろうと。

 人を使う力を持つ(カト)が、仕事を臣下に割り振り、自分は楽な仕事だけしていたのではないかという。

 要約して真っ直ぐな言葉で言ったら(たしな)められた。

 いいじゃん別に。誰も聞いてないし。

 上に立つ者としては、適材適所で仕事を割り振るのは良いことだと思うがな。

 その真意が、『人が嫌い』と知ってしまえば複雑な気持ちだろう。

 

 王子サマはまた微妙な顔をして、紅茶を啜る。

 …………。

 

 

「じゃあなんで帰っていたんですか。帰ってきたら仕事尽くしでしょ」

「これは通達されていない内容なんで内密にしてもらいたいんですが、陛下が戻るように言ったようです」

 

 

 陛下、王様、つまり父親か。

 王様が第一王子を呼ぶなんて、ついに王位でも譲るつもりか……?

 あの怠惰な王様ならさっさと譲っても可笑しくはなさそうだが。

 まあ本当にそうならこれは大事か。

 これはさすがに他言できないな。

 …………。

 

 

「よし、帰ります!」

 

 

 話がない!

 そんなこんなで退室。

 次に会う時には学校は修了し、ギルドへ向かうために学校の門で待ち合わせとなっていた。

 

 

 

 

 

 ―――――……

 

 

 

 

「じゃあ行くか」

 

 

 外行きの動きやすそうな服装の殿下とロタエさんと共に、学校に背を向ける。

 私もパンツスタイル兼ポニーテールで動きやすく、だけどローブとマフラーを身につけて、必要最低限の荷物を持って。

 そんな私たちを、羨ましそうと声に出しながら目で訴える、赤い髪の犬のような人。

 

 

「いいなあ。僕も行きたい」

「お前は兄上からの仕事が割り振られているだろう」

 

 

 今日は長期休暇の一週目。

 二日前に終業式を終えたばかりだ。

 兄殿下が早めに帰城し、かつ予定を変えると言ったものだから、殿下の『身内ごと』という予定がずれた。

 結果、二週目に予定していたギルド任務という名の実戦もずれ込んだ。

 私としてはどちらでも構わなかったけれど。

 警護の予定や前後した仕事の関係上、犬のようなアオイさんは城を離れられない。

 同伴者が副団長のロタエさんという時点で難しいのだけれど。

 第一王子がいるならばより、団長も城から離れるわけにはいかない。

 今まさに離れていることは置いておいて。

 

 

「お土産買ってきますね」

「私もご用意いたしましょうか」

「ヒスイちゃんのだけありがたく受け取ろうかな」

 

 

 地方から仕事を送られるのは勘弁、と、ロタエさんからの申し出は丁重にお断りをし、大手を振ってお見送りしてくれた。

 こんなにフレンドリーなのに、すごい魔法を使う魔術師師団長なんだよね。

 真新しい鐘の音が鳴り響く。

 

 

「まずはどこに行くんですか?」

 

 

 前を進む二人の背を目の端に入れながら問う。

 街へ行く道を歩くのは実は初めて。

 この二人と一緒だから平静を保ててはいるが、こういう機会がないといつ行くだろうかというぐらいだった。

 今まで必要なものは、学校の購買部や、殿下やクザ先生が揃えてくれていたから。

 レンガの道に露天が立ち並び、衣類や雑貨、食料品など、様々なものが売られている。

 出店は手が出しやすい値段。店舗は少し高級そうな佇まい。

 聞いといてという自覚はありつつも、ついつい目移りしてしまう。

 

 

「まずは腹拵えをしながら、流れを話そうか」

 

 

 振り向き様の、爽やかな流し目笑顔でお腹一杯です。

 と言いかけて口を噤む。

 いやあ、晴天に映える笑顔だなあ。

 案内されたのは露天。

 チョイスは殿下……と思いきやアオイさんと言う。

 

 

「「せっかくの旅路なんだから、堅苦しいにはなしでいきましょう!」って、ここを勧めてきた」

「団長が行くわけではないのですけれどね」

 

 まるで自分のことのように語るアオイさんは、ここにいる誰よりも楽しそうだったと、真顔の二人が言っていて面白かった。

 アオイさんのお勧めの食べ物は、ケバブのような、サンドイッチのような、パン的なものでサラダ的なものを挟んだもの。

 片手で食べられて、お腹に溜まって、晴れた日に外で食べるのはとても良い。

 食事スペースでテーブルを見つけ、早速一口。

 

 

「あ、美味いな」

「美味しいです」

「よく仕事中に食べているやつですね、これ」

 

 

 片手に食事、片手に書類を持っている状況が目に浮かぶ。

 仕事に追われているあの人は想像に容易い。

 そう言う状況が多い人なら、片手で食べれてお腹に溜まるものを知っているのも納得だ。

 工程を聞くのを忘れそうになる程に美味しい。

 

 

「ロタエさんがもう受注してくれているんですか?」

「はい。すでに受注は完了しています。ですが、転移の魔石を貰うためにこの後向かいます」

 

 

 いずれ学校の行事でギルドに行くことがあるそうだが、予習として教えてくれた。

 まずギルドでは、身分証兼会員証であるギルドカードを作る。

 ランクが決まっていて、魔法と同じように五段階ある。

 表記はこの国の単語で、例えるなら初心者からα、β、γ、δ、εとなっている。任務を受けるには、任務の難易度と同等以上のランクが必要。

 殿下はランクがδ、つまり下から四番目なので、任務も初級、中級、上級、最上級まで受注できる。

 だが、ランクと同等の任務を受ける場合は、任務のランクが(+)であっても(-)であっても、複数人での受注が推奨されている。

 もちろん、もしもの時を避けるため。

 学生のうちにランクがγまで上がれば優秀らしい。

 殿下は国外に出ることも多く、戦う機会もあるとされているため、政務の一環としてギルドの任務も行っていて、δまで上がったようだ。

 

 

「一応、規定されているランクはεが最高だが、それより上のランクがあってな」

「へえ」

「ただ一人に与えられたランクなんだ。なんだと思う?」

 

 

 悪戯っ子の顔をして、聞いてくる。

 当てられないから聞いている……ということもあり得るけど、それはあまり聞く意味がない。

 優越感に浸りたいタイプでもないだろうし。

 となると、思い当たるランク……みたいなものは一つ思い当たった。

 

 

「『最高位』ですか?」

「お、正解」

 

 

 ぱっと花が咲いたように笑ってくれた。

 やっぱり優越感に浸りたいわけではなかったらしい。

 そして、『最高位』が一番上のランクということは、それはスグサさんということだ。

 

 

「スグサ殿は群には所属していなくてな、本人は時折ギルドの依頼で稼いで、自身の研究に精を出していたそうだ」

「その依頼消化スピードや、一人でやりのけてしまう魔法の威力や精度。それらを評価して、『最高位』という称号が与えられたそうです」

「εの枠の中でもスグサ殿は飛び抜けていたから、εでくくった場合の力量差が凄まじかったらしい。つまりは他のεの名誉のためというのもある」

 

 

 ランクを記号で表現しなかったのは、今後もスグサさんと並んだり超える人はなかなか現れないだろう、ということらしい。

 スグサさんが活動していた七十年以上も前にそんな評価をされるだなんて、本当に別格だったんだなあ。

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