【3/27 電子書籍一巻発売】魔術師は死んでいた。   作:彩白 莱灯

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第4話

「この後はギルドに行って、転移魔法が入った魔石を貰います」

「転移魔法の入った魔石は高価だから、当日に、かつ所定の場所で渡されるんだ」

 

 

 任務を迅速に行うため、道中の危険を回避するため、ということらしい。

 もちろんもらわずに自身の魔法で行くこともできるし、移動も訓練として敢えて歩いて行くこともできる。

 急ぎの任務や、同時受注者がいる場合は早い者勝ちにもなるので、時と場合による。

 私たちが最初に向かう場所は、廃村近くの街。

 そこで必要なものをそろえたり宿をとったりして、いざ任務に向かうという工程。

 話しながら食べ終わったところで、ようやくギルドへ向かう。

 露店街を抜け、人通りが落ち着いてきたところに、酒場のような場所が見えてきた。

 この国の文字で『ギルド』と書かれたそこはまさしくギルドだ。

 入ろうとしたところで、「あ」と声を上げた殿下が振り向く。

 

 

「中では「殿下」って呼ぶのは禁止な。めんどくさいから」

「わかりました」

 

 

 街中では呼ばなかったからセーフだった。

 でもそうか。街中では呼び名に気をつけないと。

 殿下と呼んでいるのに王子様ということを忘れていた。

 扉の鈴が鳴り、思ったより清潔そうな木製の作り。

 観葉植物があると印象が良いのは何故だろうか。

 正面のカウンターに座る紳士なお爺さんに向けて、ロタエさんは書類を一枚差し出す。

 

 

「こちらの任務を実行します。転移の魔石をお願いします」

「はいはい。魔石ですねー」

 

 

 眉毛なのか睫毛なのか目の周りがふさふさすぎてどこを見ているのかわからない。

 移植できそうなほど長い。

 邪魔じゃないのかな。

 頭はすっきりしているのに。

 ゴソゴソと足元を探り、目的のものを見つけて部屋の奥へ案内される。

 決して広くはない部屋の床には円が描かれていて、その中に入るよう促された。

 

 

「えー、任務難易度は上級の(−)、えー、場所は、えー、プロピンキュスでお間違い無いですか?」

「はい」

「代表者はえー……カエ殿でお間違いですか?」

「間違いありません」

 

 

 そんな人はいないが、その人になりきって応答しているカエ様。

 受付のお爺さんは含んだ笑いをしているから、正体とか知っていそう。

 お爺さんが手に持っていた石をカエ様に渡した。

 

 

「どうぞ、お気をつけて行ってらっしゃいませ」

 

 

 紳士、執事のように慣れた手つきでお辞儀、お見送りされた。

 カエ様が石に魔力を流し、足元の魔法陣も輝きだす。

 目の前が白く輝き、お爺さんの姿が擦れていく。

 あまりの光景に瞬きを忘れていたはずだが、気付いた時には周囲の景色は変わっていた。

 

 

「ようこそお越しくださいました」

 

 

 また違ったお爺さんが、見送ってくれたお爺さんと同じ格好でお出迎えしてくれた。

 さっきの人と同じタキシードみたいな服を着ているが、白髪のオールバックで、モノクル付きの精悍なお顔もよく見える。

 

 

「こちらへどうぞ。受注内容の最終確認をさせていただきます」

 

 

 案内された部屋で、聞いたお話。

 廃村の名前はピューリクリム。

 転移してきた町、プロピンキュスを出て数十分歩いた先にある。

 道のり真っ直ぐなので迷う心配はない。

 同時に受注している人もおらず、周囲を気にせず魔法を使えるだろう。

 ギルドと連携している宿で部屋も取ってくれた。

 

 

「時間は正午。さて、どうするか?」

 

 

 ギルドを出てすぐの相談会。

 どうするかと言われるが、食事は満足している。

 観光が第一の目的ではないし、同時受注していないのならば……。

 

 

「今から行きましょう」

 

 

 二人も同意してくれて、どこにも寄らずにピューリクリムを目指すことに決定。

 道中は錆鼠(ショウソ)・ラースの確認。

 

 

「ラースは小型の魔物。金属を食べ、体は錆を纏っている。錆と病気を巻き散らす害獣として駆除対象。弱点は火」

「そう。だが書面にも書いてあった通り、周辺に気を遣う必要があるため火は使えない。どうするかは決めているか?」

 

 

 任務を受けてくれたのはカエ様とロタエさんだが、実際任務にあたるのは私となっている。

 私が使えない属性の魔法を使うのが目的だから。

 

 

「考えてはあります……けど、本当に家とかはいいんですか?」

「受付にも確認したが、良いようだな。村人の署名もあったし」

 

 

 廃村となった場所は、家が残っている個所も多くあるらしい。

 しかしそれらは残さず、何ならラースとともに処分してしまっても構わないと。

 ギルドや街が言っているのならやるのは気持ち的に憚られていたのだが、実際に住んでいた村民が良いというのなら、逆に気にしないでいいのでやりやすい。

 だけど、いくら村を出たからと言って、家も何もかも無くして良いって……。

 小骨のように引っかかるものがある。

 

 

「俺たちは新たに開拓する前の調査も含めているから、それはこちらに任せてくれ。そのかわり討伐は思う存分に」

「わかりました」

 

 

 一応の考えとしては、今まで使ったり、見たりした魔法の復習をしようと思っている。

 戦い方についてはスグサさんのアドバイスを受けながらになるが、魔法コントロールについては手出ししないと言われている。

 

 歩いて数十分。廃村・ピューリクリムに到着した。

 家らしき木造やレンガの建物が、屋根はなく吹き曝し状態で、見るも無残な状況で残っている。

 畑は荒れ放題。

 ラースのせいなのか、鉄臭い。

 鉄臭さに鼻を覆いたくなる。血の匂いと間違えてしまうから。

 洗い流したい。真っさらに。

 そう考えて、一応練ってきた作戦を頭の中で反芻させる。

 目を閉じて、イメージする。

 廃村ということだけあって、自然は多い。

 多いというだけで全く整備はされてはいないが、それはそれで自然と言ってもいいのかも。

 

 

「さて。さっそくやるか?」

「はい」

 

 

 目の前の村を見据えて、荷物をその場に下ろした。

 荷物を探り、小さい巾着を取り出す。

 さらにその中の石を三つ取り出した。

 

 

「一応、使って下ると安心なのですが……」

「これは?」

「感染対策、のようなものです」

 

 

 カミルさんや負傷兵たちに反響があった魔石を改良したものを、二人に渡す。

 ラースは体に纏わせた錆や、本体そのものから飛沫する病原菌を、人間にも悪影響があるものとして巻き散らす。

 これから行う方法は飛沫する可能性は低いのだが、暴れることがないわけではないので、念のため。

 石には風の魔法を込め、使用者の周囲に風を起こすようにした。

 めちゃくちゃ弱い台風のようなもの。

 二人とも風属性は持っているだろうが、石を使った方が他の魔法を使えるし、何より燃費がいい。

 首から石を下げ、魔力を込める。

 念のためさらにスカーフを巻いて、より錆と病原菌と吸い込まないように対策する。

 

 

「何かあれば合図してくれ」

「後ろに控えてますからね」

「ありがとうございます」

 

 

 二人よりも前に出る。

 村の入り口だろうか、丸太で作られた仕切りの中に入る。

 耳を澄ませば、微かに聞こえる物音。

 方向は正面、多方から。

 姿こそ見えないものの何かがいるのは間違いない。

 小さく深呼吸をして、中の人に話しかける。

 

 

「スグサさん。指示をお願いします」

 

 ―― あいよ。

 

 

 楽しんでいそうな声が頭の中で響き、不安が取り払われる。

 この人はたまに不安にもさせるけど、それ以上に安心感を与えてくれる。

 同じ体を持つという贔屓目はないと思う。

 それこそが『最高位』と言われていた証なのだと、カエ様たちの話を聞いた後だからこそ思う。

 

 

 ―― じゃあまず、正面左。奥行き分までしっかり囲め。

 

「はい」

 

 

 指定されたものを見据え、左手を伸ばす。

 建物の枠組みが辛うじて残っているそれを確認し、余裕を持って範囲を決める。

 

 

(イズ)中級魔法(フィフォ) ≪隔絶された水槽≫」

 

 

 シオンがロアさんとの決闘で使っていた、危険な魔法。

 危険な魔法ではあるが、今回は討伐が目的なためコスパも考えて使うことにした。

 ラースは群れを作る。

 小さい群れなら十数匹程度だが、一つの村に巣食っているならば百、千単位でいるかもしれない。やりきることを目的としたら、コスパは重要だ。

 空気のない≪水槽≫の中では、底の方で藻掻く、拳大の生き物が見える。

 小屋程度の範囲だが、小さい群れ程度では収まらない数がいるようだ。

 うじゃうじゃと。

 三十はいるか。

 

 

 ―― 次。右奥。地面下も含めろ。

 

 

 スグサさんに指示してもらっているのは、コントロール訓練のため。

 指定された部分に的確に発動できるかを評価してもらっている。

 属性文と魔法名を唱え、地面に食い込んだ≪水槽≫を作る。

 土の中から小ぶりなラースが空気を求めて搔き出てきた。

 

 

 ―― でかすぎ。次。その裏にある形の残ってるやつ。同じように地面含む。

 

「はい」

 

 

 指示と指摘された内容を自分に取り込み、同じことを繰り返す単純作業。

 こんなふうに駆除をした記憶はないのだけれど、淡々とやっている自分は何を考えているのだろう。

 別に、虫を殺してしまったことはある。

 それが動物のような見た目になっただけ。

 それが、この世界では普通に有り得ること。

 

 前の世界では、殺す対象……命を主観で選別していた。

 動物愛護もあった。

 それが、この世界では動物以外に魔物という種類がいて、それは害獣に分類されていて、必要があるから討伐している、ただそれだけ。

 

 違和感、ギャップ、虚無感。

 例えようのない感情を持ちながら、納得させる言葉を探す。

 これが普通。これが日常。

 害虫・害獣駆除という仕事はあったんだから、それに転職したようなもの。

 人間の生活のために必要なことと割り切る。必要とされているのだから。

 やり慣れていないだけ。

 動物型のものを、殺すということを。

 

 

 ―― 弟子。

 

「っ、はい」

 

 

 いけない。ぼーっとしてた。

 

 

 ―― 不調は?

 

「ありません」

 

 ―― よし、じゃあ次。畑を囲む。

 

 

 家よりも高さはないものの、奥行きがある。

 距離感を測る……深視力はあまり自信がないから、予想するよりも大きめに。

 

 

 ―― ……小さいな。奥から何匹か逃げた。

 

「あ……」

 

 ―― スピード勝負だ。詠唱なしでやってみろ。

 

 

 ラースが逃げて姿を眩ます前に、より大きい≪水槽≫を作って拘束する。

 左手を伸ばし、畑の何倍もの範囲で確実に捕獲する。

 小学校にあるような二十五メートルプール程の大きさだった畑に対し、新たに市民プール五十メートル程の≪水槽≫を作る。

 単純計算、倍程度の大きさで、何とか逃げたラースを捕獲した。

 

 

 ―― 詠唱なしでこの大きさを作れればようやくスタートラインか。

 

「……それ、スグサさんの基準ですよね?」

 

 ―― まあな!

 

 

 はっはっは!

 と。豪快な笑いが頭の中を埋め尽くす。

 私は乾いた笑い声しか浮かびませんよ。

 

 スグサさんの基準は当てにならない。

 それは最近身にしみて感じている。

 学校でも変な疑りを受けたし。

 ここまでで作った水槽は、大きいもので五十メートルプール。

 それが二百個目となった。

 

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