【3/27 電子書籍一巻発売】魔術師は死んでいた。   作:彩白 莱灯

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第6話

 城から。

 本来ギルドの任務は、困った村民、ギルドが必要と判断したものが提示される。

 城から出すということは文字通り国家レベルの問題であるはずだ。

 なにせ、問題をまず最初に認識するのは街や村なのだから。

 国が死よりも先に動くというのは、順番的におかしい。

 

 

「なぜ街が動く前に城が把握し、行動に移しているのか。単純に考えれば『城が関わっているから』ということになる」

「城、というのは、私に話すのですから、研究所ですか?」

「そこはまだわからん」

 

 

 研究所が関わっている可能性も捨てきれはしない。

 だからこそ、私にも話すのだろう。

 研究所が関わる。

 研究所が動いている。何が、とは言えないが、『警戒が必要』ということ。

 

 

「スパデューダの人的被害というのも、怪我とか生易しいものではない。これ以上大きな被害が出る前に把握しておきたかった。そしてこうやって城から離れた方が、盗み聞きされる心配もないからな」

 

 

 スグサさんからギルドの話をされたときは、渡りに船だと思ったらしい。

 城から離れ、状況を把握し、私に話もできる。

 学校では『同行者』がいるし、正直なところ、誰かもわかっていないのだから迂闊に話はできない。

 その割には言おうとしてなかったけど。

 そこは殿下の優しさということにして、追求しないでおこう。

 

 

「家を残さないでいいというのも引っかかったんだが、それは村民の総意だというしな。腑には落ちないが任務は任務だ。今は粛々とこなしていくことには変わりない。ただ、注意はしてくれよ」

「わかりました。カエ様」

「ギルドじゃないから変えなくてもいいんだけどな……」

 

 

 任務中は『カエ様』と呼ぶことに決めている。

 いざギルドで『殿下』と口走ってしまわないように、しっかり区別しておかないといけない。

 村の中心で、前日の≪水面の華≫を使った時に丁度出来上がった穴に今回作った氷を入れていく。

 今回は小さいものが多いので、このまま焼却処理をする。

 骨を討伐報告として挙げるため、燃やし終えたら回収だ。

 

 

 

 

 

 ―――――……

 

 

 

 

 

 ギルド。

 焼却処理をして病原菌を巻き散らす心配がなくなったラースの骨を、討伐の証拠として提出する。

 貴重な素材ならば買取されるが、今回はよくて無料処分だ。

 軽く千を超えた個体の骨を入れた袋を、丸ごと受付のオールバック・モノクルお爺さんに渡す。

 

 

「お疲れさまでした。想定よりもだいぶ多い数がいたようですね」

 

 

 眉を顰める。

 一目でそう判断するほど、やはり異常なのだろう。

 

 

「一応確認だが、この地域はラースが増殖しやすい地域、というわけではないか?」

「ありません。ピューリクリムのもその他の村や街でも」

「そうか。それは不幸中の幸いだ」

 

 

 ピューリクリム以外に被害はないということを確認し、今回の任務は終了。

 完了の証を貰い、次の任務先へ向かう。

 もう日は傾いているが、次の街に移動して休み、次の任務に挑む予定。

 移動は転移魔法を使う。

 目的が任務であるならば、ギルド間の転移をギルドが手伝ってくれる。

 有料で。

 

 

「次の任務は海の街でございますね。ここにはギルドがありますので、直接目的地に転移が可能です」

「よろしく頼む」

 

 

 今回受け取れる代金から、転移魔法分を天引きしてもらった。

 残りの代金をロタエさんが代表として受け取る。

 そして最初に転移してきた部屋で、円の中に入り、石を貰う。

 

 

「お気をつけて」

 

 

 紳士の恭しい挨拶を見届けて、光に包まれた。

 最初よりも冷静に状況を把握し、景色が切り替わるのがわかる。

 今までレンガ調の家が、今度は真っ白な壁になる。

 埋め込まれているのは海らしく貝殻だ。

 

 

「いらっしゃい」

 

 

 黒髪と白髪が半々ぐらい混ざった髪を、頭の上で頭と同じぐらいにお団子にして、こんがりと日に焼けた肌をしている健康的お婆さんがお出迎え。

 片手つついている杖……らしきものは杭だった。

 

 

「隣の部屋で待ってておくれ。今作業中なんだ」

 

 

 さっさと軽い足取りで歩いている。

 うん。杖じゃないな、あれ。

 お婆さんに続いて部屋を出ると、海の家を思わせる造り。

 サーフボードのような板が飾られている。

 貝殻の装飾。色鮮やかな花。背の高い木。

 窓は開け放たれていて、潮の匂いがする風が吹き込んでくる。

 夕暮れの傾いた日が眩しいぐらい入り込んでいる。

 西日の射す場所に、三人掛けソファーが机を挟んで向かい合わせになっていたので、三人並んで座る。

 

 コンコンコン。

 

 

「待たせてすまなかったね。ちょっと日除けを片付けてる途中だったんだよ」

 

 

 今度は杭は持たずに、両の足で登場したお婆さん。

 その手には今度は折りたたまれた紙が握られている。

 挨拶もそこそこに正面に座り、紙の内容を読み上げる。

 

 

「この任務を受けた人には全員、依頼主からの伝言があるんでね。まずはそれを聞いてくだされ」

 

 

 今回任務を引き受けてくれて有難く思う。

 直接お伝えしたいので、是非とも我が館にお越しいただきたい。

 宿泊についてもご相談に乗りますので、遠慮なく仰ってください。

 

 

「だとさ」

「随分な歓迎だ。依頼主はどのような人物なんだ?」

「この土地の領主、ドゥ・マルス様だよ。カエ様なら名前ぐらいは聞いたことあるんじゃないかい?」

 

 

 お婆さんはそう言って、カエ様を見るが。

 私が今の話を聞いて気になったのは三つ。

 

 一つ。お婆さんはカエ様のことを知っているんだな。

 二つ。「ドゥ・マルス」様ということは貴族。上から二つ目。ロタエさんと同格だ。

 三つ。随分と歓迎してくれているようだ。任務なんてどんな相手が来るかわからないのに、任務を受けた全員に今の伝言を伝えているのというのは。どうも。歓迎というより、逆になんか、怪しさを感じる。

 

 マルスさん……様の方が良いか。どういう人なんだろう。

 

 

「知っている。この土地の領主だ。悪い噂は特に聞いたことがないが」

「私も名前は存じております。気前のいい御仁だと」

「そうさね。この依頼も町興しの一つとしてあの人が自腹はたいてやってるんだ」

 

 

 疑ってしまったのが申し訳ないような評価だ。

 この町の領主であるその人は、自腹を切ってまでこの町を賑やかにしたいのだろうか。

 まだ街中には出ていないが、そこまで活気がないのか、ただただ趣味なのか。

 この伝言から察するに、社交的な性格なのだろう。

 町を賑やかにしつつ、旅の話を聞くのも好きとか?

 勝手な先入観は良くないが、違和感はぬぐえない。

 それでも悪い噂がないのだから、思い込みだろうと判断するのが良いか。

 

 

「それで、今から行くんなら連絡するついでに入れておくが、どうする?」

「……今日の所は遠慮しよう。明日の朝伺うと伝えてもらいたい」

「あいよ。じゃあ明日、また来ておくれ」

 

 

 あ、行かないんだ。

 不信感を負い抱いている私としては安心。

 カエ様とお婆さんが話を付け、今日の所は話は終わり。

 お婆さんに手頃な宿を紹介してもらい、部屋を二部屋とった。

 夕飯を適当に済ませ、続き部屋の片方に三人が集まっている。

 

 

「まずはドゥ・マルスについて話をしておこう」

 

 

 私が不信感を持っていることに気付いていたのかな。

 実際のところはわからないが、なによりも先にその人について教えてくれた。

 恰幅のいい、かつ装飾品が多めな朗らかなおじ様らしい。

 見た目は成金そのものだが、ただの派手好き。

 誰かとワイワイはしゃいだり、奢ったりすることが好きなのだと。

 気前のいいおじさん、らしい。

 おじ様よりおじさんがあっていそう。

 悪い噂も特に聞かないし、お城に来たこともある。

 力試しやら町興しやらするのも不思議ではないと。

 

 

「俺たちが知っているのはそれぐらいだ」

「なんとなく印象は変わりました。良いほうに」

「マイナスからは脱したか?」

 

 

 それはノーコメント。黙っていたら察してくれたらしい。軽く笑い飛ばしてくれた。

 

 知らない人の印象を、いくら信用している人からの情報と言っても、全面的に信用する正確ではないらしい。

 こんな疑り深かったかな、と思うけれど、ただ警戒心が高まったのかもしれない。

 優しそうな見た目でも、人が気にしていることをずけずけと言う人もいたし……。

 それ以上、マルス様について言うことはないようで、次は任務の内容について。

 

 

怪鱗(かいりん)・ヤビクニについてだ。深海生物で、呼び寄せるには専用の笛が必要らしい」

鱗笛(りんてき)はギルドの方で用意されているとのことです」

「マルス殿の用意だろうな」

 

 

 ロタエさんが受付をした時、すでに用意はされていたらしい。

 だから本人たちの装備だけ用意してくれと。

 準備がいい。

 何度もこの依頼を出しているとみる。

 

 

「ヒスイは生態について調べたか?」

 

 

 調べました。

 絵を見た。

 ヤビクニというのは、簡単に言えばクワガタの頭に胴体が魚。

 グッピーを思わせるフリルのような尾びれを持っている。

 ……この例えは結構上手いほうだと思う。

 虫の足がワキワキしてたら辞退したくなったけど、顔だけならまだいける。

 本当に本当に良かった。

 大人よりも大きく、太い。

 大きなクワガタの頭にはなるべく近づかないようにしたい。

 深海に住んでいるヤビクニだが、鱗笛(りんてき)という特殊な音に良く反応し、海面まで上がってくるそうだ。

 それでも必ずではないので、根気強くチャレンジする必要がある。

 クワガタの鋏のような牙に挟まれることは厳禁。

 鱗も一つ一つが鋭いので、接触は注意。乗ったりするのは推奨されない。

 海辺での戦いになると思うので、足場も不安定になるだろう。

 

 

「どう戦うかは今回は決めてるのか?」

「一応決めては来たんですけど、失敗する可能性も捨てきれないかな、と」

「それはどんな任務でもあり得ます。慢心しないことが大事ですよ」

 

 

 優しさからのぴしゃりとした一言に、身が引き締まる。

 失敗ありきで挑む。

 失敗してもこの場に二人と中にも一人いるんだ。

 中の一人程心強い人もいない。

 

 

「今日中に、作戦を詰めておきます」

「根詰めすぎるなよ」

 

 

 向けられた笑顔に、よりやる気が湧き出てくる。

 夜なのに。

 アドレナリン出すぎて寝れなくなる方が心配だ。

 

 

「それじゃあ、解散するか。明日はマルス邸、ギルドの順に顔を出す」

「わかりました」

「承知しました」

 

 

 続き部屋で男女に分かれ、私はロタエさんと同室。

 順番にシャワーを浴びて、寝る準備をしている時。

 

 

「ヒスイさん」

「はい?」

「体調を崩さないように、気を付けてくださいね」

 

 

 聞こえた言葉に、体が強張る。

 私に背を向けたままで話すロタエさんの表情はもちろん見えない。

 それでもテキパキと準備に勤しむ様子は、独り言にしては大きいし、雑談にしては素っ気ない。

 名前呼ばれたけれど。

 けれど、それに悪い気はしない。

 

 

「……気を付けます」

 

 

 温かいお湯で、体がどうにかなるんじゃないかと。

 水しか使えない私を咎めないでくれるだけでありがたい。

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