【3/27 電子書籍一巻発売】魔術師は死んでいた。   作:彩白 莱灯

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第6話

―――――……

 

 

 

 

 

「ぎゃあああぁぁぁあ!!!」

 

「いやだ! 嫌だあああああ!!」

 

「きゃああぁぁぁぁぁぁあ!!!」

 

 

 

 

 

「『二番』と『三番』は火の最上級、『五番』風の特級だ。やれ!」

 

 

(アム)最上級魔法(ナエト)

 

(アム)最上級魔法(ナエト)

 

「―――(ナル)特級魔法(レヴン)

 

 

 

 

 

―――――……

 

 

 

 

 

「ただいまーっと」

 

「あー疲れた。今日も疲れた。酒がうまい!」

 

「なんか面白い録画合ったかなー……あ、アニメ貯まってんじゃん」

 

「しめ鯖うま」

 

 

「明日も仕事かー。雨じゃん。バス混むかな……」

 

「今日は早く寝よう」

 

「なんかもう……眠いな……」

 

 

「だめ、だ……。まだ、おふろ、いって…………な……」

 

 

 

 

―――――……

 

 

 

 

「ヒスイちゃん!」

「っ! はっ、あ、れ?」

 

 

 名前を呼ばれて目を覚ました。

 動悸がして、息が上がっている。

 目の前にはアオイさんが心配そうな顔でこちらを見ている。

 体を起こして、あたりを見回して場所を確認。

 ここは自分の部屋の寝室だ。

 大丈夫、知っている場所だ。

 

 

「魘されていました。大丈夫ですか?」

 

 

 ロタエさんがアオイさんのすぐ後ろから顔を出し、水の入ったコップを差し出してくれる。

 先日、ロタエさんからもらった回想の香。

 もらった当初は使うか迷っていたのだが、試しに一つだけ、使うことにした。

 アオイさんに使うことを告げて、時間を合わせて部屋に来てもらう。

 そして、効果の通り夢を見た。

 コップを受け取り、呼吸を落ち着ける。

 

 

「大丈夫……じゃないかもしれません」

「そんなにひどい内容だったのかい?」

「そう、ですね……いくつか見たんですが、おそらくは前の世界の私の家と、あと……この世界での、戦っていた時の夢でした」

 

 

 二人がそろって目を見開き、私は夢の内容を思い出して、体が震えだす。

 戦っている相手の悲鳴が何層もの声で響き渡り、耳に張り付いていると言っていいのか、今でもすぐ近くで聞こえるような錯覚を覚える。

 研究員か、その関連の人物か。

 私とともに実験で蘇ったのだろう、何人かに指示を出していた。

 火の魔法と、風の魔法。

 火の魔法は一歩遅れて発動された風の魔法に絡めとられて。

 悲鳴のする方向へ一直線に、また広い範囲にわたって一面を火の海にしていた。

 

 人を殺した殺戮人形と言われていたことに対して、実感は今までなかったが。

 それを覆す、確かな光景だった。

 

 

「そうか……。可能性を考えていなかったわけではないけど、スグサ・ロッドの体になってからの記憶も対象になっていたんだね……」

「すみません。もう少し慎重になるべきでした」

「ごめんよ。辛いものを見せてしまった」

 

 

 二人に謝られて、はっとする。

 この二人は何も覚えていない私のためを思って、行動に移してくれたのに。

 香を使うと決めたのは私自身なのに。

 私は慌てて首を振った。

 

 

「あ、謝らないでください。私がやりたくてやったんです。可能性も知っていましたし。それに、この世界に来る前の記憶もおそらく見れましたし。戦いの記憶は、すぐ終わったんですし」

 

 

 そうだ。

 戦っていた時の夢はすぐに終わった。

 本当に一部だけで、なぜそこだけ見たのかはわからないし、もしかしたらまた見るかもしれないけど。

 前の世界での記憶が見れたのは確かだ。

 

 

「私は働いていました。それでたぶん、一人暮らし、かな。女で、仕事終わりに疲れて帰ってきて。すごく眠くて……寝ちゃったんだと思います」

「そんな突然に?」

「もしかしたら、私が召喚される直前だったのかもしれません」

 

 

 少しだけ、違和感を感じる様子だった。

 確かに疲れてはいたけど、ひどい眠気に襲われて、抗えないような。

 あの時の私の体はどうなってしまったのだろう。

 魂がこちらに召喚されたというのだから、体はあちらに残っているのだろうか。

 

 と、考えていると。

 

 

 

 ドン、と。

 

 

 

 爆発音が響いた。

 地響きとともに部屋の揺れが強くなる。

 部屋に置いてある机や花瓶、窓がガタガタと揺れる。

 

 

「わぷ」

「団長!」

 

 

 ロタエさんがベッドで体を起こしたままの私を抱きしめる。

 

 

(イル)上級魔法(ゼヴェニィ) ≪女神の抱擁≫」

 

 

 私とロタエさんごとアオイさんが抱きしめて、光属性の上級魔法を唱える。

 暖かい光に包まれ、振動も、物音も聞こえなくなった。

 黙ったまま少しの間そのままに。

 光り越しに物が揺れ動かないことを確認して、魔法が解かれた。

 

 

「二人とも無事?」

「問題ありません。ヒスイさんは?」

「大丈夫です。ありがとうございます」

「よかったよ。少し様子を見に行ってくる。ロタエはヒスイちゃんについていて。何かあれば連絡する」

「お気をつけて」

 

 

 アオイさんはいつもと変わらない表情で、しかし普段の声色よりも低い声で告げて、部屋を出た。

 ただ事ではない。

 その言葉の通り、ただならぬ雰囲気を感じる。

 部屋の外も頻繁に人が通っているのがわかる。

 そして、揺れを感じた頃から、私にも異変が起きていた。

 

 

 ―― 呼んでる。

 

 

 心の中でそう告げる声がする。

 最初ほどではない揺れを感じる度、誰ともわからない声が私を……スグサさんを呼んでいる気がする。

 そわそわする。

 そんな私を感じ取ったのか、ロタエさんが肩に手を乗せた。

 

 

「あなたは私が守りますので、落ち着いて。一応、すぐ動けるように用意しておきましょう」

「は、はい。わかりました」

 

 

 ロタエさんの落ち着いた声色につられて一瞬、心も落ち着いてくる。

 それでも呼ばれる声は続く。

 続くけれど、段々、声が小さくなってきた。

 

 

「団長」

「え?」

 

 

 この場にはいないはずのアオイさんのことを呼んでいる。

 ロタエさんは私を見て一度頷き、続けて口を動かす。

 

 

「こちらは無事です。そちらは? ……え? よろしいのですか? ……わかりました。では」

 

 

 念話、だろうか。

 この世界に電話はなく、魔力を使った通信方法があることは聞いていた。

 電話の代わりに、念話ができる魔法が込められた石なんかもあるようだが、もちろんなくても構わない。

 ロタエさんはおそらく、今現場にいるであろうアオイさんと話をしたのだろう。

 

 

「ローブを着てください。今から団長のもとへ向かいます」

「えっ。私も行っていいんですか?」

「団長からはヒスイさんと共に来るようにとの指示でした。向こうは人払いをしているそうです。一緒に行きましょう」

「えっ」

 

 

 さあ早く、と急かされ、ローブを着てフードも被って、部屋を出た。

 小走りでロタエさんの後ろをついて、途中慌てた騎士たちともすれ違う。

 だが今はそれどころではないといった感じか、私に気を留める人はいなかった。

 たどり着いた先は城の地下。

 以前、私が入れられた地下牢とは別の場所。

 保管庫、らしい。

 ドアが開けっぱなしにされているが、中の様子は見えない。

 ドアを境に黒い膜が張られている。

 

 

「団長。部屋の前につきました。……承知しました」

 

 

 念話でロタエさんがアオイさんと会話して。

 ロタエさんが部屋に張られている魔法と同じ魔法を私たちに使い、部屋に入ると同時に扉を閉めるように、とのことらしい。

 

 

「行きます」

 

 

 ロタエさんが私の少し前を歩き、私はドアノブを持って進みながら扉を閉める。

 膜同士は抵抗感なく同化し、同化した部分から部屋の中の景色が見える。

 手前にはコウ殿下。

 殿下のすぐ横にカミルさん。

 その奥にアオイさん。

 そしてさらに奥には、

 

 

「……へ、び……?」

 

 

 集団で訓練やスポーツができそうな広さで、私がボールを思いっきり天井に投げても届かなそうな高さの部屋を埋め尽くしそうなほど、大きな大きな蛇。

 それが一匹。

 だが、二頭。

 頭が二つある蛇だ。

 さらにはそれぞれの額に三つ目の眼があり、計六つの瞳がこちらを見ている。

 背中には羽が一対生えていて、紐状の身体なのに立体的な大きさを感じる。

 紫とも濃紺とも言えそうな深い色の鱗の体。

 大きさだけでも威圧感を感じるのに、この蛇、蛇たちは大人しく、目だけを私に向けている。

 よく見たら、身体を覆う黒い靄が見える。

 私の中に届いていた声は移動中にはほとんどなく、しかしこの部屋に入ってから、またスグサさんのことを呼んでいる。

 そして私の中には言葉が浮かんだ。

 

 

 ―― ウー

 

「ウー?」

 

 ―― ロロ

 

「ロロ?」

 

 

 

 瞬間。

 蛇が答えるように、一匹は目を閉じ、一匹は小さく声を出す。

 

 

「この子たちは」

 

 

 アオイさんが前を向いたまま、話しをする。

 

 

「スグサ・ロッドの子飼いだよ。ここで保管されていた『双頭のウロロス』」

「ウロロス……」

「頭のすぐ下、首の辺りにある赤い石が見えるかい? その石の中に眠った状態で保管されていたんだよ」

 

 

 二匹の顎辺りよりも下に、首輪のようにして小さい石をかけているのが見える。

 目の前の巨体があの中にいたというのは、やはり魔法なのだろう。

 スグサさんが関わっているのだから、どんな不思議なことでもやってしまいそうだ。

 

 

 殿下が振り向き、私を見る。その表情は気まずそうな、ばつが悪い顔だ。

 

 

「目的は君だそうだ。ヒスイ」

「えっ、私ですか?」

「正しくはスグサ・ロッドだけどね。名を叫びながら暴れるものだから、会わせると言ったら大人しくしてくれたんだよ」

 

 

 つまりは私の外見を、ということか。

 

 

「ごめんね。君はヒスイちゃんだってわかってるんだけど、攻撃せず安全に落ち着かせるためにはこの方法しか思いつかなくて……」

「いえ……」

 

 

 わかっている。

 アオイさんも殿下も、私を『ヒスイ』として扱ってくれているのは日ごろからわかっている。

 周囲への影響も、この蛇のことも安全にと考えて、それが私が会うことだけならその選択をするのも仕方がないと納得できる。

 人払いをしてくれたのも、私を呼ぶために気を使ってくれたのだろう。

 ここには私を知っていて、よくしてくれている人しかいないのだから。

 

 

「私は、何をすればいいですか?」

 

 

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