【3/27 電子書籍一巻発売】魔術師は死んでいた。   作:彩白 莱灯

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第11話

 試験の時とは違い、魔法ではなく玉を投げて的に当てるだけのもの。

 弓道の的のように大小の円があって、中央程得点は高い。

 球は全部で十個。

 二人が同時にできるため、隣同士でやることに。

 

 

「嬢ちゃん頑張んな」

「はい」

「待て。俺には声援はないのか」

「おっちゃんはフェミニストさ!」

 

 

 玉を渡しながらガハハと笑う、ガタイの良いひげを生やした店主に背中を押され、俄然やる気が出てきた。

 少し拗ねてるカエ様が少し可愛らしくも思う。

 店主から声援を受けたところで、勝負は勝負。

 真剣に取り組む。

 決して媚びを売ろうとは考えていない。うん。

 受け取ったら自由に始めていいスタイルなので、カエ様と目線を合わせ、スタート。

 

 ……。

 

 負けた。

 外枠にしか当たらなかった。

 

 

「残念だったなー嬢ちゃん」

「残念です。悲しいです。泣きそうです」

「ほら、参加賞だ」

「ありがとうございます」

 

 

 このお祭り、というか町のマスコットだというキャラクターのストラップを貰った。

 中央に一回ぐらいは当たると思っていたのだけど、考えが甘かった。

 本当に端っこにしか当たらなくて、玉があちこちに飛び散って拾うのが大変そうだった。投げるたびに謝ったけど。

 逆に、カエ様はほぼほぼ中央が多く、点数は聞かずとも高得点なのはよくわかった。

 

 

「おめでとうございます……」

「ありがとう。結構負けず嫌いなんだな」

「そうですね。今めちゃくちゃ悔しくて、再戦を申し込みたいぐらいです」

「受けて立つが、せっかくだから別のにしよう」

 

 

 辺りを見回し、他のゲームを探す。

 安全のためか、魔法を使うものはほとんどないようだ。

 ボウリングみたいなもの。

 輪投げみたいなもの。

 金魚すくいみたいなもの。

 時間はまだ余裕があるし、人が増える前に色々遊んでおきたい。

 

 

「近場から攻めるか」

「はい。次こそ勝ちます」

「俺も負けず嫌いなんでな。悪いが油断も容赦もないぞ」

「もちろんです。コウ」

 

 

 ぱち。と、瞬き。

 そういう勝負だったから、と呼んでみたが、呼べと言った本人が驚いている。

 確かに前触れもなくだったが、硬直してしまうほどだっただろうか。

 

 

「コウ?」

「あ、ああ。悪い、驚いた」

「そんなにですか」

「悪かったって」

 

 

 やや頬を赤らめるコウは初めて見たかもしれない。

 驚いたことがそんなに恥ずかしいのか。

 隙を見せた、とか、そんなところだろうか。

 気を取り直すように咳払いをして、さあと足を進める。

 

 

「はぐれるなよ」

「コウも、気を付けてくださいね」

「もう勝負始まってるのか?」

 

 

 

 

 

 ―――――……

 

 

 

 

 一通り遊びつくし、一直線の端から端までを歩き切った。

 端は飲食スペースが広くとられていて、一時休戦とした。

 コウは飲み物を取りに行ってくれて、私は席をとって待機している。

 

 

 ―― よう。

 

 

 スグサさんの声が響く。

 人がたくさんいるから、声には出さないようにしないと。

 会話中の視線のやり場に困るので、両手を組んで顔を伏せる。

 

 

 ―― 楽しそうだな。

 

 楽しいです。負けっぱなしで悔しさもありますけど。

 

 ―― 勝率二割ってところか。運動系はしょうがない。なんせ私様の体だからな。

 

 運動は苦手だったんですか?

 

 ―― 研究と魔法に生涯を捧げたんだ。無理もない。

 

 

 気持ちいいほど開き直ってる。

 でもそうか。

 もともとの自分の身体ではないからどうにもイメージがずれていたのか。

 今までの動きは魔法で補助していたのもあって動けていたのかな。

 そういえば体力はないほうだったし。

 

 

 ―― 私様とも一つやろう。

 

 え、何を? どうやって?

 

 ―― 王子サマが何を持ってくるか予想。勝った方が相手の願いを一つ叶える。

 

 ……じゃあお茶。

 

 ―― 私様はジュース。

 

 ちなみになぜ突然?

 

 ―― 気分。

 

 

 気分。

 なるほど。気分というか気まぐれか。

 スグサさんもこの場に体があれば、一緒に楽しんだのだろうな。

 体があればってなんだか不思議な表現だけど。

 ……いや、スグサさんの体は、ここにあるじゃないか。

 

 

 ―― ……弟子。

 

 はい?

 

 ―― お前、王子サマのことはどう思ってる?

 

 どう、とは。

 

 ―― 好き?

 

 好きですね。

 

 ―― ……それは恋愛として?

 

 

 れんあい。

 ああ、恋愛。

 恋と愛。

 

 

 ―― それとも友情?

 

 友情、というのもどうとは思いますが。慕ってはいますよ。私を自由にさせてくれてますし。

 

 ―― あくまでそういう立場か。主従というか、上下関係。

 

 そうですね。

 

 ―― ふーーーん。

 

 

 嘘偽りはない、と思う。

 そもそも一国の王子様にそんな感情を抱くのは、行ってしまえば無駄だと思う。

 貴族でもない、出自もしっかりしていない、研究によって生み出された死体のようなもの。

 コウのことだ。

 第二王子だとしても世継ぎが必要だろうし、そうなると私には難しい可能性が高い。

 理由は言わずもがな。

 こうして一緒に遊べているだけでも、私は一般の人よりも恵まれている。

 

 

 ―― ま、いいか。

 

 なんで突然そんなこと聞くんですか。

 

 ―― 楽しそうだったから。

 

 楽しいは楽しいですけど、他意はありません。

 

 ―― わかったって。そろそろ来るんじゃないのか?

 

 

 言われて、伏せていた顔を上げる。

 目の前の少し離れたところにその人の姿が見えた。

 両手に飲み物が入っているであろう器を持って、すれ違う人を上手く避けながら、到着。

 テーブルに置かれた飲み物はどちらも同じ色、同じ香り。

 大き目の氷が涼し気。

 

 

「待たせた」

「いえ、ありがとうございます」

「どっちも同じだから、好きな方をとってくれ」

 

 

 おかしなことは言っていないようだが、なんとなく引っかかる言い方ではある。

『同じ』と言っておきながら『好きな方』。

 でも、言われたとおりに好きな方をとる。

 

 

 玄米茶のように黄色みがあり、底にあられのようなものが沈んでいる。

 香ばしい香りがする。

 口に含んだ冷たいものが、食道を通って胃に流れていくのがわかる。

 はしゃぎすぎか気温か両方か、火照った体に流し込んだので、胃が少しびっくりしてる。

 

 

「……っは、ひんやりで美味しいですね」

「名産の茶らしい。折角だからと思ってな」

 

 

 ということで、正解はお茶。

 勝負は私の勝ち。

 スグサさんに勝てるだなんて、この世界に来て初めてのことだ。

 

 

 ―― こいつは残念。ま、叶えたい願いは何か決めておけ。

 

 

 スグサさんが言うんだ、なんでも叶えてくれそう。

 でも何にするかが一番の悩みどころだなあ。

 まさか勝てると思ってなかったし。

 そんなことを、コウには言わず、少し面白く思っていた。

 

 

 少しずつお茶を飲み、この後どうするかの会議。

 昼下がりには人も増えてきて、混雑もしてきた。

 飲食も遊びのお店も列ができているし、夕方には帰っていたい。

 なにせ明日はまた移動だ。

 

 

「じゃあ土産を買って帰る、でいいな」

「そうですね。夕飯も買っていきませんか?」

「そうだな。ロタエも食べるだろうから三人分買って行こう」

 

 

 そうと決まれば話は早い。

 来た道を戻り、お土産と持ち帰りの食事を探す。

 見る方向が違えばほとんどが真新しく見えるなあ。

 向かいから来る人が多くて、押し流されそうになる。

 前を歩いて壁代わりになってくれているコウの姿を、見失わないように必死に足を速める。

 

 

「わっ」

「!」

「あ、ごめんなさいねぇ」

 

 

 追いつくことに必死だったが、後ろから追い抜いた人と体がぶつかってしまい、バランスを崩した。

 目の前の背中に勢いよく鼻をぶつける。

 痛みに堪えている間にどこのどなたと存ぜぬ人は姿を眩ましてしまった。

 

 

「すみません、コウ」

「いや、大丈夫だ。ヒスイは?」

「鼻だけ少し……」

「……掴まっておくか?」

 

 

 …………どこを?

 鼻を押さえながらの間抜けな格好で、思った言葉は出なかった。

 他意はないとしても、こんな状況は……まあ、うん。

 道のど真ん中。

 行き交う人にちらちらと見られている。

 邪魔そうな視線も後期の視線もあり、早々に移動したいのが本音。

 だがせっかくのご好意を、無碍にしたくないのも本音。

 

 

「じゃあ、こちらで」

「……よし、行こう。いい店を見つけたら声かけるか引いてくれ」

「はい」

 

 

 背中を向けて歩き出した。

 周りを見なければいけないのに、視界に映るのは手元。

 いかんいかんと頭を振って店を探すが、どうにも集中できていないようで、手元に視線が戻ってしまう。

 ……皺になったりしないかな。

 そう思いながら、握る力を弱めることはできなかった。

 

 次の日。

 快晴。

 門出としてはふさわしい日となった。

 

 

「準備はいいか?」

「はい」

「じゃあ行こう。ロタエが先に受付で待ってる」

 

 

 数日間お世話になった宿にお礼を告げ、ギルドまでの道のりを行く。

 昨日、夕飯を食べながら、次の街の話をした。

 

 

 

 

 

 ―――――……

 

 

 

 

 

 砂、つまり砂漠のような場所がある地域。

 快晴で汗がにじんでくる今のこの気候よりも日差しが強いのだという。

 しかし湿気が少ないので蒸し暑くはないと。

 そして討伐対象である猛尾(もうび)・ルルという可愛い名前の魔物は、砂漠の中の自然区域、つまりオアシスに生息している。

 砂漠で尾を持つ魔物ということでサソリかと思っていたら、シルエットは本当にサソリに似ていた。

 

 

「猛毒を持ってるんですよね」

「そうだ。以前、ヒスイたちが採取した薬草が原材料なんだ。現地の栽培だけでは足りなくなったようでな」

 

 

 ピーチやスパデューダの時、採集任務で集めていた草。

 それがこの地では重要な薬草なのだそうで、足りなくなりそうなところだった時に学校が任務を引き受けたのだという。

 人でもあるし、お互い丁度良かった。

 そしてその猛毒は、ルルの尾から分泌される。

 サソリのような針があるのだが、生態は大きく違う。

 ルルという魔物は体内、特に尾に寄生虫を飼っている共生生物らしい。

 その寄生虫は尾に付着し、ルルの目となる。

 ルルは寄生虫と意思疎通し、得物に襲い掛かるのだという。

 単純に考えて、死角がほぼない。

 

 

「実のところ、全体攻撃が一番良いんだがな」

「自然は保護の対象になっていますので、無闇に荒らすことはできません」

「本体も手のひらサイズで大きくはないですし、一体ずつ地道な作業になってしまいますかね」

「効率は悪いが、それが正攻法だな」

 

 

 

 

 

 ―――――……

 

 

 

 

 

 ……というのが昨日までの会話。

 今までの任務と同じように、私は私で対策を練ってきていた。

 今日は実際に行って、場所を確認して、それが通用するのかを確かめようと考えている。

 難しそうならみんなで協力して地道に討伐するだけになる。

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