【3/27 電子書籍一巻発売】魔術師は死んでいた。 作:彩白 莱灯
ということで、宿から海沿いのギルドへ行き、転移させてもらう。
今日はもうお祭りはやっていないが、海水浴を楽しむ人が大勢いて相も変わらず賑やか。
ギルドの入り口付近には浮き輪やタオルが売っている。
売店も兼ねているみたい。
入ってさっそくお婆さんが受付をして、最初に来た時と同じ転移の陣が書いてある部屋に行く。
今回は報酬を受け取り済みだったため、改めて代金を支払った。
「行先は……なんだい、砂に行くのか。また暑い所に」
「まあ、任務なんで」
「そうかい。気を付けてるんだよ。ほれ」
餞別に名産のお茶を貰った。
暑さに気を付けろ、とのことらしい。
有難く頂戴して、転移が発動する。
姿がお互いに見えなくなる前に、お婆さんは後ろを向いてしまった。
けど、悪い気はしなかった。
「らっしゃーい」
白い景色の向こう側には、黒髪をポニーテール……緩くお団子っぽくした、色黒の男性。
今までのギルドの人の中では一番若く、中年ぐらいか。
細くも太くもない……ように見える。
背もたれの椅子を反対向きに座り、頬杖を突きながらお出迎え。
のったりと立ち上がり、と部屋の扉を開けた。
「カエ様ご一行っすね。こちらへどーぞー」
今までと同じように別室に通され、その先はまさかの掘り炬燵風。
中を覗いてみたけど温かくはならないっぽい。
形だけ掘り炬燵。
「変わったテーブルだな」
「そうですね。聞いたことはありましたけど、見るのは初めてです」
この世界ではあまり知られていない構造らしい。
まあ、国はどちらかというと洋風だしなあ。
私としては懐かしくなって楽しいのだけど。
温かくなるようにしない、だろうなあ。この地域は暑いらしいし。
今回は私とロタエさんが並び、カエ様と色黒の人が並んでいる。
「最初は自己紹介っす。オレはショウ。よろしくー」
話し方はセンさんに似た印象。
私たちも名を名乗り、書類を手にしたショウさんが読み上げる。
「任務は最上級の-ね。薬は持ってる?」
「持っています。こちらはこの国に買い取っていただく分です」
「お、助かるー。では後でお会計を」
自分たちの薬が入った袋の何倍も大きい袋は、この地域の不足分を補うための様。
去年までは賄えているのに、今年からか今年だけか、足りていない。
それはルルの異常繁殖によるものだとショウさんが話す。
また、異常繁殖。
「例年と比べどれぐらい増えている?」
「軽く五倍っすかねー。薬はそれ以上に足りてないっす」
「まあ、そうなるな」
毒は体が麻痺し、短くとも一日は全く動けない。
毒について言ってしまえばその程度。
ただし、もちろん痺れるだけでは済まない。
身体が動かなくとも意識は残る。
障害されるのは触覚だけ。
視覚や聴覚はそのままだ。
そんなときに行われるルルの食事というのが、『体を貪られる』こと。
一匹ではなく、何十、何百匹に。
痛みは感じない。
しかし喰われているところはしっかり見えて、聞こえている。
次第に麻痺が取れ、触覚が戻り、痛みを感じるようになる。
喰われたところがわかるようになってしまう。
喰われて亡くなる方はもちろん、ショックで亡くなる方もいる。
だからこそ、麻痺を解毒する薬が必要だ。
「死者は……まあ、多いっす」
「ああ、聞いている。だからこそ早めに対応させてもらう」
「よろしく頼んます」
悲痛な表情で、私たち全員に向けて頭を深く下げた。
その様子で、ことの深刻さとこの人の真剣さがより大きいものだとわかる。
自分の修行のためなんて言っていられない。
早く片付けるための行動をとらないといけない。
「ではさっそく向かう」
「じゃあ出現場所まで案内するっす」
「頼む」
ギルドを出て、馬車……ではなくラクダっぽい車に乗る。
ラクダっぽい、こぶ三つと足六脚の緑色の生物。
手綱を引く運転手の位置にショウさんが座り、荷台に乗り込んだ。
両サイドに座席があり、天井から真ん中に吊り輪がぶら下がっている。
まるで電車やバスのよう。
「じゃあ行くんで、しっかり掴まっててくださーい」
ピシっとラクダっぽい生き物のお尻を叩き、高らかと叫んだその生き物は駆けだした。
それはもう、すごいスピードで。
「うわっ」
「ヒスイっ」
「っと、すみません」
「凄まじいな。しっかり掴まってろ」
荷台で座っていても体のバランスが崩れ、ガタガタと揺れ、髪が真横に靡くほどの猛スピード。
なるほど、天井から吊り輪があるのはそういうことか。
ホントに電車のようだった。
話す余裕のないほどに飛ばしていて、外の景色を見る余裕はない。
一体どこを走っているのだろうか。
「……うっ」
とりあえず、酔いそう。
―――――……
「うえぇ」
酔った。
荷台の影でロタエさんに背中をさすられる。
飲みかけだったお茶があってよかった。
見渡す限りが砂、砂、砂。後ろには荷台。
その後ろにはオアシス、つまりルルの住処がある。
オアシスの中に拠点を作るわけにはいかず、といっても炎天下で日陰もない場所にするわけにもいかない。
ということで、この荷台を拠点とさせてもらった。
「なかに水分も軽食も積んでるんで、必要であれば使ってもらっていいんで」
「助かる。ありがとう」
体調が整い次第、さっそく調査に向かう。
二度もすみません。
治った。
砂の上をもそもそと歩き、オアシスに足を踏み入れる。
一応身を守るために全身を合羽で身を包んでいる。
日陰に入った瞬間涼しさを感じ、日差しの強さを物語る。
「この暑さで合羽はさすがに辛いな」
「目の前まで送ってくれてよかったですね」
「全くだ」
とは言うものの、合羽はもちろんフードも脱ぐことはできない。
ルルの針は人肌は通しても合羽を通すほどではないからだ。
オアシスには中央に水辺があり、そこで休んでいた人が多く狙われたという報告が上がっている。
なので第一に目指すのはそこ。
一列になり、なるべく物音を立てずに歩く。
水辺までの道は人が通れるようになっていて歩きやすい。
合羽さえなければ観光気分になれていたかもしれない。
ラースの時に使った扇風機代わりの魔石も、合羽が飛んでしまうため使えない。
持っている水分を取りながら熱中症にならないように対策する。
できれば水辺に着いた瞬間に一度休みたいところだが……。
「……ついた」
「いますね」
「ああ。ヒスイ、見えるか」
「はい。結構小さいですね」
遠目だが、微かに動くそれが見える。
実際はものすごく見えにくい。
動いているからこそ見える。
草の上の迷彩って強いな。
大きさは大体……掌大かな。
今まであった魔物の中で一番小さい。
んー、どうしようか。
今回の討伐、皆でやって早く終わらせた方が良さそう。
被害者も多いし、あれだけ標的が小さいと見つけるのも苦労する。
夜には活動できない。
夜こそ向こうの活動が活発になるから。
危険は冒せない。
「カエ様、ロタエさん」
「どうした」
「はい」
「協力してもらいたいです。みんなで」
一も二もなく頷いてくれた。
この二人が手伝ってくれるなら、大丈夫。
油断かもしれない。
けど、そうお思わずにはいられない。
私が油断しても、きっとこの二人が気付いて、叱ってくれるだろう。
「それで、どうするつもりだ?」
「考えてきた作戦は、まずは逃げられないようにオアシス全体を結界で閉じます。水辺の中央を安全地帯として、私の水魔法で全域にいるルルを水辺まで押し流します。集まったところで攻撃してください」
「周囲のダメージを減らすために、水魔法は弱めにすべきですね」
「はい。もし良い魔法があったら教えてください。ぶつけ本番になってしまうかもしれませんが……」
オアシスはこの地では重要な場所なので、ダメージを与えることはなるべく避けたい。
けれどこの作戦で行くならば、どうしても多少は避けられない。
「押し流してからも少し懸念はあるな。相当な数がいるだろうということと、水に入ってしまったものは死ぬだろうが、量次第ではそのままにするわけにもいかない」
「それは、この二人にも手伝ってもらいます」
首元のネックレスに触れる。
赤い石に眠っているであろう、この子たちに。
「ほう。いいな」
「では安全地帯についてから押し流す用の魔法をお伝えしましょう」
「お願いします」
その安全地帯には風魔法で移動する予定。
だが今は足場がない。
なので私が跳んで、氷の足場を作ることに。
木にはルルがいる可能性があるので登れない。
そのため、二人が見守る中、その場で飛び上った。
そして空中で魔法を素早く使う。
「≪漂う
ちょっと不思議な名前だが、水面を凍らせるだけ。
三人……いや、五人が余裕を持って立てて、かつ岸まで届かない程度の大きさの氷。ざっと四畳半ぐらい。
岸までの距離もテニスコート二面分は離れているので、滅多なことがない限り大丈夫だろう。
滑らないように土をひいて、二人に合図を出す。
すぐに跳んで来た。
「うまくいったな」
「はい。よかったです」
では、ここでウーとロロを呼び出す。
首元から石を取り出し、地に置いて表面を三回叩く。
仄かに光りだし、光は石を持ち上げて形を成していく。
左右対称な双子、ウーとロロ。
「……?」
「……すー?」
「こんにちは、二人とも。少し久しぶりだね」
量にいるときは定期的に部屋で一緒に過ごしていたけど、任務期間中は今が初めてだ。
五日以上も会っていないのも初めて。
寝ぼけ眼の二人はじーっと私を見つめてくる。
半開きの目のまま、ゆっくり近づいてきて、ぎゅーっと。
「すーうー」
「ねむーい」
「おぉう」
「はは、好かれてるなあ」
抱き着かれるのは悪い気はしないけれど……。
眠気のある二人は体が温かく、合羽の中がまだ蒸れている私には少しきつい。
だが幼児の二人を引きはがすことは……できない……っ。
「ふ、二人にお願いしたいことがあって」
「おねがいー?」
「ねむーい」
「これが終わったら欲しいもの買ってあげるから……」
ゆっくりと顔を上げ、さっきより少し大きく開いた眼で見上げてくる。
疑っている、というか、もう一度、という感じかな。
「ほ、ほんとだよ? 何でもは難しいけど、買えるものなら……」
「じゃあ」
「やる」
ぎゅっと抱き着いてきた。
え、やってくれるんだよね?
寝ようとしてない?