【3/27 電子書籍一巻発売】魔術師は死んでいた。   作:彩白 莱灯

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第12話

 ということで、宿から海沿いのギルドへ行き、転移させてもらう。

 今日はもうお祭りはやっていないが、海水浴を楽しむ人が大勢いて相も変わらず賑やか。

 ギルドの入り口付近には浮き輪やタオルが売っている。

 売店も兼ねているみたい。

 入ってさっそくお婆さんが受付をして、最初に来た時と同じ転移の陣が書いてある部屋に行く。

 今回は報酬を受け取り済みだったため、改めて代金を支払った。

 

 

「行先は……なんだい、砂に行くのか。また暑い所に」

「まあ、任務なんで」

「そうかい。気を付けてるんだよ。ほれ」

 

 

 餞別に名産のお茶を貰った。

 暑さに気を付けろ、とのことらしい。

 有難く頂戴して、転移が発動する。

 姿がお互いに見えなくなる前に、お婆さんは後ろを向いてしまった。

 けど、悪い気はしなかった。

 

 

「らっしゃーい」

 

 

 白い景色の向こう側には、黒髪をポニーテール……緩くお団子っぽくした、色黒の男性。

 今までのギルドの人の中では一番若く、中年ぐらいか。

 細くも太くもない……ように見える。

 背もたれの椅子を反対向きに座り、頬杖を突きながらお出迎え。

 のったりと立ち上がり、と部屋の扉を開けた。

 

 

「カエ様ご一行っすね。こちらへどーぞー」

 

 

 今までと同じように別室に通され、その先はまさかの掘り炬燵風。

 中を覗いてみたけど温かくはならないっぽい。

 形だけ掘り炬燵。

 

 

「変わったテーブルだな」

「そうですね。聞いたことはありましたけど、見るのは初めてです」

 

 

 この世界ではあまり知られていない構造らしい。

 まあ、国はどちらかというと洋風だしなあ。

 私としては懐かしくなって楽しいのだけど。

 温かくなるようにしない、だろうなあ。この地域は暑いらしいし。

 今回は私とロタエさんが並び、カエ様と色黒の人が並んでいる。

 

 

「最初は自己紹介っす。オレはショウ。よろしくー」

 

 

 話し方はセンさんに似た印象。

 私たちも名を名乗り、書類を手にしたショウさんが読み上げる。

 

 

「任務は最上級の-ね。薬は持ってる?」

「持っています。こちらはこの国に買い取っていただく分です」

「お、助かるー。では後でお会計を」

 

 

 自分たちの薬が入った袋の何倍も大きい袋は、この地域の不足分を補うための様。

 去年までは賄えているのに、今年からか今年だけか、足りていない。

 それはルルの異常繁殖によるものだとショウさんが話す。

 また、異常繁殖。

 

 

「例年と比べどれぐらい増えている?」

「軽く五倍っすかねー。薬はそれ以上に足りてないっす」

「まあ、そうなるな」

 

 

 猛尾(もうび)・ルルの特に怖い所は、食事の仕方。

 毒は体が麻痺し、短くとも一日は全く動けない。

 毒について言ってしまえばその程度。

 ただし、もちろん痺れるだけでは済まない。

 身体が動かなくとも意識は残る。

 障害されるのは触覚だけ。

 視覚や聴覚はそのままだ。

 そんなときに行われるルルの食事というのが、『体を貪られる』こと。

 一匹ではなく、何十、何百匹に。

 痛みは感じない。

 しかし喰われているところはしっかり見えて、聞こえている。

 次第に麻痺が取れ、触覚が戻り、痛みを感じるようになる。

 喰われたところがわかるようになってしまう。

 喰われて亡くなる方はもちろん、ショックで亡くなる方もいる。

 だからこそ、麻痺を解毒する薬が必要だ。

 

 

「死者は……まあ、多いっす」

「ああ、聞いている。だからこそ早めに対応させてもらう」

「よろしく頼んます」

 

 

 悲痛な表情で、私たち全員に向けて頭を深く下げた。

 その様子で、ことの深刻さとこの人の真剣さがより大きいものだとわかる。

 自分の修行のためなんて言っていられない。

 早く片付けるための行動をとらないといけない。

 

 

「ではさっそく向かう」

「じゃあ出現場所まで案内するっす」

「頼む」

 

 

 ギルドを出て、馬車……ではなくラクダっぽい車に乗る。

 ラクダっぽい、こぶ三つと足六脚の緑色の生物。

 手綱を引く運転手の位置にショウさんが座り、荷台に乗り込んだ。

 両サイドに座席があり、天井から真ん中に吊り輪がぶら下がっている。

 まるで電車やバスのよう。

 

 

「じゃあ行くんで、しっかり掴まっててくださーい」

 

 

 ピシっとラクダっぽい生き物のお尻を叩き、高らかと叫んだその生き物は駆けだした。

 それはもう、すごいスピードで。

 

 

「うわっ」

「ヒスイっ」

「っと、すみません」

「凄まじいな。しっかり掴まってろ」

 

 

 荷台で座っていても体のバランスが崩れ、ガタガタと揺れ、髪が真横に靡くほどの猛スピード。

 なるほど、天井から吊り輪があるのはそういうことか。

 ホントに電車のようだった。

 話す余裕のないほどに飛ばしていて、外の景色を見る余裕はない。

 一体どこを走っているのだろうか。

 

 

「……うっ」

 

 

 とりあえず、酔いそう。

 

 

 

 

 

 ―――――……

 

 

 

 

 

「うえぇ」

 

 

 酔った。

 荷台の影でロタエさんに背中をさすられる。

 飲みかけだったお茶があってよかった。

 

 見渡す限りが砂、砂、砂。後ろには荷台。

 その後ろにはオアシス、つまりルルの住処がある。

 オアシスの中に拠点を作るわけにはいかず、といっても炎天下で日陰もない場所にするわけにもいかない。

 ということで、この荷台を拠点とさせてもらった。

 

 

「なかに水分も軽食も積んでるんで、必要であれば使ってもらっていいんで」

「助かる。ありがとう」

 

 

 体調が整い次第、さっそく調査に向かう。

 二度もすみません。

 

 治った。

 砂の上をもそもそと歩き、オアシスに足を踏み入れる。

 一応身を守るために全身を合羽で身を包んでいる。

 日陰に入った瞬間涼しさを感じ、日差しの強さを物語る。

 

 

「この暑さで合羽はさすがに辛いな」

「目の前まで送ってくれてよかったですね」

「全くだ」

 

 

 とは言うものの、合羽はもちろんフードも脱ぐことはできない。

 ルルの針は人肌は通しても合羽を通すほどではないからだ。

 オアシスには中央に水辺があり、そこで休んでいた人が多く狙われたという報告が上がっている。

 なので第一に目指すのはそこ。

 一列になり、なるべく物音を立てずに歩く。

 水辺までの道は人が通れるようになっていて歩きやすい。

 合羽さえなければ観光気分になれていたかもしれない。

 ラースの時に使った扇風機代わりの魔石も、合羽が飛んでしまうため使えない。

 持っている水分を取りながら熱中症にならないように対策する。

 できれば水辺に着いた瞬間に一度休みたいところだが……。

 

 

「……ついた」

「いますね」

「ああ。ヒスイ、見えるか」

「はい。結構小さいですね」

 

 

 遠目だが、微かに動くそれが見える。

 実際はものすごく見えにくい。

 動いているからこそ見える。

 草の上の迷彩って強いな。

 大きさは大体……掌大かな。

 今まであった魔物の中で一番小さい。

 

 んー、どうしようか。

 今回の討伐、皆でやって早く終わらせた方が良さそう。

 被害者も多いし、あれだけ標的が小さいと見つけるのも苦労する。

 夜には活動できない。

 夜こそ向こうの活動が活発になるから。

 危険は冒せない。

 

 

「カエ様、ロタエさん」

「どうした」

「はい」

「協力してもらいたいです。みんなで」

 

 

 一も二もなく頷いてくれた。

 この二人が手伝ってくれるなら、大丈夫。

 油断かもしれない。

 けど、そうお思わずにはいられない。

 私が油断しても、きっとこの二人が気付いて、叱ってくれるだろう。

 

 

「それで、どうするつもりだ?」

「考えてきた作戦は、まずは逃げられないようにオアシス全体を結界で閉じます。水辺の中央を安全地帯として、私の水魔法で全域にいるルルを水辺まで押し流します。集まったところで攻撃してください」

「周囲のダメージを減らすために、水魔法は弱めにすべきですね」

「はい。もし良い魔法があったら教えてください。ぶつけ本番になってしまうかもしれませんが……」

 

 

 オアシスはこの地では重要な場所なので、ダメージを与えることはなるべく避けたい。

 けれどこの作戦で行くならば、どうしても多少は避けられない。

 

 

「押し流してからも少し懸念はあるな。相当な数がいるだろうということと、水に入ってしまったものは死ぬだろうが、量次第ではそのままにするわけにもいかない」

「それは、この二人にも手伝ってもらいます」

 

 

 首元のネックレスに触れる。

 赤い石に眠っているであろう、この子たちに。

 

 

「ほう。いいな」

「では安全地帯についてから押し流す用の魔法をお伝えしましょう」

「お願いします」

 

 

 その安全地帯には風魔法で移動する予定。

 だが今は足場がない。

 なので私が跳んで、氷の足場を作ることに。

 木にはルルがいる可能性があるので登れない。

 そのため、二人が見守る中、その場で飛び上った。

 そして空中で魔法を素早く使う。

 

 

「≪漂う結氷(けっぴょう)≫」

 

 

 ちょっと不思議な名前だが、水面を凍らせるだけ。

 三人……いや、五人が余裕を持って立てて、かつ岸まで届かない程度の大きさの氷。ざっと四畳半ぐらい。

 岸までの距離もテニスコート二面分は離れているので、滅多なことがない限り大丈夫だろう。

 滑らないように土をひいて、二人に合図を出す。

 すぐに跳んで来た。

 

 

「うまくいったな」

「はい。よかったです」

 

 

 では、ここでウーとロロを呼び出す。

 首元から石を取り出し、地に置いて表面を三回叩く。

 仄かに光りだし、光は石を持ち上げて形を成していく。

 左右対称な双子、ウーとロロ。

 

 

「……?」

「……すー?」

「こんにちは、二人とも。少し久しぶりだね」

 

 

 量にいるときは定期的に部屋で一緒に過ごしていたけど、任務期間中は今が初めてだ。

 五日以上も会っていないのも初めて。

 寝ぼけ眼の二人はじーっと私を見つめてくる。

 半開きの目のまま、ゆっくり近づいてきて、ぎゅーっと。

 

 

「すーうー」

「ねむーい」

「おぉう」

「はは、好かれてるなあ」

 

 

 抱き着かれるのは悪い気はしないけれど……。

 眠気のある二人は体が温かく、合羽の中がまだ蒸れている私には少しきつい。

 だが幼児の二人を引きはがすことは……できない……っ。

 

 

「ふ、二人にお願いしたいことがあって」

「おねがいー?」

「ねむーい」

「これが終わったら欲しいもの買ってあげるから……」

 

 

 ゆっくりと顔を上げ、さっきより少し大きく開いた眼で見上げてくる。

 疑っている、というか、もう一度、という感じかな。

 

 

「ほ、ほんとだよ? 何でもは難しいけど、買えるものなら……」

「じゃあ」

「やる」

 

 

 ぎゅっと抱き着いてきた。

 え、やってくれるんだよね?

 寝ようとしてない?

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