【3/27 電子書籍一巻発売】魔術師は死んでいた。   作:彩白 莱灯

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第13話

 よしよしと頭を撫でたら、ゆっくり離れてくれた。

 ここまで慕ってくれるのに、戦いに協力してもらおうというのは……少し、申し訳なく思う。

 スグサさんは、どうしてたんだろう。一緒に戦ったりしてたのかな。

 これが落ち着いたら聞いてみよう。

 

 

「では、魔法についてですが」

 

 

 ロタエさんから水の魔法を聞く。

 幸い、私も本で読んだことのある魔法だったのでイメージはしやすいものだった。

 ただ上級魔法なので、力加減は注意が必要。

 呪文まではさすがに覚えきれない……ので、属性文のみでいく。

 

 

「ヒスイさんはコントロールがお上手ですから、心配でしたら弱すぎる程度の力でやってみて丁度いいかもしれませんね」

「褒められた……ありがとうございます。それでやってみます」

 

 

 ロタエさんから魔法を習うのも久しぶりだなあと思いながら、唐突に褒められて浮つく気持ちを必死で抑える。

 氷の上で、先頭に立つ。

 ウーとロロは足にくっついている。

 子ども体温なのか温かい。

 

 

「では」

 

 

 両手を再度に広げ、大きく息を吸う。

 まずは、結界から。

 

 

「≪放り込まれた玩具箱(おもちゃばこ)≫」

 

 

 実は一番使う頻度が多いんじゃないかと思われる、≪玩具箱≫。

 草木も取り込み、オアシスを含みつつ、余白に当たる砂漠地帯はなるべく入れないように展開した。

 草木の間から射していた日光すらも遮り、やや活動しやすくなった。

 ルルたちの様子は……あまり変わらない。

 当然と言えば当然?

 大事なのはここから。

 

 

「続いて」

 

 

 二つの魔法の同時発動。

 実はこれもこの世界では常識外らしいけど、スグサさんは出来て当然のように言っていた。

 本当にスグサさんの言うことは当てになることも当てにならないこともある。

 魔法の使用については信じてはいけない。

 ロタエさんから教わった魔法。

 同じように両手を広げ、≪玩具箱≫の端っこから、水が湧き出るように。

 ただし威力は弱く、まずは地面にいるルルを流していく。

 

 

(イズ)上級魔法(ゼヴェニィ) ≪地下からの怒号は天をも貫く≫」

 

 

 ロタエさんとスグサさんが戦った時は間欠泉だったけど、それよりは湧き水程度の可愛い物。

 吹き出していても大体膝ぐらいの高さ……ぐらいだと思う。

 見えていないので何ともわからない。

 発動して数秒後、周囲から一斉に水が流れてくる。

 大体高さは脛ぐらい。

 私たちがいる水辺に合流するように、どんどん流れ込んでくる。

 水面と一緒に氷が揺れる。

 

 

「混ざってるか?」

「……目視は難しいですが、おそらくは」

「よし。では、やろうか」

 

 

 ロタエさんもカエ様も、片手を前に突き出し、私を含めて三角形になるように別々の方向を向く。

 小さい二人はまた足にくっついてる。

 

 

「ウー、ロロ」

「んー?」

「なあに?」

 

 

 小首傾げ、上目遣い、大きい目がきょとんと見つめてくる。

 すごく、可愛いです。

 

 

「向こう岸に掌ぐらいの黒っぽい生き物がいるの。それを倒してほしいんだ」

「たべていいの?」

 

 

 え、食べ……?

 

 ―― 良い。平気だ。

 

 

「う、うん。いいよ。棘があるから気を付けて」

「わかった!」

「ごはんだー!」

 

 

 ここにいる誰よりも張り切って、勢いよく水に飛び込んだ。

 二人とも得意げに、たぶん私よりも素早く上手に泳いで、対岸へ到着。

 わーっっと楽しそうな声が聞こえ、本人たちは遊び感覚かもしれない。

 

 

「今更だけど、毒とか大丈夫かな……」

 

 ―― あいつらは大丈夫だ。皮膚はルルの針を通さないし、そもそもあいつらに毒は効かない。

 

 

 毒が効かない……?

 それは、ウロロスという種の特性だろうか。

 それとも『あの二人だから』なのだろうか。

 内心問うてみたけれど、受け流されてしまった。

 「また今度な」らしい。

 あの二人にも色々あるのだろう。

 分離できたり同化できたり、それだけでもウロロスとしては異常らしいというのは聞いているので。

 スグサさん、秘密はたくさんありそうだ。

 

 

「すー!」

「おいしーよー!」

 

 

 すっかり目を覚まし、両手でルルを持って口を膨らませている様子は、本当に好物だけのバイキングにでも連れてきた気分になる。

 大きく手を振って応えた。

 やや呆気に取られていたが、気を取り直して私も魔法で攻撃する。

 同時に、足元も警戒。

 水中を移動することはできないとされていたけど、念のため。

 

 

「狙いが小さい分、難しいな」

「なかなかハードな訓練を受けている気分になります」

「魔術師団の訓練と比べると?」

「こちらのほうがなかなかですね」

 

 

 ロタエさんはこの状況を、魔術師団の訓練に応用するつもりらしい。

 独り言をつぶやきながらどのようにするか考えている様子。

 というより、二人ともなんやかんや言いながらも魔法を発動して命中させている。

 本当に難しいと思ってる?

 目に見えるルルはある程度さばいたところで、二発目の湧き水、≪地下からの怒号は天をも貫く≫を使う。

 対岸にいるウーとロロが、生きているものも攻撃済みのものもひたすら食べ、けれどその手が止まった時、次の段階に移る。

 

 

 ということで次の段階。

 木に登っている個体を振るい落とす。

 姿は枝や木に隠れてしまった見えないが、いる。

 確実に。水では根元しか流せないので、使うのは風。

 周囲の砂を使えればより良かったかもしれないな。

 と今更ながら思った。

 今更だし別になくてもいいっちゃいいので、なしで行こう。

 一度、ウーとロロに戻ってきてもらった。

 一応、風で飛ばされることのないようにしっかりと足に掴まっててもらう。

 嬉しそう。

 

 

「お二人も、お気をつけて」

「ああ」

「ヒスイさんも」

 

 

 二人は身を屈める。

 風属性を持ってる人たちだし、いざとなっても対応できるとは思う。

 

 

「……いきます」

 

 

 一声。

 それは、『構え』の合図。

 風の魔法は学校でも使えるので、自主練は結構している。

 

 

「≪怠惰を嫌う傲慢の溜息≫」

 

 

 押さえつけられているような圧を持つ風。

 『何か起こらないか』と変化を望む偉そうな人の、腹の底から息を吐き出している様子を表している魔法。

 白い天井からの風は枝を揺らし、反動で、小柄のなルルは振り落とされる。

 落とされたルルは、圧に巻けて動けなくなるだろう。

 念を入れて三十秒ほど風を起こす。

 息を吸うのも吐くのも辛くなるのが、この魔法悪いところ。

 連続使用はそれぐらいが限度だろう。

 経過すればすぐに魔法を解き、そしてすぐに、≪怒号≫を発動して離れたところのルルも押し流す。

 

 

「ウー、ロロ、またお願い」

「はーい!」

「ごっはーん!」

 

 

 元気に飛び込んでいった。

 よく食べるなあ。水辺の嵩が増して、飛沫(しぶき)が飛んできやすくなったみたい。

 あとで水中も確認しなきゃな。

 あっという間に対岸まで渡り切った二人はまたお食事タイム。

 後ろの二人はまた話しながら的確に狙い撃ちしている。

 かくいう私も、子ども二人の様子も見ながら攻撃が当たらないように配慮しつつ魔法を使っていく。

 絶滅できれば人間にとっては理想だが、実際のところは現実的ではないし、この場での生物によるバランスもある。

 なのである程度で終える予定。

 現実的に考えても、小さいルルを全て、というのは本当に難しい。

 私の居た世界でも、公園にいる蟻を全て潰せと言うようなもの。

 ある程度は出来ても、実際はどうなのかなんてわからないだろうし。

 数時間は続けたこの作業。

 日暮れも近づいてきた。

 目に見えて動きはなくなったところで、安全地帯で再度話し合いをすることになった。

 

 

「もうすぐ日暮れか。これ以上は危険だな」

「そうですね。完全に暗くなる前に戻りたいところです」

「じゃあ、水中の確認は後日ですね」

「おわりー?」

「もうー?」

 

 

 まだまだ食べたいようである一番小さい二人から、お腹の鳴る音がする。

 空腹なの? 消化なの?

 本当にどこに入ってるんだろう。

 何時間も食べ続けてるよ?

 本来の体の大きさに比例しているのかな。

 それだったら人間から見た猫のカリカリみたいなものかな……。

 

 

「一応、最後に一回流しときますね」

 

 

 ……トイレの修理業者さんが言いそうなことを言って、魔法を発動。

 今日だけで何回使っただろうか。大分うまくなった気がする。

 どちらかというと『小』を流し、水が流れ込んで、水面が揺れる。

 足場になっている氷も揺れる。

 

 揺れる。

 

 揺れる。

 

 ……揺れすぎない?

 

 

「水は、止めたんですけど……」

「……妙ですね」

「そうだな」

 

 

 違和感を感じ、不安に駆られる。

 反射的に動いたのは、鼓膜が揺れたから。

 

 

「……飛び込め!!」

 

 

 いつも落ち着いている人の声に驚きながら、目の前の水に体を投げ出した。

 足にくっついていたウーもロロも一緒に飛び込んで、三人して水に沈む。

 急な行動に息が吸えず、すぐに苦しくなって息を求めて浮上した。

 仲間の無事の姿を確認するよりも先に、自己主張強めな巨体が目に飛び込んできた。

 

 

「っは、な、に、あれ……」

 

 

 何の情報もない感想を言うのがやっとなほど、言葉が奪われる光景だった。

 水の中も含めて見えるその元凶はたぶん、ルル。

 柄も迷彩のようで、斑な模様が何色かで構成されている。

 自然に紛れることができるだろう。

 しかしその風貌の利点は、大きさですべてをぶち壊す。

 私たちの居た三畳ほどの氷では狭いぐらいの尻尾が乗っている。

 尻尾、だけ。

 つまり水中にある胴体は水上に出ている分の倍近くあり、人型が五人で乗っていた幅の倍以上の全長を持っているはずだ。

 手乗りサイズが三畳サイズとか。

 なにそれ。

 尻尾が氷を突き刺し、何度かで砕いてしまう。

 大きさもそうだが、針の強度も今までのものよりも幾分も強いのがよくわかる。

 

 

「ヒスイ!」

「っ、殿下っ」

「ロタエはこっちにいるぞ! そっちは無事か!?」

「ウーも、ロロも、大丈夫ですっ」

「ヒスイは、怪我無いか!」

「っ、平気、です」

 

 

 水に浮きながら声を張り上げるのが難しく、途切れ途切れになってしまう。

 それでも無事は確認できた。

 これからどうするか、と声をあげようとしたとき、また水面が大きく揺れた。

 体積にして何百倍もありそうなその巨体が、動こうとしている。

 

 

 ―― ……弟子。

 

「スグサ、さん?」

 

 ―― 水中に光の初級を思いっきり放て。そしたら、変わってくれ。

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