【3/27 電子書籍一巻発売】魔術師は死んでいた。   作:彩白 莱灯

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第14話

 言葉に違和感を感じた。

 けれどそれについて考える暇はなく、巨大なルルが動き始めた。

 間髪入れずに、水の中の両手に力を込めて、魔法を使う。

 

 

(イル)初級魔法(トゥワン)

 

 

 両手が光るだけの魔法を発動し、それは水の動きで不規則に揺れて、目を眩ませた。

 予備動作はあっても突然のことに誰も反応できず、咄嗟に目を覆うばかり。

 無論私も、やった本人のくせに目がちかちかして見えなくなってしまった。

 それでもルルの動きは止められた……のかな。

 

 

 ―― よし。じゃあ、変わってもらうぞ。

 

 

 ああ、やっぱり。

 なんか、下手に出ているがする。

 

 

 

 

 

 ―――――……

 

 

 

 

 

 察するに、目の前の魔物は動きを止めている。

 水の中の本体も、尻尾の寄生虫も。

 空気と水の動きからそう判断できる。

 でかいのを挟んで真反対よりも手前に、王子サマと女魔術師がいるな。

 これは熱の在りかを感じる。

 そして、私様の両側にも、熱源あり。

 溺れるなんてことはないだろう二つがしっかりくっついている。

 

 

「ウー、ロロ」

「んー」

「なーにー?」

 

 

 ぐりぐりすんな。

 脇が痛い。

 

 

「姿を戻して、私様と向こうの二人を陸地まで移動させろ」

「はーい!」

「あーい!」

 

 

 ウロロスは光に強い。

 というか、明暗を感じにくい。

 だかリマのようなフラッシュはこいつらにはあまり効果がない。

 今回はそれが功を奏した。

 水が揺れる。

 両脇からの圧がなくなり、正面からの圧に変わる。

 前かがみになって体重を預ければ、体が水から離れ、宙に浮いた感覚がする。

 次第に視界が戻ってきて、どちらかのウロロスの頭に乗っていることがわかった。

 そしてもう片方のウロロスは、人間の姿のまま離れた二人のもとへ行き、声をかけてから同じように持ち上げていた。

 私様の視界が晴れてきたということは、他二人も、ルルも同様。

 ルルは、というか尻尾は、私様たちの方目掛けて伸びてきた。

 

 

「大人しくしてろ」

 

 

   ≪怠惰を嫌う傲慢の溜息≫

 

 

 弟子が使った魔法と同じものを、局所的に発動する。

 水の動きも収まり、なんだったらその範囲だけ水かさが下がっているほどの圧をかけた。

 そうしてルルが動けなくなっている隙に、私様たちは陸へ退避が完了。

 

 

「おし。さんきゅ」

「スグサ殿……」

「王子サマたちもご無事で?」

「ああ。ありがとう」

「ありがとうございます」

 

 

 うん。見たところ怪我はなさそうだ。

 弟子も関わっているときに王子サマに怪我されちゃ面倒なことになりかねない。

 よかったよかった。

 まあでも、事態は終わっていない。

 これからは私の時間だ。

 

 

「よくやった、二人とも」

「えへー」

「もっとほめてー」

 

 

 ぐりぐりすんな。

 ぐりぐりしてやるから。

 足の付け根程度の高さにある頭を両手でそれぞれ撫でて、撫でて、撫でまくる。

 お前らにはまだ頼むことがあるんだからさっさと満足してくれ。

 と思っても、こいつらは早々満足しないのはわかっているので、こっちが早々に切り上げる。

 

 

「もう一仕事だ」

「なーにー?」

「この二人を囲んどけ」

「は?」

「なにを……」

 

 

 私様の言葉をすぐに理解した二人が、またウロロスの姿となる。

 素早い動きで王子サマと女魔術師をその体を蜷局(とぐろ)にして囲む。

 さすがの二人も、ウーとロロは邪険には扱えない。

 首から上だけやっと見える状態で、声をあげてくる。

 

 

「どういうつもりですか!?」

「まーそのなんだ、お疲れでしょう。そこで休んでてクダサイ」

「バレバレの嘘をつくくらいなら本当のことを言ってくれ!」

 

 

 え、そんなバレバレ?

 ならしょうがないか。

 

 

「邪魔すんな?」

 

 

 な?

 と。笑顔で言った。

 笑顔を意識しないと歪んだ顔になってしまうから。

 理解してくれたような王子サマは口を開けるだけで言葉は発さず、女魔術師も珍しく目を見開いているだけだ。

 ご理解いただけて嬉しいなあ。

 だって、こんな、知らない生き物。

 調べないわけにはいかない。

 私様の、知らないこと。

 未知。

 

 

「じゃあ。観察から」

 

 

 ふわりと体を浮かせて、より近くで見るために魔法範囲のギリギリまで近づく。

 水で邪魔されて良く見えないから、水の初級魔法で避けた。

 全身は迷彩柄。

 おおよその体の形も本来のルルと似たようなもの。

 ただし、尾の先端にいる寄生虫の数は大量。

 密集しているのか、あれで一体なのか、うぞうぞと動いている。

 視界の代償は全方位になりそうだ。

 本体の方も形は大きくは変わらないと判断。

 しかし。

 ただの足八本だったところの先端に鋏が左右に一本ずつを持っている。

 口元は上から下へ鋭く太い歯が見えている。

 何かを噛み砕くのだろうか。

 背中は大小無数の棘。毒でもあるかな。

 一応注意だな。

 そして、水の中にいたということは、ルルが水を克服した個体ということになる。

 単なる強化とはこの風貌では言えない。

 異常進化個体、だろう。

 

 

「……いいねえ」

 

 

 さて、なぜこんな進化を遂げたのか。

 こいつだけか?

 他にもいるのか?

 進化過程は?

 何を食した?

 何をした?

 体の構造は?

 分泌する毒に変化は?

 寄生虫はなにか変化したのか?

 

 ああ、気になる。

 気になる気になる気になる。

 さあ、解剖を始めよう。

 任務を受けた二人は忠実な二人に任せ、好き勝手やらせてもらう。

 見たことのない生き物。

 私様が死んでから進化したのか。

 それとも本当に突然変異なのか。

 ああ、できることなら、採取したら家に行きたい。

 ぱちん。と一鳴らし。

 ≪溜息≫を解いて、巨大なルル……キョルに自由を与える。

 圧から解放されたキョルは、数秒の間の後、水のない地面で八本足を踏ん張らせる。

 そして私様は宙に浮きながら、周囲を風で覆う。

 

 

 ガッ

 

 

「もーらいっ」

 

 

 瞬きの間に接近していた尻尾を、絶妙な風の強さで拘束する。

 向こうから差し出してくれるとは何ていい奴なんだ。

 解剖する気が益々増える。

 針の先端から溢れ出る毒らしきものを、光の魔法で包む。

 容器なんて気の利いたものはないので、そのまま片手で持ち、適当に開いた≪虚空≫へそっと置く。

 闇の魔法はほんと便利。

 この魔法って流通したのかな。

 

 ついでに寄生虫も観察。

 全体ムラなくオレンジ色。

 ブツブツとした細かい突起が全身を覆っている。

 大きさは……通常サイズの倍ぐらいか。

 こいつも進化したか?

 動きはするが、攻撃してくる様子は見えないな。

 

 さすがに素手で触ることはしない。

 ただサンプルは欲しい。

 だが個体一匹一匹、親指先端から第一関節程度の大きさのものがうぞうぞしていて正直気持ち悪い。

 だがサンプルは欲しい。

 悩んだ結果。

 切り落とした。

 尻尾ごと保管しておこう。

 ということで切断面だけ凍らせて、また≪虚空≫へポイ。

 なんか叫んでる。

 うるせえなあ。

 口も塞いでやりたいけど、先に体液採取だ。

 体液も光の魔法で包んで保管。

 ≪虚空≫へポイ。

 一先ずこんなもんか。

 

 

「おら、返してやるから鳴きやめ」

 

 

 風を緩め、尻尾の自由を返す。

 すぐに引き、踏ん張っていた足を今度は忙しなくジタバタと。

 鳴き止まないから余計うるさい。

 ああ、黙らせたい。

 殺してからいろいろ貰いたいが。

 生きている時と死んでいる時で差があっては困るので我慢。

 

 キョルよりも高い位置に浮き、直下する。

 痛みで私様どころではないのか、全くこっちを見ようとしない。

 ……いや、目の役割をしていた部分がなくなって、単純に気付いてないか?

 まあ、どっちでもいい。

 首元に残った石に触れ、光り、顕現する。

 

 

「空気に触れてない分、もらうぞ」

 

 

 断りを入れてから、甲羅っぽい背中の隙間から針を突き刺した。

 体液を吸いだし、引っこ抜く。

 痛覚はあるのか、刺した瞬間に体を大きく捻られたからあまり出せなかった。

 ちょいと少ない気もするが、後でいいか。

 短くなった尻尾を懸命に振り回し、突き刺そうとする姿はイジラシイ。

 長さにすぐに対応できていないところも含め、なんて可愛らしいんだ。

 ふわふわと踊りつつ、動作観察。

 基本攻撃はやはり尻尾。

 麻痺させてから本体が動くというスタイルは変わりないようだな。

 そしてそれ以外の戦い方はしないのかできないのか。

 でかい鋏は使ってくるだろうか。

 大ぶりの尻尾を交わしたところで、正面まで距離を詰めた。

 綺麗な目だ。もらおう。

 

 

「スグサ殿!」

 

 

 左右から鋏がきた。

 私様の身長よりも大きく開いた鋏を正面から眺める。

 中距離以上は尻尾、近距離対応は鋏。

 対応力が上がったようだな。

 私の風を切るには力不足だな。

 馬力はたかが知れてると判断。

 胴体と鋏の比率は一対一ぐらいか。

 重そう。

 そうなると、本体は大きくは動かなそうだな。

 水中にいたのは克服したのと、待ち伏せか?

 心配してくれた王子サマには笑顔で手を振っといた。

 顔がめっちゃ引いてんだけど。

 なぜ。

 尻尾と同じように風に掴まった鋏に、どうしようもなく途切れた尻尾まで出してきた。

 けれどそれも囚われてしまって、もう本当、どうしようもない状態。

 内心があれば焦ってんのかなあ。ふは。

 ちょうどいいから顔も観察。

 うん。キモイ。

 だがルルと大きくは変わりないか。

 怒ってるのか口がもごもごしてる。

 

 

「あとはそうだな。甲羅と鋏と……いや、めんどくせえ」

 

 

 全部もらうわ。

 片手を伸ばす。

 キョルの目の周囲を光らせ、切り取った。

 眼球は傷つけないように細心の注意を払ったから無事だろう。

 そのまま近くに≪虚空≫を開いてそっと置く。

 やはり痛みはあるようだ。

 特大のコエを上げる。

 口が近いからよりうるさい。

 風の魔法で若干音量は下がっているはずなんだがなあ。

 後方の二人はやはり強く耳を塞いでいる。

 そう考えれば、私様は塞ぐほどではないな。

 足をジタバタと動かし、自己表現している。

 鋏と尻尾が動かせる状態ではないため、地団駄踏んでいるだけのただの駄々っ子だ。

 やめてくれ、子供の扱いは苦手なんだよ。

 なるべく傷つけたくはなかったが、残りは締めた後でいいか。

 決めたら後は簡単だ。

 魔法を練るだけ。

 空ではなく、白い天井に手を伸ばす。

 敬意を表して、苦しまずに締めてやろう。

 

 

  (イル)最上級魔法(ナエト)

 

 

 

「≪判決は下った≫」

 

 

 

 首と胴体が、光の刃によって別れを告げた。

 キョルの目は光を宿したまま。

 元気に動いていた八本足は、静かに地に下ろされた。

 風に拘束されていた鋏と尻尾は、反抗を諦めた。

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