【3/27 電子書籍一巻発売】魔術師は死んでいた。   作:彩白 莱灯

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第15話

「おやすみ」

 

 

 良い夢を。

 動かなくなったキョルの体の下に、虚空を広げる。

 ゆっくり沈んでいく体を、瞬きせずに見つめ続けた。

 片時も目を離さず、それが私様流であり、こだわり。

 音で言えば、とぷん。

 完全に飲まれたところもしっかり目に焼き付けてから、虚空を閉じた。

 目を閉じて、焼き付いた映像を確認する。

 『記憶』である私様に保存されたことを確認し、その場から離れた。

 私様が浮けば、水は元の位置に戻るように流れ込む。

 結局、他の個体は出てこなかった。

 つまり変異した奴はアイツだけか。

 貴重な個体だ。

 もらっちゃお。

 

 

「おっ待たせしましたー!」

 

 

 陸に戻り、すでに蜷局(とぐろ)から解放されている王子サマと女魔術師に元気よくアイサツ。

 二人の表情は浮かない。

 というか険しい。

 まあ、あのサイズを見たらなあ。

 

 

「まずは、対処していただき感謝する」

「いーえー」

「あの個体を素直にお渡しするわけにはいきません」

 

 

 ズバッときたな。

 前振りも何もなしか。

 有無を言わせぬ顔をしている。

 まあ、異常個体だしな。

 数が多いなり個体が変化するなり、最近は各地で起こっている。

 それならば何か得体のしれないが起こっている可能性はある。

 調査は必要だ。

 うーむ。

 ただではくれないか。

 

 

「交換条件はどうですか?」

「……本体ではなく、情報を提供をしてくれると?」

「察しがよろしいようで。私様が隅々まで調査しますよ」

 

 

 それならば、私は私で調査ができるし、王子サマにはまとまった情報を提供できる。

 異常個体を捕獲したという情報も今のこの三人の中だけに留まるし。

 王子サマが調査に挙げるとしたら、おそらくは研究所だろう。

 弟子のこともあって、王子サマ自身、信用していないんじゃないかと思うのだが、どうだろうか。

 むしろ信用しているとかぬかしたら失望もんだが。

 険しい顔のまま、斜め横に控えている女魔術師と目の前で話し合っている。

 小声はしっかりと聞こえていないが、悪い話ではないと思っている。

 何言か交わし、私様に向き直った。

 

 

「では、そのように。調査と進捗、完了までのある程度の期間を示してもらいたい」

「承知しました。王子サマ。だが調査するにはキチンとした環境が必要。そもそも調査を始めるまでに時間が必要であることをご理解ください」

「そのキチンとした環境、というのは、当てがあるのか?」

「ええ、まあ。そこはご安心ください。セキュリティーのしっかりした場所ですんで」

 

 

 実のところ、今すぐにでも行きたい。

 行きたいが、行けない。

 なにせあの場所の入り口は預けたままだし、そいつも最近は姿を見せない。

 そいつに会わないことには始まらないのだ。

 まあ、そこまで言うつもりはないので濁すが。

 虚空に入ったものは時間が止まる。

 つまり、キョルの体は腐食せず、虚空に取り込む直前の状態で保管されている。

 だから会えさえすればいいんだがなあ。

 

 

「……わかった。では始められるときにまた教えてくれればいい」

「あいよー」

 

 

 よし解決。

 円満でとても実りのある話し合いだった。

 入り口の持ち主には会おうと思えば会えるだろう。

 方法はあるし、あとは時間だ。

 弟子の方も予定があるから、その後かな。

 それまでは我慢が強いられる。

 つら。

 

 

「ウー、ロロ。ご苦労」

「あいー」

「すー」

 

 

 ウロロスから幼児の姿に戻り、相も変わらず引っ付いてくる引っ付き虫たち。

 今回は私様の指示にも従ったし、良しとするか。

 両手で頭を撫でるとより引っ付いてくる。

 ぐりぐりすんな。痛い。

 頭を二回軽くたたく。

 合図と受け取った二人はくっつくのをやめた。

 私様は二人の目線の高さにしゃがむ。

 

 

「口の中見せろ」

「あー」

「……よし」

「あー」

「……よし。二人とも傷はなし。体調に変化は?」

「おなかいっぱい!」

「でる!」

「あっち行け」

 

 

 上からか下からか知らんが、そう高らかと宣言するもんじゃないと教えたはずなんだがなあ。

 二人に断りを入れ、二人の背中を押して茂みに入った。

 

 

「親のようだな」

「世話人ですね」

 

 

 うっせ。

 まあ、丁度いい。

 二人にも聞きたいことがある。

 踏ん張っている二人を背に、小声で話しかける。

 

 

「なあ」

「んー!?」

「なあにー!?」

 

「食べたことある味だったか?」

「えっとねー」

「ちょっとちがったー!」

 

「個体ごとに違ったのか? 今まで食べたものと違ったのか?」

「きょう たべたのは ぜんぶ いっしょー!」

「いままでのと ちょっとちがったー!」

 

「ほお」

 

 

 踏ん張っているせいで語尾が強い。

 個体の味は、食べたもので変化するのは当然。

 もちろん地域差もあるが、ルルはこの地域にしかいないから地域差は出ない。

 だから味に違いがあるとしたら、ルルの食事が変わったということになる。

 ルルは何を食べるようになったんだかなあ。

 食事が変わったから、異常個体も生まれたとみるか。

 さて、何を食べたのか。

 

 

「でたー!」

「すっきりー!」

「おうおう。ちゃんと隠して行けよ」

 

 

 やっぱ。

 さっさと調査しないとな。

 入り口の奴は最近は何をしてんだか。

 手っ取り早く行動するには、人を殺すしかないんだがなあ。

 二人とともに戻って、険しい顔で話し合っている大人たちと合流する。

 

 

「どーも。戻りました」

 

 

 表情を戻し、話を中断した。

 私様たちには聞かれたくない話かな。

 まあ、城にいる人間だからな。

 一般人には話せないこともあるだろう。

 

 

「この後はどうするか決めてんです?」

「水の中の確認をしたら、周囲を見回って終える予定だ」

 

 

 ということで、水辺に溜まった水をまとめて持ち上げて、底に溜まったルルの死骸やついでのゴミ類を目視で確認。

 底の部分だけを切り離し、綺麗な水だけを元に戻した。

 切り取った方は陸に上げ、ルルの死骸のみ持ち帰る。

 調査に使うために。

 虚空に死骸、あと水の中のゴミをまとめて入れて、閉じる。

 

 

「じゃあ、私様は変わりますよ」

「そうか。わかった。ありがとう」

「どーも」

 

 

 

 

 

 ―――――……

 

 

 

 

 

 灰色の以下略。

 

 あのあと、弟子に交代して、三人で森の中を見回りしていた。

 残党は見当たらず、まあもしかしたらどこかにいたのかもしれないが、ひとまずは被害は抑えられるだろう。

 木々へのダメージも少なかったと。

 そういうことで、弟子が≪玩具箱≫が解除し、送迎車と送迎者と合流。

 午前中に始めた作業も夕方で、それ以上長引いていたらどうしようかと悩んでいたらしい。

 まさか一日で終わるとも思っていなかったと驚いていた。

 キョルのことについて話したら、さらに驚いていた。

 しかしこのことはギルドの一部のもののみに伝達するように、王子サマから指令が出た。

 箝口令、とはまた違うが、上層部にしか知られないだろう。

 森の中の村もそうだったが、大量発生からの異常繁殖、異常進化が起こりうる可能性は大いにあるからな。

 いやあ、そうなったらまたお会いしたい。

 研究は尽きないなあ。

 

 

「……スグサさん……?」

「おっと、すまんすまん」

 

 

 今は同じ顔の奴と膝を突き合わせている時だった。

 つい頬が緩んでしまったな。

 

 

「なんだっけ?」

「魔法の総評のことです」

「ああ、そっか」

 

 

 つっても、今回は私様は口出ししてないからなあ。

 意識が出たが。

 氷の足場を作り、水を湧きだたせて送り出す。

 風を吹かせて弾き落とす。

 どちらも気にダメージを与えないよう、力加減は必要な内容だった。

 結果、木にダメージはほとんどなく、水も溜まりすぎることはなく、良好。

 大いに結構だったと思う。

 

 

「うん。よかったんじゃないか?」

「そうですか。よかったです」

「本当なら、キョルのこともやらせてもよかったんだがな」

「あれは……スグサさんが出るって言ったんじゃないですか」

「そうなんだよな」

 

 

 あっはっは。

 そうしても知らない魔物を見ると調べたくなる。

 そういう性質(タチ)は死んでも変わらないな。

 

 

「お前、魔法上手くなったな」

「成長は自分でも感じてます」

「いいことだ。正確な自己評価は成長に必要なことだ。過信せず、謙遜せず。あるがままの自分を見つめ続けろ」

「はい」

 

 

 堅苦しいな。

 もういいや。

 

 

「今後なんだがな」

「はい?」

「白い虫。バラファイ、覚えてるか?」

「はい。光を放ってた、死者を喰らうっていう」

 

 

 そう。

 度々弟子の前に現れていたアイツ。

 最近見かけないんだよな。

 

 

「あいつ見かけたらすぐ変わってくれ」

「? 何かあるんですか?」

「あいつが私様の家の鍵を持ってる」

「鍵……え、お知合いなんですか?」

「まあな」

 

 

 確証はない。

 だが、弟子の……私様の外見をした者の近くに現れるなら、つまりはそういうことだと思う。

 アイツ、私様のことが大好きだからなあ。

 ……うーむ。

 

 

「どういう……」

「んーそうだな。性格は変態。知り合った経緯は、まあ、本人に聞いてからだな」

「へんたい」

 

 

 変態だな。ありゃ。

 私様の物をなんでもストックするし。

 私様が持ってる私物より、アイツが持ってる私様の私物の方が多いって言ってた気がする。

 何を持ってるんだか。

 見つけたら全て燃やす。

 

 

「そんなことで、よろしくな」

「わかりました……」

「じゃあそろそろ寝ろ。明日もあるんだろ」

「そうします。おやすみなさい」

「おやすみ」

 

 

 

 

 

 ―――――……

 

 

 

 

 

 次の日。

 扉を叩く音で目が覚めた。

 今泊っている部屋は皆個室なので、部屋には私一人。

 ロタエさんとカエ様は別の部屋にいるはず。

 時刻は……まだ明け方。

 行動にはまだ早いが、何分、切羽詰まった叩き方をしている。

 

 

「ヒスイ、朝からすまん、起きてないか?」

「起きてます」

 

 

 声はカエ様のものだった。

 そっと扉を開けて、声の持ち主の顔を見る。

 表情は……白い。

 良くないことが起こったような顔をしている。

 

 

「早朝から本当に申し訳ない。俺とロタエは城に戻ることになったんだ」

「急ですね、何かあったんですか? 顔色もよくない……」

「いや、これは……すまん、俺もなぜそうなったのかまだ理解できていなくて……」

 

 

 顔で手を覆い、動揺を必死に鎮めようとしている。

 本当に良くないことが起こったようだ。

 私には話せない、国のことだろうか。

 部屋の出入り口で立ち話もなんだとは思うが、きっと、時間はあまりない。

 

 

「じゃあ、私も戻ります」

「……悪いな」

「いえ。大丈夫です。やらなければならないことはやったのですし。すぐ準備しますね」

「……あ、ちょっと待て」

 

 

 ぱたん。

 扉が閉じて、私の部屋に、カエ様が入ってきた。

 掴まれた腕に触れる皮膚はひんやりしていて、血が通っていないみたい。

 目の前に移る焦った瞳と顔も、血の気がない。

 今にも倒れてしまいそうだ。

 

 

「え……と」

「あ、いや、すまん。話しておかないとと思って」

 

 

 カエ様……殿下は、小さく両手をあげて、『何も怪しいことはございません』のポーズ。

 そんな警戒はしてないけれど。

 ……掴まれていた部分が、冷たい。

 

 

「本当にすまん」

「謝ってばっかり。大丈夫ですよ。どうぞ。無理なさらず」

「……俺も、大丈夫だ。今回、早く帰ることになった理由なんだが」

 

 

 ぽつりと独り言のように呟かれた言葉。

 ああ、確かに。

 それは顔色も悪くなるし、焦るし、二人は先に帰ることになるだろう。

 というか、これは本当に一大事だ。

 え、この国どうなるの、みたいな。

 

 

 

 

 

 国王陛下が、死んだようだ。

 

 

 

 

 

 ―――――……

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