【3/27 電子書籍一巻発売】魔術師は死んでいた。 作:彩白 莱灯
姿が消えて数秒。
人気も、物音もしなくなったことを確認し、魔法は解かずに魔法陣へ近寄る。
気を付けるのは周囲と、魔法陣の中に入らないこと。
そして、発動の兆候が見られた場合はすぐに離れること。
頭の片隅に置きながら、そろりそろり。
抜き足差し足で近づく。
「……転移の魔法陣でしょうか」
―― そのようだな。読み取りは?
「魔法の種類がわかるぐらいです」
―― そうか。なら少し待て。
ブツブツと呟きながら、おそらくは魔法陣を読み取ってくれている。
スグサさんが見てくれているから視線はずらさないようにする。
読み取りの練習でもしてみようか。
こちらの文字で書いてある単語は……まず『転移』。
『下』、『二』……『一方』、『閉じる』?
解読はこれらの文字を組み合わせるのだが、他にも単語が沢山ある上に地面の文字だから読みにくい。
あと字が汚い。
ミミズか。
―― ……ふむ。よし。解けた。
「どんなのですか?」
―― 一方通行の魔法陣。要は『入り口』だ。行先は地下。魔法の発動には二種類の魔力が必要。
ならば。
この魔法陣から人が出てくることはなさそうだ。
今は私だけだから、周囲から人が来ないことには発動はしないとみてよさそう。
周囲から人が来るのが一番いやだけど。
足元だけに気を取られないようにしなければ。
「地下に何かあるのでしょうか」
―― あるんだろうな。ただ、何があるか。城の研究員という時点である程度の予想はできるがな。
城の。
ということは、私がこの世界に来たことと関係がある……可能性があるということ。
そうなった場合、ここには『死者蘇生』『英雄の力の再現』に関する何かがあるというのだろうか。
今更だが、『英雄の力の再現』という研究は終わっていない。
むしろ継続されていて、もしかしたらまた誰かの魂が呼び出されているかもしれない。
私のように意識を取り戻すのは、どれくらいの確率であり得るのだろうか。
もし取り戻していたら、今頃どうしているだろうか。
考えても仕方がない。
私だけじゃ助けられない。
私の力じゃ、足りない。
―― まあ、ここにいてもしょうがない。そろそろ戻らないと、職員が探してるかもしれないぞ。
そうだ。
お手洗いに行くって出てきたから、遅すぎると変に思われてしまう。
それに一応仕事中だった。
「戻ります」
周囲を気にせず、走って戻った。
―――――……
午後。
寝たきりや体の自由が利きにくい人の、体の清拭のお手伝い。
この世界ではお風呂はあっても、体の自由ありきのものだ。
手摺はあれど心もとない。
椅子はあってシャワーを浴びられるけど、湯舟には入れない。
環境が整っていない中での入浴は危険なので、十日のうちに何回かという制限がある。
しかし衛生面としては清潔を保ちたいので、追加で清拭を行うことになっているらしい。
クザ先生は引き続き診察に。
私は先生につくべきかとも思ったが、クッションを選んだり着替えの介助方法指導ができるので、清拭組に混ざることにした。
「じゃあ行こー!」
「おー! キレーにしたるわー!」
「し、しずかにしてっ」
「みんな落ち着いてください」
ライラさんとナオさん。
そして手伝いに来ていたセンさんとともに、居室を一つ一つ回って行く。
センさんがいることには少し驚いたけど、理由を聞いたら「暇だったから」と。
センさんらしい。
シオンも寮にいたようだったけど、急用ができて城に行ってしまったらしい。
その急用というのは陛下のことだろうが、さすがに知らされてはいないみたいだ。
寮で一人ぼっちになってしまったセンさんは、「なんでもいいから構って!」という勢いでナオに事業を手伝うと申し出たらしい。
「意外と楽しーねー。めっちゃお菓子貰っちゃった」
「あ……ほんとは、ダメなんだよ」
「らしいねー。でも断ったらめっちゃ悲しそうなすんの。俺ダメ。じーちゃんばーちゃんのしょんぼりした顔見てらんない」
顔を両手で覆い、鳴きまねをお披露目。
センさんはジェスチャーが多いし、のんびりしているタイプ。
だから耳が遠かったり視力が低いお年寄りとは相性がいいのかも。
「あたしももらっちゃったー!」
「お、怒られるよ……」
「もう食べちゃった! あはは!」
ライラさんは見たまま元気
あっけらかんとしたところも気持ちがよく清々しい。
「最初は誰のとこ行くー?」
「えと……じじのところ」
「じじ! 最近元気そうだね!」
「……見える、だけだよ……。寝てることが多いし、食事も……」
ナオさんは明るいわけではないが、洞察力がある。
人の感情が見えているかのように察し、寄り添おうとするタイプ。
引っ込み思案なところが、あまり突っ込んでほしくないと思っている人とは程よい距離感を保てるだろう。
適材適所で、意外といい組み合わせかもしれないな。
「じじー! 来たよー!」
「ありゃ、寝てるね」
朝にあいさつしたじじさんは、ベッドで寝息を立てている。
スケジュールとしては後回しにすることもできるが、一応声をかけてみることに。
「じじー! 体拭くよー!」
「……ん、たのむ……」
瞼を閉じたままだが、確かに返事が聞こえた。
四人が目を合わせ、ならばということで素早く準備を始めた。