【3/27 電子書籍一巻発売】魔術師は死んでいた。 作:彩白 莱灯
最敬礼して相手の返答を待つ。
本当に巻き込んでいるだけなので、正直、断れれば強くは引き止められない。
あの研究員たちだ。
死者を蘇らせるために他人の魂を平気で使う人たちだ。
見つかっても怒られるだけ、とは言えないだろうことは容易に想像がつく。
ここでナオさんに断られれば、魔法陣の中に行くことは難しくなる。
スグサさんならなとかなるかもしれないが、言い訳ができないのでできればやりたくない。
というか、私一人が行動してて、研究員に見つかってしまえば、もう学校では過ごせなくなってしまうかもしれない。
……それは、嫌だなあ。
折角楽しいのに。
でも。
それでも。
寝たきりの人がたくさんいて、もしかしたらまだ動けるかもしれない人がたくさんいるこの状況について、原因やヒントがあるかもしれないないのに引き下がれない。
おおよそ斜め四十五度。
ナオさんの反応を待つ。
足元にある影は動きを見せず、ただただ時間が過ぎる。
夏場の日差しは暑く、汗が顔を伝う。
「……どうして?」
「どうして、とは」
「ここの人たちと、ヒ、ヒスイさんは、まだ会って数日、でしょ?」
いつの間にか丁寧語が外れている。
微かにうれしく思いながら、起こした頭の中で投げられた疑問を反芻する。
「そうですね。今日で五日目。でも日数なんて関係ないですよ」
「じゃあ、なんで?」
「……そうですね。言われるまで考えてはいませんでしたが」
うん。
たぶん。
これが理由。
「気に食わないんですよ。研究員のやっていることが」
もし。
もし本当に、私やクザ先生が考えている通り、研究員が寝たきりに関わっているとしたら。
また、『生きる自由を奪う』行為をしている。
私から前の世界での人生を身勝手に奪ったように。
療養院の人から『残りの時間』を奪っている。
「人の人生に茶々入れて来るなら、向こうが人生のうちでやっていることに茶々をいれても文句は言えないだろうと思いまして。だったら思う存分やらないと損じゃないですか」
一言で言えば、やられたらやり返す、というだけの話。
もちろんだが、ナオさんたちは『
だから今話した内容も、「何言ってんだコイツ」とか思われているかもしれない。
それでもいいけど。
聞かれたことに答えただけ。
それで納得出来ても出来なくてもいい。
お願いしている立場だから、ただ誠実でいたかっただけ。
頭をあげてしまったので、再度下げるのは格好がつかない。
そういう問題ではないが、なんとなく、ナオさんの目がある辺りを見つめる。
ナオさんも前髪で目がほとんど隠れているので、私と二人でいたら目隠し同士。
今日は療養院の人たちの前には出ないから布はなくてもよかったが、三つ編みして顔を隠すのも面倒だったので、結局布を巻くことにした。
結果、お揃いの見た目となってしまった。
「……わかった」
「協力してくださるのですか」
「うん。……じじたち、何とかしてあげたいし。ヒスイさん、必死、みたいだから」
「……ありがとうございます」
必死か。
私は今、必死に見えるのか。
言われて、腑に落ちた。
「気に食わない」と言っておきながら。
どっちが本音なのやら。
「あそこに見える魔法陣です。二人分の魔力が必要なので、入ったら即座に発動できるようにお願いします」
「わ、わかった」
善は急げと言わんばかりに、先程までの雰囲気は一蹴して行動に移す。
いつもは昼に来るからと言って、今日に限って昼より先に来るという可能性もなくはないのだ。
早めに済ませてしまいたいというのは本当の本音。
お互いに見えていない目を合わせ、同時に掛ける。
魔法陣の中に足を入れたと同時に魔力を流し、魔法陣が起動する。
ギルドの時と同じように、光に包まれて、景色が切り替わった。
地下だとはわかっていたので驚きはしなかったが、まあ見事に洞窟だった。
それも、背面は行き止まりの一方通行。
わかりやすくて何より。
透視の魔法が込められているから見えているが、布をずらして肉眼で見れば一寸先は真っ暗闇。
ナオさんには見えていないかも。
「ヒスイさん……見えますか?」
こちらを向くナオさん。
口ぶりでは景色は見えていないようだ。
「明かりがあります。目を閉じていてください」
周辺に人がいないことを目視で確認し、ポケットからランタンを取り出す。
火の魔法で灯し、明かりを感じたナオさんゆっくりと目を開けた。ようだ。
「動けますか?」
「うん。大丈夫。です」
「では、後ろについてきてください。出口の魔法陣がないか確認もお願いします」
もし見当たらなければ別の手段で脱出しなければ。
辺りは土だし、土属性魔法を使えば何とかなるかな。
学校には申請出していないけど、ナオさんなら内緒にしておいてくれないかな。
なんて考えながら、整っていないけれど踏み固められた一本道を進む。
正面からだれか来たら即終了だが、あっちこっちに行って時間を食われないのはいいことだ。
黙々とただ導かれるように進んでいく。
幸い、人の気配はなし。
景色は変わらないし日の光もないので、どれくらい歩いたのか。
「……っと」
「行き止まり、ですか」
一歩通行も何も。
何もなかったというオチがついてしまった。
多少の湾曲はあったが、ここまでの道のりは一直線だ。
何かを目的に掘り進めていたのか。
ほぼほぼ真横。
地質調査ならば縦に掘り進めていてもいいはずだが。
「あ、ヒスイさん」
「はい?」
「突き当りの足元、魔法陣が書かれてます」
行き止まりのすぐ下に、確かに魔法陣が書かれている。
流れからするとあれが帰りの魔法陣だろうか。
ならばと思い、魔法陣の一歩手前まで進む。
魔法陣を読み取ったスグサさんが頭の中で「これだ」と断定。
発動条件は入り口と一緒。
これで帰る方法は見つかった。
「なにも、なかった?」
「現時点ではそうなりますね」
「じゃ、じゃあ、じじたちは……」
意気消沈。
その言葉の通り、決した意が水底に沈んでいったように声を落とす。
何かあると信じて協力してくれたのだろう。
裏切ってしまったような形になってしまって、何割かは心苦しくはある。
しかし残りの何割かは諦めてはいない。
何を目的に掘り進んでいるのか。
それが知りたい。
魔法陣を素通りし、突き当りの土に触れる。
土には詳しくないので、何も変哲もないようにしか見えない。
しかし私の視界には、土の先の景色が映る。
「……ナオさん」
「は、はい」
「ウーパールーパーってご存じですか」
「は?」
聞き取れなかったかな。
ウーパールーパーは何とも言えない顔をした水生生物。
癒し系に分類されるのだろうか。
爬虫類系の見た目に顔からエラ? が生えている。
サンショウウオだかサラマンダーとか言われていたと思う。
水生生物なのに。
なぜそんなことを言い出したかと言うと、いるからだ。
土の向こうに。
それも沢山。
ついでに水もある。
振り向いたら後ろに寄ってきていたナオさんに、一つ確認したいことがある。
「療養院の水ってどこから調達していますか?」
「敷地内の井戸から……汲んでます。か、加熱処理をしてから、使ってます」
「じゃあ……なんと表現したらいいか迷うな。なんていうんだろうあの顔」
「か、かお?」
んー。
見てもらえたら楽なのに。
どうにかこの壁を通過できないかな。
―― 通りたいか?
……なんか、「力が欲しいか?」みたいに聞かれてる。
ここは素直にしておこう。
通りたいです。
―― 風で周囲を削る。それをそのまま押し出す。通り終えたら戻す。
ああ、なるほど。そうします。
「少し下がっていてください」
「え、うん……」
ランタンを腕にかけ両手を前面に出し、風の魔法を使う。
丁度いい魔法は思いつかなかったので、コントロール重視で初級魔法にした。
丁度通路と同じぐらいでくり抜く様に。
初級魔法でいいのだから、本当、魔法って使い方だな。
コントロールも練習しておいてよかった。
土が崩れないように、風で囲む。
そしてところてんの要領で、少しずつ押し出していく。
「ええぇ……」
後ろから声が聞こえるが、集中しているので反応はできない。
なにせ電車三両分ぐらいの長さのところてんだもの。
じわじわと、一歩一歩踏みしめながら、推し進めていく。
地下だから熱くはないのに汗がしたたり落ちる。
『透視』で、押し出している方を見る。
なんと。
まさか。
ウーパールーパーたちはまったく見向きもしていなかった。
いや、見てはいるのだが「なんだあれ。まあいいか」みたいにほぼ反応がない。
中身もウーパールーパーか。
……これは一応褒めてる。
逃げないでくれてありがとう、とても嬉しいよ。
ようやく車両一本分を歩き終えたが、休息はむしろコントロールを損ないそうなのでこのまま突き進む。
そんな真剣な雰囲気を察してか、ナオさんはただ静かに、後ろをついてきている。
話しかけないでくれて本当有難い。
「あ」
「え」
「いえ、もう空きますので、先に隙間から通ってください」
「えっ、あ……うん」
先に行きたくはないかもしれないが、今回ばかりは譲れない。
いや譲る。
宣言して、最後の
小柄なナオさんがやっと通れるほどの隙間を開けて、即座にナオさんが体を滑り込ませる。
まさに意を決してという勢いだった。
隙間の先は崖のようになっていて、下へ下へと空間が広がっている。
といっても
そんなに深くはなく、腕のランタンで落ちた先が見える程度だ。
ナオさんが降り切って、真下から移動したのを確認し、自分は風を纏って浮遊する。
浮遊したうえで、くり抜いた土のところてんを慎重に押し込めていく。
出すより入れる方が簡単な気がする。
「……よし」
あー、疲れた。
入れ切ってすぐさま魔法を切りたかったが、自分が落ちてしまうので寸の所で思いとどまる。
ナオさんの所にゆっくり降りて、へたり込んだ。
「だ、大丈夫……?」
「はい。少し疲れただけです」
「少し?」
「いえ大分」
これをやったら一般的には「少し」に入らないのか。
スグサさんと訓練している時はもっと疲れていたけど。
やはり。
スグサさんが示す基準は当てにならない。
それは置いておいて。時間に余裕はないのだ。
確認は早々にしてしまいたい。
腕にかけていたランタンを持ち直し、体勢も立て直す。
水の音がする場所に近づいて行けば、こちらを見上げる癒し系の生物がこちらを見上げている。