【3/27 電子書籍一巻発売】魔術師は死んでいた。   作:彩白 莱灯

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※話が重複していたので差し替えました。(2025/5/12)


第11話

 王様が亡くなったという話を聞いてから、初めてお城に入った。

 物々しい雰囲気の中、第一王子であるカト殿下からもらった案内状を手に、案内役の兵士さんの後ろを身を縮こませて着いて行く。

 今までお城に行くときはカミルさんやアオイさんやロタエさんがいてくれたけど、全く知らない人とというのは初めてで緊張する。

 案内されていく場所のおおよその予想を片隅に、慣れない景色を見ながら歩く。

 早く着いてほしいような。着いてほしくないような……。

 フクザツ。

 

 

 

「こちらです」

「あ、ありがとうございます……」

 

 

 歩くたびにガシャガシャと重そうな音を立てる甲冑を着て、こちらに見向きもせず言い放つ。

 あまり歓迎はされていないような対応。

 まあ、それはそれでいいけれど。

 ドアをノックすると、聞き覚えのある声が入室を許可してくれた。

 

 

「失礼いたします」

「失礼、します」

「やあ、来たね。『五番』の『ヒスイ』くん」

 

 

 執務用の机だろうか、両手を空で頬杖を突き、知っている人と似た笑顔をこちらに向けてくる。

 敵意はないような、そんな、甘く酔いそうな雰囲気。

 むしろ危険だと、頭の中がチカチカと警告を光らせているような感覚がする。

 扉の正面にカト殿下。

 その横にずれた位置に、コウ殿下がいる。

 ソファーを挟んだ位置で、私は扉の前から動かないでいる。

 

 

「案内ご苦労。下がっていいよ。では早速、話をしようか」

 

 

 兵士は一礼して扉を閉めて行った。

 手招きされた私はソファー、を素通りし、カト様の目の前までゆっくり進む。

 足は鉛のように重い。

 横に据えたままのコウ殿下は、目つきを鋭くして、私ではなくカト殿下を見ているようだ。

 

 

「これを」

「……これは……」

「招待状だよ」

「招待状……」

 

 

 復唱してばかりな私はまさに『人形』だろう。

 しかし、それしかできないほどに何のことだかわからない。

 察しの悪い『人形』。

 廃棄処分でもされるだろうか。

 開けて読めと促され、封を開ける。

 封筒よりも一回り小さい招待カードが入っているだけの、シンプルなモノ。

 片面には『ヒスイ』という宛名。

 裏面には、場所と、注意事項。

 

 

「『仮面舞踏会』、ですか」

「そうだ。それと書いてある通り、他言をしてはいけないよ」

 

 

 ここに来るきっかけとなった案内状にも、『仮面舞踏会』と書かれていた。

 何のことやらと思ったが、本当にやるようだ。

 目が文字に釘付けになる。

 王様である父が亡くなったのに、なぜこの人はにこやかに、華やかなパーティーを開こうと言うのか。

 

 

「なぜ舞踏会を開くのか、という質問についてだけど」

「っ」

「陛下が亡くなったことを伝えるためだよ」

 

 

 心の内を読まれたかのようなタイミングに、身の毛がよだつ。

 鳥肌が立つ。

 寒気がする。

 長所だと言い張るように表情には現れていないのが幸いだ。

 

 

「亡くなったことを告げるのは慎重さが必要だ。国民の不安を煽らないよう、かつ他国へ油断を見せないように。だから最初は信用のできる者たちにだけ打ち明ける。仮面舞踏会にすることによって、パーティーの後も他言しにくいようにするんだよ」

 

 

 偏見だろうか。

 懇切丁寧に教えてくれているようで、頭の足りない『人形』にも理解できるように話されている。

 でもおかげでよくわかった。

 お互いも不明瞭な状況で信用できる人にだけ告げて、他言を防ぐということと。

 打ち明けられた人は、これから振られる仕事が王様がいない前提で振られているものだと理解して動くことができる。

 王様が亡くなった事実を知らない人間と差をつけることで、優越感を与える。

 出世欲がある人間ならば張り切るだろう。

 王政が変わる。

 それは人事の変動が起こる可能性も大いにある事態だ。

 カト殿下のらしい人だ。

 

 

「君はパーティーにふさわしい洋装などは持っていないかと思ってね。君のことは国が管理しているし、城のもので見繕うと良い」

「兄上」

「ご配慮いただき、感謝いたします」

 

 

 コウ殿下の言葉に被せるよう、大きめの声を上げた。

 カト殿下の『人形』扱いも何度目かだ。

 耐性も少しならできてきている。

 むしろお城にっ来た時点で心構えのようなものは出来ていた。

 以前のように不意打ちでなければ、まだ、大丈夫。

 頬杖をついた手を解き、背もたれに寄りかかる。

 満足そうに大きく頷いて、目を横に振った。

 

 

「じゃあコウ、案内してあげてくれるかな」

「……承知しました」

「お手数おかけします」

 

 

 ようやくこの部屋から出られる。

 その気持ちを察してか、コウ殿下はすぐさま扉の方に向かう。

 私も後を追う。

 

 

「失礼いたします」

「失礼します」

「しっかり着飾っておいで」

 

 

 横並びに一礼する。

 その場から動かず手を振るだけの次期王様候補様は、後ろの窓から日の光に照らされ、群青の髪を輝かせていた。

 扉を閉めてからも、そそくさと移動する。

 足早に、またどこへ向かっているのかもわからず。

 今日はまだ会話もしていないコウ殿下の後ろ姿は、少し疲れているようにも見える。

 父親が亡くなったからか、国の内政的なことか。

 任務をしていた頃とそう日数は経っていないのに、声をかけるに掛けれない。

 靴音だけ響く中で向かった先は、見慣れた部屋。

 コウ殿下の部屋だった。

 自分の部屋なので断りの必要もなく入っていく。

 行先を間違えたのかと心配になるが、廊下で止まっているわけにもいかないので続けて入った。

 殿下は手前のソファーに腰深く座る。

 そして息で求めていたのかと思うほどに、深い深いため息を吐いた。

 

 

「つっ…………かれた……」

「お疲れ様です」

 

 

 とりあえず入った扉の近くで、そう声をかけた。

 上半身さえもずり落ちて、気だるげな眼でこちらを見てくる。

 手で「こっちこい」「そっち座れ」と合図され、言われたとおりに向かい側に座った。

 

 

「あの」

「まあ、ちょっと休憩だ。兄上との会話は緊張して疲れる」

「殿下も緊張するんですね」

「あの人の前で変なこと言うと良い様に使われてしまうからな」

 

 

 両膝に両肘を乗せて、頭を下げる。

 背を丸めて疲労の塊がのしかかっているようだ。

 ただ座って何もできず、さてどうしようかと思っていたところ。

 自発的に頭が上がった。

 

 

「それはそうと」

「あ、はい」

「今回の舞踏会について話そうと思う」

 

 

 話し終えてから衣裳部屋に案内する、と。

 今更ながら、王様が亡くなったのは紛れもない事実。

 三兄弟含め、宰相や偉い人たちが奔走し、情報規制や必要な手続きに追われていたそう。

 勝手な想像で王様がそんなに何かに関わっていたとは思えないのだが、それでもこの国の一番上の人だ。

 名前だけでも十分な効力を持っている。

 なるべく秘密裏に色々と手続していたそうで、まあ大変だろうなと想像がつく。

 

 

「シオンは元気ですか?」

「疲れてはいるが、体調は崩していないと思うぞ。学校には間に合うだろう」

 

 

 長期休みになってからほとんど会っていなかったのだが、元気ならよかった。

 子どもとは言え、この国の第三王子。

 一般の子どもよりも責任を負うことは多いだろう。

 この世界では貴族がいるから、近い立場の人たちはいるだろうが。

 

 

「それでだ」

「はい」

「招待予定の貴族はゼの王族関係者、ウとドゥの貴族の極一部だ。仮面舞踏会だから招待客自体は覚える必要はないんだがな。おそらくだが、ヒスイの同級生のロアは来るだろう」

「じゃあ会ってしまうかもしれないんですね」

「正体の指摘はしないというルールだから、まさかないとは思うんだがな。一応、見かけたら距離をとった方が良いだろう」

 

 

 ドゥはロタエさんの位。

 ウはロアさんとマリーさんの位だ。

 ロタエさんはともかく、同級生二人は私が参列していることに気が付いたら疑問に思うはずだ。

 『間抜け』だし。

 ロアさんに至っては『寄生虫』と蔑む相手が自身と同じ場に『間抜け』がいるなんて……見つかったら吠えてきそうだ。

 

 

「正体を隠しているとはいっても、相手は貴族ばかりだ。マナーについては?」

「お城で生活させていただいたときに。ですが自信はないです……」

「じゃあそれについても対応しよう。兄上の招待客という立場であるし、やっておいて損はないしな」

「うわあ、ありがとうございます」

「うわあって」

 

 

 軽い笑い声が部屋に響いて、少し安心した。

 落ち込んだ空気は微弱ながらも晴れたようだ。

 

 

「じゃあ、行こうか。衣裳部屋に案内する」

 

 

 重さの消えた腰を上げ、歩き出したと思ったら手を差し出される。

 察しはついたが、今までにされたことがない動作に一瞬体が怯む。

 ちらりと手の差出人を見ると、裏なんてない春の陽気のような笑顔で、ただただ私のことを待っていた。

 

 

「……っ」

 

 

 息を飲み、手に手を重ねる。

 優しく握られ、体が引き上げられる。

 勢いはなく、自然と両足に体重が乗って、いつの間にか立っていた。

 

 

「ヒスイには何色が似合うかな」

「え」

 

 

 殿下が選ぶの?

 妙にわくわくした背中を見ながら、お城の中を移動した。

 衣裳部屋と案内されたそこは、部屋の四辺は一か所を除いて全てクローゼット。

 限られた一か所は姿見となっている、まさに衣装を決めるための部屋。

 メイドさんと、淑女が一人。

 

 

「髪がグリーンならばイエロー系がお勧めです」

「淡い色が良いと思う。そうだな。クリーム、ライトブルー、パープル、イエローグリーンはどうだ」

「悩ましいですね。着てみていただきましょうか」

「となると、とりあえず……六着だな」

「着替えている間にアクセサリーや髪型などを。普段下ろされているのでしたらアップにするのも印象が変わってよろしいかと」

「む。見たい。が、肌の露出が増えるのはなあ」

「あらあら」

 

 

 ここでは『着せ替え人形』に徹することになった。

 コルセットなんてものを初めて付けたけど、あれ付けたまま立ち話とか食事とかしてるのは苦行だと思う。

 逆転の発想であれ付けてればダイエットになるかな。

 ……体に悪いかな。

 結局十着以上のドレスを着て、しかし決まらず、また後日となった。

 仮面舞踏会自体が三日後。猶予という猶予はない。

 明日は今日の続きのドレス選びと小物合わせ。

 それとマナー講座。

 お城と寮は近いとはいえ、通うのは足が重かった。

 行きは精神的に、帰りは肉体的に。

 すでに長期休暇の最終週。

 遊べなくなってしまったことをライラさんに謝罪し、ナオさんが帰ってきていないことを聞いた。

 連絡は来ているそうなのでそこまでの心配はしていないと。

 予定通り、休みのうちには帰ると言っていると。

 傷心旅行のようなものだろうか。

 そして、仮面舞踏会の当日。

 準備を終えた。

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