【3/27 電子書籍一巻発売】魔術師は死んでいた。   作:彩白 莱灯

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第12話

 舞踏会の集合時間よりも二時間ほど早く、お城に顔を出す。

 夏場なので日は高い。

 受付開始時間帯には少し日が暮れている頃だろうか。

 連日来ていたため顔は覚えられているようだが、張り詰めた雰囲気を隠そうともせず、険しい顔で検問する。

 緊張が背中を撫でているようで居心地が悪い。

 特に今日は多数の人間が行き来することになっているので、より異様な雰囲気を感じる。

 人が集まってきたらこの緊張感も解れるのだろうか。

 

 兵の一人が衣裳部屋まで案内してくれた。

 何度か通ったそこはすでに決まったドレスが立てかけられ、私に合わせて手直しされた状態だ。

 「早く着てほしい」だなんて絶対に思っていないだろうけど、綺麗なドレスに心が躍りだしそうになる。

 

 

「お待ちしておりました。どうぞこちらへ」

「よ、よろしくおねがいしま、自分で脱ぎますっ」

「おほほ。これは失礼」

 

 

 私についてくれていた淑女が、手早く服を脱がせてコルセットを締め上げる。

 内臓が出そう。

 マネキンが裸になり、私に着せ替えられる。

 殿下が選んだクリーム色のドレスは、前は膝下のミドル丈、後ろはロング丈とフィッシュテールになっていて歩くたびにひらひらと揺れる。

 ハイネック、胸元、七分袖はレースになっていて肌の露出も比較的抑え目。

 サテン生地に表面はレースで、赤やオレンジ、緑で花がデザインされていた。

 足が出ることに若干の抵抗は覚えたけど、若い人が着るドレスはミドル丈が主流なのだと淑女さんが教えてくれた。

 年を重ねるごとに丈は長くなるそう。

 つまり若さの象徴かと。

 

 

「よくお似合いです」

「ありがとう、ございます」

「ではこちらで髪のセットを」

 

 

 鏡の前に座らされ、恥ずかしげもなく自分の姿を見つめていた。

 ただしくは呆気に取られていた。

 自分にびっくり。

 まさかこんなドレスを着る日がこようとは。

 長い髪を取られる。

 アップにすることもできたが、ヘアアクセサリーを付けて大人しめに煌びやかにしていく。

 横髪を少量ずつ取って三つ編みに。

 残った大半はまとめつつ、ボリュームを出していく。

 そこに細い三つ編みを巻き付ける。

 そしてさらに花の形をしたヘアアクセサリーをバランスよく差し込んでいく。

 

 

「こちらも素晴らしくお似合いです。緑の髪が映えますね」

「はあ……そう、ですね」

 

 

 仮面をするので前髪は左右に避けられている。

 両目でこの姿をまじまじと見て、思わず感嘆のため息が漏れた。

 時間はいつの間にか大分進んでいたので、目に焼き付ける時間は最小限に、化粧をするために顔を奪われた。

 仮面、するのに。

 沢山の甘い香りを塗りたくられ、全身を見て、思わず出た言葉が「うわあ」だった。

 色気もへったくれもない。

 周りの人たちもあきれていたに違いない。

 これだけの準備、一時間は優に超えていて、でも受付までは時間がある。

 顔の上半分、つまりは目の周りを覆い隠す、装飾された仮面を暇潰しに眺める。

 このまま衣裳部屋で時間を潰すかと思いきや、外からノックされた。

 殿下かな。

 と思った。

 メイドさんがドアを開けに行く。

 

 

「おや、なかなか様になったようだね」

「あ……カト、殿下」

 

 

 殿下は殿下でも、会いたくない方の殿下で。

 仮面、被っておけばよかったな。

 王族らしく遠慮なしに入ってくる。

 座っていたスツールから急いで立ち上がり、セットが崩れないように慎重に頭を下げる。

 近くまで寄ってきた足音を聞いて、目では床に落ちる影を探る。

 真上から照らす光が、目と鼻の先の人物の影を作った。

 そう、見えている位置に。

 

 

「準備は終わったのだろう。行くぞ」

「え、え……ど、どこにいくんです、か」

 

 

 強く腕を引かれ、歩き慣れないヒールで遠慮なしに歩かされる。

 頭を下げたままことの行く末を見守るメイドさんたちは、さすがというか関心なさそうに頭を下げ続ける。

 あっという間に部屋を出て、お城の玄関まで連れてこられた。

 何度か足を挫いてしまい、痛い。

 折角のドレスは無事だろうか。

 

 

「ここで受付を。あ、仮面はするように」

「……え」

「説明はそこの奴から聞いて」

 

 

 言いたいことだけを言って、傍若無人な様を見せつけるようにして、さっさと来た道を戻って行った。

 都合よく使える人形を拾ってきた。

 そういう感覚なのだろう。

 「そこの奴」と呼ばれたその執事さんらしき人は、メイドさんと同じように関心なさそうに私を呼びつける。

 淡々と進められる流れと扱いに飲まれてしまったような自分が少し嫌だ。

 そんなことを思っても説明をする執事さんが知る由はなく。

 ただただ淡々と、これから訪れてくる招待客とのやり取りの流れを教えてくれた。

 

 

 

 

 

 ―――――……

 

 

 

 

 

「ようこそお越しくださいました。招待状を確認させていただきます」

「こちらになります」

「……ありがとうございます。どうぞ、奥の広間へお進みください」

「行きましょう」

「ああ」

 

 

 向こうは私に気付いたかはわからない。

 が。

 なぜだ。

 なぜ。

 マリーさんとロアさんが、腕を組みながら会場に来た?

 

 幸いにして私は普段と雰囲気の違う格好で、かつ顔半分は仮面も被っている。

 この世界では多種多様な色の髪をしているから、緑色の髪もあまり気にされないだろう。

 足元まで届きそうな長さということはこの世界でもなかなかいないのだが、結んで後ろに回していたので確認はされていない。

 しっかりと組まれた腕と手。

 その場限りのものには見えない。

 談笑だろうか、顔を向き合わせて口元をほころばせていた。

 色違いの仮面を目元につけて、濃紺のスーツと薄紫のドレス。

 系統の近い服を着た二人が一緒にとは、そういうこと(・・・・・・)と勘ぐってしまうのは致し方ないのでは。

 二人仲睦まじい様子の二人を、しっかり首を回して見送る。

 次の招待客に声をかけられるまで、めちゃくちゃじっと見つめていた。

 

 

 

 

 

 ―――――……

 

 

 

 

 

「――挨拶はここまでといたしまして、乾杯の音頭を取らせていただきます。皆さまご唱和お願いします」

 

 

 お城の鐘が鳴る。

 定刻通りに、主催者であるカト殿下が壇上で乾杯の音頭をとる。

 一人に続いて会場中の人間が声を上げる。

 微妙な立ち位置である私は口パクにさせていただきました。

 受付が終わってから会場に入るように促された。

 百人近い人数がいる会場の隅っこで、ジュースを片手に案山子の役。

 せっかく身なりを綺麗にしてもらったが、色と言い自然な感じと言い、案山子感を増加させるものになってしまった。

 このドレスを選んでくれた殿下……コウ殿下ともまだ直接は会えていない。

 カト殿下と同じ主催者として壇上に上がっていたから、姿だけは確認できた。

 向こうは主催者としての立ち振る舞いがあるだろうからすぐには合流はできないかな。

 

 

「……なんか食べようかな」

 

 

 立食式パーティーなので、テーブルの上にはたくさんの食事がある。

 音頭とともに皆が食事をとり、今はテーブル周りは落ち着いている。

 とるなら……今。

 手元のジュースを飲み干し、執事さんに渡す。

 お皿をとって一口サイズの様々なものを乗せていく。

 盛り付けセンスは我ながらない。

 上品ではない量の食事を持ったので、しばらくは食べて時間を潰そう。

 

 ……私は何で呼ばれたんだろうか。

 

 

「君、一人?」

「ふぇ」

 

 

 壁に一人でいたら、声をかけられました。

 少女漫画とかだと見たことある。

 私は少女漫画の中に召喚されたのか。

 

 

「聞いてる?」

「あ、はい。すみません」

 

 

 目の前の軽薄そうな男性は、紺色の前髪を顔半分に垂らし、もう半分は羽で装飾されたドがつく派手な仮面をしている。

 つまり顔は全く見えない。

 が、声は若そう。

 信用できる人間だけ呼ぶんじゃなかったけ?

 もしくは、カト殿下が使いやすくて口は固い、という意味での『信用』ということだったのか?

 

 

「一人だったら一緒に話そうよ。ダンスでも構わないけれど」

「いえ、遠慮させていただきます」

「へえ? めっちゃはっきり言うじゃん。じゃあオレもはっきり言うわ。来いよ」

 

 

 レース越しの肩を取られる。

 瞬間に背筋が凍る。

 冷たい手が触れている場所から体温が奪われていく。

 連れてかれる。

 

 

「や」

「おやめください」

 

 

 目の前を、金色のカーテンが遮る。

 夜が明けて日の光が差し込んだよう。

 この声の太陽のような暖かさも、身に覚えがある。

 

 

「遅かったな」

「どなたかが挨拶を丸投げされるので」

「それはご苦労だったな」

 

 

 すっと手が離れ、ひんやりと冷えた肩を擦る。

 暖かい声のこの人とこの会話ということは、この冷たい人は、つまり……。

 

 

「じゃあな」

 

 

 身軽に去っていき、遠目に見ていた人たちの中に消えた。

 壇上とはわざわざ仮面も髪型を変えてきたのか。

 キャラも変わってるし。

 この人が来なければ、私はどこに連れていかれただろうか。

 目の前の人が、こちらを見た。

 

 

「大丈夫か?」

「……ありがとうございました……えと」

「ああ、俺だ。カエ」

「カエ様でいいんですね」

 

 

 カエ様。

 つまりコウ殿下はいつもと違う髪型で、装飾は控えめの仮面をつけている。

 それでも抑えきれない王族オーラというか、察しさせる何かが抑えきれていない。

 カエ様も壇上とはいろいろと変えてる。

 

 

「なぜ髪型変わっているんですか?」

「壇上で主催者挨拶をした時点で王族だとわかってしまっただろう。一応、身分を隠すのがこのパーティーだからな」

「納得です」

 

 

 私もカエ様が壇上にいるのを見つけたからそうだと思ったしなあ。

 

 

「今回は挨拶もほとんどしなくていいんだ。挨拶した時点で関係性やり人物が割れてしまうからな」

「そうなんですか」

「だから一緒にいても大丈夫」

「それは心強いです。シオンも居るんですか?」

「……シオンはいない。パーティーとか好きじゃないからな、あいつは」

 

 

 手を差し出される。

 掌が上で、何かを欲しているような。

 ……さあ。

 こういう時は手を乗せるべきなのか。

 

 

「何を食べていたんだ? 美味かったものを教えてくれ」

「あ……はい。いいですよ」

 

 

 そっと手を乗せる。

 手を引かれ、テーブルに寄っていく。

 食べたものの感想を伝え、カエ様が好きなだけ取り、元の位置に戻って談笑しながら食べる。

 これだけで、今日来てよかったなと思った。

 ……アナウンスを聞くまでは。

 

 

「お楽しみの皆様にご連絡です! ただいまより『正体当てゲーム』を行います!」

 

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