【3/27 電子書籍一巻発売】魔術師は死んでいた。 作:彩白 莱灯
正体当てゲーム、とは。
仮面舞踏会では正体を隠すのがマナーだが、そのマナーに違反しようというゲーム。
この国では標的となる人物が壇上に上がり、回答者が五つの質問を投げかける。
標的となった人物はイエス・ノーでのみ返答が行われる。
正体を当てさせないためのものだが、嘘は許されない。
ノーコメントは可能。
と、隣で食べ物を飲み込んだ殿下が教えてくれた。
この場合の標的はこれから選出され、回答者はその人以外の参加者となる。
「俺はそんな催しをやるなんて聞いていないけどな……」
その一言だけでとても不穏なゲームに聞こえてしまう不思議。
壇上では魔法が展開されている。
台の上に上がった人が、テーブルの真上に映し出されるという魔法。
ライブ中継みたい。
今はまだ標的が決まっていないので、視界の人が壇上に立っている。
これからその標的を決めるようで、手にはくじ引きでも出来そうな箱を二つ持っている。
「今から皆さんにこの箱の中身をひいてもらいます。引いていただいた番号が、こちらで引いた番号と同じだった人は、ゲームの標的となってもらいます!」
魔法がある世界にしてはなんとなく古典的。
だが自分の意志と手で引くというのは、魔法の世界では珍しいほうなのかなとか、変に勘ぐったりしていた。
メイドさんが箱を持って近づいてきて、引く。
「こういう番号は言わない方が良いんでしょうね」
「楽しむならな」
カト殿下が主催の催し物という時点で不信感はおおよそ詰まって入る。
しかし折角のゲームならば楽しまなければと思っていることも反面ある。
正体人数は百人前後。その中で選ばれるとは……まあ、みんな思ってないだろうけど。
ひいた紙をよく見て、何の因果かを一瞬疑う。
「それでは一人目です! 番号はー……――」
―――――……
「残念! 不正解でしたー! お見事です六十七番様!」
「ドキドキさせられましたな」
小太りの男性が壇上を降りる。
すべてにノーコメントと答えたのはなるほどと思った。
そのリアクションの仕方意外に与えられる情報が少ない。
情報が少なければ、あてられる可能性も少ない。
今の人で三人目。
司会の人は全部で五人と言っていたので、あと二人。
私も殿下も呼ばれておらず、もはや目の前で大道芸を見ている観客のような心持だ。
「それでは次の方に行きます! 番号はー……百十八番の方!」
あ、なんだ、そんなにいたのか。
誰が出るんだろう。
……誰も、出る気配がない。
それどころかみんなが誰だと首を回し、窺っている状況。
このタイミングで出ないとはすごい度胸だ。
首を振る様子から、ざわざわと音が鳴りだしたころ。
壇上の横から、一人の人間が椅子に座った状態で押されて出てきた。
白いひげを蓄え、無地の仮面をつけた、見た目は高齢の男性。
舞踏会にやってきたようなスーツは来ておらず、高貴ではあるが、ゆったりとした服装。
はて。
見覚えがある。
雑談をしようと隣の殿下を見てみると。
「……っ」
仮面越しでもわかるその表情は、明らかに強張っている。
顔にも首にも汗を垂らし、眼は見開かれ、息を飲む。
微かに震えている指先は、ただ事ではないことを物語っている。
「ど、どうしたんですか」
「あ、の人は……何を、企んで……!」
私の声は聞こえていないようだ。
それだけ、壇上の上の人は相当な人のよう。
「さあ質問の時間です! 挙手をお願いします!」
司会の人が場を盛り上げようと声を張り上げる。
会場からはいくつもの手があげられ、指名された人は質問を投げかける。
標的の白髭の人は、頷きや首振りで答える。
見た目と質問ででた情報は『高齢の男性』『白髭』『妻はいない』『子は三人』『剣より魔法の方が得意』ということ。
知っている人間が少ない私では当てはまる人はいない。
しかし殿下は。ますます顔色を悪くする。
そわそわと、居ても立っても居られないとでも言うように妙に落ち着かない。
「……気になるのであれば、行かれた方がよいのでは?」
「そうしたいが、舞台袖に兄上がいる。あの場で何もしないということは、何もする気がないのと一緒だ。あるいは、そう差し向けているのは兄上ということも……」
コウ殿下より権力を持つカト殿下がそのような状況ならば、今は動いても意味がなく、見守るしかないと。
いつもより早口で言い放つ。
動きたいのに動けないという焦燥の表れ。
すでに見当がついているのだろう。
だからこそ焦りは増していく。
カト殿下がいるという時点で、私としても嫌な予感しかしない。
事の大きさこそわからないが、不穏な空気は感じる。
しかしそれは、私たち二人にしかわからない。
酒と空気に酔った、娯楽を楽しむ貴族たちは。
その不穏にどっぷりと浸かっている。
「さあ! 皆さんの回答が出そろいました! 果たしてこの中に答えはあるのでしょうか!?」
司会の人が、白髭の人に回答を求める。
その人は首を振り、顔に手をかけた。
無地の仮面を外し、閉じられていた眼が開かれる。
この人から初めて聞いた、言葉を思い出す。
「どうでもいい」と。
私のことをゴミのように吐き捨てた、「あっそう」という言葉を。
わあ、とか。
おお、とか。様々な声が入り混じる。
今までの三人の当たり外れはあったが、それらよりも一回りも二回りもそれ以上に大きい声が延々と響き渡る。
大きさも長さも、今までのものの比にならない。
歓声は鳴りやまず、会場の熱気が上がっていく。
それとは逆に、冷え切った空間がある。
「でん、か。あの人、動いてます」
「ああ……」
死んだはずの、人間が。
「なんとなんと! 国王陛下が自ら標的役となってくださいましたー!」
一度は収まりかけた歓声が、拍手とともに大波となって室内を埋め尽くす。
この音の大きさで、どれだけこの王様の人望があるのかというのがわかってしまう。
私としては「そんなに?」と思ってしまうのだが。
口を切られても言えはしない。
「一応確認なのですが、亡くなったのですよね?」
「ああ。それは確かだ。クザ先生にも診てもらった」
「クザ先生は、しっかりとは診せてくれなかったといっていましたが」
「……ベローズ所長が、切り上げさせたんだ。「もういいだろう」と。死亡確認をして、すぐだ」
ベローズ所長が関わっていた。
それはつまり、そういうことなのか。
口には出さずとも、殿下と目が合うと、そうなのだと感じる。
「……生き返ったのですか……」
返答は、ない。
大事なことほど返答が欲しいのに。
無言は肯定ととらえてしまう。
肯定してほしくないのに。
ベローズさんたちの研究は、まさか王族にまで実施するようなことだった。
でも、それは考えれば当然だ。
だって、お城で行われている研究なのだから。
王族は承知の上だろうし、王族が言えば、自分を生き返らせることもできただろう。
「つまりこの場は、お披露目会ということでしょうか」
「いや。そもそも陛下が亡くなったことは公表していない。だから皆、純粋に陛下が参加されたと思っているだろう。研究については触れていない」
そうか。死んでいると知っているのはほんとに一部のお城の関係者のみ。
私がイレギュラーなんだ。
言葉がなくなり、口を噤む。
大波がようやく収まってきたところで、司会者が声を張り上げる。
「それでは最後のゲームとまいりましょう! ぜひ、国王陛下もご参加いただけますと皆が喜びます!」
心の底から嬉しそうな視界の声に、王様は片手をあげて答える。
域と同じように、椅子に座って押されながら舞台袖に消えていった。
どこからか見ている。
今までと違う緊張感が、背中をなでる。
「では最後の標的は……五番目の標的はなんとなんと! 五番の方です! 壇上へどうぞ!」
ざわざわと、一斉に手元の番号を確認し、続けて周囲を見渡す。
王様の次の人物とあって、またすごい人なのではないかと期待せずにはいられないのだろう。
そんな様子を、私は握った紙がぐしゃぐしゃになることもお構いなしに、力を籠める。
「……おい、まさか……」
「……行かなきゃ、だめですかね」
私の手の中で、ぐしゃぐしゃになった、この国の五番という数字。
ああ、夢ならば、どんなにいいか。
逃げたい。
「いらっしゃらないので探させていただきます!」
手元の紙が光る。
部台の上では司会者が引いた紙に魔力を流している。
私の紙と連動しているように、あちらも同じ光を放っている。
逃げられない。
「そちらの小柄なお嬢様! どうぞおあがりください!」
周囲の人間の視線が、私に集まる。
逃げるな。
逃がすな。
まとわりつく視線に突き動かされるように、足が壇上へ向かって行く。
行きたくないと思っているのに。
怖い人がいる。
不審な人がいる。
安心する人がいない。
そのんあところ、行きたくない。
でも。
逃げられない。
参加者は「さあ早く」とせかしているかのように道を開け、壇上までは一直線。
焦らしているようにノロノロと歩いていても、数分と経たずに壇上に上がる。
足台に乗り、貴族よりも王族よりも高い位置から、部屋を見渡す。
高貴で好奇な視線が集まる。
私が誰かを話す声が聞こえる。
最前列に殿下がいる。
着いてきてくれたんだ。
「それでは皆様! こちらの標的様で最後になります! ご質問をどうぞ!」
殿下を見て、少し冷静になった。
さっき当てられなかった人は、何も答えなかった。
黙秘し続けた。
私もそうして情報を与えなければ、大丈夫。
大丈夫なはず。
「普段は何をしていらっしゃる」
「魔法の属性は何を使う」
「家族構成は」
「最近出かけた場所は」
全部。
無言。
最後の質問も答えなければ、ほぼ大丈夫。
何も答えないと悟った参加者たちは、最後の質問を貴重なものとしているのかつまらないと投げだしたのか、中々手を挙げる人がいない。
その間も一番目立つ場所で立たせれているので、早くしてほしいやら、来ないでほしいやら。
複雑。
そして、一人の手が上がった。
「はい、紺色の御髪の方!」
「失礼」
見覚えのある人が手を挙げた。
足を上げ、進め、壇上へ上がってくる。
来ないで、ほしい。
この人は、嫌いだ。
「質問でなくて済まないね。君のことがわかってしまった」
触るな。
あなたが出てきてしまっては、私の無言の努力はどうなるんだ。
「君は、スグサ・ロッドだ」