【3/27 電子書籍一巻発売】魔術師は死んでいた。   作:彩白 莱灯

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第8話

 およそ子供には見えない体格の二匹が泣き止むまでの間で、その場にいる四人は目線は警戒を解くことはせず、状況を確認しあっている。

 盗み聞きは趣味じゃないが、情報収集のため止む無しとしておこう。

 

 

「……皆、怪我はないか」

 

 

 一人の特に位の高そうな者が気遣えば、三人の従者は口々に無事であることを伝える。

 

 

「アオイ。ヒスイはどうしたんだ」

「……おそらくですが、今のヒスイちゃんは別の人格です」

「は?」

 

 

 一体どうしてそうなった。

 言わずとも表情に出ている訴えは、さらには見て確認することなく声音で判断ができてしまうほど。

 素っ頓狂、とはまさにこのことだろう。

 

 

「一言二言程度ですが、声は全く一緒なのに、明らかに普段の雰囲気が違いました」

「どの魔法も、詠唱せず、でしたね。彼女がどこかでそれらの魔法を知ったとしても、手慣れすぎています」

 

 

 魔法師団の制服を着た二人が見解を述べる。

 歴代の魔法師団の中ではまあ高いほうだろう。

 団長当たりまで就いていても可笑しくはなさそうだ。

 一人特別ガタイのいい奴も、見た目の年代からしてもそれなりの役はありそうだ。

 おそらく王族であろう人間の近くにいるってのもあるし。

 ヒスイの状況を知る人間たちなんだろうが、便利そうな立ち位置の人間ばっかなのはこいつの運か。

 

 

「殿下、方針を決めましょう」

 

 

 騎士っぽい奴が口を開いた。

 声にも風格があるな。団長に一票。

 

 

「……まずは話す。ヒスイのことはこれ以上、変に巻き込みたくない。なるべく傷つけず。…………必要があれば、拘束する」

 

 

 ……ふむ。やや甘い気もするが、ギリ妥当なあたりか。

 魔法の力量差は見ておおよその見当はついているだろう。

 今は泣きじゃくっているとはいえ、ウロロスもいる。

 いきなり殺りあうのは愚策だな。

 

 さて。

 こいつらもそろそろいいか。

 

 

「ウー。ロロ」

「「……あ゙い゙」」

 

 

 うわ変な声。泣きすぎ。

 

 

「自分たちで散らかした物、まずは分別しろ。ひとまずそれが終わったら声かけろ」

「わがっだ」

 

 

 よし、と頷いて、ふわっと床に降りる。

 同時に、ウーとロロは巨大な姿を変化させる。

 人間でいう五歳前後の姿で、男か女か見分けがつかない。

 細長い瞳孔を持つ二つの眼も元の姿と同じ色だ。

 三つ目の眼は額にあると思われるが前髪で隠れている。

 違いがあるのは髪型。

 ふわふわに跳ねた髪と、まとまりのある髪はどちらも体表と同じ色。

 跳ねてる方は右側、まとまってる方は左側に三つ編みが編み込まれて後ろで終えている。

 跳ねてて右の編み込みがウー。

 まとまってて左の編み込みがロロ。

 今決めた。

 

 部屋にスペースができてから、自分の影から取り込んだものを出し、重ならないように散らばらせる。

 棚だけは立てておいてやろう。

 

 

「じゃ」

「あい!」

 

 

 片手をあげれば、片手ずつ挙げて応え、すぐに行動に移した。

 うん。素直でよろしい。

 その間の私様と言えば。

 方針を決めた四人と話し合いに応じるべく、相手を見据えて足を延ばす。

 警戒は怠っていないから、今までのやり取りも見ていただろう。

 ウロロスが別の作業をしていることで敵意はないと判断したか、殿下と呼ばれた若い男が先頭に立っている。

 適当に距離を詰めて、顔の判断ができるところで止まる。

 生きていた時でさえほとんどしていなかった礼儀とやらをやってみよう。

 片足を引いて、反対の足の膝を軽く曲げて、背筋は伸ばす。

 え、待ってこの姿勢きっつ。

 

 

「ごきげんよう、殿下。わたくしは魔術師のスグサ・ロッドと申す者でございます。以後、お見知りおきを」

 

 

 思ったよりこの体勢きつかったから、言い終わって早々元に戻す。

 礼儀なんか知るか。

 

 

「その名はとてもよく存じ上げております。私はフローレンタム国、第二王子。コウ・ゼ・フローレンタム」

 

 

 コウ、か。

 私様が生きていた時は聞いていない名だな。

 

 

「まずはこの場を鎮めてくれたこと、感謝する。貴方にはいくつか確認したいことがあるのだが、よろしいか?」

「どーぞー」

「いきなり緩くなったな……」

 

 

 文句は受け付けない。私様は王族だからと言って取り繕うつもりは死んでもない。

 王子サマも特に気にする方ではなさそうだし、やりたいようにやらせてもらう。

 

 

「踏み込んだ話は場所を移してからさせてもらいたいので、まずすぐにでも確認したいことが一つ」

 

 

 目つきを鋭くし、片手は腰にある剣を見据えている。

 返答次第では戦うことも厭わない、そういう姿勢だ。

 

 

「ヒスイは今どうしている?」

「……ふむ」

 

 

 優しき王子サマだ。

 人望あるだろうな。

 私様は生前、当然と言っちゃあ当然だが、いるだけで感謝された。

 感謝され、尊敬され、賛美され、礼賛され、敬慕された。

 私様だからな。当然だ。

 それなのにヒスイは。

 この王子サマだけでなく、この世界にいる人間とも何日かの何時間かを共に過ごしただけだろう。

 もちろんヒスイの生い立ち……としておこう。

 それは同情に値するようなものだが、この場でのこの王子サマの台詞は同情だけでは出てこない。

 人間にはあまり興味がなかったが、同じ体を共有するということもあるのか、ヒスイの人柄に興味がわいてきた。

 

 うん。よし。

 ヒスイを私の研究対象としよう。

 

 

「どうなんだ?」

 

 

 おぉっと。

 考えていて答えるのを忘れていた。

 

 

「私様の中に意識は残っていますよ。今この状況もヒスイに見えているし、聞こえている。まあ一言で言ってしまえば、無事です」

 

 

 体の自由は私様が握っているが。

 嘘は言ってないから不敬ではないだろう。

 バレなきゃ良し。

 

 

「そうか」

 

 

 目つきの鋭さも雰囲気も和らいで、安心したようだ。

 しかし表情は固いまま。

 気を引き締めるところは締めたまま。

 完全な甘ちゃんではないようだ。

 …………これこそバレたら不敬だな。

 

 

「ならば急ごう。個室に移動したい。だがヒスイや貴方が関わっていると知られれば、聴取の時間をいただくことになってしまう」

「それは是非ともご遠慮願いたい。早々に移動できるようにしましょう」

 

 

 私様の時間を無用の長物に巻き込まれるのは御免だ。

 そうならないためには誰かに見られる前に退出しなければ。

 退出するためには部屋を元に戻す必要があるか。

 と思って振り返ると、丁度ウーとロロが寄ってきていた。

 

 

「すー」

「わけた」

「お疲れ。じゃあ棚に戻すぞ」

「全員こっち来てくれ」

 

 

 王子サマの一声で騎士と魔術師も寄ってきて、全員で物品を棚に戻していく。

 私様の物は持ち主として拝借しようと思ったが、突然なくなると追及されると思って、やめた。

 その代わりに、魔法を上書きして、他人が使用できないようにした。

 それくらいいいだろう。

 

 

 ――― いいの、かな……?

 

 いいんだよ。

 もとは私様のだ。

 変に使われて大事になるよりマシだろ。

 

 ――― 大事になってしまうようなものもあるんですか?

 

 

 あった。

 安全のためとか言っておけば説得できんだろ。

 

 ヒスイが中から話しかけてきたということは。

 さっきまで状況が呑み込めていないようでうるさかったが、少し冷静になったようだ。

 中からの声は周囲には聞こえていない。

 しかし外で話したことは中にも聞こえている。

 考えていることだけは、指向性を持って話さない限りは読まれないようだ。

 私様とヒスイが入れ替わってもそれは変わらない。

 とかなんとか独り言会話をしていれば、七人でやっていた片付けも終わった。

 片付けすぎると不自然だろうということで、そこらへんに適当なものを転がしといた。

 

 

「ウーとロロは来んのか? 寝る?」

「いくっ」

 

 

 がしっ。

 と、両足に一人ずつ、抱き着かれた。

 予想していた返事に小さくため息をつきながら、考えていた対応に行動を移す。

 二人が暴れたときにできた床の破片を、二人がつけている石そっくりに魔法で加工する。

 それを『ウロロスは魔法師団が再封印した』ということにして、二人は連れ出そう。

 

 

「ここの結界魔法は誰がやってんだ?」

「僕です」

 

 

 赤髪が小さく手を上げる。

 

 制服の内ポケットから魔法を封じ込めた石を取り出した。

 その石にはここの結界魔法が封じ込められていたのだろう。

 

 

「じゃあここはお前に任せた。私様とちびどもは先にヒスイの部屋にいる」

 

 

 何か言いたそうだったが、待つことなく二人を連れて転移した。

 

 

 

 

 

 ―――――……

 

 

 

 

 

 保管庫に残された四人は、不満を言い出す前に転移した三人のいた場所を見て、唖然とする。

 

 

「…………結界魔法越しの転移……」

「さーすがに規格外ですね。スグサ・ロッド」

「少し不満です」

「魔法を入れてくれたのはロタエだもんね」

「少し問題のありそうな性格なようだ」

「カミルは眉間の皺、ずっとできてたね。少し笑ったよ」

「アオイもずっと気ぃ張ってただろ」

「だって殿下。いきなりヒスイちゃんから切り替わって説明されずに腹に一発ですよ? いくら魔術師の最高峰の人物だからってねー」

 

 

 四人と二人が合流するのは、もう少し後の話。

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